有田陶器市に行ってきました。ゴールデンウィークのわが家恒例の行事なのですが、今年は遠くに赴任した次女がいません。
昼過ぎに散策を切り上げ、駐車場に向かうと、「よかったら、うちの窯元を見て行かれませんか」と声をかけられました。窯元件展示場に入ると、案内してくれる女性が名刺をくれました。窯元の若奥さんだとばかり思っていた人は、窯元の十二代目当主なのだそうです。そうすると、この「富右ェ門窯」という窯は、相当に古い歴史を背負っていることになります。
展示されている作品は、ほとんどが父親である十一代目の作品で、二十数年前に亡くなっているので、作品のひとつひとつは、何の用途で作られたのか、現当主にもわからないことがある、と話していました。
たとえば、この茶碗の用途ははっきりとはわからないけれど、残された絵付けの蓋とちょうどサイズがぴったりなので、セットで煎茶茶碗として作られたのだと思うということです。太い筆一本で、葉先の流れやグラデーションを描き切る職人は、今はほとんどいなくなってしまったと話してくれました。
大胆な構図と繊細な筆運びが気に入ったので、セットで完品のものを2客買い求めました。
さて、この「富右ェ門窯」です。帰って調べてみると、鍋島藩の御用窯として、個性的なデザインと格調高さを三百年にわたって伝えてきた伝統のある窯元だったそうです。「だった」というのは、現当主が語ってくれたように、十一代目の急逝で、工場を閉鎖せざるを得なくなったからです。別の記事によると、それから十数年後に、富右ェ門窯を支援するコンサートイベントが、地元の芸術家たちによって催されています。
この記事には現当主に十二代目という肩書きが付いていないので、このイベントの後に、襲名披露をしたのでしょう。
十一代目が亡くなったとき、現当主は、うちの娘たちの今の年頃だったのではないでしょうか。三百年の歴史を突然遺されて、当惑したことでしょう。職人たちが去っていくのは辛いことだったろうと勝手に想像します。
現当主は現在、絵付け師として活躍されているとのこと。窯元には先代の掘り出し物の作品が数多く遺されているので、ご興味のある方は、上有田駅近くの富右ェ門窯を訪ねてみてください。