制度改正Watch

自立支援法・後期高齢者医療制度の「廃止」に伴う混乱を防ぐために

建設国保の徳島県支部、無資格加入の実態を公表

2010年01月16日 09時38分41秒 | 高齢者医療・介護
建設国保(全国建設工事業国民健康保険組合)の内部調査で、組合員の多くが建設関係の仕事に従事していない=加入の資格を喪失していることが明らかになった。今回、問題が発覚したのは徳島県支部。組合員1888人を対象に、建設関係の仕事に従事しているかのアンケート調査を行ったところ、1297人から回答があった。そのうち約4割の518人が「従事していない」と回答。591人から回答が返ってきてこないことから、資格を喪失している組合員は、700や800ぐらいになるかもしれない。

国保組合は、「同種の事業か業務に従事する者で組合員を組織する」と定められており、建設国保においては28の業種が定められている。そのいずれにも従事していないにも関わらず、「保険料が安い」「給付が充実している」などと建設国保に加入したり、資格を喪失しても継続したりといった実態があるものと思われる。なお、「従事していない」との回答のなかには、この建設不況で失業中の加入者もいると思われ、仕事の切れ目ごとに市町村国保と建設国保を行ったり来たりさせる必要があるのかは議論の余地があると思われる(法に照らし合わせると、行ったり来たりが原則で、議論の余地はないのだが)。

なお、建築関係の仕事に就いていないにも関わらず「保険料が安い」からと加入していた組合員は、加入時に遡って資格喪失の手続きがなされるようである。被保険者資格がないのだから、保険料が返ってくるけれども、資格を偽って給付を受けていた分についての支払いが求められる。このブログで取り上げたように、建設国保では付加給付が充実しており、その分を含めて支払えといわれると大変である。加えて、建設国保の資格を偽って取得した日に遡って「医療保険未加入」になるため、市町村国保の資格取得の手続きと、その日=市町村国保の資格を取得した日から今日までの保険料を納付するように求められる。人によって異なるが、上記をプラス・マイナスすると、そう簡単には支払えない額になるだろう。今回、無資格加入が明らかになった500人余りの扱いを注視していきたい。
国保組合の財政にも影響を与える。例えば、約半数の組合員が無資格だとすると、受け取った国庫補助を半分ほど返納しなければならなくなる。このブログでも取り上げているが、国保組合(特に建設においては)の国庫補助率はかなり高い。剰余金を一気に吐き出さなければならなくなるかもしれない。

半数近い組合員が無資格というのは、建設国保の徳島県支部だけの問題ではないと思われる。残り46都道府県の支部においても調査すべきだし、監督官庁の東京都や厚生労働省による立ち入り検査も必要になるだろう。また、他の国保組合でも同じような問題が発覚するかもしれない。そうなると、「国保組合とは何だろう」と国民の関心を集めるようになるだろう。

国保組合の問題については、朝日新聞の報道が詳しい。このブログでも取り上げているが、国保組合の実態を明らかにして外堀を埋めておき、世論を味方につけて広域化した市町村国保と一気にくっつける計画でもあるのではないかと邪推したくもなる。

加入者の4割が無資格状態 全建国保が徳島支部調査
http://www.asahi.com/national/update/0115/TKY201001140489.html

500人超が無資格加入か 建設国保の徳島県支部
http://www.47news.jp/CN/201001/CN2010011501000892.html

国保組合への国庫補助、実態調査の結果が明らかに

2010年01月07日 09時48分03秒 | 高齢者医療・介護
1ヶ月ほど前、このブログで、国保組合の財政状況について書いた。
市町村国保が財政的に逼迫しているにも関わらず、国保組合の黒字分の積み立て=剰余金が約874億円に達していること、入院医療費を実質的に無料にしている国保組合があることなどが明らかになった(朝日新聞の報道)。

補助率トップは建設関係=国保組合の実態調査-厚労省
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100106-00000181-jij-pol

今回、明らかになったのは、約3000億円あるといわれてきた国保組合への国庫補助金の内訳である。
2009年度の予算ベースで、定率分の補助金が2167億円、国保組合の財政力によって決まる普通調整補助金が800億円。補助金とは別枠で、保険料収納率やレセプト点検の実施率などを評価して決まる特別調整補助金が約230億円。
医療給付費に対する国庫補助の割合は、単純に平均すると、40.5%に達する。国庫補助率の高い国保組合は、京都府酒販の70.6%、京都府中央卸売市場の67.4%、福井食品の64.4%など。京都府酒販は、特別調整補助金を加えると、補助率は、なんと79.2%に達する。積立金の名目で4億8千万円の剰余金を保有しており、財政は健全。これだけの補助金は必要としていない。

