文化遺産としての赤塚不二夫論 今明かされる赤塚ワールドの全貌

赤塚不二夫を文化遺産として遺すべく、赤塚ワールド全般について論及したブログです。主著「赤塚不二夫大先生を読む」ほか多数。

『モンスター13番地』『ロメオとジュリー』 高い質と力感を示した「少年チャレンジ」掲載の諸作品

2021-12-22 00:07:46 | 第8章

80年代を代表する赤塚ギャグとしては、小学館系の各児童雑誌に発表された諸タイトルに集中しがちだが、学研の「少年チャレンジ」誌上においても、質的に高い水準と力感を示した、読み応え抜群の意欲作を幾本か執筆している。

『モンスター13番地』(79年2月創刊号~12月号)は、スターシステムにより『レッツラゴン』の主人公・ゴンが、見た目そのままに正太と名を変え、恥ずかしくなると、顔から火が出るマッチ棒男や、眉、目、鼻が椰子の木状になっている無人島怪人等、様々なギミックを有するモンスターに遭遇しては、街中を大騒動に巻き込んでゆく珍奇譚だ。

混沌のエネルギーに満ち溢れたホラー風味漂うシュール且つ鋭敏なギャグの切迫が、抜群の破壊性感度から繰り出される瞬発力を伴い、その作品世界を、一切の湿り気を廃したナンセンスの無謬空間へと効果的に転換してゆく。

『ロメオとジュリー』(80年1月号~6月号)は、タイトルからも分かるように、ウィリアム・シェークスピアの代表的戯曲『ロミオとジュリエット』を独自のギャグエッセンスによりパロディー化を試みた異色のラブコメディー。

養豚場を経営するジュリーの父親は、愛情過多と思えるほど娘を溺愛しており、ジュリーに近付く男は全員ブチ殺してやると常に息巻いている、何とも物騒な人物だった。

だが、ジュリーには、隣の牧場の一人息子であるロミオという、素敵な恋人がいた。

ロミオの父親もまた、イケメンの我が息子がブタによく似たジュリーとの交際を快く思ってはおらず、二人は禁断の恋という深刻な葛藤に晒される。

人間に求められる至上の価値は、眉目秀麗な容姿よりも存在そのもの、即ち内面こそにあるという一つの真実を、純粋無垢な愛のドラマとして、曇りなくテーマに刻み込んでいるところに、このシリーズの美質がある。

尚、美の本質と価値の転倒という発想は、その後、人里離れた僻村にさ迷い込んだ若いカップルに襲い掛かる戦慄と、得体の知れない白昼夢の世界を具象化した『ビューティービレッジ』(「ヤングコミック」81年8月26日号)でも活用され、同質のテーマがもたらす新たなアレゴリーを、ホラームービーさながらのクライシスを盛り込みつつ、呈示している点も見逃せない。


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