医療と薬の日記

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友人がコロナワクチンの副反応に遭い、補償制度について考えた話

2021-07-16 01:07:04 | 日記
友人から、「コロナワクチンの副反応が出てるっぽいんだけど、どうしたらいい?」と電話があった。
報道などから、ある程度の副反応は覚悟しており、市販薬も用意していたものの、1週間たっても症状が続くため不安になり、薬剤師である私に連絡してみたらしい。

症状と経過は次のとおり。

『2回目の接種後、38℃の発熱と倦怠感に加え、脇の下・上腕の痛みが出てきた。解熱鎮痛薬でしのいでいるうち、熱は下がったものの、脇と腕の痛みは1週間たっても続いている。触れると脇の下には「しこり」ができていた。手や指先が少し痺れている』

「これって、副反応ってヤツだよね。放っておいてもいいの?なんかいい薬ある?」

「副反応か…うーん、そう考えるのが妥当だろうね。たしか、そういった症状も報告されてたと思う。詳しくない分野だけど、そのうちに症状が軽くなって、しびれもなくなってくるだろうって感じじゃないかな。痛み・痺れが残ってしまったら、後遺障害で申請しないとね(笑)」

「えっ!?症状が治らない可能性もあるの?」

「ごめんごめん。大丈夫だとは思うけど、その辺りはお医者さんの方が詳しいし、万が一、症状が続いたりしたときに備えて、経過も診てもらっておくほうがいい。痛み・痺れもけっこうツラいんでしょ?受診すべき症状だと思うよ。今回みたいに、予防接種の影響で受診が必要な副反応が出た場合、救済制度の対象になると思うから、病院の人に聞いてみて」

かくして、彼はワクチン副反応(疑い)で病院を受診することになった。
私は付け加えておいた。

「この手の話って、ややこしくなるかもしれないから、経過は自分でもノートとかに書き留めておくといい。誰と、どんな話をしたかも書いておいて。また何かあったら相談に乗るよ」


【受診と病院・自治体の対応】

受診の結果、医師からは「ワクチンの影響でしょうね」とのコメントがあったそうだ。痛み止めを服用して様子を見ようということになった。
会計の際、受付で救済制度について尋ねたみたところ、「接種後のアナフィラキシー、または7日以内の受診ではないため、対象にならないと思います」との回答だった。

その後、彼は自治体にも問い合わせをしたものの、同様の回答だったそうだ。「厚生労働省のホームページにも書いてあるので、詳しく知りたければそちらを見てください」とのことだった。

彼から電話があった。

「救済制度、聞いてみたけど対象外なんだって。なんかひどくない?」

「んん? ああ…病院と自治体の人、別の制度と勘違いしてる。多分それ、副反応の報告制度じゃないかな。ややこしいし、みんな忙しくって大変なんだろう。厚労省のホームページのどの文書か聞いてみて。必要なら、こっちから電話して交渉してもいいよ」

結局、私から電話することになり、自治体の担当者と話し合ったところ、あっさり解決した。「救済制度の対象」という形で話が進むことになった。


…後日談になるが、結局のところ、彼は副反応の救済制度に申請するのはやめたそうだ。

「診てもらった病院に書類を書いてもらわないといけないみたいだし、断られた病院にもう一度行って、色々と交渉しないといけないのかと思うと、やっぱり気が重い。最初から、病院とか役所の人がちゃんとしてくれてればなあ、とは思うけれど…」

うーむ、そうですか…

(特定を避けるため、エピソードの内容にはフェイクが含まれます)

【解説】

新型コロナワクチンに限らずだが、予防接種のために健康被害(病気あるいは障害が残る)が生じた場合、救済制度の対象となる。
例えば、新型コロナワクチンによる健康被害のため1~2回の受診・治療を要した場合なら、医療費(健康保険等による給付の額を除いた自己負担分)+医療手当(通院3日未満 (月額)35,000円)といった形だ。


ネットやSNSでは「新型コロナワクチンの副反応被害に遭ったとしても、救済されないのではないか」と心配する書き込みを見かけるが、このように救済制度はちゃんと存在している。

「申請しても、認定されず不支給になるのではないか」
という不安もあるだろう。これに対しても厚労省で

『認定に当たっては「厳密な医学的な因果関係までは必要とせず、接種後の症状が予防接種によって起こることを否定できない場合も対象とする」という方針で審査が行われている』

