国産定番万年筆 最弱インプレ

実用上十分、ほとんど最強と考える実売1~2万円の国産万年筆をレポート。カスタムパーツ製作も左下BOOKMARKで紹介中。

[ 059 - オールド #3776 に反則技 ]

2007年11月01日 | エンジニアリング
■インク出が極端に悪い祖父の #3776。3日ほど水に漬けても、改善しません。 インク瓶にペン先を漬けて書いてもすぐにカスレる状態に戻ってしまいます。どうも、調整が必要なようです。

■でも、老店主の店の 「勝手に応援ホームページ制作」 を無報酬で続けてきた関係で、私が調整を依頼すると、他の依頼者の順番を抜かしてタダでやってくれようとします。 それに "恐縮させられる" のが嫌で、逆に頼みにくくなっています。

■万年筆を使い始めたころに、Montblanc 149 と PILOT Custom 845 を自分でペン先研磨して、それぞれほんの20分で駄目にしてしまってから、自分には適性がないと判断して、調整の類は一切しないことにしてきました。
そうなると、メーカーのペンクリニックに持っていくかどうか、ということになりますが、松江での開催予定はありません。

■それでしばらく #3776 を放っておいたのですが、熟慮したわけではなく急に思いついて、不織布を使う反則技を自分でやってみることにしました。 形見の品を 「改造」 するのはどうなのかと、いま冷静になってみると思いますけれど、その時は、とにかく今すぐこのペンをガンガン使える状態にしたい、という気持ちがグワッと盛り上がって、衝動的にやってしまいました。

■ペン先を外し、彫刻刀でペン芯に溝を彫り、別のマーカーの芯を削って作った不織布の切れ端を、その溝にはめ込みました。
所要時間は多めにみても20分ほど。 ペン先を組み直して書いてみると、最初はやっぱりかすれました。ぜんぜん変わらない。 そこで、不織布にたっぷりインクを吸わせようとペン先をインクボトルに漬けて、また書いてみました。すると。
えらくインク出が良くなって、別物のようになりました! 漬けペン直後だからインク出が良いだけですぐに元に戻るのではないかと思いましたが、試した30分ほどの間はずっと快調でした。そしてそれから5日。漬けペン直後のような豊かなインク出ではなくなったものの、当初のような、かすれや線の途切れが頻発する症状は、消えました。 数日経って落ち着いた今のインク出量は、「豊かなインクフロー」 とまでは言えないレベルですけれども、筆記の実用に耐えなかったペンが生き返ったと言っても良いようです。

■使っていて不織布が目障りに見えるわけではありません。 またペン芯に対して以前よりもペン先を前に出した状態で組み直したので、少し格好よくさえなった気もします。 今後、ペン芯へ "反則技" を施したことが後ろめたくなり、"もはや万年筆ではなくなったではないか" という心の負担になってきたら、老店主の店に行って余っているこのタイプのペン芯を1個もらってきて、もとに戻します。
それまでは、この 「インチキ調整」 を割り切って楽しんで、とにかくこの #3776 を使い込んで使い込んで使い込んでみます。

[ 057 - キャップを挿すか 挿さないか ]

2007年10月27日 | エンジニアリング
●キャップを後ろに挿す方と、挿さない方がいらっしゃると思います。

●祖父の通夜や葬儀で記名なさる方々の案内をしていた際に、ペンの持ち方を眺めていました。若い層で、親指を突き出すいわゆる "ドラエモン持ち" をしている方がいらっしゃいました。
映画クローズドノートの冒頭の頃のシーンで、エリカさンもドラエモン持ちをしていました。図書館に行った時に学習室をのぞくと、ドラエモン持ちの方が多くいることが分ります。学習塾を経営している友人も、子供のドラエモン持ちが増えていると教えてくれました。

●正しい持ち方のお話や、間違っているとか、または個性であって良い悪いの話ではないとか、そういう問題提起をしたいわけではありません。
ただ、万年筆では、しばしば重心のことや、キャップを挿す( 重心が後ろよりになる ) か、挿さないかが、話題となります。基本的には好みの問題であると思います。でも、みんなが同じ基本条件・前提・土俵上で話をしているわけではないかもしれない、という気がするということです。

