すっかり習慣になった夜の早歩きで「夏の大三角」が輝いているのを目にします。このうち、ベガ(織姫)とアルタイル(彦星)は七夕の物語として語られるので、第三の星デネブは三角形の添え物のように見えてしまいます。しかしこの星は、ベガやアルタイルとは比較にならないほど巨大な天体で、地球から2,616光年も離れているそうです。
2,616年前といえば、釈迦の生年が紀元前624年、出家をしたのが30歳のときなので、ちょうど釈迦が出家をし、まさに悟りを開かんとする頃の昔です。そのころ発した光を、今私たちが目にしているのです。さて、このありがたい仏の光を受けながら、もう少し遠い昔の物語をしたいと思います。
この釈迦が悟りを開くはるか昔、法蔵という修行僧が四十八の発願を遂げ、「阿弥陀仏」という如来になって、自ら作った国土すなわち西方極楽浄土で説法を始めました。
釈迦十大弟子のひとり阿難が釈迦に向かって「今も阿弥陀仏はおられるのですか」と問うたところ、釈迦は「法蔵菩薩、いますでに成仏して、現に西方にまします」と答え、さらにこう続けました。「成仏よりこのかた、おほよそ十劫を歴たまへり」と。
この「十劫(ごう)」がどの程度の昔かというと、「劫」は「エアーズロック千個分の巨大な岩が、百年に一度、薄い布でなでることで、磨り減ってなくなるほどの時間」という、深く考える気持ちが失せるような説明が出てきます。ウィキペディアでは、ヒンドゥー教で一劫は43億2千万年という説明が載っているので、こちらを採用してみます。
十劫すなわち432億年とすると、十劫光年離れた天体はどこでしょうか。観測できる宇宙の果ては470億光年先で、ここから発せられた電波が届いているのだそうです。ただし、宇宙が始まったのは137億年前で、宇宙は膨張しているのでこうなるのだそうです。
ここを深く考えると訳が分からなくなるので、阿弥陀如来が成仏したのは、ざっくり「宇宙開びゃく」から程なくととらえます。そうすると、宇宙開びゃくの昔から届いた電波は、阿弥陀仏が成仏した頃発せられた電波であり、デネブから届いた光は、釈迦が悟りをまさに開かんとする頃の光です。
文字どおり、宇宙規模の気宇壮大な物語です。
ちなみに、釈迦の後継者の如来となることを約束されている「弥勒菩薩」が、いつ菩薩から如来になるかというと、56億7千万年後という気の遠くなる将来の話です。この途方もない時間は、地球を含めた太陽系が消滅するまでに残された時間と、ほぼ等しいのだそうです。