と話し合われてはいる。



ただ、私としても「本当に…大丈夫なのか?」とは思っている。

まず、冒頭で紹介したエピソードのように、副反応が辛く受診したとしても、誰からも救済制度について教えてもらえない、あるいは職員が誤って門前払いしてしまうといった恐れがあるだろう。受診した際には「これは副反応だろうね」とコメントした医師も、救済制度の申請をすると伝えたら「いや…副反応とは言ってない」などと態度を翻すケースもあるかもしれない。

似た制度に「医薬品副作用被害救済制度」があり、薬の副作用のため入院した場合には救済の対象となるが、これまで私の薬局の患者が副作用のために入院した際に、病院側から制度について説明されたケースはほとんどない。
今回のエピソードと同様に、私からは「救済制度の対象なので、病院に尋ねてみるといいですよ」と伝えるが、医師・病院に対しては多くの患者が委縮してしまい、制度を利用できない人が非常に多い。日本の医療はまだまだ封建的で、患者の権利もあまり重視されていないと感じる。

さらに、「医薬品副作用被害救済制度」が入院・後遺障害・死亡を救済対象とするのに対し、「予防接種健康被害救済制度」は通院も対象としている。この点もかなり心配だ。
この違いについて、想像の範囲を出ないものの、予防接種による副反応がまれであることに由来しているのだろうと理解している。医薬品の副作用はまれではなく、外来で対応することが珍しくない。

・新型コロナワクチンは、他のワクチンに比べ副反応の発現率が非常に高い。
・それでも、国はワクチン接種を推奨する方が良いと考えている。
・予防接種の救済制度は、「副反応による健康被害は極めてまれ」という前提で設計されている。

こうした矛盾が、副反応による受診・救済制度の申請・因果関係の認定といった段階のいずれかで、何らかの悪影響を及ぼすのではないかと危惧している。


厚労省が、新型コロナウイルス感染症の「相談・受診の目安」として「37.5度以上の発熱が4日以上」との基準を示し、批判されたのは記憶に新しい。体調や病状は患者によって異なるため、一律の線引きを適用してしまえば少数の不幸な転帰が避けられない。医学の常識だ。
「コロナワクチンの副反応にはアセトアミノフェンの他、ロキソプロフェンやイブプロフェン。市販薬でも構わない」との推奨にも、これと同様の匂いを感じる。
実際の状況は様々だ。「◇◇と▽▽の持病がある方を除けば、いかなる場合でもこれらの薬剤の服薬は安全」などとは到底言えないし、中には受診を必要とする症状もあるだろう。英国であれば「コロナワクチンの副反応には〇〇と〇〇を推奨。実際の服用にあたっては、居住地区の薬剤師に相談を」とアナウンスするところだ。
国民の大多数に予防接種するという一大プロジェクトの中で、顧みられない少数の被害者となってしまわないよう、「かかりつけの医師」や「かかりつけ薬剤師」との関係性を活用されることを願っている。


「コロナワクチンによる副反応が生じた場合には、ちゃんと国から補償されるのか?」
という国民の疑問・不安に対する端的な回答は、実際に申請された症例・支給を決定した事例を公表することだ。
以下の記事では、6月2日の時点で認定された健康被害がゼロであることが明らかにされている。その後、認定の審査は進んだだろうか。


元々、審査会は頻繁には開催されていないとはいえ、新型コロナワクチンでは短期間で膨大な人数の接種を進めている。「被害の補償はするのだから、とにかく接種してくれ」との口約束だけでなく、申請については行政や接種の現場で積極的にアナウンスし、審査も迅速に進め公表するといった姿勢が必要だろうと思う。
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薬剤師による予防接種について、応援のお願い

2021-06-04 13:19:31 | 日記
新型コロナウイルスのワクチン接種が遅れている問題について、政府は当初、予防接種の新たな打ち手として歯科医師・薬剤師を候補に挙げ、検討していました。
この2職種が候補として挙がったのは、歯科医師(口内への注射経験があるから)、薬剤師(諸外国では薬局において薬剤師が予防接種業務に従事している)といった理由からです。

その後、様々な議論や提言がメディア・SNSを賑わせました。1日100万回の接種を実現するため、また7月末までに高齢者の接種を終えるためには何が必要か、どこがボトルネックになっているのか等の議論です。その中では、日本医師会や政府に対する強い批判や非難も多く見られました。
その後、打ち手問題に関しては、いち早く歯科医師の活用が決定するとともに、新たな打ち手候補として、臨床検査技師と救急救命士が浮上しました。

