せかいのうらがわ

君と巡り合えた事を人はキセキと呼ぶのだろう
それでも僕らのこの恋は「運命」と呼ばせてくれよ

Fugitive from death

2009-11-11 16:30:16 | その他
「おくさん」

彼女は足が早くて、のんびり屋なのにせっかちで、のめり込んでしまうと振り返ってくれないというきらいがある。彼女のそういうところは嫌いではないし、どちらかといえば行動的ではない自分に勇気をくれるから、好きだ。
でも、でもと思う。永い時間のなかで意欲をなくしてしまった自分と、いつまでも輝いて走って行く彼女とでは、やはり決定的に何かが違っているのだと痛感させられる。おそらく、ではなく絶対。自分自身彼女より先に死ぬことは、ない。

「おくさん、どこ」

焦る。たかが散歩だろうが何だろうが、不安になるこの感情を抑えることは魔法でも不可能だ。人の気持ちも寿命も変えられない。使えるのは魔法というより調合や錬金術といった類だから、だから自分を人間にするなんて奇跡のような素晴らしい魔法は、この世に存在しない。呪いが好きな魔女は、力はあるのだろうけれど方法を知らないだろう。
死が怖くないわけじゃない、でも彼女の死は何にも変え難い恐怖だ。この一瞬は人間の彼女よりずっと短いもので、恐れている"それ"はすぐに来てしまう。だから、手を離すのは、怖い。

「魔法使いさん、!」

止まりかけた思考を、彼女の声が突き動かした。得体の知れない痛みと熱に塞ぎかけたもやが冷気に攫われて、また視界は透明感を取り戻す。だから振り向き様に倒れ込むようにして彼女に覆いかぶさったのは不可抗力で、単純に転倒してしまって痛いのは嫌だったからなのだ、とものぐさな神に向かって言い訳を紡いでみる。

「魔法使いさん?ご、ごめんね、私夢中になっちゃって…寒かったでしょ?ごめんね、今度からはちゃんと…」
「……名前で、呼んで、おくさん。……おいてかないで、ヒカリ……」

例えば、魔法を扱う者に伝わる伝説が本当だったとすれば。彼女が一言言えば良かったはずだ。俺の名前を呼んで、一緒に死んでくれと言うだけで、俺はきっと人間になれたけれど。ヒカリは絶対言ってはくれなかっただろうし、言わせたくもなかったから、けれど置いて行かれたくはなくてから、強く抱き締めたのだ。幾万の夜を越える前、まだ俺たちが二人だった頃。


物言わない冷たい石を背に、俺は今も逃げている。

―――
(Fugitive from death)
貴方を追いながら、それでも逃げている


魔法使いさんって呼んでるのは名前を出したくなかったから。
題名の意味は「死からの逃亡者」です。たぶんね!!←
全体的にイミフですがもういいです雰囲気小説なのです。

離れたらもう会えないとわかっている人と一緒に居るのに、
その人が少しでも居なくなってしまったら、不安なのです。

散歩しよって言ったら飛び上がって喜んでいた(笑)
魔法使いが、森とか店に入った時待ってたので思いついた。
迷子の状態にしたらどんな会話があるんだろうなーって。


あっ…牧場物語の話ですよ?(笑)