遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

鼓の会で囃子を打ちました~遊行柳~

2019年03月18日 | 能楽ー実技
 春ですね。
 クリスマスローズが満開です。







先日、鼓の会があり、遊行柳の囃子を打ちました。

小鼓との出会い

何十年も前、謡、仕舞を習い始めて何年かたった頃、外にも何かやってみたいと思うようになりました。

      おお、そうだ。鼓だ!

当然、何の知識もありません。触ったこともない。
どうやら、能の鼓には2種類あるらしい。大鼓と小鼓。

そこで、能楽堂でじっと観察(鑑賞ではなく)。すると、どう考えてみても、小鼓は、大鼓の3倍くらい数多く打っているのです。

どうせやるなら、多く打てる方がいい!・・・・・
という、笑えるほどイージーな判断で小鼓に決定!

それが間違いのもとでした。
ポン、ポン、ポンとよい音が出る、はずでした・・・・・・・が、バケツの底を叩くほどの音さえしない。
後で知ったのですが、小鼓を始めたら3年間は音が出ないと心得よ、だったのです。

それにもう一つショックだったのは稽古場の見学。
高級そうな着物を装った、上品な御高齢の女性(お婆さん)が、ヨゥ、ホゥと掛け声をかけながら、小気味よくポンポンと打っているではないですか。しかも、無本。

こんなことが、自分にできるのだろうか?

ゴムボートでひとり、大海へ漕ぎ出すような気持ちでした。

素人が舞台に立つ

最初は、心臓が喉から飛び出るかと思いました。
ここはどこ、わたしはだれ・・・・頭が真っ白になり、舞台上で立ち往生。
回を重ねるうちに、少しずつ慣れてはきましたが、今でも、緊張がとれません。

舞台は忘れそうになった頃にやってきます。その時はあれこれ反省しても、すぐに忘れてしまいます。
情けないことに、いまだに、満足に帯が結べません。袴の紐もすぐに緩んでしまう

一番の問題は、ぶっつけ本番であることです(大きな曲では、事前の申し合わせもありますが)。
普段の稽古は、師匠と一対一。師匠が、謡、笛、大鼓、太鼓を一手に引き受け、それに合わせて、小鼓を打ちます。
ところが、いきなり、さあ本番。横に並ぶのはプロばかり。

能の囃子は、能管、小鼓、大鼓、太鼓、すべて一人ずつです。(翁の場合は例外で、小鼓が3人)

謡いも含め、それぞれが主張し、せめぎ合うところに、何とも言えない緊張感が生まれます。
予定調和の安全運転では、面白くない。

ですから、プロの方も手加減をしてはくれません。




                      ↓組み立てると


          my 小鼓(蕪蒔絵鼓筒、江戸中期、古皮)
蕪絵は、「根が張る」を「音が張る」ともじって、好んで使われます。
蕪は「良く実る」から転じて「良くなる」とも。こんな所にも、遊びごころが。


遊行柳という曲

遊行柳の手付け(楽譜)です。
何の変哲もない謡本ですが、赤で小さく書いてある部分が小鼓の手です。これがすべて。後は、練習あるのみ。
一番の難関は、暗譜です。







小鼓を始めてみてわかったのですが、早い曲よりもゆっくりしたものの方が、はるかに難しい。
勢いで打っていくのと違い、ゴマカシがききません。

ゆっくりの曲は位の高いものが多く、情感を表現できなければ退屈このうえない。

ですから、寂閑とした雰囲気を保ったまま、最後は消え入るように終わる遊行柳は、謡も囃子も力量が問われる能です。

今回の囃子は、遊行柳、後場です。 

夜、柳の精が白髪の老翁姿であらわれ、遊行上人一行に、柳にまつわる故事を語る場面から始まります。
年老いて、弱々しい老翁ですが、華やかな都の情景を生き生きと語ります。

「~柳桜をこき混ぜて、錦を飾る諸人の、華やかなるや小簾の隙、洩れくる風の匂ひ来て~

能・遊行柳は、桜の季節の物語りなのでしょうか?

西行が、柳の下で休み、歌を詠んだのは水無月(7~8月)半ば。
芭蕉がこの地を訪れ、句を詠んだのは6月初旬。

能・遊行柳、導入部、道行きで、
「♪~心の奥を白河の。関路と聞けば秋風も。~♪」
と従僧たちが謡います。

寂しさを出すため、季節は設定は9月に設定されているのです。

ですから、後場に、「~柳桜をこきぜて~」とあるのは、桜で華やかさを少し加えて、老柳の精が、よわよわしく舞を舞い、消えていく寂寥感をきわだたせるためと考えられます。

このように、デリケートな雰囲気を小鼓で打てたでしょうか。
もしよかったら聞いてみてください。青柳之舞の小書付きです。

囃子 「遊行柳 青柳之舞

ps. 誤ってICレコーダ全削。あわてて復活ソフトかけるも、一部上書きされ、最後の部分が欠けています。まちがえた箇所もいくつか。それに鼓の音もイマイチだし・・・言い訳ばかりですがよろしく。
ps. 小書きとは、能の特殊演出のことです。小書きがつくと、通常とは少し異なるバージョンとなり、難易度が上がります。「遊行柳 青柳之舞」の場合は、シテの舞いが、通常の序之舞から青柳之舞に変わります。




コメント
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