5月31日、厚生労働省においてこの問題に関する検討会が開催され、臨床検査技師・救急救命士によるワクチン接種を条件付きで容認する方針が示されました。薬剤師や診療放射線技師、臨床工学技士については容認を見送り、薬剤の充填や経過観察といった業務を担当することとされました。
今後、検討会で最終案が取りまとめられることになります。

以上が、話題となった「ワクチン接種打ち手問題」をめぐる顛末です。


アルマゲドンでもない限り、変わらない医師会と厚労省会議

薬剤師業界では当初から「今回、薬剤師による接種が実現することはないだろう」との予測が支配的でした。理由はシンプルで、
『日本医師会は許容せず、全力で策を講じてくる。一方、批判する側の世論・メディアは怒りの感情がメインで冷めやすい。医療問題は複雑なため、批判の方向性も一定にはなりづらく、結局は医師会の策に懐柔されるだろう』
といったものです。

たとえ特例であっても薬剤師による接種を許してしまえば、海外諸国の後を追うように、いずれ薬剤師が薬局で予防接種を行う動きにつながるかもしれません。日本医師会会長の中川氏がこれまで口癖のように繰り返してきた「蟻の一穴」という言葉は、こうした日本医師会の姿勢をよく表しています。
予防接種の打ち手となる職種の拡大には可能な限り反対する。仮に、それが無理な場合でも「どうしても打ち手が不足する場合に限って」「地元医師会が合意した場合に」「医師の監督下で」といった条件は譲らない。中でも、薬剤師が接種する方向性だけは阻止する。
利益団体としては、極めて明快で合理的な方針です。

検討会の方向性に対し、日本薬剤師会は「変異株の影響など、さらなる脅威が明らかになって準備しても対応が間に合わない。薬剤師による接種が必要になった場合に備え、研修やカリキュラムの準備を進める」との発言にとどまっています。

多くの方が知るように、日本医師会と自民党の関係性は非常に強固であり、(外部委員も含め)厚労省での議論の相場観もこれに沿った形で定着しています。日本薬剤師会が強く主張したところで不規則発言以上の効果は発揮せず、かえって今後の立場が悪くなるだけ…といった背景があります。

これまで、医療業界・厚労省・メディア関係者の間でも、こうした問題はもっぱら『職能間・団体間の利権の奪い合い』の文脈として語られてきました。「政治家への根回し、アピールが足りない」「会議委員へのレクが下手だ」「いや、医師会が相手では、これ以上の成果は不可能だ」といった様子です。

今回の件で、業界の多くの知人・友人とも話しました。
「日本でも、30年後くらいには薬剤師が予防接種できるようになるだろう。余計な主張をすれば世間から嫌われるし、上層部が積み重ねた努力も無駄になる。黙っているべきだ」
「薬剤師が薬剤を希釈し注射器に充填したことは、大いなる一歩だ。これがいつか…いつになるかはわからないが、実を結ぶ日があるだろう」
「今回、医師会が批判されたことで、30年後の実現を見込んでいた薬局での予防接種は、20年後くらいに近づいたはずだ」


本質的な議論を

ところで、私たちはいったい何について考え、何が気になっていたのでしょうか。

医療業界の裏事情? それとも、本格的に利権に踏み込むことなく、医師会を予防接種に積極的にさせるためのお灸の据え方? あるいは、これまでのコロナ医療対応への不信に加え、接種スピードが上がらないことに怒り心頭になった世論を鎮めるための、うまい着地点についてでしょうか。

実際に必要な議論は、次のようなものだろうと私は思います。

〇大規模接種会場はいつまで継続し、高齢者の接種終了以降、どの程度の接種スピードを想定しているか?
〇日本は、70%以上の接種が必要とされる集団免疫を目指すのか? 目指す場合、若年者を中心としたワクチン躊躇のため接種率の上昇が頭打ちになることが予想されるが、どのようなヘルスコミュニケーションを想定しているか? 接種機会・対話のチャンネルを増やすための薬局での接種は、必要はないか?
〇今後、変異株の感染拡大の恐れをどの程度と想定しているか? 従来のワクチンへの耐性を持つ変異株の場合、拡大する感染者への対応とワクチン接種を同時で進める必要があるかもしれない。その時が来たら考えるということか?
〇1億回を超えるワクチン接種にあたって必要とする追加費用はどの程度か?その額は諸外国と比較してどうだったか? 医師の権益を保護することでコスト削減しづらくなる点に関し、どう考えるか? 財源は、生活に困窮している人たちにこそ、振り向けるべきではないか?
〇今後、少なくとも当分の間は毎年の追加接種が想定されるが、その手間とコストは? 医師のマンパワーは温存できるか?


