医療と薬の日記

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友人がコロナワクチンの副反応に遭い、補償制度について考えた話

2021-07-16 01:07:04 | 日記
友人から、「コロナワクチンの副反応が出てるっぽいんだけど、どうしたらいい?」と電話があった。
報道などから、ある程度の副反応は覚悟しており、市販薬も用意していたものの、1週間たっても症状が続くため不安になり、薬剤師である私に連絡してみたらしい。

症状と経過は次のとおり。

『2回目の接種後、38℃の発熱と倦怠感に加え、脇の下・上腕の痛みが出てきた。解熱鎮痛薬でしのいでいるうち、熱は下がったものの、脇と腕の痛みは1週間たっても続いている。触れると脇の下には「しこり」ができていた。手や指先が少し痺れている』

「これって、副反応ってヤツだよね。放っておいてもいいの?なんかいい薬ある?」

「副反応か…うーん、そう考えるのが妥当だろうね。たしか、そういった症状も報告されてたと思う。詳しくない分野だけど、そのうちに症状が軽くなって、しびれもなくなってくるだろうって感じじゃないかな。痛み・痺れが残ってしまったら、後遺障害で申請しないとね(笑)」

「えっ!?症状が治らない可能性もあるの?」

「ごめんごめん。大丈夫だとは思うけど、その辺りはお医者さんの方が詳しいし、万が一、症状が続いたりしたときに備えて、経過も診てもらっておくほうがいい。痛み・痺れもけっこうツラいんでしょ?受診すべき症状だと思うよ。今回みたいに、予防接種の影響で受診が必要な副反応が出た場合、救済制度の対象になると思うから、病院の人に聞いてみて」

かくして、彼はワクチン副反応(疑い)で病院を受診することになった。
私は付け加えておいた。

「この手の話って、ややこしくなるかもしれないから、経過は自分でもノートとかに書き留めておくといい。誰と、どんな話をしたかも書いておいて。また何かあったら相談に乗るよ」


【受診と病院・自治体の対応】

受診の結果、医師からは「ワクチンの影響でしょうね」とのコメントがあったそうだ。痛み止めを服用して様子を見ようということになった。
会計の際、受付で救済制度について尋ねたみたところ、「接種後のアナフィラキシー、または7日以内の受診ではないため、対象にならないと思います」との回答だった。

その後、彼は自治体にも問い合わせをしたものの、同様の回答だったそうだ。「厚生労働省のホームページにも書いてあるので、詳しく知りたければそちらを見てください」とのことだった。

彼から電話があった。

「救済制度、聞いてみたけど対象外なんだって。なんかひどくない?」

「んん? ああ…病院と自治体の人、別の制度と勘違いしてる。多分それ、副反応の報告制度じゃないかな。ややこしいし、みんな忙しくって大変なんだろう。厚労省のホームページのどの文書か聞いてみて。必要なら、こっちから電話して交渉してもいいよ」

結局、私から電話することになり、自治体の担当者と話し合ったところ、あっさり解決した。「救済制度の対象」という形で話が進むことになった。


…後日談になるが、結局のところ、彼は副反応の救済制度に申請するのはやめたそうだ。

「診てもらった病院に書類を書いてもらわないといけないみたいだし、断られた病院にもう一度行って、色々と交渉しないといけないのかと思うと、やっぱり気が重い。最初から、病院とか役所の人がちゃんとしてくれてればなあ、とは思うけれど…」

うーむ、そうですか…

(特定を避けるため、エピソードの内容にはフェイクが含まれます)

【解説】

新型コロナワクチンに限らずだが、予防接種のために健康被害(病気あるいは障害が残る)が生じた場合、救済制度の対象となる。
例えば、新型コロナワクチンによる健康被害のため1~2回の受診・治療を要した場合なら、医療費(健康保険等による給付の額を除いた自己負担分)+医療手当(通院3日未満 (月額)35,000円)といった形だ。


ネットやSNSでは「新型コロナワクチンの副反応被害に遭ったとしても、救済されないのではないか」と心配する書き込みを見かけるが、このように救済制度はちゃんと存在している。