本来、国庫補助金は、財政状況が逼迫している医療保険者に支出されるべきもの。医療給付費の約8割を補助金が占め、かつ、剰余金を貯めこんでいるような国保組合があるのは、どう考えてもおかしい。国庫補助率と加入者へのサービスを適切なレベルに引き下げ、貯め込まれた剰余金を国庫に返納させるか、市町村国保と統合させて赤字の穴埋めにまわすべき。これまで、厚生労働省は「国保組合への補助率は55%を上限としている」と説明してきた。実態調査によって55%をはるかに超えていることが明らかになったのだから、今後の見直しは必至だろう。

18国保組合で入院無料 07年度、国庫補助受け
http://news.goo.ne.jp/article/kyodo/politics/CO2010010601000664.html

また、18の国保組合(建設12、歯科医師4、医師2)で、加入者本人の入院医療費が実質的に無料になる付加給付を行っていたことも明らかになった。厚生労働省は「入院医療費が実質無料の団体は指導したいと思う。特別調整補助金のあり方も精査したい」としている。18の国保組合への補助金を市町村国保と同じ水準まで引き下げたら、付加給付は続けられなくなるだろう。特別調整補助金は、加入者の自己負担を軽減するために支出されていると受け取られても仕方ない。

国保組合の実態が公式に明らかにされ、2011年度以降の国庫補助率の引き下げを含めて言及がなされたことは、政権交代の大きな成果である(1ヶ月前の朝日新聞の報道がきっかけになったのかもしれないし、国保組合を広域化後の市町村国保と統合するために少しずつ外堀を埋めているのかもしれない)。
特別調整補助金の約半分の111億円の支出を受けている全国建設労働組合総連合は、毎年度、前年度と同額の予算額を確保できるよう、与野党の政治家に働きかけているらしい。このような背景があって、国民皆保険の実現後も国保組合が存続してきたのだから、補助率の引き下げや廃止は簡単ではないだろう。「コンクリートから人へ」を掲げる民主党なのだから、2011年度予算の事業仕分け対象にし「政治主導」でばっさり切ってほしい。
補助金が途切れると国保組合の運営が立ち行かなくなるとの意見もあるが、時間をかけて補助金を少しずつ減らしていかなければならないものでもない。これだけ健保組合が解散しているのだから、国保組合が解散できないとは思えない。2010年度から、都道府県が主導して、市町村国保の広域化が進められる。市町村国保を都道府県に1つ、被用者保険も同じく1つ、いずれは2つを1つにしようとしているのだから、国保組合だけが存続し続けるとは考えにくい。それならば、国保組合を解散させ、早めに市町村国保と一緒になったほうがよいと思われる。

10年後には単身世帯の割合がトップに、高齢世帯の割合は3割超に

2009年12月20日 09時58分57秒 | 高齢者医療・介護
国立社会保障・人口問題研究所が取りまとめている日本の世帯数の将来推計(都道府県別推計)で、10年後の2020年には、単身世帯の割合が全都道府県でトップ(約1733万世帯で全世帯の34.4%。2030年には37.4%に達する)になり、世帯主が65歳以上の「高齢世帯」の割合が3割を超えることが明らかになった。高齢世帯は増加を続け、2030年には約4割。また、高齢世帯のうち、ひとり暮らしの世帯が21の道府県で15%以上、夫婦のみの世帯が10%以上(合わせて25%超)を占めることも明らかになった。

厚労省の「将来推計」 単身世帯がトップに 平成32年、非婚化進行が影響
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/nation/m20091219034.html

高齢者の一人暮らし15%以上に=2030年に21道府県-厚労省推計
http://news.goo.ne.jp/article/jiji/nation/jiji-091218X393.html

世帯主が75歳以上の「ひとり暮らしと夫婦のみの世帯」は、2025年には10%を超え、2030年には、鹿児島県や宮崎県など5県で20%を超える。75歳というと、医療や介護のサービスを必要とする人が増える年代である。地域によっては、世帯の2~3割が何らかのサービスを利用しないと、日々の生活を安心しておくることが難しくなると考えられる。世帯の小規模化(2030年には、1世帯あたり2.27人となる)も進むために、子どもが生活を支えることは現実的でなくなる。
晩婚・非婚化で未婚率が上昇して世帯の規模が小さくなることに加え、人口の減少に伴って、世帯数の伸びも鈍化する。関東地方ではしばらくは世帯数は増加を続けるが、若い世代が働きに出てしまう地方では既に世帯数の減少が始まっている。地理的に離れてしまっては、親の生活を子どもが支えるにも限界がある。子どもの世帯も余裕はない。夫婦で働かなければ、暮らしていけない時代になっている。

