文化遺産としての赤塚不二夫論 今明かされる赤塚ワールドの全貌

赤塚不二夫を文化遺産として遺すべく、赤塚ワールド全般について論及したブログです。主著「赤塚不二夫大先生を読む」ほか多数。

カオスとファンシーが一体化した超大作パニック・ギャグ 『アニマル大戦』

2021-12-21 22:40:38 | 第6章

『コングおやじ』終了後、「少年キング」では、最後の連載作品となる『アニマル大戦』(78年7号~36号)が、数ヶ月の間を置きスタートする。

一人の科学者の謀略により、人語を喋るなど、驚くべき高度な知能を授けられた動物達が、思い上がった人間どもに反旗を翻し、地球を征服してゆく「ドクター・ボロー編」(78年7号~19号)と、動物達に支配された人間社会に、突如救世主として現れた桃太郎が、子分を引き連れ、アニマル軍壊滅に乗り出す「桃太郎のガ

ラガンダーラ編」(78年20号~36号)の二部構成で展開される超大作のパニックギャグである。

動物が種別を越え団結し、人類をその支配下に置くというアイデアは、前年「少年ジャンプ」にて発表された中編読み切り『アニマルランド』で、既に試用されており、本作はそのプロットを創作の素材とし、多様なアレンジを加えたリメイクシリーズと位置付けていいだろう。

謎の科学者・ドクター・ボローの表向きの肩書きは獣医であるが、その正体は、過去に置かれた辛い境遇から、人間に激しい憎悪の念を抱くようになり、人間社会に恐るべき転覆を企てるようになったマッドサイエンティストだった。

ドクター・ボローは、動物の改造実験を繰り返し、動物達の自由を解放すべく、動物の動物による動物のためのユートピアの構築を宣言する。

そして、機が熟したある夜、人間を上回る全知全能のパワーを持つ動物達が至る所で集結し、東京の街を筆頭に、〝アニマル大戦〟と命名された革命の火蓋が切って落とされたのだ。

弾丸運搬用のトラのトラック野郎や夜間見張り用のフクロウ部隊、鼻から弾丸をぶっぱなすブタのライフル部隊等、アニマル軍団の怪物性、凶暴性のダウナーぶりも含め、読み手の平衡感覚を喪失させるそのシュールな脱線ぶりから、奇をてらっている印象も受けかねない本作であるが、作品全体を通しての完成度は極めて高く、ストーリーテラーとしての赤塚の本領が遺憾なく発揮された好シリーズとなった。

1970年代、『タワーリング・インフェルノ』や『日本沈没』等、国内外問わず、大作のパニック映画が映画界を席巻し、一大ムーブメントを巻き起こすが、そうした人気に便乗し、漫画界においても、パニック劇画の傑作怪作が、多数の人気作家により執筆されることになる。

そうした時期に描かれた作品ということもあり、当時の読者の中には、この『アニマル大戦』もまた、ブームの下地によって生まれた副産物にして、パニック物という新ジャンルに対する赤塚からのアンサーであると捉える向きもあった。

元々赤塚は熱烈な映画マニアであり、これまでの赤塚漫画にはない黙示録的なテーマを取り上げているという点を照合しても、強ちそれも間違った指摘ではないだろう。

最高の叡智たる人類を襲う未曾有の悪夢が動物という、カオスとファンタジーが一体化した出色のシチュエーションに、あらゆる恐怖と笑いを引き立てた、一筋縄ではいかない不条理劇が、二転三転を引き起こすドラマの意外性とダイナミックなストーリーを軸に繰り広げられる様は実に圧巻だ。

また、生命の倫理や進化に対する赤塚一流の哲学とロジックが、作中垣間見られる点においても、特筆に値する一作である。


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