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ある晴れた日に 後編

2006年08月02日 | 過去の記事
「この前の大雨続きのときは大変やったけど、今日は本当にいいお天気やね。」

「うん、あの時はワタシも、もうダメかもって思ったわ。」

「えらいたいそうやなぁ。」

「たいそうなことないよ。川が増水して流されそうになったんやもん。

ワタシら植物はこの場から避難できないしね。」

「ああ、それは大変やったね。」

「昔は大雨が続いても、ここまで酷くなることはなかったらしいんやけどね。」

「ふうん。じゃあ何で今はすぐに増水してしまうんやろうね?」

「たぶん、護岸工事とかして、コンクリートで土手を固めてしまうからでしょ。」

「…」

「水害を防ぐために護岸工事をしても、その分土や植物が無くなるから

雨が降るとその水を吸収できずに、今まで以上に水かさが増えてしまうのよ。

それで、より高く広く護岸工事をすると、その分川の水を吸収する地面が

少なくなってしまうから、もうこれで大丈夫と思っていた水位が

それ以上になって、また雨が降れば堤防を越えるほどの水かさになってしまい

いたちごっこしてるのと同じなんやわ。」


さっきから彼女の声が小さくなっていき、疲れた表情になってきたように

思えるのが気がかりだったが、

「じゃあ、どうしたらいいんやろう?」という私の問いかけに

「モウ、ナニモ シナイデ コノママ ソット シテオイテ… ホシイ…」

そう言うと、彼女はなにも言わなくなってしまった。

私は彼女を連れて帰りたくなって、対岸の土産物屋に行き

素焼きの植木鉢を買い、スコップを貸してもらって

また、ここに戻ってきた。

彼女の周りの土にスコップをいれようとすると

「そのままに、しておいてあげなさい。」という声が聞こえた。

「どうしてですか?」

「この前の大雨で彼女の体は根腐れしまって、お前さんが連れて帰る間に

彼女はきっと死んでしまうだろう。このまま、この場所で静かに彼女を

眠らせてあげなさい。」



私の机の上には、中身の何もない素焼きの植木鉢がポツンと置かれている。