これから先、「結婚せずに働き続け、単身世帯のまま高齢者の仲間入りをする」ことも珍しいことではなくなる。地域社会とのつながりも薄い。「高齢者の問題は、家族で何とかする問題。何ともならなくなれば地域で引き受ける問題」とは言っていられない。家族の支え、地域社会の支えは、今日でも期待できなくなっている。
それでは行政サービスに頼ることはできるだろうか。ここ20年ほど「行政はスリム化が必要」「職員を減らせ」と叩き続けているのだから、いざというときに動ける職員はいないだろう。行政サービスとして提供するには、それなりの財源が必要になるが、日本全体が高齢化していくのだから、その頃には「経済大国」ではなくなっている。財源の捻出は、ますます苦しくなるし、行政サービスに従事する若者はいなくなっている。このようにまっとうに考えると、打ち手がない、悲惨な未来が待っている。だからといって、諦めてよいのだろうか。

これは、遠い未来の話ではない。10年後、20年後に確実に訪れることである。安心して暮らせるような社会サービスをいかに提供するかを今から考えていかなければならない。何か新しいことを始め、全国の地域で定着するまで育てるには、10年では足りない。深刻な社会問題として浮上する10年後から考えて始めていては遅い。将来を見据えて今からできることは何かを探すべきである。

社会の「効率性」を優先すれば、地域に点在する高齢世帯を中心部に集めて、限られた社会資源を有効に活用する「コンパクトシティ構想」が有望に思える。しかしながら、住み慣れた地域を離れて、ゼロから人間関係をつくりなおさなければならない「移住者」にとって、この提案は魅力的とはいえない。充実した医療や介護のサービスは利用できるし、少し歩けば何でも揃っているスーパーがあるという生活の一部を切り出せば魅力的だが、近くに誰も知りあいがいない、気軽に相談できる人もいない、することもない... では、移り住もうとは思わないだろう。現役世代とは違うと考えるべきである。
今日のわれわれにとっては想像できない社会が到来するかもしれない。東北地方の一部などの「人口構成・世帯構成では、20年後の社会を先取りしている」といえる地域をしっかり調査し、全国に展開できるように類型化・汎用化し、解決方法を導き出す必要があるだろう。

国保組合の財政状況が明らかに 「剰余金」が約874億円

2009年12月10日 10時00分36秒 | 高齢者医療・介護
「被用者保険」に対する「国民健康保険=国保」というと「市町村国保」を思い浮かべるが、それらとは別に「国民健康保険組合=国保組合」がある。国保組合の存在はそれほど知られていないが、都道府県を単位とする、医師、歯科医師、薬剤師、建築土木や芸能などの職業別の医療保険で、市町村国保とは別である。設立には都道府県知事の認可が必要であり、全国で165の組合がある。

国民健康保険法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S33/S33HO192.html

市町村国保は、第二章 市町村(第5条~第12条)、国保組合は、第三章 国民健康保険組合(第13条~第35条)で別に定められている。国民健康保険の基本は市町村国保であり、第6条(適用除外)の10で国保組合の被保険者は市町村国保の被保険者としないと定められている。


このブログでも書いてきたが、市町村国保が財政的に逼迫しているのに対して、国保組合の財政状況は健全で、朝日新聞の報道によると、多額の「剰余金」を保有しているとのこと。
国保組合の自己負担の少なさ(入院時の自己負担が実質的に0円になる国保組合もある)や医療や健康に関連づけた様々なサービスの充実ぶりへの批判があったが、全国紙が調査して詳しく報じたり、厚生労働省に見解を求めたりすることは珍しい。医療保険者を地域を単位に統合していくにあたって、財政的にかなりの余裕がある国保組合の存在を知らせようという意図、手厚すぎるともいえる国庫補助(約3000億円)を仕分けていこうという意図が感じられる。

報道によると、多くの国保組合で法で定められた額を上回って毎年の剰余金(保険料収入などから給付した額などを除いた額=黒字分)が積み立てられており、法定分を上回る積立金は、727億円(151組合)。それとは別に任意の積立金もあり、総額147億円(31組合)にのぼるとのこと。市町村国保と比べて充実した医療サービスを提供していながら、それだけの剰余金が出ているのだから、国庫補助の水準が高すぎるのではないかという問題提起なのだろう。

