歴程日誌 ー創造的無と統合的経験ー

Process Diary
Creative Nothingness & Integrative Experience

ハンセン病図書館を存続させよう

2005-10-09 | 日誌 Diary
全生園のハンセン病図書館は、松本馨さんが自治会長を務めていたときに、設置された。その後、二十年近く経って、新しく高松宮ハンセン病資料館が設置されると、その中にも図書室が設けられたので、それと間違える人もいるが、ハンセン病図書館は園の宗教地区の一角にあるコンクリートの建物で、資料館が増築工事のために閉鎖されている今も開館中である。(11月3日まで、松本馨写真展を館内の展示室にて開催中)

藤野豊氏の「いのちの近代史」、荒井英子氏の「ハンセン病とキリスト教」、瓜谷修治氏の「柊の檻」など、このハンセン病図書館の資料を利用して書かれた研究書は多い。らい予防法阻止にむかう動きの中で書かれた研究書は、療養所の中の入所者自身の手によって書かれ、蒐集され、編集され、そして保存された膨大な文献を抜きにしてはあり得なかっただろう。ハンセン病図書館を保存することは、その意味で、予防法廃止へといたる人権のための闘いにとって記念碑的な施設を残すという意味を持っている。

これに対して、ハンセン病資料館のほうは、現在の段階では、この闘争を経験された世代の方が「語り部」として参加されている御陰で、来館者に人権のための闘いの足跡を伝えることが出来るが、次の世代になって、この施設が厚生労働省とか、あるいはその外郭団体の管理下に置かれた場合、はたして、入所者の歴史をありしままに後世に伝えることが出来るかどうか、不安がある。

「高松宮記念」ハンセン病資料館の展示を見れば判るように、それは、かつての藤楓協会の影響が残っており、皇室関係の展示が最初に来る。そして、強制隔離の推進者光田健輔と、強制隔離に反対して闘った小笠原登の展示が同じ部屋にある。つまり、戦前・戦後の「救癩政策」への批判的な視点によって貫徹されているとは言い難い所がある。私は、資料館の図書室に、現在のハンセン病図書館が吸収合併されることには反対である。

資料館の増設には厖大な国費が投ぜられる。そのことは一見すると良いことのようであるが、反面、管理が、国家の指導体制に置かれるということを見る必要がある。国に全てを委せるのは危険であるーなぜなら国家が過つとき、それを正すことは容易ではないから。これこそ、らい予防法の廃止と、国賠法訴訟の歴史が我々に与える教訓ではないだろうか。
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