泣かないで、お願いだから。
わたしが世界をおいていくことなんてわかりきっていたことだし、もうどうにもできないと言われていた。わたしだって諦めていたわけじゃないでも、いくらなんでも、望みが薄すぎたというものではないのか。
だってわたしは顔の知れた攘夷浪士だ。病院なんかに行っても、通報されて、打ち首になるだけ。仲間の中に腕利きの医者なんて居るはずがなかった。何故なら頭がいいか、剣がたつか、江戸や天人を憎む、戦うのが好き。そんなどうでもいい理由だって、それこそ気分であっても、なれるのだ。腕利きの医者になるまで学問を積んだ者が入ってくるはずもなかった。もうどうでも、いいのだけど。
泣かないで、お願い。死なんて怖くない。攘夷浪士だったんだから、わたしはいつ死んでもおかしくはなかった。でも今まで生きて来れたんだから、いいとしましょうよ。どうせいつかは、みんな引退して、捕まって、死んで。そんな風にして離れていくのだから。遅いか早いか、それだけの問題でしょう。
泣かないで、お願い。死なんて怖いに決まってるでしょでも、ほら。世界はわたしを忘れたように、わたしをおいていくかのように、今も変わらず、動いているのだから。わたしなんて居なくても、みんなは生きていけるでしょう、変わらず。
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演舞人形(マリオネッタ)崩壊劇
病気で世界をおいて逝く人の恐怖って
並大抵の怖さじゃないと思う。