医療と薬の日記

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新型コロナ感染危機に縄張り争いをしてはならない

2020-04-07 22:48:43 | 日記
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、7都府県を対象とした緊急事態宣言が発表されました。
感染には潜伏期間があります。緊急事態宣言によって該当地域の感染拡大に歯止めがかかったとしても、今後数週間は患者の増加傾向が続くことになります。

また、仮に政府の対応(海外のような都市封鎖はせず、経済社会活動を可能な限り維持しつつ感染拡大を防止する)が不十分であった場合には、感染拡大防止策は修正を余儀なくされ、患者の数も上振れすることになります。今回、緊急事態宣言の対象外となった地域においても、今後どのように感染者数が推移していくかは不透明です。

東京都医師会は、医療崩壊を防ぐためにはこれからの6週間が重要になるとして緊急会見を開き、都および都民への協力要請を呼びかけています。

今後、新型コロナ感染の重症患者を受け入れることができる入院ベッドや設備、軽症の入院患者や感染者が滞在できる宿泊施設の確保が急務となります。感染例が増えた地域では、従来の診療体制とは動線を区別した「発熱外来」やPCR等の検査体制、自宅等で過ごす検査陽性者に対する相談・診療の体制も必要になるでしょう。重症感染者の治療に関しても、これまで以上に医療従事者のマンパワーが必要となることは明白です。
感染者数が増加していく中で、「発熱患者の大多数は新型コロナ感染ではなく、受診も検査も必要ない。医療従事者への相談も控えるべき」というこれまでの説明を続ける訳にはいかなくなるかもしれません。

今月3日には、日本看護協会が会見を開き、離職中の看護師などに復職を求めていく方針を示しました。各地の病院で人手が不足し、助けられる命を失ってしまうような状況を回避するためには、政治や行政、各医療職能団体は協力を惜しまず、実施可能なプランを事前に全て提示する必要があります。

こうした状況においてなお、日本薬剤師会や政治家の方々は、薬剤師の果たすべき役割・実施可能なオプションについて言及しておらず、非常に残念です。
薬剤師は、多くの患者に対してこれまでと同様の処方内容を(処方箋なしでも)安全に提供することができ、軽微な症状に対し適切な薬剤を提供することが可能です。病院勤務医や診療所医師の業務負担を軽減し、多くのマンパワーを新型コロナ感染の対応に振り向けることができるはずです。

海外諸国で実施されている、こうした業務が日本で実施できていない理由は、日本の医師・医療機関が出来高制の報酬を得る事業者である、という点に尽きます。収入に繋がるなら、医師(医師会)が多忙を求めるのは当然です。医師から他職種への権限・職務の委譲は収入減少の議論と同義であり、一向に進展していません。

日本の医療体制の特徴として、OECD諸国の中で最も多くの病床数(人口1000人あたり13.1、OECD 平均は4.7)を有していますが、その多くは民営であり、今回のようなトップダウンでの体制再編には、調整に困難が生じています。
また、病院設備やCT・MRIといった設備投資に重点が置かれてきた一方で、医師の数は少なく(人口1000人あたり2.4、OECD平均は3.5)、国民一人当たりの年間外来受診数は第二位(12.6回、OECD平均は6.8回)、入院施設を有する病院の医師も外来診療を多く担当しています。(データはHealth at a Glance 2019より)

周知のように、日本の多くの医師が普段から過重労働の状況にあります。このままでは、想定以上に感染が拡大した場合に発熱外来や検査体制、軽症・中等症感染者のフォローアップといった内容のいずれか(あるいは大部分)を省くことにもなりかねません。薬剤師によって実施可能な上記のオプションに見ぬふりを決め込むなら、医療体制が破綻してなお「仕方なかった。我々は全力を尽くした」と強弁するしかありません。

既にSNSでは「診療を断られ、電話等による助言もなかった」といった投稿が散見されるようになり、「かかりつけ医師の診察を求めている患者がいるのに、病院が閉鎖され、他の病院を紹介してもらうこともできない、これは医療崩壊だ」との日本医師会役員のインタビューも報じられています。(迫り来る日本の医療崩壊 新型コロナウイルス院内感染で人材ひっ迫


新型コロナウイルス感染拡大にあたって、どれだけの対応が必要であり、また可能なのか。この度の新型コロナ感染がどのように拡大し収束するのかは、まだ全体像が見えません。

医療職能間のヒエラルキーに固執したり、縄張り争いを続けることのないよう、強く求めます。

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