犀のように歩め

この言葉は鶴見俊輔さんに教えられました。自分の角を道標とする犀のように自分自身に対して灯火となれ、という意味です。

ものごとがうまくいかないとき

2023-09-09 21:59:09 | 日記

ものごとがうまくいかないとき、ジタバタしないことが大切だと言われます。
たとえば『回復力 失敗からの復活』(畑村洋太郎著 講談社現代新書)は、人間は失敗した後には冷静な判断ができないので、穴の空いた風船から空気が漏れるようなことになってしまうと言っています。だからこそ、自然が本来持っている「回復力」を信じることが必要なのだと。

ところが、自分の回復力を信じることができないほどに、意気消沈してしまうことがあるので、話は簡単ではなくなるのです。そうだとすれば、意気消沈してしまわないような心境に達することこそが、遠回りのようでいて確実な「失敗への対処法」ではないか。中村天風がまさにそういうことを述べています。
若い頃読んで、今読み返しても新鮮に感じるくだりなので、少し長くなりますが引用します。

何かの出来事なり事情で、万一意気が阻喪したとか、あるいはまた、ばかに元気がなくなっちゃったというようなことを感じたとき、たとえば自分の思ったことが思うようにできなかったときなんかには、普通の人だったら誰でも、失望や落胆はあるね。そういうときに、今までと違った思い方をすることが秘訣の第一だな。
その秘訣は何だというと、一番先にその出来事なり事情を解決する手段や方法を考えないことなんだよ、どうだい?
あなた方はたいてい、何とかして自分の現在の失望、落胆したことを取り戻そうと、その出来事なり事情を解決するほうへ手段をめぐらすことが先決問題だと思うだろう。それが間違いなんだよ。
一番必要なことは、もしもこの出来事に対して意気を消沈し、意気地をなくしてしまえば、自分の人生は、ちょうど流れの中に漂う藁くずのような人生となって、人間の生命の内部光明が消えてしまうということをしんから思わなきゃいけないんだ。
失望や落胆をしている気持ちのほうを顧みようとはしないで、失望、落胆をさせられた出来事や事情を解決しようとするほうを先にするから、いつまでも物になりゃしない。
つまり順序の誤りがあるからだめなんだ。いいかい、ここのところをしっかり心得ておくんだよ。
(『心に成功の炎を』 390頁)

天風の言葉を長々と引用したのは、実のところ、レッズ戦ダブルヘッダーの間の検査で、ケガが判明した大谷翔平について考えたからです。2試合目でDH 出場した大谷はライト線にヒットを放ち、俊足を飛ばして2塁を陥れました。そのあとセカンドベース上で、レッズの選手と楽しそうに話を交わしている様子が映し出されていましたが、そのとき大谷じしんが靭帯損傷の結果を知っていたというのには驚きました。

大谷翔平は中村天風の愛読者であることは知られていて、誠に勝手ながら心のなかでは同門のごとき存在だったのです。そのこともあってか、大谷の笑顔を見ていて真っ先に思い浮かんだのが、先述の天風の言葉でした。

今の苦境からどう脱出するかや、選手生命をどうやって長くするかを考えることは、とても大切なことです。しかし、その前にしっかりと順序を誤ることなく、大谷翔平はみずからの心を整えていたと、私は思いました。


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