今回の面白古文書も、瓦版仕立ての見立て番付けではなく、物尽くしの戯れ唄です。
主人公は、先回の野菜に代わって、「貝」です。
浮世風流貝づくし
開といぶ文字ハひらくといふ文字にしてひらきハめてたき始まりなりはるははじまる花見とて風にちら/\さくら貝樽をこがして千鳥貝あわびの貝の方思ひおもひは猶もますほ貝ゆうせん染に千草貝これぞ命の花貝とおもかげいつかわすれ貝心のそこをうつせ貝とかくうきよは色貝のあり原中将なり平が三河通の其時に錦貝をハ身にかざり枕貝をバつくされて色貝までもあまさじと片瀬貝にてかきまわり思ひちがゑて赤貝にふみのかず/\おくられじふうふのゆかりもないかしやさてまたちよいとしヾめ貝これにはよもやまさるまじいまだ下こヽろのいたら貝すゞめ貝よりさゑずりてふきたてられしほらの貝三ッのはまにハあこや貝なてしこ貝ハなるまいときやたつ貝をばのミけれバなんなく御代のはまぐり貝口があいたら入ませうちへをかそう/\ /\
アッチ方面の貝尽くしなので、貝をピンク(目立たないので燈にしました)色にし、文を適宜漢字に直してみました。
浮世風流貝づくし
開といふ文字は、開くといふ文字にして、開きは目出度き始まりなり。春は始まる花見とて、風にちら/\さくら貝、樽をこがして千鳥貝、あわびの貝の片思ひ、思ひは猶もますほ貝。友禅染に千草貝、これぞ命の花貝と、面影いつかわすれ貝、心の底をうつせ貝。とかく浮世は色貝の、在原中将業平が、三河通の其時に、錦貝をば身に飾り、枕貝をばつくされて、色貝までもあまさじと、片瀬貝にて掻きまわり、思ひ違えて赤貝に、文の数々送られじ。夫婦のゆかりもないかしや。さてまたちよいと蜆貝、これにはよもや勝るまじ。いまだ下心の伊多良貝、雀貝よりさゑずりて、吹きたてられし法螺の貝、三津の浜にはあこや貝、撫子貝はなるまいと、きやたつ貝をばのみければ、なんなく御代のはまぐり貝、口が開いたら入ませう。知恵をかそう/\ /\。
こういう物に私の下手な訳をつけるのは無粋というもの。読者各位で好きなようにお読みください。
「樽をこがして千鳥貝」の樽は酒樽でしょう。「きやたつ貝をばのみければ」は、よくわかりません。きゃたつ貝なる貝がある?「きゃたつ」は、脚の隠語なのでそれらしい貝なのでしょうか。
まあ、七五調の風流戯れ唄ですから、細かい所はアバウトにして、調子をつけて唄ってみてください(^.^)