●自分で、小学校で鉛筆の持ち方として指導されるような
http://www.kita-tky.ed.jp/~es38/enpitu/index.html
標準的( ? ) 持ち方で万年筆を持ったり、親指を前に出してドラエモン持ちをしたりしてみると、おおよそ上図のようなことが言えるように思われます。

●というわけで私は、「キャップを挿さない方が自分には合っている」 とおっしゃる方のなかでは、ドラエモン持ちをなさる方の割合が高いのではないか、と想像しています。
持ち方によって、ペンを支える基本形が違ってしまうので。

●先日から取り上げているクアトロ89 はキャップがしっかり重さを感じさせるので、ドラエモン持ち の方はキャップを後ろに挿さない方が使い易いかもしれません。 批判も意見もなくて、単に事実として。

[ 054 - ペン芯に不織布 ]

2007年10月18日 | エンジニアリング
●祖父の #3776 を老店主の店に持っていきました。
このモデルにどんな原因でどんな不具合が発生しがちであるかを店主ははっきり覚えていました。このペン芯を加工するのは結構面倒なようです。今は少し忙しい時期であるようなので、今回はそのまま持って帰りました。
●ペン芯の加工についての話を聞いていると、こんな話が出ました。
以前に調整で預かった万年筆を分解したところ、ペン芯に裏技というべきか、とても大胆な加工がしてあったと。
●それは、パイロット社の古い廃番モデルである 「エリート」 の真似だと思われるペン芯加工であったそうです。
といっても筆者はエリートのペン芯を知らないので、どういうことかを訊ねました。


■すると店主がゴソゴソと持ち出してきたのが、写真の首軸です。
写真左の首軸の、ペン先を取り付けた時に接する面に、長方形の穴があります。実は、本来のエリートでは、写真右の首軸のように、この穴にスポンジのようなフェルトのような 「不織布」 がはめ込んであったそうなのです。
■細かいスリットの毛細管現象で首軸まで導かれたインクは、最終的にこのフェルトに染み込んでたっぷりと濡らし、それがペン先の裏に接して、インク出を確実なものにしていたのだそうです。
■時には、自分で分解したお客さんが 「書き込むうちに切割が紙の繊維を削り取って、ペン芯にこんなにゴミが詰まってしまったんだな」 と誤解してコレを取り除いてしまい、写真左のような状態にして 「なんかインク出が渋くなった」 と持ち込んでくる場合もあったそうです。


●話を戻して、
その、しばらく前に持ち込まれた古い万年筆のペン芯には、本来無いはずの小さな窪みが彫刻刀か何かであけられていて、そこに小さなフェルト片が押し込まれていたのだそうです。 「インク出は抜群であったかもしれないけれども反則技だな。あんたはどう思う?」 と店主は言っておりました。
●「最新のパイロット社のペチット1という200円の万年筆型筆記具のペン芯にもフェルト芯が差し込まれていますよ」
http://fish.miracle.ne.jp/mail4dl/05-topic-news/AB4-13.htm
と言うと、店主は 「ペチット」 というカタカナ語から何もイメージができないようでしたが、「ヘー、そうかね」 と申しておりました。実物を見せれば、「ああこれか」 と言うんですが。

[ 049 - パイロット社QUATTRO気配り取付角度 ]

2007年10月04日 | エンジニアリング
●パイロット社QUATTROの、四角断面軸に意図的に斜めに取り付けられたペン先の意図を想像すると、上図のようなことになるのではないかと思います。
店主が 「直して」 しまっために、標準取り付け角度を見てないので、想像ですが。※訂正 → 記事 058 をご覧ください。パイロット社もまた、四角の面ではなくて角に指を置く方が使いやすいと判断されていたようで、初期設定の斜め取り付けは、角に指を置くような角度であるそうです。よって下記の文章は、パイロット社もまたそういう間違いは犯さなかった、という風に読み替えてくださいませ。

