今日は隣のややお年を召した研修参加者に声をかけてみた。
実は昨日は声をかける機会をつかめず、無視したような感じになっていたので、
少なからず気に病んでいたのだ。というのもそれはまるで、
脳ミソの軽い司法書士有資格者が国家試験を通ったことを何かすごいことと
勘違いし、特認の有資格者を軽視しているふうとも取れないことがないからだ
僕は「よく知らないのですが、登記官の位置づけって法務省や法務局の中
でどんな感じなんですか」と聞いてみた。
僕の頭の中にはフランツ・カフカの「城」に出てくる得体の知れない上級
役人のイメージがあったため、「登記官」という呼称そのものに精神的な
眩暈をうっすらと感じるような興味を覚えたからだ。
元登記官かく語りき「登記簿の最後に印を押す人ですよ」
そんな当たり前のことを聞きたかったわけではないのだが、
カフカ的悪夢は法務局には存在しないことが分かり、何となくがっかりしてまった。
彼は山口の人とは河豚の話をし、広島の人とは蠣の話をした。
そして僕とはクラシック音楽の話をした。
元登記官:「ところで話は変わりますが、音楽はお好きですか」
僕:「ええ」
元登記官:「どのようなジャンルの」
実はここで一瞬躊躇した。というのも僕は最近は全く音楽を聴かないし、
聞くとしてもサントラ(M・ナイマン、G・ドルリューなど)かエニグマ
くらいしか聞かないからだ。後はストーン・ローゼズ、ザ・スミス、
マニック・ストリート・プリーチャーズが関の山だが、一昔前のUKロック
を持ち出すのもなんだし…それで、昔好きだった、
僕:「えーっと、クラシックなんか」
元登記官:「ほう、そうですかっ!! 何が好きですか」
僕:「何って指揮者のことですか」
元登記官:「いえ、曲のことですよ」
僕の内心:僕はショルティが好きでして、カラヤンよりバーンスタインより
彼が好きでした。ショルティの評価は日本では低いですが、低いが
故にムキになって好きになった部分がなかったといえば嘘になります。
でも僕はショルティの無駄のないタクティンクが紡ぎ出す鋼のように
研ぎ澄まされた贅肉をこそぎ落としたような演奏が好きですね…
僕:「えーっと、えー、マーラーとか、当時ブームでしたから…」
実はここでも躊躇したのだ。というのも確かにマーラーは好きだが
それは昔のことで、今は断然ベートーベンだったからだが…
元登記官:「ほう、マーラーですか、私、昔東京に行ったとき、
時間が余ったんで、ホールでマーラーの『夜の歌』を聞きましたよ。
実に素晴らしかったです。シンフォニーにギターが入るのが珍しく
て興味深かったですしね」
実はその時慢性的に周囲に対して不感症の僕の割には興味を感じた。
僕:「ギターは珍しいですね、『夜の歌』は七番でしたったけ」
元登記官:「ええっと、何番か忘れましたけど、素晴らしかったですよ」
僕の内心:僕はマーラーの三番と五番が好きですね、
後は四番と「大地の歌」かな、後期の大作は長いんでどうも…
元登記官:「実は月並みなんですが、私はベートーベンが好きでして」
反射的に僕は言った。
僕:「そうですかっ、僕も好きですよ。僕は挫折した人間なんで、
5番を聞くと勇気付けられます」
元登記官:「挫折って…」
僕:「でも本当に好きなのは七番です」
元登記官:「そうですかっ、私も七番が大好きでして、
第二楽章を聞いて何度涙したことか…」
僕はこの元登記官さんに好感を持ったのはいうまでもない。クラシック好きが
クラシック好きに自分の好きな作曲家をいうとき、モーツァルトやバッハは
なんともなくてもベートーベンに関してはなぜか少し羞恥に似たものを感じ
るのだ。クラシック好き以外には分からないと思うが…「月並み」と断って
いても、僕にベートーベンと告白した彼に対して、ついマーラーといって
しまった自分の軽薄さすら感じたほどだ。
僕の頭の中には第七番第一楽章の勇壮な出だしが波打ち、続けて第二楽章の