昭和30年代に「国民皆保険」が達成されてからは国保組合は設立されていない。国民健康保険=国保といえば市町村国保だが、上記のような既得権益があるために、今日まで解散することなく存続してきたと思われる。後期高齢者医療制度を「廃止」するにあたり、受け皿となる市町村国保の財政を支援するために、来年度から都道府県を単位とする「広域化」の動きが本格化する。その動きに、同じく都道府県を単位とする国保組合が巻き込まれることになれば、「保険料が大幅にあがるにも関わらずサービスの水準は低下する(医師の給与水準ならば、保険料は年間上限額まで上がり、自己負担は3割になる)し、これまで積み上げてきた剰余金は没収される」ことになるのだから、大変である。これまでは市町村国保の影に隠れて人知れず存続してきたが、マスコミで何度も取り上げられるようになれば、巻き込まれないようにと動かざるを得なくなる。失うものが大きいだけに、どのように動いてくるか注視していきたい。

国保組合の「剰余金」800億円以上 国庫補助手厚く
http://www.asahi.com/politics/update/1209/TKY200912080459.html?ref=goo

建設業の11国保組合、入院医療費が実質無料
http://www.asahi.com/health/news/TKY200911290208.html

東京都が高齢者見守りサービス「シルバー交番(仮称)」を2010年度から開始

2009年12月09日 10時39分27秒 | 高齢者医療・介護
このブログで、1ヶ月ほど前に、
・大都市圏の高齢化が一気に進む
・人口が集中している地域が高齢化するため、高齢者の絶対数が現在とは比較にならない
・それだけの高齢者を支える地域社会がないため、代替する何らかのサービスの開発が必要になる
と書いた。

首都圏では、近い将来、確実に65歳以上人口が1000万人を超える。ほとんどは「元気高齢者」とはいえ、高齢者だけの世帯や高齢者一人暮らしの世帯も多くなり、地域社会とのつながり・支え合い感情が希薄な地区においては、将来への不安を抱えながら暮らしていくことになる(現在は、子どもが独立して出て行った後がイメージされるが、これからは、独身のまま高齢者になる人たち=地域社会のみならず家族による支え合いも希薄な人たちが増えていく。時代に合わせて、高齢者世帯の生活イメージを置き変えていかなければならない)。
そのような「時代」を先取りしているとマスコミに取り上げられている地域は、新宿区の「戸山団地」である。取り上げ方は、「都市部に出現した限界集落」で、65歳以上人口が50%を超えている。高度成長期の「団地」なので、ドアを閉めると家のなかがどうなっているのかわからないし、もはや建て替えることもできない。住民である高齢者の引きこもりや孤立を予防するために「団地内の地域コミュニティを再生し、住民による支え合いを」といった緩やかな支援では、もはや間に合わないという状況(=直接的な支援を必要とする深刻な状況)に至っているという位置づけである。その報道の先には、「高度成長期の前後に郊外に整備が進められた集合住宅の多くは、いずれ同じような状況になる」などと、危機感をあおるものとなっている。
都市部の中心に近い地域で「人口の50%超が高齢者」と聞くとなかなか想像できないかもしれないが、あと10~20年もすれば、「人口の40%超が高齢者」となるのは、ほぼ間違いない。都市の一部に限った「特異な光景」ではなく、日本の至るところでみられるようになる「日常の光景」である。現在の六本木ヒルズやミッドタウンなどの超高級マンションは、50年後には「老朽化した超高層マンション(住民の大半を占める高齢者にとって、住みづらい環境)」などと社会問題として扱われるようになるかもしれない。今のうちに都市における「生活」を超高齢社会に適応したものに変えていかないと、都市部は、とても暮らしづらくなるだろう。

都市部において高齢化が一気に進むこともあり、東京都は、都内の区市町村と連携して「シルバー交番(仮称)」を設置しようとしている。設置は、2010年度からで、予算は1億円程度。居宅介護事業者など15ヶ所に設置して、社会福祉士ら2人ずつを配置。具体的な機能は、住民からの相談を受けて、必要な情報を提供したり介護保険サービスや様々な民間サービス・ボランティアなどにつないだりすること。本人が希望すれば、緊急通報装置や各種センサーなどを使った日頃の見守りと安否確認を行うこと。緊急時には誰かがすぐに駆けつけられるようにすることなど、昔ながらの「交番のおまわりさん」の福祉・介護版といった感じである。社会福祉士を配置するからには、シルバー交番が地域社会への働きかけも行って、「困ったことがあれば何でも相談にきてほしい」や「地域の課題を解決するために、一緒に取り組みましょう」といった「地域のつながり・支え合い感情の醸成」も合わせて実施できれば、と期待しているのだろう。
1ヶ所の担当地域は、中学校区2つ分。初年度は、15ヶ所でスタートする予定ということなので、モデル事業の色合いが強いと思われる。地区によっては、地域包括支援センターの役割と機能と一部重なるため、シルバー交番が提供するサービスの問題を洗い出し、解決方法を考えながら先に進める必要がある。