●パイロット社が、どんな角度を最適だとして設定していたのか、とっても興味があります。 見てみたかった。 やはり、店主は要らんことをやったな、という気がしてきました。 どうせ取り付けなおすにしても、1回はどんな具合か試してみたかった、と感じます。
ともかく、四角い軸の平らな "面" に指を置く持ち方では、微妙な自由度がありません。
もしパイロット社が17度ペン先を傾けて取り付けていて、ある方の「筆記時の手指」 が22度傾いて筆記する癖を持っていたら。  上の左側図のように平らな面に指を置いてピタリと密着したままでペンだけを5度回すことはできません。誰もが面に指をピタリと置くのが当たり前だ、とそれを常に維持させるならば、手首から先の 「手指とペンの全体」 をそっくり5度回すことになります。 「四角い軸は特殊」 ではなくて、「四角い軸の "面" に指を置いて密着する持ち方をした場合が例外的に特殊な環境」 なのではないかと、私は疑っています。

●実際のQUATTROは、図の四角断面よちもずっと大きく角が面取りされていて、「四角形と言うか八角形と言うか、まあどちらかといえば4角形寄り」 な断面なので、傾けて取り付けてない場合に 「角の頂点のとんがった箇所に指が来る」 というほど特殊ではありません。

●キャップを軸尻につけると特に、比較的重さを感じます。軽いペンではない。
その際、重くて細いものをハンドリングするよりは、重いぶん少し太いモノをハンドリングする方がラクです。
四角形の対角は1辺の長さの1.4倍あるので、図の右側の方が大きく持つことになり、ハンドリングはラクだと思います。
ともかく、四角い軸の面白いところは、持ちかた( ペン先取り付け角度 ) で1本のペンの軸太さが100~120%位変化し得るということ。 丸断面の軸にはできない芸当です。直径が1mm変わると印象ががらりと変わるとか言われますよね。

※記事 047 に関連記事あり。

●ところで、受け売りの言葉ですが。
毎日数千人・数万人が訪ねるほど人気のあるネット掲示板やブログは、

 「常連がカウンターでマスターとずっと話していて "馴れ" が充満している喫茶店」
 「立ち読みが一人もいない 張り詰めた空気に管理されている本屋」 

にならないように、難しいバランスを取って風通しを良くしているのだそうです。
だれでも気安く参加できる気軽な空気があって、深刻に掘り下げすぎないこと。
難しいですねえ。


●性質ってなかなか変えられません。こんな話を何かで読んだことがあります。

サソリが、小川を渡りたくて、カエルに声をかけます。
 「カエル君、向こう岸まで背中に乗せてくれないか」
カエルは応えます。
 「嫌だよ。あんたに刺されたら死んでしまうじゃないか」
するとサソリは説得します。
 「大丈夫だよ。君を刺して沈めたら、背中のオレも溺れてしまうじゃないか。
   いくらオレでも、自分が死ぬような馬鹿はしないよ」と。
カエルは、なるほどそれもそうだな、と納得してサソリを背中に乗せて小川を
わたり始めました。
ところが川の中ほどで、サソリがブスリとカエルの背中に毒針を深く突き刺したのです。
カエルは意識が薄れて沈みながら、「なぜなんだ・・・」 と問いかけます。
サソリもまた水に沈みながら、
 「これがオレの性質( タチ )なんだ、どうしてもそうしちまうんだ」
と答えたそうです。


●気軽に軽く、深刻な分析はやめて明るく楽しくユーモラスに。
あんまりウエットな感じは出さないで、あっさりドライにドライに。
無理だ。
こ難しく長々と書きたくなってしまいます。それが、私の性質なので。

[ 047 - 四角い軸の持ち方の "正解" は ]

2007年09月26日 | エンジニアリング
( ご指摘に感謝 )
●前回の記事 046 で、「QUATTROのペン先が少し斜めについていたのを老店主は直してから店頭に並べた」 という話を載せたところ、

「パイロット社では、四角い軸の持ち方に合わせて意図的に少し斜めにしているようだ」
「店主さんが 無知故に "余計なお世話で改悪をしている" と思われないように訂正なさってはどうか」
というメールでの助言を3件ほど頂きました。
また 記事 046 へのコメントでも同様のアドバイスを頂いておりました。
心配してくださったことに、誠にありがたく思います。 また、バタバタしていて対応が遅れたことをお詫びいたします。

