音楽とアートと詩と……。 いつか見た懐かしい世界へ

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心のやすらぎとなりますように……。 空野くらし

茨木のり子「 梅酒 」

2016年11月05日 | 詩人
茨木のり子「 梅酒
 」 
11年前の10月1日に妻が亡くなりました。
甲状腺癌でした。その時に妻を見ながら思いました。
( 二人の娘を授かったが、これから私の力だけではたして育てて行けるのか?と)
実際には親族や友人たくさんの力添えがあって、やっと娘二人を育てることが出来たのですが、
この詩を読むとあの時に感じた情けない感情が思い返される茨木のり子さんの一編です。



梅酒



梅酒を漬けるとき
いつも光太郎の詩をおもいだした
智恵子が漬けた梅酒を
ひとり残った光太郎がしみじみと味わう詩
そんなことになったらどうしよう
あなたがそんなことになったら……
ふとよぎる想念をあわててふりはらいつつ
毎年漬けてきた青い梅

後に残るあなたのことばかり案じてきた私が
先に行くとばかり思ってきた私が
ぽつんと一人残されてしまい
梅酒はもう見るのも厭で
台所の隅にほったらかし
梅酒は深沈(しんちん)と醸(かも)されてとろりと凝(こご)った琥珀(こはく)いろ

八月二十八日
今日はあなたの誕生日
ゲーテと同じなんだと威張っていた日
おもいたって今宵はじめて口に含む
一九七四年製の古い梅酒
十年間の哀しみの濃さ
グラスにふれて氷片のみがチリンと鳴る


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1 コメント

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心に残り (原村)
2016-11-22 23:03:30
こんばんは。

良いとか、好きだとか。

そんな思いもなく。

ただただ、心に残りました。

ありがとうございます。
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