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我輩は猫である

2006年08月27日 | 過去の記事
我輩は猫である。名前はまだない…。
ある寺院の山門入り口。「警備・案内所」と書かれた小屋の中には猫のほかは誰もいない。

「すみませーん。」
「良い気持ちで寝てんのに誰やねんな。もう。」
「ここにある、案内パンフレットもらってもいいですかー。」
「欲しかったら、持っていったらええがな。」
「お前に聞いてるんとちゃうで。ここのお寺の人に尋ねてんのや。」
「あんさん、ここに掲げてある字が読めんのか?」
「読めるわい。わしゃ、ここの寺の人にきいとるんや。」
「せやから、欲しかったら持ってきゃええって言うとるんや。ワイはここの寺のモンやで。」
「ここの寺のモンて、お前猫やないか。」
「猫が受付してたらアカンのか?」
「そら、まあ、構わんけど、寝てて案内警備が勤まるんか?」
「うるさい奴やなぁ。犬みたいに人見たら吠えるだけが能とちゃうで。」
「寝てたら、悪い奴がきてもわからんやろ。」
「あんさん、あんまり猫を馬鹿にしたらあかんで。寝てるようやけど、ちゃーんと番はしてんねんさかいな。」
「ほ~、ほな、もしワシが賽銭泥棒やったらどないすんねん。」
「そんな訳はあれへん。あんさん賽銭を盗むような奴には見えへんさかいなぁ。というて、お金を持ってるようにも見えへんけど。」
「余計なお世話じゃ、ほっとけ。ほな、勝手に参詣してええねんな。」
「かめへん、かめへん。かめへんから、睡眠の邪魔せんといてんか。」
「そうでっか。悠長なことで結構ですなぁ。ほな、勝手に参詣させてもらいまっさ。」
「しかしまあ、この暑いのにこんな山の中まできて、あんたも物好きやなあ。」
「たまたま、こっちの方に来る用事があったから、道路わきに立ってた看板見てちょっと寄ってみただけや。」
「ふ~ん。」
「しかし、いくら小屋の中で影になってるちゅうても、周りでセミが泣き喚く中で、よう寝れるもんやなあ。」
「セミ鳴いてるちゅうても、シャーシャーとやかましいクマゼミなんかと違うて、ツクツクボウシやさかいなぁ。耳障りどころか、子守唄のようやわ。」
「あ~、そういうたらツクツクボウシの声があちこちから聞こえるなあ。けど、ワシャ、ツクツクボウシはあんまり好きやないねん。」
「ほ~、クマゼミなんかよりずっとええと思うけどな。」
「いや、鳴き声はかめへんねんけどな。ツクツクボウシっちゅうたら、だいたい8月の中旬過ぎくらいから鳴くやろ。」
「そうやな。」
「子供の頃なあ、夏休みも終わりに近づいて、ツクツクボウシの鳴き声聞いたら、『宿題しろ~、宿題しろ~』って聞こえてしゃあなかったん思い出すわ。」
「そら、あんさん、自業自得ちゅうもんやで。毎日、少しずつ宿題やってたら、あわてんですむのに、足元に火がついてからあわてるから、そないなんねんで。」
「うるさい奴やなぁ。お前に言われんでも自覚しとるわ。その点、猫は気楽でええなあ。」
「何言うとんねんな。猫の苦労も知らんと。」
「ほ~、猫でも苦労すんのかい。」
「あんさん、失礼なこと言うたらあかんで。あんさんら人間がワイらをペットにすんのは構わんけど、最後まで面倒みんと捨てたり、逆に甘やかしすぎて歩くこともままならんほど栄養過多にさせたり、ほんまに、エエ迷惑やわ。」
「ああ、わしゃ猫飼ってないけど、言われりゃ頭の痛いこっちゃなあ。」
「まあ、静かに見守ってくれたらそれでええのとちゃうやろか。それはそうと、今日は夕立がありそうやから、それまでに帰った方がええで。」
「そら、おおきに。ほんなら、ちょっと見学させてもろたら、帰るわ。」
「あいよ。気が向いたらまた来たらええで。少しくらいなら話し相手になったるさかい。」

その日の夕方、雷がなり夕立があった。ご忠告おおきにやで。