働きバチ殺人事件?姉妹のためなら(2013/06/03)で紹介した『隻眼の少女』の作者、麻耶雄嵩の作品の評判がおもしろそうなので読み始めました。非常に癖があるとの噂も高いメルカトル鮎の短編集をまず読みました。うーむ、これは本格推理の不条理小説だ!*1。いえ、全作品がとは言えませんが、後半3作品は間違いなく不条理小説と言えるでしょう。
ということで、以下はネタバレ満載です。
どれも題名の付け方がピッタリで感心しますが、『収束』はまさしく量子力学における波動関数の収束*2というわけですね。複数の真実・複数の未来というのはSFではそう珍しくはない設定ですし、芥川龍之介の『藪の中』などという古典もありますが、本格推理として(見せかけて?)提出されると、新鮮です。冒頭でAがBを殺し、次の場面でBがCを殺し、さらにCがDを殺すという展開になるので、次はDがAを殺すことになったら循環していておもいろいなと思ったら、そこは違ってました。しかし、このいわば輪廻殺人の構想は麻耶雄嵩の他の作品で出ていました。
『答えのない絵本』は究極の不条理本格、エッシャーのだまし絵。論理的に犯人はいない、と断言されても・・。ここで作者が真犯人がちゃんと存在しうるという隙を意図的に残しているか否かという疑問が生じますが・・どうなんでしょうね。むしろ逆に隙がないようにしっかり塞ごうとしているかも知れませんし。例えば「被害者の通過が確認できる位置にいる者は、必ず確認するはずだ」という推理は絶対ではない、といった妄想も可能かも知れませんが・・。
それはともかく銘探偵がいくら断言しようと警察は納得しないと思うのですが・・。まあ依頼者が依頼者だから迷宮入りで処置しちゃったのかも知れませんね(^_^)。
『密室荘』はわかりやすい究極の不条理本格です。『答えのない絵本』はタイム・テーブルを書いて考えないと本当に不条理かどうかがわかりにくいという複雑さがありますが、『密室荘』の方はわかりやすい。それだけに鮎の強烈な個性が浮き彫りにされます。なお、『収束』でスカウトした秘書が「新人秘書の青山嬢[p206]」として登場しており、一応収束していたらしいことが伺えます。
『九州旅行』はドタバタ喜劇というべきでしょうか。語り手の美袋(みなぎ)の立場ではまさにカフカ的不条理状態みたいなものですが。
『死人を起こす』では別に不条理は起きていないようです。題名はピッタリですが、題名が示唆する鮎の推理は鮎の自己都合により依頼者を煙に巻いているものです。ただ、「鮎が現場に来る途中で、まだ以来内容も知らないのに都合よくも証拠品の靴を入手したのはどういうことだ?」という疑問はあります。単に手癖が悪くて鼻も利いただけかも知れません。ついでに言えば、この靴は被害者の靴ですが被害者は室内で殺されたので、靴が加害者の車に入り込んだ経緯は不明です。また加害者は単なる強盗らしいのですが、それが寝ていた被害者をわざわざ殺した理由も不明です。うーむ、やはり不条理殺人だろうか?