お年寄り見守りにシルバー交番 安否確認、生活援助窓口も
http://www.47news.jp/CN/200912/CN2009120801000026.html

地域コミュニティが有する住民の支え合い機能・見守り機能が残っている地域においては、このような仕組みは必要としない。支え合いの機能がほとんどない都市部においては、何らかの主体が提供する「サービス」によって機能を代替させ、そのサービスを継続して提供できるような財政的な裏づけ、有償でもいいから提供してほしいと求められるサービスのあり方を考えるべきだろう。

医療保険制度改革 来年の通常国会に向けて検討本格化

2009年12月05日 10時11分09秒 | 高齢者医療・介護
後期高齢者医療制度の「廃止」に向けた検討が始まっているが、それまでの間、現行制度を「延命」させるために(4年後を見越しつつ)様々な手直しが必要になる。関連する動きが連日のように報じられ、なかなか追いつけない。

まず、市町村国保に関する動きとして、都道府県が「広域化支援方針(仮称)」を定めて、全市町村による共同運営を推進できるように法改正する方針が明らかになった。後期高齢者医療制度を「廃止」して75歳で前期と後期を区分する問題を解消すると、被保険者の多くが市町村国保になだれ込み、財政負担をいかに軽減するかが大きな課題になるだろう。そのため、かねてから広域化の方針がセットで打ち出されているが、新たな制度の姿がみえないうちは、なかなか進まないだろうと考えていた。来年の通常国会に法案を提出するならば、広域化が先行して進みそうである。

県が国保広域化を支援 厚労省が法改正方針
http://news.goo.ne.jp/article/kyodo/politics/CO2009120401000155.html

もう一つの動きが、保険料の年間上限額の引き上げである。来年度から4万円引き上げて63万円とすることで、中間所得者層の保険料負担の増加を抑えられると報じられている。国民健康保険料(税)は、被保険者の数に応じて決まる「被保険者均等割」、世帯あたり一律の「世帯平等割」、前年度の所得に応じて決まる「所得割」の合計額となる(保有する資産に応じて決まる「資産割」がある市町村もあるし、「被保険者均等割」と「所得割」の2つの市町村もある。また、40歳以上から65歳未満の被保険者は、介護保険料が上乗せされる)。保険料には上限が設けられており、合計額がその額を超えた場合は、その上限額が保険料額となる。
保険料は、保険者が給付するために必要となる額から逆算して設定される。そのため、上限額を引き上げて高所得者層から保険料を多く集めるようにすれば、その分だけ保険料率を引き下げられる。

国保保険料上限額、来年度4万円引き上げ
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/politics/20091204-567-OYT1T01104.html

被用者保険についても動きがあった。協会けんぽの財政悪化を受けて、後期高齢者医療制度への支援金負担を軽減し、その分を健保組合と共済組合が負担する方針で、4日に開催された社会保障審議会・医療保険部会で話し合われたとのこと。支援金の付け替えは、2500億円で、方法としては、支援金の算出方法の見直し。加入者1人あたりの定額方式から、所得に応じた比例方式に変えることで、平均年収(標準報酬総額)の低い協会けんぽ(385万円)から、健保組合(554万円)、共済組合(681万円)へと支援金の負担が移るという。しかしながら、支援金負担の重みに耐え切れずに約7割の健保組合が赤字に転落しており、協会けんぽの「救済策」を受けいれ、肩代わりするとは思えない。来年の通常国会に健康保険法改正案を提出する方針とされているが、調整は相当に難航すると思われる。

健保組合など2500億円負担増=協会けんぽ救済へ-厚労省方針
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091204-00000202-jij-pol

民主党は、地域保険として一元的に運用することを目指している。「体力のない健保組合は解散して、協会けんぽに移ってほしい」ぐらいの覚悟で改革を推進してくるかもしれない。


都道府県が主導して市町村国保の広域化=共同運営化を進め、健保組合を解散して協会けんぽに加入するほうが得になる環境をつくり、規模の小さい健保組合から再編を進める。この先は明らかになっていないが、都道府県を単位とする、市町村国保と協会けんぽ(健保組合を統合、共済組合は国が主導して再編)の2つの医療保険者に整理し、二者間で財政調整するなど、「地域保険」に向けての共同運用化を進めるといったシナリオが既に描かれているのではないだろうか。

