遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

能楽資料24 稀覯本 『謡曲拾葉抄』

2020年12月22日 | 能楽ー資料

江戸時代、謡曲の解説書として発行された『謡曲拾葉抄』です。

以前のブログで、豊臣秀次の命によって編まれた初の謡曲解説書『謡抄』を紹介しましたが、『謡曲拾葉抄』は、初めて「謡曲」という語を使った本として知られています。

内容は、『謡抄』をさらに発展させ、観世流百一番の謡曲に、詳細な注釈を加えたものです。江戸時代はもちろん、今日に至るまで、謡曲を解釈する際、基本となる書物です。

犬井貞恕『謡曲拾葉抄』京都 銭屋七良兵衛、明和九年

 

全20巻の内、三、四,九、一四、一七、二十の6冊しかありません。

しかもよく見ると、このうちの三、九巻の2冊と他の4冊とでは、表紙が異なっています。

 

三、九巻の表紙には、朱橙色の格子模様があります。

題字の紙は、黒の枠で囲まれています。

 

  三巻(加茂、竹生嶋、忠度、兼平、實盛)

いかにも古活字のように見えますが、明和九(1772)年の発行ですから、版木です。

 

九巻(姥捨、檜垣、鸚鵡小町、卒塔婆小町、関寺小町)

重い曲目ばかりが並んでいます。

 

旧所蔵者の巨大な朱印が押されています。

 

これら2冊が、果たして明和九年の『謡曲拾葉抄』か、確信がもてませんでした。

おまけに、表紙の格子模様は擦れて一部消えているように見えるし・・・

 

で、例によって、デジタル資料を探した結果、ありました(^.^)

『謡曲拾葉抄』九巻(早稲田大学デジタルコレクション)

私の物とほぼ同じです。上の2冊は、明和九年の 『謡曲拾葉抄』と考えて良いようです。

同じような場所に、旧所蔵者の印があります。こちらは少し控えめ(^^;

表紙の格子文は、やはり部分的に消えている。

 

おかしいと思いながら、私の『謡曲拾葉抄』の表紙を、再度、詳しく見てみました。三巻、九巻とも、同じように消えています。

ルーペで観察すると、どこにも擦れた痕は見当たりません。

はじめから、白の部分には朱格子が無いのです。

何と表紙は、霞模たなびく朱格子模様だったのです(^.^)

 

じゃあ、残りの4冊は何?

表紙には、何の模様もありません。

紙質も先の2冊と少し違います。

 

最終巻です。

見た所は、先の明和版とほとんど同じです。

 

なるほど合点、これは、山本長兵衛の版木を、檜常之助が譲り受け、明治になってから発行した『謡曲拾葉抄』でした。

なお、明治42年には、活版印刷で、『謡曲拾葉抄』( 國學院大學出版部)が出版されています。

良書は、装いを変えながら何度も発行されるのですね(^.^)

 


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2 コメント

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遅生さんへ (Dr.K)
2020-12-22 18:03:51
良書を、全巻セットではなくとも、オリジナルを所蔵されているんですね!
故玩館は充実していますね!

>良書は、装いを変えながら何度も発行されるのですね(^.^)
それは、焼物も同じですよね。人気のあるもの、良い物は、何度も焼かれますよね。
ただ、焼物の場合は、何時、誰が写したかが不明な場合が多いですから、後生に写されたものは、偽物の烙印が押されてしまうんでしょうね。
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Dr.kさんへ (遅生)
2020-12-22 19:38:09
焼き物と同様、先日の光悦謡本や今回の品なども、後発品は質が落ちていきますね。
でも、今回の明治版の最終頁を取ってしまえば、たいていは明和版オリジナルで通用してしまいます。
古瀬戸の壺もおなじですね。作者名の銘を削ってしまうと、本物に化ける品があります。
結構、痛い目に会いました(^^;
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