15年ぶりに引越しをしました。
最大の懸案事項は蔵書をどうするかです。書斎の壁面を覆う本棚はすべて埋まっており、机は「本置き」と化して、もう本来の機能を果たしていません。机の上に一列遠慮ぎみに置かれていた本が、第二列、第三列と勢力を拡大し、その第一列の上にさらに平積みが始まると歯止めは効かなくなりました。第二列、第三列の上にも積み重なって本の塊を形づくり、巨大な怪物のように部屋の真ん中を占拠していました。
そういう具合なので、新生活を始めるにあたって、かなり思い切った廃棄処分が必要なことは明白です。
今後、絶対に読み返さないものは必ず捨てる、という基本方針を立てて一切の例外を許さないと心に決めました。大学時代から大事に取っていた本も思い切って廃品回収に回しました。
この作業に一週間はかかったでしょうか。廃品回収に出した日のわが家の玄関先は、露店の古本屋の様相を呈しており、あまりの見事さに、思わず記念撮影をしてしまいました。
そうやって厳選したにも関わらず、新居に運び込んで積み重なったダンボールの山は、やはり巨大な怪物のようにあたりを睥睨しています。中島敦の「文字禍」という小説で、文字の不思議を解明しようとした学者が文字の害悪に気付き、これを国王に報告したところ、王の逆鱗に触れて謹慎蟄居の身となり、遂には文字の怒りを買って本に押しつぶされて圧死してしまうという話を思い出しました。
新居のためにわざわざ買った、本の重みにたわまない本棚を組み立てて、これにもおよそ二日を要したのですが、この本棚に本を詰め始めると、当然のことながらダンボールの山はだんだんと低くなってゆきます。
我がもの顔に部屋を占拠していた塊がおとなしく小さくなっていくと、なんだか鬼退治をしているような気分になりました。
まだ鬼は退治しきっていませんが、壁面に並んでいる本の群れが、いつ反乱を起こしても不思議ではありません。突っ張り棒を買うのを忘れていたからです。