後期高齢者医療制度改革会議が初会合

2009年12月02日 09時42分13秒 | 高齢者医療・介護
11月30日に、後期高齢者医療制度に代わる新たな医療保険制度を議論する「高齢者医療制度改革会議」が開催された。
明らかになったことは、これまで報道されてきたことが中心だが、改めて整理しておきたい。
スケジュールだが、

2009年度
・後期高齢者医療制度改革会議の立ち上げ
・基本的な方向性を議論
2010年度
・夏までに基本的な方向性を提示
・年末に最終取りまとめ
・1月に新制度の法案提出
2011年度
・新制度の法案成立
・施行に向けた準備
2012年度
・施行に向けた準備
2013年度
・新制度の施行

となっている。
同時に提示された「6つの原則」は、このブログでも取り上げたものそのままである。

・後期高齢者医療制度は廃止
・高齢者のための新たな制度の構築
・医療制度を年齢で区分するという問題の解消
・市町村国保などの負担増に十分配慮
・保険料の急な増加や不公平感を生まないようにする
・市町村国保の広域化につながる見直しを実施

今回は、事務局からの説明と委員によるフリーディスカッションが中心だったため、「75歳=年齢で区分するという問題を解消しつつ、高齢者のための新たな制度を構築すること」についての議論は、十分ではなかった。新制度のアウトラインがみえてくるのは、まだまだ先になりそうである。マニフェストに掲げられているとおり、民主党は、市町村国保の広域化を進めて「地域保険として一元的に運用する」ことを基本的な構想として持っており、その上に、75歳で前期と後期を区別しない新たな高齢者医療保険制度を乗せようとしているのではないかと思われる。

ここで問題となりそうなのは、今からの1年間で議論し、基本的な方向性としてまとめあげることができるかということである。高齢者の医療・介護を社会全体でどのように支えていくべきかというビジョンも明確でないし、新たな制度のアウトラインを提示できていない状況なのだから、相当にタイトなスケジュールになることは間違いない。

この会議で方向性を提示できたとしても、ステイクホルダー間の調整は難航するだろう。
例えば、後期高齢者医療制度を「廃止」して、前期高齢者医療制度に統合すると、被保険者の多くが市町村国保になだれ込む。ただでさえ、市町村国保の財政状況は逼迫しており、これ以上の負担を求められない。そのため、6原則に「市町村国保の広域化」が掲げられているが、同一都道府県内の市町村でも、財政状況はそれぞれであり、保険料もそれぞれ。広域化によって保険料が上がる(財政的に健全な)市町村国保からの反発は避けられそうにない。
また、市町村国保を広域化したとしても、今後も伸び続けると思われる高齢者の医療費を支えることはできないだろう。被用者保険と市町村国保間の財政調整も強化されることになり、赤字に転落する被用者保険が増えることになる。収支をバランスさせるために被用者保険の負担を増やす=保険料を上げなければならなくなると、被保険者からの反発は避けられない。協会けんぽの保険料を上回ってしまたったり、財政的に立ち行かなくなった被用者保険を解散させ、地域を単位とする新たな保険者に統合する方針を打ち出したとしても、2011年度からの2年間でどこまで進捗するかわからない。協会けんぽの財政状況も悪化し、国に財政支援を求めることになるだろう。
市町村国保と被用者保険を統合して「地域保険として一元的に運用する」に至るまでには、さらに多くの時間を要する。今回の改革から始まる中長期的なスケジュールが示されることになるだろう。


高齢者医療制度改革会議での「あるべき姿」の議論と並行して、現実的にできることを探り、ステイクホルダーとの話し合いを続け、理解を得ていかなければならない。ステイクホルダーからの同意が得られないと、「基本的な方向性」ですら記述が定まらないからである。このタイトなスケジュールで本当にできるのだろうか、というのが正直な感想である。

後期高齢者医療制度、改革会議を月内発足へ

2009年11月09日 10時18分23秒 | 高齢者医療・介護
厚生労働省から、後期高齢者医療制度に代わる新制度を検討する「高齢者医療制度改革会議」を今月中に発足させることが発表された。また、合わせて、以下の「6原則」も明らかになった。

1.後期高齢者医療制度は廃止する
2.民主党のマニフェストで掲げている「地域保険としての一元的運用」の第一段階として、高齢者のための新たな制度を構築する
3.後期高齢者医療制度の年齢で区分するという問題を解消する制度とする
4.市町村国保などの負担増に十分配慮する
5.高齢者の保険料が急に増加したり、不公平なものになったりしないようにする
6.市町村国保の広域化につながる見直しを行う

