文化遺産としての赤塚不二夫論 今明かされる赤塚ワールドの全貌

赤塚不二夫を文化遺産として遺すべく、赤塚ワールド全般について論及したブログです。主著「赤塚不二夫大先生を読む」ほか多数。

受験教育の不毛性を茶化した興奮度満点のエンターテイメント 『逃げろや逃げろ』

2021-12-22 00:08:17 | 第8章

「少年チャレンジ」掲載の赤塚作品、延いてはブーム衰退後に描かれた作品の中でも、瞠目に値するタイトルとして、今尚オールドファンから揺るぎない評価を寄せられている作品が、100ページに渡って発表された、夏休み特別企画による長編読み切り『逃げろや逃げろ』(79年8月号)である。

小学校を卒業すると同時に、東大へ飛び級入学させるという驚異のスーパー進学校・東大一直線塾に入塾した江川学少年を待ち受けていたものは、夏休みも冬休みも返上し、二四時間勉強に勤しむ、苛酷極まるカリキュラムだった。

この東大一直線塾には、何と、東大に合格出来ないと見なした生徒は、一人残らず処刑されるという、恐るべき秘密があった。

このままでは、命がないと戦慄した学は、塾で親しくなった仲間の久美やタコ八とともに、脱出を企てる。

だが、富士の樹海の中、四方八方を高い鉄壁に囲まれた要塞のようなこの塾を脱出することは、完全に不可能だった。

そこで学は、塾長の鬼田の懐刀であるガリ勉の勉を利用し、脱出するという、ある奇策を思い付く……。

勉強浸けの生活に、毎日がんじがらめになっている子供達を救うべく、学、久美、タコ八の三人が自衛隊の戦車を使って東大一直線塾を総攻撃したり、瓦礫の山となった塾から、巨大ロケットが轟音とともに宇宙に飛び立ったりと、中盤から終盤に掛け、ブレーキが壊れたかのように物語が加速してゆく、興奮度満点のエンターテイメント作品として、読者の目を釘付けにしつつも、作品の論意は、過熱の度を深めていた当時の受験教育政策の不毛性を茶化した、痛烈なシニシズムによって支えられており、更にその根底には、いつの世も子供は子供らしく腕白で逞しくあって欲しいと願う、赤塚らしいテーゼが込められている。

因みに、作品の舞台となった東大一直線塾は、ネーミングこそ、同時期にヒットしていた小林よしのりの同名漫画のパロディーになっているが、その教育理念は1970年代当時、徹底したスパルタ式による学力指導をスローガンに掲げ、一流進学校への驚異的な合格実績を上げるなど、エリート養成期間としてその名を全国的に知らしめていた学習塾・伸学社(別名・入江塾)をイメージしたものと思われる。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