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ワールド・トリガーの軍事訓練

2016-11-05 19:11:01 | 架空世界
 3/03の記事で紹介したワールド・トリガーの話です。子ども兵への規制を強化しようという国際潮流[*1]をものともせずにティーンズを実戦投入する悪の香ただよう謎の組織ボーダー[*2]ですが、訓練のシステムはなかなかの優れものです。

 この世界の設定では人工兵器のトリオン兵よりも人間のトリオン体の方がかなり強いので、個人的戦闘力の強化が軍事力の強化のポイントです。それには互いに競わせて順位を付けていくシステムが有効なのは当然ですが、そこでチーム戦方式にしているのが絶妙に実戦的です。トリオン体の人間同士の戦闘の実戦をもっともよく表しているように見えるからです。この方式の訓練だと個人の戦闘力のみならずチームでの戦い方も身に付きます。しかもチーム編成自体もリーダーに任されているので、どんな組み合わせならどうなるかということまで、いやでも考えさせられることになります。おかげで妙に戦いなれて冷静な戦士が量産されています。テレビやマンガの少年ヒーローものの主人公と言えば、熱血漢、悪く言えば少し単純な猪突猛進型が多いのですが、ワールド・トリガーに限ってはそれほどの単純バカはほぼいません。そこがまたクールな魅力なのですが。

 この訓練方式ですが、オースン・スコット・カード『エンダーのゲーム』(1985)に登場する、その名もバトル・スクールの方式にとても似ています。ただしこちらのチーム戦は1隊が40人です。そして隊長の権限はほぼ独裁的で現実の軍隊(例えばアメリカ軍)そのものです[*3]。そしてチーム編成権は学校側にしかない、という点もボーダーのシステムとは違います。さらに主人公が入学したのが6歳!ですから、なんて極悪な組織なんでしょう。いや実戦投入こそしてませんけど、6歳の子供にアメリカ軍式のああいう精神的圧力を加えるなんて完全に児童虐待ですよねえ[*4]。

 ストーリーは一人の少年が戦いの中で幾多の危機を乗り越えて最後に人類を救うという典型的なジュブナイルのストーリーで、最後にちょっとしたトリックが用意されています。アニメ化しても絶対おもしろそうですが、実際に映画化もされているようです。無重力の戦闘シーンは撮影が難しそうだけど。子役もたくさん必要だし。09/26の記事ではアニメやマンガの精神年齢インフレについて触れましたが、この作品はそれを越えていますね。最年少の入学者の場合はSF的説明がつくのですが。

 この子が将来はあんな大人になるなんて意外、という話を知りたい人は『死者の代弁者』(1986)、『エンダーの子どもたち』(1996)、『ゼノサイド』(1991)などをどうぞ。これらは言わば、ほぼファーストコンタクもの、でしょうか。これらの作品は『エンダーのゲーム』を読んでいるかどうかにかかわらず単独で楽しめます。

 さらにこの『エンダーのゲーム』と同じ事象経過を別の視点から描いた『エンダーズ・シャドウ』(1999)がまた傑作です。同様な試みは何人かの作家が試みていますが、これは大成功の部類でしょう。既に読者が知っている事件を新たにおもしろく見せるというのはなかなか困難に思えますが、見事に成功しています。くれぐれも読む順序を間違えないように。さらに『シャドウ・オブ・ヘゲモン』(2001)、『シャドウ・パペッツ』(2002)と続いてひとまず一連の物語は収束しますが、『エンダーのゲーム』を読む前はシャドウシリーズは書評等も読まないことを強くお奨めします。エンダーの学友たちの後日譚だとだけ言っておきましょう。上記の発表年代を見ると、シャドウシリーズではインターネット世界がそれなりにピッタリ使われていることも納得ですね。


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*1) ウィキペディアの記事による最新の国際条約「武力紛争における児童の関与に関する児童の権利に関する条約選択議定書(2000年採択)」によれば、「18歳未満の児童の強制的徴集及び敵対行為への参加を禁止」なので、ぎりぎり合法ではあるようだ。志願なら禁止されないので。
*2) 三門市がネイバーによる大規模侵攻で危なくなったときに突如現れた、それまでは誰も知らなかった謎の組織だったはず。いかにもヒーローものテレビ番組の悪の組織らしく内部の暗闘もあるみたいだし(^_^)
*3) ワールド・トリガーの設定に比べてこの規模の戦闘の方が現実的とも言えるのだが、実はバトル・スクールの卒業生が戦うと想定されるのは宇宙船による宇宙戦闘であり、宇宙空間での歩兵戦ではない。なのであの訓練は少しも実戦的ではないはずなのだ。きっと勝負勘とか精神的訓練とかケンカ慣れとか臨機応変さとか、そんな効果を期待しているのかも知れない。宇宙船団の指揮訓練はだぶんシミュレーションで各自自習したり、ゲーム場で競い合ったりしていたと思われる。
*4) 一応弁護しておくと、異星人の強大な宇宙軍団に人類が滅ぼされるかも知れないという瀬戸際だったので手段を選んではいられなかったのです。

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