国産定番万年筆 最弱インプレ

実用上十分、ほとんど最強と考える実売1~2万円の国産万年筆をレポート。カスタムパーツ製作も左下BOOKMARKで紹介中。

[ 039 - 透明プロフィット ]

2007年09月01日 | エンジニアリング
●プロフィット21ではなくて、小さいほうのプロフィットスタンダードのスケルトンなモデルです。透明な素材を指すのであれば "骨格表示" を意味する「スケルトン」よりも、「トランスルーセント」 の方が正しいそうですが、後者はあんまり使わない言葉ですね。
万年筆愛好者は「デモンストレーター」と呼ぶことが多いでしょうか。Google で

 "fountainpen skeleton" で検索すると 696 件が、
 "fountainpen translucent" で検索すると 487 件が、
 "fountainpen demonstrator" で検索すると 237 件がヒットします。

海外でもスケルトンがポピュラーなのかと思ってしまいますが、
"fountainpen skeleton" でgoogle 画像検索してみると透明な万年筆では
なくてトラス構造っぽくて "骨格" な感じの
http://skeletons.zz.tc/fountainpens
な万年筆たちばかりがヒットします。

●プロフィットの軸素材はPMMA樹脂であるとカタログに書いてあります。
プラスチック樹脂を分類した
http://www.uclid-f.com/zairyou.htm
によると、「アクリル」 のことのようです。このサイトの説明によると、

 ・プラスチック随一の透明度を持つ。
 ・透明で紫外線透過率などは普通のガラスよりも大きいほど。
 ・透明で光学的特性はプラスチックのなかで最も優れている。
 ・耐候性に優れている。
 ・外観、表面光沢、表面硬度も良好。
 ・熱加工しやすく、加熱軟化して曲げても白化しない。

となっています。もともと本来は透明な素材なんですね、PMMAは。
その透明なアクリルを、たとえば
http://www.koei-ltd.co.jp/Plastic-net10.htm
のような着色剤で黒くしたものが普通のプロフィットには用いられているのでしょう。

●それにしてもアクリルは、たいへん優秀な物性を持つ素材ですね。エボナイト
も優秀だと言われますが、ノスタルジーを別にすると、変色など分りやすく目に
付く欠点があるエボよりも万年筆向きだと思われます。樹脂に関する色々なサイトが
『アクリルはプラスチックの中でも最も美しいと言われ、
 その美観や透明性から「プラスチックの女王」と呼ばれています』
などと記述しているのを読んでからプロフィット(黒)を眺めると、透明な素材を
黒く着色したものらしく透明感や深みのある、素晴らしい黒だと思えてきます。
●「本当はエボナイトが軸素材として最高であるが加工が難しいので使用例が減っている」
という表現を私も長いこと信じてきましたが、樹脂素材に詳しいある方から、
「エボナイトは熱伝導率が極めて低いので優れている」という話について実際は

[ 熱伝導率 W/(m・K) ]
 ・アクリル  0.19
 ・エボナイト 0.17   

なので、他の樹脂製万年筆に対してエボは比べ物にならないほど優れていると
いうほどでもなく、あまり違いは無いという見方もできる、と教えていただき
ました。また、熱で膨張する割合に関しては、

[ 熱膨張率 α×10-6 ( 1℃毎 ) ]
 ・セルロイド 10
 ・エボナイト 50~80

とセルロイドよりもエボナイトの方が伸縮が激しいので、あらゆる点で優れた
素材と言い切るのには慎重になったほうが良い、ということでした。

●またゴム系の樹脂であるエボナイトの研究や改良に日々投じられているエネルギーと、
石油樹脂であるアクリルの研究開発改良や設備投資に対して世界中で投じられて
いる資金や人材や才能とを比較すると、圧倒的にアクリルの方が大きいでしょうし。
あ、私が長く愛用している1本はパイロット社のエボナイト製万年筆「カスタム845」 で、エボナイトは理屈ぬきでなんだか好きです。
でも、物性があらゆる面で優秀だから好きだ、というわけではありません。

●一般的な黒いプロフィットと、透明なプロフィットの、見た目には大きく異なる
軸素材の違いがもたらす重量バランスの変化について調べてみようかと考えた
のですが、止めておきます。おそらく全く同じでしょう。

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (花月)
2007-09-03 04:20:12
Finemanさん、おはようございます。
客観的な分析、いつもながら非常に刺激になりました。私も一時エボナイトの「神話的」な部分に囚われていた時期がありました(だからといっていまは嫌いになった訳ではなく、むしろ好きです)。
好き嫌いは別として、万年筆の工業製品としての完成度は日々上がっていると思います。文系の私にとって現行品は完成度が高すぎて「面白くないなー」と思うこともしばしば。
これからメーカーには、より完成度の高い製品を作る一方でマニアの要望に応えるオーダーシステムの充実や、分解や改造が容易な製品を打ち出してもらいたいと思っています。
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思いつきで書いてます (Fineman)
2007-09-03 22:56:31
花月さま こんばんは。

●あ、それだ。
うまい表現が思い浮かばなかったのですが、そうか、 "神話" という表現がありました。

●色々な書籍やウェブ上の記事によると、古来から葦ペン・骨ペン・角ペンなどが筆記に使われてきて、次に金属製のペンが現れたという風に書いてあります。
そして1851年にエボナイトが発明されて、次第にエボナイト製軸を持つ万年筆が主流になったとか。
エボ製万年筆が金属製の万年筆に取って代わる際の決め手は、
 ・インクの酸やアルカリに侵されず強い
 ・熱伝導率が低い
 ・軽い
などの点であったと想像します。

エボナイト製万年筆を今も製作しておられる方々は、神話世代の重鎮、古老的な方々が多いのではないかと思います。
無数の職人さんや製造店が、万年筆不遇の時代に諦めて脱落していった技を今に伝える、凄い方々です。そしてその技と同じく、エボの長所も口遊(くちずさみ) 伝承的にずっと変わらずに
 ・インクの酸やアルカリに侵されず強い
 ・熱伝導率が低い
 ・軽い
と伝わってきたのかもしれない、などと想像しています。


> 好き嫌いは別として、万年筆の工業製品としての完成度は日々上がっていると思います。
> 文系の私にとって現行品は完成度が高すぎて「面白くないなー」と思うこともしばしば。

●わかりますよ♪

便利な電動工具などが発達する前に製作されたストラディバリウスや古根付が、今の作家に「かないません、参りました」 と言わせているそうですし。

また、ヨットレースのアメリカズカップのヨット。最新のAC艇
http://acboats.zz.tc/uptodateboat
は最先端の流体力学やハイテク素材工学の塊みたいなもの( 帆はケブラー製。追い風に押されて進むより、まるでジャンボジェットの片翼が水面に斜めに突き立っているかのように揚力で進む方が風速より速くなったりして大得意らしい ) で、向かい風に向かって上り得る角度も、その艇速も、性能的には旧い時代の艇とは別次元に凄いそうです。でも、どうみてもファンを獲得する魅力度ではヴィンテージ艇
http://acboat.zz.tc/vintageboat
の方が圧勝に見えます。( ちなみに写真で見えるデッキは艶々の板張りです )

ヴィンテージ万年筆の良さもそれかな、なんて思ったりしてます。
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