結局、変わるためには世論やメディアからの批判が不可欠

日本の医療問題の本質は、こうした部分にあるのだろうと思います。

利益誘導による医療・医療制度の歪みは、「コップの中の争い」にとどまるものではありません。国民の命や健康、尊厳といった問題に直結し、社会の他の分野の問題にも容易に波及します。
図らずも今回、コロナ禍に対する医療体制・日本医師会の対応に世論の批判が噴出しましたが、この件に限らずですが、いつまでも「日本の医療は世界一」といった単一のスローガンで誤魔化し続けられるものではありません。

そもそも、「海外諸国では薬局での予防接種サービスが拡大しており、地域住民に対し、より多くの接種機会の提供・医療費削減に寄与している。医師は、医師でなければ実施できない治療・診察に注力できる」といった状況は、新型コロナウイルスが流行するずっと以前から業界・厚労省では周知の事実です。日本では「医師会が容認する訳がないから」「政治的に実現不可能だから」といった理由で、議論の俎上に載る機会すらなかっただけです。

「不完全な医薬分業制度」「薬剤師を介さない市販薬販売制度」からも明らかなように、日本では薬剤師の評判は芳しくありません。より正確に表現するならば、「地域の生活者・患者と薬剤師」「抑圧的でない医師と薬剤師」といった小さな単位での信頼関係を除けば、薬剤師の職能・職域は一方で日本医師会から、他方で製薬企業や大手小売企業といったステークホルダーから、いいように蹂躙されていると説明する方が分かりやすいかもしれません。

結局、このような政府・行政の意思決定の文脈は、世論やメディアからの批判がよほど大きくならない限り、止まらないのでしょう。医療に限らず、様々な分野でみられる日本の行き詰まりと感じます。

それでも、こうした医療・薬事に関する意思決定の問題点を指摘し、社会からの理解・応援を仰ぐこと、そして問題が解決しない場合の未来を予言しておくことは、専門家としての責務であると思っています。

皆様のご理解と、ご協力をお願い致します。
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新型コロナの自宅・ホテル療養者、服薬フォローの杜撰さを防げ

2021-01-29 14:30:54 | 日記
新型コロナ感染症の拡大に伴って、PCR検査陽性者が自宅・ホテルなどでの待機を余儀なくされる状況が増えています。


待機中、体温計やパルスオキシメーター(血中の酸素濃度を測る)が貸し出され、通常1日1~2回体調について電話などでのフォローがある。フォロー体制(健康確認)は地域医師会などの協力を仰ぎ、自治体が構築する。


基本的には、こういった状況のようです。
自治体にとっては、宿泊施設の手配や医師会への依頼、医療機器の手配、感染者数の増減の把握など、行うべき業務が膨大です。従事できる職員や保健師・協力してくれる医師や看護師それぞれのマンパワーや人数によって、実施可能な健康観察の内容も変わってくるだろうと思います。

前提として、待機者は年齢・基礎疾患・新型コロナ感染症の重症度において低リスク・軽症ということになり、健康確認(電話等でのフォロー)では、その中で重症化する待機者を確実に拾い上げることが主眼となります。
一方で、待機者はすべて新型コロナ感染の検査陽性者ですから、多くの方が発熱(軽いものから高熱まで)や咳をはじめとして、多彩な症状を呈することになります。

上で述べたように、この健康確認のスキーム自体は「診察」の条件を満たすものとして構築されている・できている訳ではなく(少なくともスタート時は難しそうです)、また業務に従事できる人員・待機者数も地域によって様々であることから、体制に混乱が生じているようです。

「ネット診療などで症状を医師に相談でき、重症化の有無も確認されたうえで、発熱などの症状に対し医薬品が処方される」自治体もあれば、待機者が自ら購入(あるいは家族からの差し入れ)した市販薬を自己判断/看護師の助言/医師の助言で服用しているといった状況もあるようです。マンパワー不足のため、1日2回の健康観察を行いたいができていないといった地域もあるとのことでした。


