スポーツライター・オオツカヒデキ@laugh&rough

オオツカヒデキは栃木SCを応援しています。
『VS.』寄稿。
『栃木SCマッチデイプログラム』担当。

右手でノックアウト

2005-03-05 23:34:36 | サッカー
〈横浜〉GK榎本、DF中沢、中西、栗原、MF上野(→遠藤)、那須、ドゥトラ、田中隼、奥、FW大島、清水(→大橋)

〈磐田〉GK佐藤、DF田中誠、茶野、イ・ジンギュ、MF名波(→服部)、西、村井、前田(→藤田)、FWチェ・ヨンス、中山(→グラウ)

Jリーグが産声を上げてから13年が経った。今年のスローガンは「アリエナイ瞬間、ガアル」だ。

テレビ局側の思惑から決定した、昨シーズンの年間王者・横浜と大型補強を敢行した磐田の開幕カードは、今年のスローガンが皮肉にもピッタリと当てはまる幕切れとなった。

後半もロスタイムに差し掛かる寸前の44分。タッチラン際で名波が倒される。自ら得たFKを、DFとGKのちょうど中間へ蹴り込んだ。中沢と福西がボールの落下地点へと入る。GK榎本もボールをクリアーしようと飛び出していった。ボールは3人の真ん中へと向かって来た。福西が中沢と競り合いながら、身体を右回転させた。福西の「右手」に上手い具合に当たったボールは、そのままゴールへと吸い込まれた。

横浜の選手達は、一同にハンドを主張した。岡田主審は線審にゴールか否かの判断を仰ぎに向かった。横浜の抗議も実らず。線審はゴールを認めた。

「アリエナイ瞬間」が、早速訪れた。

明らかなハンドであったが、ゴール前が混戦だったために、主審も線審も「福西の右手」を見逃してしまった。ディエゴ・マラドーナの「神の手」を彷彿とさせるゴールが、雌雄を決することとなった。とんだゴールで横浜は開幕戦を落としてしまった。

序盤から王者・横浜は堅実だった。ポゼッションで磐田を凌駕し、試合の主導権を握っていたものの、リスクを冒してまで攻撃しなかった。縦へ縦へとボールを迅速に動かし、清水をDFの背後、或いはオープンスペースへ走らせたが、後方からの支援はほとんどなかった。バランスを重視した。それを如実に示すのがボランチの攻撃参加が皆無に等しかったことだろう。極力、失点するリスクを減らした。DFラインも低かった。

片や、磐田もバランスを大切にした。西、村井の攻撃的な両サイドも慎重だった。対面のドゥトラ、田中隼への対応を最優先事項としていた。磐田のボランチ名波、福西も横浜と同様に攻撃に顔をだすことは稀だった。

磐田は26分に中山が、横浜DFのラインコントロールミスに乗じて裏へ飛び出し、GK榎本の中途半端な飛び出しからシュートチャンスを迎えるが、中沢の懸命のブロックに弾き返される。横浜は36分にドゥトラの左からのクロスを、清水が外へ逃げる動きからマークを振り切るも、肝心のシュートは吹かしてしまう。見せ場はどちらとも1回だけだった。

両者共にリスクを回避し、サイドのキープレーヤーを潰しあったことから、シュートまでにはほとんど至らなかった。膠着したまま時間だけが過ぎていった。

後半も一進一退の攻防が続く。それでも、8分に横浜はFKから中沢に福西、チェが釣られた隙間をぬい、栗原がヘディングをあわせる。が、枠を捉えられない。10分に磐田もCKから新加入のキム・ジンギュが、お返しとばかりにヘディングシュートを打つがGKにキャッチされる。決め手に欠いた。

しかし、後半15分頃から横浜がリスクを冒し始める。サイド突破を自嘲していたドゥトラが、果敢にアタックを開始した。左サイドのドゥトラに呼応するかのように、右サイドの田中隼も磐田陣内深くまで攻め込んだ。左右から上がるクロスの数が格段に増した。更に試合から消えていた奥もボールに触れるようになり、攻撃の中心人物のエンジンがかかった。

24分にはドゥトラのクロスに奥が胸トラップから左足にボールがヒットすればゴールを割れたシーンを作り、28分にはGK佐藤の正面を突いたものの中西の大きなサイドチェンジにドゥトラが抜け出しシュートを放ち、32分にはドゥトラのクロスに新戦力の大島が合わせるなど、次々と磐田ゴールに襲いかかった。

チェを徹底的に中沢に潰され、ボールが前線へ収まらず。頼みの村井も田中隼の応対に負われ、サイドを切り崩せなかった磐田は劣勢に回った。

嫌な流れを断ち切り、好転させようと山本監督は、前田、中山に代えて藤田(17分)、グラウ(34分)を送り出す。また、西がドゥトラのサイド攻撃に多少目をつぶり、自由自在に動き回ったことで、交代した藤田、グラウが活きた。

37分に西のクロスをチェが落とし、藤田がシュートする直前までもっていった。グラウのミドルシュートを挟み、41分には茶野のロングフィードにチェが反応し、横浜DFがクリアーに戸惑う間に藤田、グラウが詰め寄った。

段々と盛り返した後半44分に磐田は、「福西の右手の裏拳」で決勝ゴールを挙げた。そして、横浜は福西の不意を付いた右手のカウンター一発に沈んだ。

日産スタジアムのこけら落としを飾れずに、A3最終戦の水原、ゼロックス杯の東京V、J開幕戦の磐田と立て続けに敗れ、これで横浜は今シーズン3連敗となった。

様子見をした前半を無失点で切り抜け、危険を省みず勝負を懸けた後半の半ば過ぎ。ゲームプラン通りに試合を運べた。そこで、数々の好機を演出しながらもネットを揺らせなかったことが悔やまれる。福西の疑惑のゴールを叩き込まれた以上に。次節からエース久保が戦線に復帰する見込みのようだが、決めるところできっちりと決めない限り、当然だがエースが加わったところで勝利を手にすることは叶わない。フィニュッシュの精度を高めることが求められる。

ラッキーゴールで山本監督のリーグ戦初勝利をものにした磐田は、前田のトップ下起用に疑問符が付き、2トップへ如何にしてボールを収めることが出来るのかが課題として浮き彫りになった。途上段階にあることは間違いない。さて、福西のゴールは幸運の要素が非常に強いが、そこへ至るまでの過程、ゴールを導き出したのは数分間のうちに流れを手元に引き寄せたベンチメンバーの力に他ならない。藤田、グラウ、太田、川口等々、流れを一変させられる選手が控えていること、層が厚いことが接戦を潜り抜ける上で、どれだけ重要かを改めて思い知らされた。

J開幕戦 横浜Fマリノス0―1ジュビロ磐田 日産スタジアム

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