さてこの作者は色々と知識豊富で、ファルファーレのパスタが手がかりだったとか、アーリオ・オリオ・ペペロンチーノが好きなことが吸血鬼ではないことの証になるとか、調べないとわかりませんでした。また、美袋(みなぎ)なんて読ませる姓は実在じゃないと創作はないよなあ、と思ったらやはり実在でした。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1212707417
http://www.geocities.jp/yasuominai/70sonota/minai.htm
http://bakusai.com/sch_all/acode=8/word=%94%FC%91%DC/
ちなみにこの作者は人名にさえトリックを仕掛けてくるので油断がなりません。というのは他の作品の話。おっと、ネタバレか。
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*1) 不条理小説と言えば20世紀初頭のフランツ・カフカ(Franz Kafka)。不条理を超える無条理と自称したのは筒井康隆。
*2) 波動関数の段階では例えば粒子の位置は複数の位置の確率が決まっているだけだが、観測するとひとつの位置に決まってしまう。例えばウィキペディア記事のコペンハーゲン解釈を参照のこと。
ということで、以下はネタバレ満載です。
どれも題名の付け方がピッタリで感心しますが、『収束』はまさしく量子力学における波動関数の収束*2というわけですね。複数の真実・複数の未来というのはSFではそう珍しくはない設定ですし、芥川龍之介の『藪の中』などという古典もありますが、本格推理として(見せかけて?)提出されると、新鮮です。冒頭でAがBを殺し、次の場面でBがCを殺し、さらにCがDを殺すという展開になるので、次はDがAを殺すことになったら循環していておもいろいなと思ったら、そこは違ってました。しかし、このいわば輪廻殺人の構想は麻耶雄嵩の他の作品で出ていました。
『答えのない絵本』は究極の不条理本格、エッシャーのだまし絵。論理的に犯人はいない、と断言されても・・。ここで作者が真犯人がちゃんと存在しうるという隙を意図的に残しているか否かという疑問が生じますが・・どうなんでしょうね。むしろ逆に隙がないようにしっかり塞ごうとしているかも知れませんし。例えば「被害者の通過が確認できる位置にいる者は、必ず確認するはずだ」という推理は絶対ではない、といった妄想も可能かも知れませんが・・。
それはともかく銘探偵がいくら断言しようと警察は納得しないと思うのですが・・。まあ依頼者が依頼者だから迷宮入りで処置しちゃったのかも知れませんね(^_^)。
『密室荘』はわかりやすい究極の不条理本格です。『答えのない絵本』はタイム・テーブルを書いて考えないと本当に不条理かどうかがわかりにくいという複雑さがありますが、『密室荘』の方はわかりやすい。それだけに鮎の強烈な個性が浮き彫りにされます。なお、『収束』でスカウトした秘書が「新人秘書の青山嬢[p206]」として登場しており、一応収束していたらしいことが伺えます。
『九州旅行』はドタバタ喜劇というべきでしょうか。語り手の美袋(みなぎ)の立場ではまさにカフカ的不条理状態みたいなものですが。
『死人を起こす』では別に不条理は起きていないようです。題名はピッタリですが、題名が示唆する鮎の推理は鮎の自己都合により依頼者を煙に巻いているものです。ただ、「鮎が現場に来る途中で、まだ以来内容も知らないのに都合よくも証拠品の靴を入手したのはどういうことだ?」という疑問はあります。単に手癖が悪くて鼻も利いただけかも知れません。ついでに言えば、この靴は被害者の靴ですが被害者は室内で殺されたので、靴が加害者の車に入り込んだ経緯は不明です。また加害者は単なる強盗らしいのですが、それが寝ていた被害者をわざわざ殺した理由も不明です。うーむ、やはり不条理殺人だろうか?
さてこの作者は色々と知識豊富で、ファルファーレのパスタが手がかりだったとか、アーリオ・オリオ・ペペロンチーノが好きなことが吸血鬼ではないことの証になるとか、調べないとわかりませんでした。また、美袋(みなぎ)なんて読ませる姓は実在じゃないと創作はないよなあ、と思ったらやはり実在でした。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1212707417
http://www.geocities.jp/yasuominai/70sonota/minai.htm
http://bakusai.com/sch_all/acode=8/word=%94%FC%91%DC/
ちなみにこの作者は人名にさえトリックを仕掛けてくるので油断がなりません。というのは他の作品の話。おっと、ネタバレか。
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*1) 不条理小説と言えば20世紀初頭のフランツ・カフカ(Franz Kafka)。不条理を超える無条理と自称したのは筒井康隆。
*2) 波動関数の段階では例えば粒子の位置は複数の位置の確率が決まっているだけだが、観測するとひとつの位置に決まってしまう。例えばウィキペディア記事のコペンハーゲン解釈を参照のこと。
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