スポーツライター・オオツカヒデキ@laugh&rough

オオツカヒデキは栃木SCを応援しています。
『VS.』寄稿。
『栃木SCマッチデイプログラム』担当。

敵国を知ろう~北朝鮮対バーレーン~

2005-03-25 21:26:55 | サッカー
『鋭利なカウンター。これが我等の生きる道~北朝鮮対バーレーン~』

〈北朝鮮〉GKキム・ミョンギル、DFナム・ソンチョル、チャン・ソクチョル、リ・ヴァンチョル、ハン・ソンチョル、MFアン・ヨンハッ、キム・ヨンジュン、ムン・イングク(→チェ・チョルマン)、キム・チョルホ、FWキム・ヨンス、パク・ソングァン

〈バーレーン〉GKアリ・ハッサン、DFフセイン、モハメド、マルズーク、MFセイフ、ジャラル、イーサ、サルミーン、M・フバイル(→フムード)、FWユセフ、アリ(→ナセル)

エース、A・フバイルの長期戦線離脱に加えて、中東の小国をアジアの強豪にまで仕立て上げたユリチッチ監督の電撃辞任劇と、最終予選に入ってからバーレーンの周囲は慌しかった。

ポイントゲッターと指揮官を一気に失ったショックから、チームが土台からぶれても不思議ではなかったが、バーレーンは揺るがなかった。

全身に黒い衣服を纏った観客で埋まった、異様な雰囲気を醸し出していた金日成スタジアム。完全なるアウェーの状況の中で、自分達の持ち味であるジャックナイフのように切れ味鋭いカウンター2発で、見事に北朝鮮を沈めた。

事前にバーレーンを襲ったアクシデントに起因する動揺の色は全くなかった。

序盤、ホームの北朝鮮が攻勢だった。DFラインを押し上げ、前線から果敢に後先考えずプレスをかけた。アン・ヨンハッ、キム・ヨンジュンがボール奪取後に、中盤の底でタクトを奮う。トップのキム・ヨンスにクサビを打ち込み、日本戦で同点ゴールを決めた左のナム・ソンチョル、右のハン・ソンチョルの両サイドバックを積極的に走らせた。徹底的にバーレーンのサイドを突く。

3分にはスローインを受けたハン・ソンチョルが右サイドをえぐり、Pエリア内へ侵入しシュートまで持ち込んだ。惜しくもGKアリ・ハッサンのファインセーブに阻まれたが、滑り出しは順調だった。

しかし、劣勢に回っていたバーレーンが蜂の一刺し。カウンター一発で難なく先制点を奪う。クリアーボールを拾い、右サイドタッチライン際を疾走していたサルミーンへ展開。前掛かりになっていた北朝鮮は、ゴール前に戻ることができなかった。北朝鮮の左サイド、ナム・ヨンチョルが留守にしたエリアを駆け上がったサルミーンからのクロスを、DFの間に走り込んだアリがヘディングで合わせた。

北朝鮮は押し込みながらも、試合開始6分で失点を喫してしまう。先の日本戦より3分延びたが、またも前半早々に相手にリードを許す。

落ち込む暇などない、とばかりに北朝鮮は失点の影響を感じさせない。ボランチからのサイドチェンジパス、細かいパスワークを駆使した中央突破、DFラインを高く保ったままの激しいプレス。主導権は変わらず北朝鮮のものだった。

8分に本来2トップの一角を担うはずだったホン・ヨンジュに変わり先発したパク・ソングァンが、左からの折り返しに合わせる。が、GKが伸ばした右手に邪魔され、またしてもゴールを割れない。

1点を得たことで7人が引いたバーレーンに対して、中、長距離からのシュートを次々と北朝鮮は枠内へ飛ばす。始めのうちはバーレーンDFを引き出すために効果的な作戦に思えたが、時間が経過するに連れて実はバーレーンの術中にはまっていることが判明する。北朝鮮はゴール前へ近付けさせてもらえなかったのだ。つまり、シュートを打たされていた。

打てども打てどもシュートは枠に飛ぶが、GKの正面を突く始末。バーレーンにとっては、サイドから攻撃されるよりも断然、守り易かったに違いない。

拙攻を繰り返す北朝鮮を尻目にバーレーンは、前線のユセフ、サルミーン、アリの3人に攻撃を任せた。マイボールは単純に、縦に縦に、速く速く。とにかくこれにプライオリティを置き、攻守の切り替えを速くすることで、相手の陣形が整わないうちに攻撃を仕掛けた。36、38分にはユセフが2度、北朝鮮ゴールを脅かした。

北朝鮮は31分にオフサイド崩れから、GKが飛び出した無人のゴールへキム・ヨンジュンがシュートを打ったが、マルズークに間一髪でクリアーされ、またも好機を逸した。

最後の最後まで諦めることなく、足を伸ばしてシュートブロックを行ったバーレーンの粘り強いDFの前に、ついにネットを揺らすことは叶わず。前半45分が過ぎ去った。

後半開始直前、ゴール前に自国の選手が攻め入った時にしか歓声が漏れなかったスタジアムに変化が生じる。拙いながらもウエーブが起こり、楽器の演奏にあわせて手拍子が出始めた。アウェーチームが気圧されるような代物では決してなかったものの、北朝鮮の選手達にとっては何物にも代え難い後押しとなった。