健康確認に従事する医師の「市販薬は使いづらい」といった声を見ました。
実際、症状に対応する医薬品供給を考えるとき、市販薬では不要な成分が配合されていたり用量が不十分であったりと、使いづらいだろうと感じます。
待機中の状況について綴っているSNSでは、残念ながら不適切あるいは危険な服薬状況も散見します。「病状や体調の状況によっては、この薬は使うべきではない…」といったことも少なくないのです。


各自治体の担当者におかれましては、当該地域の薬剤師会などに対し、医薬品供給・服薬のフォローアップ体制構築への協力を依頼して頂ければと思います。
市販薬のほか、「処方箋医薬品以外の医薬品」カテゴリー(医療用医薬品のうち、医師の処方箋を必須としない医薬品)もあり、医薬品の使用に関連する待機者への助言やフォローアップにも参画できるはずです。

医薬品利用に不安のある待機者の方は、
〇かかりつけにしている薬剤師がいればその薬剤師
〇継続フォローしてくれそうな薬剤師
〇医師や自治体担当者が紹介してくれるならその薬剤師
へ連絡してください。

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緊急避妊薬報道に欠けている視点

2020-10-22 15:06:29 | 日記
2017年、厚生労働省において医療用から市販薬への転用が議論され(「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」 以下「転用会議」と記述します)、一旦は否決された緊急避妊薬ですが、内閣府の方針を受け、再び検討が始まる見通しとなりました。
その一方で、複数の議員や医師の団体などは、これを伝えた共同通信の報道について「先走った記事だった」旨のコメントを発しています。今後の方向性には多少不透明な部分があります。

この問題では、緊急避妊薬を薬局で購入できるよう求める署名が10万筆を超え、多数のメディア、インフルエンサーも繰り返し言及するなど、国民的な議論を呼んでいます。今後、厚労省での議論がどのように進むのか、さらには結論である「どの医薬品分類にするか」「販売方法にどのような規制を加えるか、あるいはガイドラインにとどめるか」といった部分についても、今後の世論からの批判、そしてメディアやインフルエンサーが提示する論点・議論の内容次第…といった面があるのだろうと感じています。

日本チェーンドラッグ協会は、緊急避妊薬の医薬品分類について
として、立場を明らかにしています。
この他、転用会議ではにわかに「医師が介入したスイッチOTCの促進策」という案まで出ています。この案について解説するには、別途ある程度の文字数を要するところですが、簡単に指摘してしまうとすれば、以下にお示しするツイートのようなものです。

この案が示すように、これまでの長い期間、日本における医療・薬事に関する制度設計の議論は歪んできました。
その影響で、勤務医はスーパーブラックな労働環境に喘ぎ、患者はせっかく医師に診て貰っても3分診療でガマンしなければならない、といった状況が導かれています。海外メディアが驚愕した「医学部入試の女性差別問題」も、同様の文脈が波及したものです。
「無理が通れば道理が引っ込む」と言われます。この国の医療・薬事はどこまで無理を通し続けるのか、国民やジャーナリズムがどこまでそれを許すのか、気になるところではあります。


ともあれ、仮に「緊急避妊薬を処方箋なしに薬局で購入できるようにする」との方針がこのまま維持されるのであれば、転用会議における今後の議論は、

〇非処方箋医薬品(処方箋医薬品以外の医薬品)
〇要指導医薬品
〇医師が介入するOTC医薬品

のいずれが相応しいか、との論点を軸に進んでいくことになるのでしょう。


【メディアや有識者は、国民に対し真摯に議論の提示を】

10万筆以上の署名、インフルエンサーや多くの批判記事が示す民意は、「緊急避妊薬の販売規制は緩和すべきであり、それを拒んだ厚労省や医師の団体の判断は間違っている」といったものだと思います。
では、規制緩和を求めるメディアやインフルエンサー、それらに同調する人々は、しっかりとこの問題を受け止め、理解したうえで規制緩和を求めているのでしょうか。

私がこれまでに読んだ、典型的なメディア記事や主張の内容は、以下の様なものです。
1、海外では、すでに90カ国以上で薬局販売されている
2、海外研究では、緊急避妊薬を薬局販売することでリスク行動は増加しなかった
3、日本での性教育が不十分だとしても、性教育と緊急避妊薬アクセスの拡大は同時進行でよい
4、何より、望まぬ妊娠を防ぐためには緊急避妊薬の薬局販売を解禁すべき

