あまりに凄寥な奴だと感じていた。
いつも一人で居て、けれど責任感が強くて、他人想いで。悪く言えば、自分のことはいつも後まわし、とかいう奴だった。そして何故か俺にはとても反抗的だった。けれどそんな羽戸崎にも最近男ができたらしく、笑うことが多くなっていた。クラスにも馴染んでいったし、感情を表にだすようになって来ていた、のに。
昨日から羽戸崎の様子がおかしかった。苦笑いが多く、塞ぎこみがちになった。今度話をしよう、そう思いながら玄関を横切ろうとしたとき。
大雨の外を背景のように背負いながら、膝に顔を埋めている羽戸崎を発見した。肩がにわかに震えていて、雨に濡れているからなのか、制服のシャツは透けていた。いつもならば笑いを込めながら注意でもするだろうが、今それをやってしまえば、二度と心を開いてはくれなさそうで。
「羽戸崎、」
思わず声が出ていた。すると一瞬体を強張らせた後、遠慮がちに顔が上がる。涙の跡が蛍光灯に照らされて光っていた。泣いていたからなのか、我慢しているからなのか、その表情は酷いものだった。泣きそうなのか、笑いたいのか、歪めたいのか、わからないような。
「・・先生・・・」
その顔を見てはいけないような気がして、視線を泳がせながら頭を掻いた。雨の匂いがツンとする。羽戸崎は俯き加減に呟いた、「遊びだったって」。びっくりして視線を戻すと、羽戸崎は完全に下を向いていて、地面に雨ではないいくつもの染みを作っていた。
「私とは、遊びだったって。今日、誕生日だったので、どこかに、行こうと。約束、したん、ですけど、ね。さっき、電話があって。遊びだったから、別れようって、言われ、ました」
そういえば今日は羽戸崎の誕生日だった。忘れていた自分が言えた義理ではないが、祝ってやりたいとも思わない奴に、こいつの傍に居る資格はない、と思う。
こいつは、誰よりも誰かを救いたがっていて、けれど、誰よりも傷付くのを恐れているのだから。
「・・羽戸崎ー」
「・・・なんです、か。先生」
あんま、落ち込むなよ、とは言えなかった。守るものができたことを喜んでいたし、何より守られることを望んでいたから、落ち込まないはずがなかった。言葉につまってしまうと、今まで気にならなかった雨の音が、一層うるさく耳に届いた。「先生?」その声に、思わず言葉を出していた。
「名前」
「・・名前?・・蘭、ですけど」
「ちげーよ。俺の名前」
そう言うと、羽戸崎は少しきょとんとした後、わかったのか、怪訝そうに「それはつまり、先生を名前で呼べということですか?」と訊ねてきた。そうだよ、と呟くように返せば、羽戸崎は黙ってしまった。恥ずかしいのか、呆れているのか(きっと、後者だ)。また雨が五月蝿く叫ぶ。
「・・・、」
小さく羽戸崎が何かを言った。顔は俯いたままで、蚊の鳴くように呟かれた声は何て言ったかまでは聞き取れない。黙っていることにそれを感じ取ったのか、羽戸崎は顔を上げた。
「銀時」
ぼそ、と呟かれた声に思わず煙草を取り落としそうになった。その表情は苦笑いなような、泣きそうな、とにかく、儚い感じが、した。
「・・な、何だよ?」
「・・映画、いこ」
そう言って無理矢理に笑った羽戸崎の長い指には、二枚のチケットが挟まれていた。羽戸崎の分と、多分、羽戸崎の元彼氏の分だ。断ったらそのまま羽戸崎は居なくなってしまいそうで。
―――
(PessimisticScreenEvening)
気付けば羽戸崎を乗せて、原付に乗っていた。
「はーいそこの原付止まれーノーヘル運転だよー」
な展開になる可能性大(台無しだよ
ちょっと前に書いたアナロジーラヴのネタより。
あれネタが具現化されたのはじめてじゃね?(笑
アナロジーなので似非。ラヴは愛。
=同情?(待