「申請しても、認定されず不支給になるのではないか」
という不安もあるだろう。これに対しても厚労省で

『認定に当たっては「厳密な医学的な因果関係までは必要とせず、接種後の症状が予防接種によって起こることを否定できない場合も対象とする」という方針で審査が行われている』

と話し合われてはいる。



ただ、私としても「本当に…大丈夫なのか?」とは思っている。

まず、冒頭で紹介したエピソードのように、副反応が辛く受診したとしても、誰からも救済制度について教えてもらえない、あるいは職員が誤って門前払いしてしまうといった恐れがあるだろう。受診した際には「これは副反応だろうね」とコメントした医師も、救済制度の申請をすると伝えたら「いや…副反応とは言ってない」などと態度を翻すケースもあるかもしれない。

似た制度に「医薬品副作用被害救済制度」があり、薬の副作用のため入院した場合には救済の対象となるが、これまで私の薬局の患者が副作用のために入院した際に、病院側から制度について説明されたケースはほとんどない。
今回のエピソードと同様に、私からは「救済制度の対象なので、病院に尋ねてみるといいですよ」と伝えるが、医師・病院に対しては多くの患者が委縮してしまい、制度を利用できない人が非常に多い。日本の医療はまだまだ封建的で、患者の権利もあまり重視されていないと感じる。

さらに、「医薬品副作用被害救済制度」が入院・後遺障害・死亡を救済対象とするのに対し、「予防接種健康被害救済制度」は通院も対象としている。この点もかなり心配だ。
この違いについて、想像の範囲を出ないものの、予防接種による副反応がまれであることに由来しているのだろうと理解している。医薬品の副作用はまれではなく、外来で対応することが珍しくない。

・新型コロナワクチンは、他のワクチンに比べ副反応の発現率が非常に高い。
・それでも、国はワクチン接種を推奨する方が良いと考えている。
・予防接種の救済制度は、「副反応による健康被害は極めてまれ」という前提で設計されている。

こうした矛盾が、副反応による受診・救済制度の申請・因果関係の認定といった段階のいずれかで、何らかの悪影響を及ぼすのではないかと危惧している。


厚労省が、新型コロナウイルス感染症の「相談・受診の目安」として「37.5度以上の発熱が4日以上」との基準を示し、批判されたのは記憶に新しい。体調や病状は患者によって異なるため、一律の線引きを適用してしまえば少数の不幸な転帰が避けられない。医学の常識だ。
「コロナワクチンの副反応にはアセトアミノフェンの他、ロキソプロフェンやイブプロフェン。市販薬でも構わない」との推奨にも、これと同様の匂いを感じる。
実際の状況は様々だ。「◇◇と▽▽の持病がある方を除けば、いかなる場合でもこれらの薬剤の服薬は安全」などとは到底言えないし、中には受診を必要とする症状もあるだろう。英国であれば「コロナワクチンの副反応には〇〇と〇〇を推奨。実際の服用にあたっては、居住地区の薬剤師に相談を」とアナウンスするところだ。
国民の大多数に予防接種するという一大プロジェクトの中で、顧みられない少数の被害者となってしまわないよう、「かかりつけの医師」や「かかりつけ薬剤師」との関係性を活用されることを願っている。


「コロナワクチンによる副反応が生じた場合には、ちゃんと国から補償されるのか?」
という国民の疑問・不安に対する端的な回答は、実際に申請された症例・支給を決定した事例を公表することだ。
以下の記事では、6月2日の時点で認定された健康被害がゼロであることが明らかにされている。その後、認定の審査は進んだだろうか。


元々、審査会は頻繁には開催されていないとはいえ、新型コロナワクチンでは短期間で膨大な人数の接種を進めている。「被害の補償はするのだから、とにかく接種してくれ」との口約束だけでなく、申請については行政や接種の現場で積極的にアナウンスし、審査も迅速に進め公表するといった姿勢が必要だろうと思う。