こうした内容は、繰り返し人々の目に触れ、世論にも定着しているように感じられます。
その一方、転用会議において市販化が難しいとされた理由、あるいは緊急避妊薬アクセスに関する他のネガティブな論点についてメディア記事が取り上げる様子を、ほとんど見かけることはありません。
薬剤師の立場から言うなら、そもそも日本における医薬品利用・販売授与制度への考え方と、諸外国における認識はかなり異なります。メディア記事が「海外では売っている。日本でも売ればいい」とデフォルメされた主張を繰り返すほど、『緊急避妊薬を薬局で販売しづらい理由は、国民の認識だ』という反対派の懸念を証明してしまっているようにも感じられます。

薬局で販売するとしても、それぞれの販売区分(医薬品カテゴリー)は、異なる購入者の行動・理解を誘導することになります。世論が適切に問題を理解し、また転用会議で話し合われる内容をしっかり批判できるよう、メディアや有識者が真摯に議論・論点を提起して下さることを期待します。


以下、個人的に気になっている点、転用会議などで挙げられた論点を上げておきます。

A、海外でのアクセス状況について、OTC医薬品として購入できるのは19カ国だけで、76カ国はBPC医薬品として提供されている。日本には実質的に、BPC医薬品にあたる医薬品は存在しない。
B、米国の高校で実施されたコンドーム配布プログラムでは、妊娠件数は増加した。利用者側の性に関する知識、配布時の介入方法などが影響する可能性がある。
C、薬局販売で先行した諸外国の状況を検討した結果、統計学上の「意図しない妊娠の減少」という結果は得られていない。普及の程度、販売時の介入内容が要素として指摘されている。
D、欧米では確かにOTC化されているようです。欧米では20代の90%以上の方が経口避妊薬を使用している状況にあり、避妊薬に慣れているのです。ある程度避妊に失敗することもあるだろうということも体感しています(転用会議での発言)
E、(ヨーロッパやアメリカ)実際現場を見に行った先生方の話を聞くと、変な話ですが、ピルを飲むことがむしろ当たり前の感覚で教育をされているのが現状で、日本がまだまだそこまで行っているとは言えない(同上)
F、医療機関であればこの薬の交付時に適切な性教育を行うこともできますが、OTCになってしまいますと、その患者教育の機会を奪うことになります(同上)
G、この薬が将来的にどうかということで、欧米ではこれがOTC化されている。ただ欧米と日本と比べた場合、性教育の問題を含めて、大きな文化の問題の違いもあるのだろうと感じました(同上)
H、私は、ここがアメリカであればOKだと思います。緊急避妊ピルを常時使用している環境に皆さんがおられますので、これをOTC化しても全く問題はありません。日本では青少年に対してある程度の性教育が行われているにもかかわらず、経口避妊薬を日本人はなかなか使用しないのです。日本はそのような文化・環境にあり、しかも実際に緊急避妊薬を必要とされる方は、経口避妊薬を常用されていないのです(同上)
I、わが国の女性の人工妊娠中絶経験者は14.7%、そのうち反復中絶者は36.3%で反復中絶者がさらに増加(同上)
J、「最初の人工妊娠中絶を受けるときの気持ち」を女性に聞くと、「胎児に対して申し訳ない気持ち」「自分を責める気持ち」「人生において必要な選択である」と続くものの、中絶をリプロダクティブ・ライツ(性と生殖の権利)と捉える気持ちがまだまだ薄いことがわかります(同上)


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緊急避妊薬の規制緩和について(全国の薬剤師の先生方、そして市民の皆さまへ)

2020-10-12 12:21:39 | 日記
私たちは現在、緊急避妊薬(アフターピル)の医薬品分類を現在の「処方箋医薬品」から「処方箋医薬品以外の医薬品」に変更するよう求める署名活動を行っています。

