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子どもの本の会

子どもたちにはありったけのお話をきかせよう。やがて、どんな運命もドッヂボールのように受け止められるように。(茨木のり子)

『ほんたうのたべもの』宮沢賢治

2012年03月10日 | 日記
 序
 
 わたくしたちは、氷砂糖をほしいくらいもたないでも、きれいにすきとおった風をたべ、桃いろのうつくしい朝の光をのむことができます。
 
 またわたくしは、はたけや森の中で、ひどいぼろぼろのきものが、いちばんすばらしいびろうどや羅紗(らしゃ)や、宝石いりのきものに、かわっているのをたびたび見ました。
 
 わたくしは、そういうきれいなたべものやきものをすきです。

 これらのわたくしのおはなしは、みんな林や野はらや鉄道線路やらで、虹や月あかりからもらってきたものです。

 ほんとうに、かしわばやしの青い夕がたを、ひとりで通りかかったり、十一月の山の風のなかに、ふるえながら立ったりしますと、もうどうしてもこんな気がしてしかたないのです。ほんとうにもう、どうしてもこんなことがあるようでしかたがないということを、わたくしはそのとおり書いたまでです。

 ですから、これらのなかには、あなたのためになるところもあるでしょうし、ただそれっきりのところもあるでしょうが、わたくしには、そのみわけがとくにつきません。なんのことだか、わけのわからないところもあるでしょうが、そんなところは、わたくしにもまた、わけがわからないのです。

 けれども、わたくしは、これらのちいさなものがたりの幾きれかが、おしまい、あなたのすきとおったほんとうのたべものになることを、どんなにねがうかわかりません。

大正12年12月20日

宮沢 賢治
(「注文の多い料理店」(角川文庫) 序より)


さっき、久しぶりに、この本(注文の多い料理店他八編)の中から、「鹿踊りのはじまり」を朗読しました。
勝手に、鹿同士の会話の盛岡南部弁を、津軽弁にして。
いいんです、私自身のための朗読なので。ははは。
朗読家おつきゆきえさんのようにはいきませんが…。

ススキ野原にある男が忘れた手拭いを、生き物と勘違いして、様子を探りながら、その周りをぐるぐる踊り回る6匹の鹿の様子が、とても面白いです。
宮沢賢治作品の中で大好きなもののひとつ。

私の持っている本(画像)は、昭和33年初版、昭和53年第17版のものですが、この序文は原文初版のまま。

そして、この序文が大好きでたまりません。

宮沢賢治さん。37歳で逝去されています。
私は、もうとっくにその歳を越えてしまっています。

子どもたちに、たくさん素晴らしい童話を読んで聞かせて「すきとおったほんとうのたべもの」をいっぱい食べてもらいましょう~。




以前出席した「大人のための宮沢賢治朗読会」にて、朗読をされた「おつきゆきえ」さんから、いただいた言葉。


子供は子供でいてさえくれればいいのよ。大丈夫、そんなに早く大人にしなくても。
『そんなんじゃ、大人になったら困りますよ!』なんて、言うのはもってのほか。
子供は未来なんて予測できない。今、今この一瞬一瞬を精一杯生きてるだけ。
今を楽しくしてあげるだけでいい。
そんなに早く、辛い大人社会を教え込まなくても、子供は自然と分かるようになります。
辛いこと、苦しいことを先回りして教えないで。

子供時代は、毎日が楽しくて楽しくてしかたがないくらい、
楽しいこと、気持ちのいいことを、たっくさん、たっくさん経験すればいいの。
子供であることを満喫した子ほど、大きくなってから、とても人の気持ちがわかる、
sensitiveな、敏感な子になるから。
『あぁ、あの子、なんだか楽しそうじゃないなぁ…どうしたんだろう?』
『あぁ、今日はあの子、元気のない声してる、どうしたんだろう?』と、気づく子になれる。
それは、楽しいこと、気持ちいいことをいっぱい知っているからこそ。

今の子は、相手のそうした気持ちにとても鈍感。気づかない。
あるいは、気づかないフリをして、面倒くさいことに足を突っ込まない。
今騒がれている「いじめ」もそうしたことが原因かなぁと思っています。




おつきゆきえさんは、朗読を生業としていて、全国を駆け回っています。
今回朗読されたのは、宮沢賢治の「どんぐりと山猫」「イチョウの葉」など。

幼稚園児や小学生に絵本を読み聞かせに行くことも多いそうですが、演者に失礼になるからと、北朝鮮の子供のようにピシっと座らせ、緊張して聞かせるところが多いそうです。でも、彼女は言っています。


「こうした朗読・読み聞かせは魂で聴くものであって、スタイルは関係ない」
寝っころがって聴いてもいいし、魂に響かないときはボーっと外見てもいい。咳・くしゃみ、赤ん坊の泣き声、気を使って退席しなくてもいいですよ!




おつきさんの朗読は、そんな周りのことを気にする暇もないほど、皆の魂を物語の世界に引きずり込む、とてもすばらしい朗読です。

私はいつも子供に物語や絵本を読んであげる立場で、こうして読んでもらうことなんて、めったにありませんし、よい時間を持たせていただきました。

賢治の言う『ほんたうのたべもの』、身体に染み渡るキラキラした透き通った食べ物をいただくことができました。

ごちそう様でした。

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