闇夜がまだ明けない頃に、それは来た。
さも楽しそうにこちらの仲間を切り倒して真っ赤に染まりながらも煙管を吹かすその姿は恐怖としか言いようがなかった。床が真っ赤に染まっていく、奴の服も真っ赤に染まっていく。
彼等は私を庇うようにして戦っていた。私が、剣を扱えないから。これほどまでに苦い思いをしたことはなかった、何故ならこういう場合では私が一番の弱点となりうるのだから。
いよいよ減ってきた仲間を見て、彼は刀を抜いた。行かないで、そう咄嗟に叫んで着物の裾を掴んめば、いつものように、優しく。けれど、絶対の拒絶を持って彼は言った。行ってくる。そして最後の一人を斬ったあいつに向かっていった。恐怖から傍にあった刀を握り締めると、低い、狂ったような笑い声が聞こえる。
「クク・・ヅラァ、落ちたもんだなァ、お前も。女一人の為に、どれだけ犠牲にするつもりだ・・・?」
「全てだ。」
「ッハ。狂乱の貴公子が聞いて呆れるぜ・・!」
刀のぶつかり合う音が響く。もう悲鳴も肉を切る音も骨が軋む音も聞こえない、あの男が全て殺してしまったのだ、暖かい家族を。そう思っていれば涙が落ちた。・・その、一瞬だった。
「余所見してる場合かよ!」
そう聞こえたと思えば目の前が真っ赤に染まる。目の前に黒い髪がばさりと舞った。咄嗟に吸った息が悲鳴として漏れる前に、唇は抑えられる。口の中に広がった異物感に思わず噛み付けば、小さくうめいた後にそれは離れた。けれど視界にはその男しか映らないのだ。視線を逸らすこともさせてもらえずに、男は耳元で毒を吐いた。
「なァ、俺のモノになれよ、」
吸い過ぎた息が苦しい。過呼吸を繰り返す私に構わずに男は、さも、楽しそうに(仲間を甚振っていた時のように、さも、楽しそうに、笑い)。
「なァ、」
「俺を、」
「愛せよ。」
―――
(絶叫三秒前)
COCCOお題けもの道の前の話・・・のつもり。
彼=桂 あの男=高杉 に決定でつ。(何