ようやく温まった観衆の応援を背に1点ビハインドの北朝鮮は、立ち上がりから猛攻を仕掛ける。

3分にワンツーからムン・イングクが中央突破を図り、4分にはキム・ヨンスのポストプレーからキム・ヨンジュンがDFの背後へと抜け出す。ゴールこそならなかったが、バーレーンDFの攻略法が見つかった。ハイボールには抜群の強さを発揮するも、3バックの両サイドのスペースを突かれると非常に脆いことが露呈した。

活路を見出した北朝鮮は、アン・ヨンハッが献身的なDFからボールを掻っ攫い、パスをバーレーンのウィークポイントであるサイドに散らした。ところが、前半から飛ばしたせいか、それとも不慣れな人工芝のピッチでプレーしたからなのか、疲労によりパスの精度は落ち、受け手もトラップミスを連発し、思うようにバーレーンの弱点に突け込めなかった。

逆に後半12分、先制点と全く同じ形からバーレーンに追加点を与えてしまう。スルーパスに反応して飛び出したM・フバイルが右サイドから、アーリークロスをファーサイドのアリへ供給した。ボールサイドのケアーは十分だったが、逆サイドはおざなりだった。落ちついてアリに本日、2点目を叩き込まれる。

サイドを攻略して同点に追いつく腹積もりが、サイドを破られ突き放された。

その後もバーレーンは、サルミーンが良い形でボールを持つと、スルーパスでDFの背後を狙った。

苦境に立たされた北朝鮮だったが、ついに歓喜の瞬間が訪れる。ハン・ソンチョルの右からのクロスを、パク・ソングァンが頭で叩いた。バーレーンDFがニアサイドに釣り出された隙を見逃さずに、ファーサイドへ走り込んだことが奏効した。

後半16分、スコアを1―2とした。

やっとのことでゴールをこじ開けた北朝鮮は、GKとDFの間を狙い済ましたパスを配給しゴールに迫り、またCKから度々バーレーンゴールに襲いかかった。右サイドバックのハン・ソンチョルは、敵陣に入り込んだまま高い位置をキープしてはクロスを上げ続けた。堪らずバーレーンは両アウトサイドのイーサとM・フバイルが下がり、5バックで勢い付いた北朝鮮の攻撃を耐え凌がざるを得なくなった。

押し込んだはいいが、ゴール前に8枚の壁を構築されてしまい、サイドのスペースを消されてしまった北朝鮮は手詰まりになった。そこで、後半30分にMFムン・イングクに代えてFWのチェ・チョルマンを投入し、トップのキム・ヨンスを中盤へ下げ、アン・ヨンハッをワンボランチに据え、キム・ヨンジュンを一列上げた。これにより、キム・ヨンスとキム・ヨンジュンの2列目からの飛び出しが可能となった。

だが、北朝鮮は柔軟性に乏しかった。わざわざドン・キホーテのように、密集へと愚直に突っ込んでいった。中央に一旦クサビを打ち込んでから、手薄になったサイドを突き、1点目と同じ様にクロスからゴールを陥れようとする意識、DFの裏へとパスを通す意識に欠けた。そして、ある程度、自由にボールを3列目から動かしていたアン・ヨンハッが、バーレーンからプレッシャーをうけるようになると失速していった。

38、40分のPエリア内における際どいシーンでもPKを取ってもらえず。パワープレーから44分とロスタイムに迎えた好機も、結局はゴールへと繋がらなかった。

奮闘虚しく。初戦に引き続き、ホームでの2戦目も落としてしまった。現時点でのグループリーグ最下位が決定した。

試合前にひと騒動あったバーレーンであったが、自分達の形である堅守速攻を勤勉に貫き、見事に勝ち点3を手にした。攻守の切り替えの速さ、特にカウンターの鋭利さは対イラン戦よりも増していた。DFラインのマルズーク、モハメド、フセインの高さ、ハイボールの競り合いにおける強さは、日本にとって厄介だ。

けれども、4バックで戦った初戦に比べて、3バックで臨んだ北朝鮮戦の方が守備面での甘さ、穴が目に付いた。北朝鮮が狙い撃ちしたように3バックの両サイドのスペースは、ほとんどケアーされることはない。サントス、玉田、中村等が使い放題、使えるだろう。更に高さはあるが、クロスが上がった際にボールサイドにどうしても寄ってしまう傾向があるために、ニアサイドでDFを釣っておけば、ファーサイドからの得点機は拡大するだろう。

ただし、バーレーンが3バックで挑んで来た場合に限るのだが・・・。4バックを採用しスペースを消されると、イランが苦しんだように、日本も苦戦を強いられる可能性が高いかもしれない。それでも。累積警告によりジャラル、ユセフの中盤と前線の選手が出場停止になったことは、日本にとって朗報だ。

アジア最終予選 北朝鮮1―2バーレーン 金日成スタジアム(平壌)

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