( 四角い軸の万年筆を常用しています )
●しかしながら、実をいいますと。
確かに時間も無かったのですが、そんなに焦って訂正するような話でも無いな、と思っていたので対応が遅れたのです。
まず、筆者は、四角い軸の Waterman エクセプションを9ヶ月ほど使っています。
国産万年筆中心に切り替えてからも、寿司を食べる時のガリかお茶のような「口直しペン」として使い続けています。
エクセプションはペン先が硬くて軸の重いペンですが、私の書き方では、長文を書くときに疲れず、いつまでもいつまでも書きやすいままなので、とても重宝しています。筆記の快感は薄いけれども道具としてラク。重いペンは疲れるってホントかいな、という感じです。 ほかのペンだと、しばしば、長文の途中で別のペンに替えて書きたくなるのですが。

( 常用してるのはペン先が斜めでなくとも気に入っているから )
●さて、そのように気に入っているエクセプションのペン先は、四角形断面の1辺の中心:クリップの直線上に揃えて、取り付けてあります。 最初の試し書きの時から、そのことに何か違和感を感じたことはありません。すごく慣れが必要だった、という記憶も無いのです。文通相手の皆さんにも、エクセプションの使い心地を報告するのに、最初からなかなかいいペンだよ、という感想しか書いた記憶がありません。 ( あんたがそう言うから試したが、自分には合わんかったという返事が多かった )
とはいえ万年筆オタクなので当然、最初は、四角い軸の持ち方とペン先の取り付け向きの関係についていろいろ考えてみた記憶はありますが、結局、何かを直さなくてはならないという必要性は感じなかったのです。

( 筆記時の軸って指の間でわずかに転がしてませんか )
●ところで、なぜ丸い軸の万年筆・筆記具が多いのでしょう。
筆記時の ハート穴 は、常に垂直に天井を向いているでしょうか。それをキープするように手に持っているでしょうか。
左に払うとき、右に払うとき.......。
万年筆の軸は指の間で、角度はわずかでも、右に左に転がされているように思います。それには丸い軸がよいのかも知れません。

( 四角形の1辺に指の腹を置く持ち方は安定志向 )
◆上の画像をご覧ください。軸が四角いエクセプションで、
四角形の 「平らな面」 に人指し指と親指の腹をペタリと置いて持ってみると、安定感が 「あり過ぎる」 気がします。 密着しすぎ。 パイロットさんは、このように持ったときにペン先が真っ直ぐ紙に当たるように、すこし斜めに取り付けておられるようです。でも四角い軸はそのように持つのが標準だとするのは、大げさに言うと、野球の守備についたのに、爪先立ちにならず、かかと までぺったり地面につけて棒立ちしている感じです。
又は、傾けて曲がるオートバイに、クルマ用の断面が平らなタイヤを履かせて機動性を奪ったような、というか。 指の間で転がしにくくて、丸い軸ではちょっと感じない類の、ガシッと固定される感覚です。

( ペン先が "斜め取り付け" でない場合は 四角の頂点に指を置く )
●ペン先が斜めでないエクセプションで、ハート穴を天井に向けてペン先を紙に真っ直ぐおろすためには、指の間で軸を少し斜めに持ち、四角の 「頂点」 の付近に人差し指がきます。頂点といっても丸めてありますが。 この場合、指の間で軸を僅かに転がしてペン先の向きをハライやハネに合わせることが、( 平面にペタリと指を置く持ち方よりも ) 易しい気がします。
爪先立ちのようなフットワークの軽さを感じます。