多くが民主党のマニフェストに掲げられてきたこと、長妻大臣が明言してきたことだが、原則の2と3をどのように解釈すればよいのだろうか。2では、高齢者のための新たな制度をつくるとし、3では、高齢者=年齢で区別した制度にしないとしている。このままでは矛盾していると受けとめられるので、例えば、「第一段階は、高齢者のみの医療保険制度だが、市町村国保の広域化を手始めに都道府県単位で医療保険者を統合・再編するので、その後は、一元的に運用=統合することになる」などと現時点の基本的な考え方をわかりやすく発表し、広く意見を求めてはいかがだろうか。
また、後期高齢者医療制度を「廃止」したとしても、高齢者であっても被保険者なのだから保険料の納付義務は無くならないし、医療費の自己負担も無くならないと早い段階でアナウンスしておかないと、新制度への(過剰かつ非現実的なまでに膨れ上がった)期待を裏切ることになる。会議での議論をすべてオープンにし、国民の関心を高めるようにすべきだろう。

このブログで書いてきたように、後期高齢者医療制度を「廃止」することはできない。医療保険制度をどうつくり直していけばよいのかという「あるべき論」と、既に「廃止」が明言されている後期高齢者医療制度をどう変えるのかという「現実論」を並行して考える必要がある。また、老人保健制度に戻さないことも明言されている。打ち手は限られている。市町村国保を広域化すると、国保連合会の役割が小さくなるなど、思わぬところにも影響が及ぶ(全体からみれば、小さな話だが)。新たな保険者は市町村か都道府県か、それとも曖昧にして広域連合とするのか。利害の対立の解消を避けて通ることはできないので、学者の理想論では動いていかない。逆に、実務的にアプローチすると大きな流れが見えなくなってしまう。このような制約条件下でバランスよく議論でき、実際に手を動かすことができる人は、本当に限られている。この会議の事務局が探し出せるだろうか。

これまでのように役人が下案をつくって審議会や委員会を招集、事務局に都合がよいように作文しつつ、いかにも有識者が議論した結果の「答申」を受けて実行に移すという進め方からどう変わるのか、注視していきたい。

後期高齢者医療制度廃止に向けた検討開始へ―厚労省
http://news.goo.ne.jp/article/cabrain/life/cabrain-25087.html

後期高齢者医療制度、改革会議を月内発足へ
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/politics/20091106-567-OYT1T01167.html

「超高齢化社会」のパラダイム転換を その1

2009年11月07日 10時15分26秒 | 高齢者医療・介護
昨日は、大都市圏の高齢化が一気に進むこと、病院や施設の整備を急いだとしても間に合わないペースだと書いた。反響(ブログへのコメント)がないのは、どのようなことか伝わらなかったからだと反省し、昨日に続いて、「介護難民」について考えていきたい。
なぜならば、これまでの「高齢者問題」のイメージを根本から改める必要があるからである。

これまでの「高齢者問題」のイメージは、働き手の世代がまちに出て行って、高齢者ばかりが残る「地方・山間部の過疎地」。高齢化率が40%を超え、「将来の日本社会」を先取りしていると扱われてきた(これらの地域の高齢化は、すでにピークを迎えている。一部の地域は、高齢者人口の減少に伴って、高齢化率が下がりつつある)。

しかし、これから高齢化が進むのは、大都市圏。なかでも高度成長期に発展した郊外のベッドタウン、大規模な団地=集合住宅である。
都市の発展に伴って地方から移り住んだために、どこも同じような家族構成で、これまでは「現役世代」として地域社会を支えてきた。これから、その親の世代が一気に高齢化するのである。子どもは独立してベッドタウンから出て行き、残るのは親=高齢者だけ。地域社会とのつながりは薄く、帰属意識もない。満員電車に乗って仕事に行き、車に乗って都心や郊外のショッピングモールに遊びに出かけるライフスタイルが高度成長期の豊かさだったからである。

このようなライフスタイルをベースとする社会が高齢化するとどうなるのだろうか。

「将来の日本社会」を先取りしていると扱われている地域においては、「地縁」と「血縁」をベースにするコミュニティの支えがある。また、お金がなくても何とか暮らしていけるだけの「社会の豊かさ」がある。地域社会における役割(誰かから必要とされているという感情)もある。
しかし、これから高齢化が一気に進む地域=真の「将来の日本社会」においては、コミュニティ感情は希薄で、コミュニティはあるとはいえない。子どもを媒介したつながりはあったが、子どもの成長と独立に伴って薄らいでいる。ベースになる縁は「職縁」である。これも現役を引退すると自然に薄らいでしまう。
いかに住み慣れた地域や自宅とはいえ、地域社会とのつながりが薄い。支え合い、見守りあうような機能、必要とし必要とされているという感情を、都市のコミュニティには期待できない。また、高齢期の「社会における自らの役割の喪失」を乗り越えることも難しくなる。しかも、地元の「自治会」や「老人クラブ」などには参加したくないというプライドもある。
つまり、会社を「定年退職」してからの「行き場のなさ」を解消し、「生きがい」をいかにつくり出すか、が大きな課題となる。