安らかな美しい調べが流れ始めた…
実は昨日は声をかける機会をつかめず、無視したような感じになっていたので、
少なからず気に病んでいたのだ。というのもそれはまるで、
脳ミソの軽い司法書士有資格者が国家試験を通ったことを何かすごいことと
勘違いし、特認の有資格者を軽視しているふうとも取れないことがないからだ
僕は「よく知らないのですが、登記官の位置づけって法務省や法務局の中
でどんな感じなんですか」と聞いてみた。
僕の頭の中にはフランツ・カフカの「城」に出てくる得体の知れない上級
役人のイメージがあったため、「登記官」という呼称そのものに精神的な
眩暈をうっすらと感じるような興味を覚えたからだ。
元登記官かく語りき「登記簿の最後に印を押す人ですよ」
そんな当たり前のことを聞きたかったわけではないのだが、
カフカ的悪夢は法務局には存在しないことが分かり、何となくがっかりしてまった。
彼は山口の人とは河豚の話をし、広島の人とは蠣の話をした。
そして僕とはクラシック音楽の話をした。
元登記官:「ところで話は変わりますが、音楽はお好きですか」
僕:「ええ」
元登記官:「どのようなジャンルの」
実はここで一瞬躊躇した。というのも僕は最近は全く音楽を聴かないし、
聞くとしてもサントラ(M・ナイマン、G・ドルリューなど)かエニグマ
くらいしか聞かないからだ。後はストーン・ローゼズ、ザ・スミス、
マニック・ストリート・プリーチャーズが関の山だが、一昔前のUKロック
を持ち出すのもなんだし…それで、昔好きだった、
僕:「えーっと、クラシックなんか」
元登記官:「ほう、そうですかっ!! 何が好きですか」
僕:「何って指揮者のことですか」
元登記官:「いえ、曲のことですよ」
僕の内心:僕はショルティが好きでして、カラヤンよりバーンスタインより
彼が好きでした。ショルティの評価は日本では低いですが、低いが
故にムキになって好きになった部分がなかったといえば嘘になります。
でも僕はショルティの無駄のないタクティンクが紡ぎ出す鋼のように
研ぎ澄まされた贅肉をこそぎ落としたような演奏が好きですね…
僕:「えーっと、えー、マーラーとか、当時ブームでしたから…」
実はここでも躊躇したのだ。というのも確かにマーラーは好きだが
それは昔のことで、今は断然ベートーベンだったからだが…
元登記官:「ほう、マーラーですか、私、昔東京に行ったとき、
時間が余ったんで、ホールでマーラーの『夜の歌』を聞きましたよ。
実に素晴らしかったです。シンフォニーにギターが入るのが珍しく
て興味深かったですしね」
実はその時慢性的に周囲に対して不感症の僕の割には興味を感じた。
僕:「ギターは珍しいですね、『夜の歌』は七番でしたったけ」
元登記官:「ええっと、何番か忘れましたけど、素晴らしかったですよ」
僕の内心:僕はマーラーの三番と五番が好きですね、
後は四番と「大地の歌」かな、後期の大作は長いんでどうも…
元登記官:「実は月並みなんですが、私はベートーベンが好きでして」
反射的に僕は言った。
僕:「そうですかっ、僕も好きですよ。僕は挫折した人間なんで、
5番を聞くと勇気付けられます」
元登記官:「挫折って…」
僕:「でも本当に好きなのは七番です」
元登記官:「そうですかっ、私も七番が大好きでして、
第二楽章を聞いて何度涙したことか…」
僕はこの元登記官さんに好感を持ったのはいうまでもない。クラシック好きが
クラシック好きに自分の好きな作曲家をいうとき、モーツァルトやバッハは
なんともなくてもベートーベンに関してはなぜか少し羞恥に似たものを感じ
るのだ。クラシック好き以外には分からないと思うが…「月並み」と断って
いても、僕にベートーベンと告白した彼に対して、ついマーラーといって
しまった自分の軽薄さすら感じたほどだ。
僕の頭の中には第七番第一楽章の勇壮な出だしが波打ち、続けて第二楽章の
安らかな美しい調べが流れ始めた…