( "お勧め" は "絶対正解" とは違うのでは )
●パイロット社が、ある角度をつけてペン先を取りつけるまでには、一定人数の被験者のデータを集めて標準偏差のピークあたりの角度を設定なさったのだろうと思いますので、そういう設計思想もアリなのだろうと思います。手元のエクセプションのペン先も、QUATTROに倣って少し斜めにつけ直して、四角形の辺の部分に指の腹を置く書き方を試してみたら、今でも気に入っている書き味が、もっと格段に書きやすくなるのかも知れません。 但し、
「日本人の "多く" は四角い軸をそのように持つ」 と全体に一般化するために必要なサンプル数は  (ちょうど選挙速報で、この数調べれば全部を開票しなくても当確が出せるというのに似ています ) 、  社会調査法上、有意確率を低めに設定しても、およそ1400サンプル程度です( 理想的には2200欲しい )。 パイロット社さんは、開発時に被験者を、さまざまな年齢性別職業指長を偏り無く1400サンプル集めたでしょうかね。 社員20人くらいに聞いて 調べたことにしたりしていないでしょうかね。 書き癖は "千差万別" だとかいいます。
必要なサンプル数の出し方は、下記サイトをご覧ください。
http://fish.miracle.ne.jp/mail4dl/blog/sanplsu.htm

●ともかく老店主には、
 「真っ直ぐに付け直すのは、メーカーの標準設定を変えたことになるようだ」   と電話しておきました。 店主は、

 「ほ~、面白いねェ。メーカーの意図的な気配りだったのかい。でも仕入れる際にそう
  いう説明をしてもらったか覚えてないねェ。ガイドになる溝などで取り付け角度が変
  更できないように強制はしていないということは "パイロットのお勧め角度" という
  程度の、ゆるく融通を持たせた設定ではないのかね」

と申しておりました。
 「メーカーの意図を知らずに取り付け角度を変えたのなら店主が恥を書くのでは」
と心配してくださった方がメールで教えてくださったのだと言うと、

 「ご心配頂いてありがたいが、80過ぎたこの歳で、いまさら評判や名声がちょっと上
  がった下がったと、気をもんだりしませんよ。それに、取り付け角度の意図をワシに
  伝える側の人間が、"ちゃんと伝わっていなかった" と、気をもむ話では無いのかね?
  まあ、書きにくいと言われるお客さんには、どんな角度にでもセットし直してあげますよ」

と話しておりました。

●QUATTROは、まずは 「パイロット社お勧めの角度」 で試して、気に入ればそれでよし、でも角度を変えようと思えば変えることもできる、という、「どうなんだろう」 とワクワク探る楽しみが、普通より1つ多い万年筆なのかも知れません。 その意味で、老店主はペン先を付け直してしまうことで、パイロットの発見したお勧め角度の書き具合をまず試してみる楽しみを奪った、ということは言えると思います。

●というわけで、四角い軸のペン先の取り付け角度や持ち方に ただ1つの 「正解」 があって、その他は誤りであるような認識は、私個人は持っていません。
四角い軸を実際にほぼ毎日、9ヶ月に渡って使っている者の実感です。自分で使っていなかったなら、パイロットさんのお勧めを鵜呑みにしてそのまま信じたかも知れませんが。
ともかく、この記事で興味を持って、販売店で国産新製品QUATTROの "試し持ち" をする人が増えるといいなあ、と期待します。

※記事 049 に関連記事あり。

[ 045 - ペン芯の素材は エボかプラ? ]

2007年09月19日 | エンジニアリング
●よくペン芯の素材として、エボナイト製とプラスチック製がある、と2つに分けた話がされます。
プラスチックは製造法や分子構造や特性の違う種類がたくさんありますが、ペン芯の 「プラスチック製」 って各社同じ樹脂なのでしょうか。

●プロフィット21のペン芯はいわゆるプラスチック製らしい、表面で全ての光を反射する光沢の、黒い樹脂です。
一方手元にあるパイロットカスタムのペン芯。新品の購入時には表面に何か粉をふいている風。うっすらと光が透けて、当たった光が内部でも拡散反射しています。
もともと透明な同じプラスチック樹脂を、セーラーは濃く黒く着色し、パイロットは透明度を残して薄く青く着色している、という印象とはどうも違います。 表面の質感がそもそも違う感じ。セーラーのペン芯樹脂の硬度が高そうな感じなのに対して、パイロットのペン芯は少ししっとりとして軟らかく吸水性がありそう。 特に新品時は青っぽい羊羹(ようかん) 風に見えます。

