江戸時代、謡曲の解説書として発行された『謡曲拾葉抄』です。
以前のブログで、豊臣秀次の命によって編まれた初の謡曲解説書『謡抄』を紹介しましたが、『謡曲拾葉抄』は、初めて「謡曲」という語を使った本として知られています。
内容は、『謡抄』をさらに発展させ、観世流百一番の謡曲に、詳細な注釈を加えたものです。江戸時代はもちろん、今日に至るまで、謡曲を解釈する際、基本となる書物です。
犬井貞恕『謡曲拾葉抄』京都 銭屋七良兵衛、明和九年
全20巻の内、三、四,九、一四、一七、二十の6冊しかありません。
しかもよく見ると、このうちの三、九巻の2冊と他の4冊とでは、表紙が異なっています。
三、九巻の表紙には、朱橙色の格子模様があります。
題字の紙は、黒の枠で囲まれています。
三巻(加茂、竹生嶋、忠度、兼平、實盛)
いかにも古活字のように見えますが、明和九(1772)年の発行ですから、版木です。
九巻(姥捨、檜垣、鸚鵡小町、卒塔婆小町、関寺小町)
重い曲目ばかりが並んでいます。
旧所蔵者の巨大な朱印が押されています。
これら2冊が、果たして明和九年の『謡曲拾葉抄』か、確信がもてませんでした。
おまけに、表紙の格子模様は擦れて一部消えているように見えるし・・・
で、例によって、デジタル資料を探した結果、ありました(^.^)
『謡曲拾葉抄』九巻(早稲田大学デジタルコレクション)
私の物とほぼ同じです。上の2冊は、明和九年の 『謡曲拾葉抄』と考えて良いようです。
同じような場所に、旧所蔵者の印があります。こちらは少し控えめ(^^;
表紙の格子文は、やはり部分的に消えている。
おかしいと思いながら、私の『謡曲拾葉抄』の表紙を、再度、詳しく見てみました。三巻、九巻とも、同じように消えています。
ルーペで観察すると、どこにも擦れた痕は見当たりません。
はじめから、白の部分には朱格子が無いのです。
何と表紙は、霞模たなびく朱格子模様だったのです(^.^)
じゃあ、残りの4冊は何?
表紙には、何の模様もありません。
紙質も先の2冊と少し違います。
最終巻です。
見た所は、先の明和版とほとんど同じです。
なるほど合点、これは、山本長兵衛の版木を、檜常之助が譲り受け、明治になってから発行した『謡曲拾葉抄』でした。
なお、明治42年には、活版印刷で、『謡曲拾葉抄』( 國學院大學出版部)が出版されています。
良書は、装いを変えながら何度も発行されるのですね(^.^)