「高齢化問題」のイメージを改める必要があると冒頭に書いたのは、これらの支援を必要としている人たちが人口の4割を占める、ということである。つまり、地域社会のマジョリティ(多数派)であり、これまでのような「特別な人たちへの特別な支援・サービス」では駄目。地域社会のあり方から変えなければならない、ということである。しかも、今から高齢化していこうとする社会は、経済的には豊かだが、「社会の豊かさ」がない。そのため、コミュニティの機能を人工的につくり出す「壮大な社会実験」が必要となるのである。

日経ビジネスONLINE
(17)東京の団地と大学、老いた集合住宅の新しい「幸せ」に挑む
高島平団地と大東文化大学の地域再生
http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20080416/153233/

療養病床の削減を「凍結」 大量の「介護難民」を出さないために

2009年11月06日 10時12分40秒 | 高齢者医療・介護
介護型療養病床の廃止と医療型療養病床の削減を「凍結」し、全面的に見直す方針が明らかになった。

療養病床の削減凍結、長妻厚労相が方針
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/politics/20091102-567-OYT1T01147.html

<療養病床>介護型全廃「凍結」 厚労相、見直し明言
http://news.goo.ne.jp/article/mainichi/life/20091103ddm002010036000c.html?C=S

医療費は、病院の病床数(ベッド数)に比例して大きくなる。また、入院期間が長くなれば、それだけ大きくなる(病院は「経営」のために、ベッドの空きを無くし、回転率を上げようとする。入院患者がいれば、それだけの医療費がかかるのだから、比例するのは当然。逆に考えれば、ベッド数を減らせば、医療費は下がるはず)。そのため、政府は、医療費の伸びを適正化するために病床数を増やさないようにし、かつ平均入院日数を削減しようとしている。しかし、退院後の「受け皿」となることを期待されていた地域の医療・介護の体制整備は遅々として進まず、このまま療養病床の削減を強行しては、大量の「介護難民」が出ることは避けられない。それゆえの方針転換だと思われる。

しかし、このブログで書いてきたように、都市部の高齢化が一気に進む。なかでも首都圏の高齢者数は1000万人を超える。その2割に医療・介護のニーズがあるとすれば、単純に計算すると数十万の単位で病床が足りなくなる。都心には、それだけの病院や施設を整備できないとすれば、「要介護になれば、住み慣れた地域や自宅から離れなければならない」社会となる。

それでは、都市部から「介護難民」が出ないようにするためにはどうすればよいのだろうか。療養病床の削減を「凍結」し、さらに高齢者の急増を見越して、病院や施設を整備すればよい。本当にこのように考えてよいのだろうか。

さきほど書いたように、本人がいかに望もうが、要介護になれば、住み慣れた地域や自宅に戻ることはできなくなる。家族や友人・知人から切り離されて郊外の病院や施設で、一人寂しく過ごさなければならない。これこそ「介護難民=棄民」なのではないだろうか。

入所する施設がみつからずに不安を抱える人たちも「介護難民」だし、幸いなことに入所できた人たちも同じく「介護難民」である。今から迎える超高齢社会においては、視点をこのように切り替えなければならない。

医療や介護が必要になったとしても、住み慣れた地域や自宅に居ることができる、誰にも遠慮することなく「早く良くなりたい。退院して自宅に戻りたい」といえる社会をつくることこそ、「介護難民」を出さないための唯一の解だろう。
今、まさしく取り組まなければならないことは、大規模な病院や施設などを建てることではなく、医療や介護が必要になったとしても地域や自宅に戻れるように、訪問診療や訪問看護、在宅系の介護・福祉のサービスを充実させることである。
このブログで書いたように、首都圏の高齢者が1000万人を超えるのは2015年。あと6年である。「危機」に直面してから対策を講じていては間に合わない。地域保健~地域医療~地域福祉と連なる地域の体制整備には時間がかかる。今から計画的に進めても間に合わないかもしれない。これぐらいの危機感をもって取り組むべきである(地域の問題なのだから、東京都を中心に8都県が集まって議論してはどうだろうか。厚生労働省の動きを待っていては間に合わないし、当事者意識をもって取り組むべきことである)。