●写真は両者のペン芯です。
パイロットのペン芯はインクに染まっていますが、光にかざすと、僅かに青く光が透けて見えます。
やっぱりセーラーとパイロットそれぞれのペン芯は、樹脂への着色が違うのではなくて、樹脂の素材分類自体が違う感じです。
もしくは、セーラーは樹脂を最後に磨き仕上げしていて、パイロットは造りっぱなし仕上げなのか。
それとも、セーラーのペン芯はプラモデルの部品のように型で作られ、パイロットのペン芯は製造に切削工程が含まれている感じ。

●爪楊枝を濡らしてペン芯の先っちょの三角形の斜面に水滴を置くことを各3回やってみました。セーラーでは表面張力で丘状に盛り上がって留まるのに、パイロットではじわっと流れて広がって吸入穴に入ったりします。 おそらく汚れ具合( 拭き具合 ) の違いが原因ですが、樹脂表面の特性も違うのかも知れません。

●パイロット社に問い合わせても、ペン芯の素材が何かは教えてはくれないでしょうし、そんなことで広報の手を煩わせると、「万年筆オタクがまた訳の分らんことにこだわっている」 と、メーカーから嫌われちゃいそうです。
気になって眠れないわけでもないので 「メーカーによってなんかペン芯の質感が違うね」 ということで、とりあえずおしまいにします。

[ 040 - 透明なプロフィット21 ]

2007年09月04日 | エンジニアリング
●前回掲載のモデルよりも少し大きい、プロフィット21の透明版です。
ペン先がずいぶんと大きくなります。

●ところで、透明な材料で何か工作をしようとおもったら、ガラスやアクリルのほかに何か手頃な材料があるでしょうか。どうも型に流し込んで焼成硬化できる透明な材料が、いろいろとあるようです↓。
http://www.minimum.jp/make/material/clear.html

●また、上記のサイト画面左のメニューにある「 オーブン粘土▼ 」 内 「 マーブル模様 」 の作り方には興味しんしんです。

[ 039 - 透明プロフィット ]

2007年09月01日 | エンジニアリング
●プロフィット21ではなくて、小さいほうのプロフィットスタンダードのスケルトンなモデルです。透明な素材を指すのであれば "骨格表示" を意味する「スケルトン」よりも、「トランスルーセント」 の方が正しいそうですが、後者はあんまり使わない言葉ですね。
万年筆愛好者は「デモンストレーター」と呼ぶことが多いでしょうか。Google で

 "fountainpen skeleton" で検索すると 696 件が、
 "fountainpen translucent" で検索すると 487 件が、
 "fountainpen demonstrator" で検索すると 237 件がヒットします。

海外でもスケルトンがポピュラーなのかと思ってしまいますが、
"fountainpen skeleton" でgoogle 画像検索してみると透明な万年筆では
なくてトラス構造っぽくて "骨格" な感じの
http://skeletons.zz.tc/fountainpens
な万年筆たちばかりがヒットします。

●プロフィットの軸素材はPMMA樹脂であるとカタログに書いてあります。
プラスチック樹脂を分類した
http://www.uclid-f.com/zairyou.htm
によると、「アクリル」 のことのようです。このサイトの説明によると、

 ・プラスチック随一の透明度を持つ。
 ・透明で紫外線透過率などは普通のガラスよりも大きいほど。
 ・透明で光学的特性はプラスチックのなかで最も優れている。
 ・耐候性に優れている。
 ・外観、表面光沢、表面硬度も良好。
 ・熱加工しやすく、加熱軟化して曲げても白化しない。

となっています。もともと本来は透明な素材なんですね、PMMAは。
その透明なアクリルを、たとえば
http://www.koei-ltd.co.jp/Plastic-net10.htm
のような着色剤で黒くしたものが普通のプロフィットには用いられているのでしょう。

●それにしてもアクリルは、たいへん優秀な物性を持つ素材ですね。エボナイト
も優秀だと言われますが、ノスタルジーを別にすると、変色など分りやすく目に
付く欠点があるエボよりも万年筆向きだと思われます。樹脂に関する色々なサイトが
『アクリルはプラスチックの中でも最も美しいと言われ、
 その美観や透明性から「プラスチックの女王」と呼ばれています』
などと記述しているのを読んでからプロフィット(黒)を眺めると、透明な素材を
黒く着色したものらしく透明感や深みのある、素晴らしい黒だと思えてきます。
●「本当はエボナイトが軸素材として最高であるが加工が難しいので使用例が減っている」
という表現を私も長いこと信じてきましたが、樹脂素材に詳しいある方から、
「エボナイトは熱伝導率が極めて低いので優れている」という話について実際は

[ 熱伝導率 W/(m・K) ]
 ・アクリル  0.19
 ・エボナイト 0.17   

なので、他の樹脂製万年筆に対してエボは比べ物にならないほど優れていると
いうほどでもなく、あまり違いは無いという見方もできる、と教えていただき
ました。また、熱で膨張する割合に関しては、

[ 熱膨張率 α×10-6 ( 1℃毎 ) ]
 ・セルロイド 10
 ・エボナイト 50~80

とセルロイドよりもエボナイトの方が伸縮が激しいので、あらゆる点で優れた
素材と言い切るのには慎重になったほうが良い、ということでした。

●またゴム系の樹脂であるエボナイトの研究や改良に日々投じられているエネルギーと、
石油樹脂であるアクリルの研究開発改良や設備投資に対して世界中で投じられて
いる資金や人材や才能とを比較すると、圧倒的にアクリルの方が大きいでしょうし。
あ、私が長く愛用している1本はパイロット社のエボナイト製万年筆「カスタム845」 で、エボナイトは理屈ぬきでなんだか好きです。
でも、物性があらゆる面で優秀だから好きだ、というわけではありません。

●一般的な黒いプロフィットと、透明なプロフィットの、見た目には大きく異なる
軸素材の違いがもたらす重量バランスの変化について調べてみようかと考えた
のですが、止めておきます。おそらく全く同じでしょう。

[ 038 - キングプロフィット ]

2007年08月30日 | エンジニアリング
●セーラーの旗艦モデルであるキングプロフィット。
エボナイト製です。エボナイトはインクの酸に強いなどの長所を持つ一方で、
空気と反応して表面がくすんだり茶色く変色するなどの弱点も持っています。
●このキングプロフィットも特にキャップの表面に艶が無くなって、
くすんでいます。「ハード・ラバー」という別名通り 見た感じは、
プラスチックの仲間の樹脂というよりもゴムっぽい感じ。
ゴムのような弾力は全くないですが。
●でも筆者はそういう変化はそんなに嫌いではありません。
以前にいい感じにヤレたエボナイト製インキ止め式万年筆を目にしてから、
http://fish.miracle.ne.jp/mail4dl/05-topic-news/AB-1.htm
磨き上げられた艶が無くなることに落胆するよりも、
それを面白がる気分のほうが強くなっています。

■ただし、エボナイトの物性など細かい点は気にしていません。
素材のわずかな違いや、ネジの切削精度など、
見方によっては "わずかな違い" でしかないことは分りにくい。
一般に、そうした気がつきにくい細部を 「売り」 にする商品は、
実は、大方針や基本骨格において
「特徴が薄い」ことを告白しているようなものだと思っています。
マニアが唸るスペシャルなモノとは、V12気筒500馬力で最高速度300km/h
とか、1億2900万画素だとか、曲線の美しいフェラーリとか、ちょっと見れば
これは圧倒的である、と分りやすいモノではないかなあ、と。

■差異が小さい砂糖の銘柄やトイレットペーパーのブランドを気にする人が
少ないのと同じで、大骨格の特徴が薄くて他との違いが分りにくいために
細かいことを言い始めた商品こそ実はマニア向けでなくコモディティ向き
なのかもしれない、と思っています。
大骨格まで新提案する創造力と、細かい改良を徹底する能力は別のもの。
CG技術が高度だった映画ファイナルファンタジー的と言うか...。

■「お前の Center-G も従来品と大して違わないからコモデティ向きだ」
と言われるかもしれませんが、
一応、大方針から考え直してみようというコンセプトで創ってみたんですよ、
あれでも。
http://fish.miracle.ne.jp/mail4dl/05-topic-news/Custom/cent-g-02.htm