薬剤師以外の方々にとっては多少ややこしい話だと思いますので、簡単にご説明します。
通常、医師・歯科医師から処方される医薬品(医療用医薬品)には二種類あり、「処方箋医薬品」の場合は医師・歯科医師による診察、処方が必須ですが、「処方箋医薬品以外の医薬品」では必須ではなく、必要な場合には、処方箋なしで薬剤師が患者さんに販売・交付することが可能です。
市販用パッケージの箱が付くわけではない、ネット販売ができない、製薬企業が薬品名を紹介するCMを流せない、などの制約はありますが、緊急避妊薬を薬局で販売する際に諸外国の多くが分類するBPC医薬品(behind the pharmacy counter 購入時に薬剤師のコンサルティングを行う医薬品)に、最も近いカテゴリーだと私たちは考えています。現在、海外では76カ国でBPC医薬品、19カ国でOTC医薬品として、薬局で販売されています。
※CMの制約とは、商品名を紹介し「医師にかからず、自分で対応できる」といった内容で制作できないだけで、啓発する形の「緊急避妊が必要となったとき、薬で対応できます。医師または薬局の薬剤師に相談してください」といった内容は可能です。

この度、神奈川県の薬剤師の先生方に向け、緊急避妊薬の規制緩和について情報提供させて頂く機会を得ました。その文章を、この場でもご紹介いたします。快く転載について許可して下さいました関係者の皆さまに、御礼申し上げます。
私自身は、医療従事者の間で行われる議論が、閉じたものであってはならないと思っています。医療や医療制度は、社会の全ての方々に繋がっています。
神奈川県以外の地域で活動されている先生方、また社会の多くの方々にもご覧いただき、緊急避妊薬をどのような形で必要とする方々に届けるべきか、一緒に考えて頂ければと願っております。

緊急避妊薬に関する現在の状況ですが、政府の方針として「緊急避妊薬を医師の処方箋なしに薬局で購入できるよう検討する」と改めて示され、
①緊急避妊薬に関する専門の研修を受けた薬剤師
②対面で服用させる
といった条件の下、厚生労働省で再び議論がスタートすることになりました。
私見ですが、①②のいずれも、大きな問題があると思っています。

(以下、神奈川県薬剤師会会誌「薬壺2020年9.10月号」より転載)

緊急避妊薬の分類を「処方箋医薬品以外の医薬品」へ!  
あおば調剤薬局 高橋秀和

この度、神奈川県の薬剤師の先生方に対し、緊急避妊薬について情報提供する寄稿の機会を頂戴しました。ご厚意に感謝いたします。
私たちは、インターネット署名サイトChange.orgにおいて、緊急避妊薬(ノルレボ錠、レボノルゲストレル錠)の医薬品分類を「処方箋医薬品以外の医薬品」カテゴリーに変更するよう求める署名活動を行っています。

緊急避妊薬はアフターピルとも呼ばれ、避妊の失敗あるいは性被害の事後に服用し、意図せぬ妊娠を防ぐ薬剤です。行為から72時間以内のできるだけ早いタイミングでの服用が推奨され、妊娠阻止率は81.0%です。(国内第Ⅲ相臨床試験 72時間以内服用時)
海外では、すでに多くの国・地域においてOTCあるいはBPC医薬品として提供されています。日本では平成29 年に要指導・一般用医薬品への転用が議論されたものの、「悪用が懸念される」「若い女性は知識がない」「市販薬のネット販売を認める日本の現状では、薬剤師が管理できない」などの理由から転用が見送られました。
その後、インターネット診療での緊急避妊薬処方の要件が緩和され、研修を受けた薬剤師が医師から郵送された処方箋に基づき調剤・交付できるようになっています。

OTC / BPC化で先行する諸外国の状況の検討では、規制緩和後に緊急避妊薬の使用量は大きく増加したものの、残念ながら意図しない妊娠が減少した統計学的な結果は出ておらず、理由として「未だ緊急避妊薬の利用が不足している」「利用者に対し、継続的・効果的な避妊方法を選択するよう勧める介入が不十分」といった可能性が指摘されています。

先進国の趨勢として、緊急避妊薬を含む避妊方法へのアクセス保障(価格的、地理・時間的)は、「女性の権利」あるいは「性と生殖の権利」の観点から重要な問題と認識されています。
一方、日本の医療・医薬品販売制度に目を転じると、「医師以外の医療従事者(コメディカル)」の主体的な業務の不足(→医師の多忙化、医療の高コスト化)、市場主義に傾斜した市販薬販売制度(→購入者と薬剤師との関係性の希薄化、自己責任化)といった特徴があり、緊急避妊薬のような医療介入を伴う薬剤の規制緩和がしづらい状況にあります。


男女の格差を国別で比較した 「ジェンダーギャップ指数」では、 日本は121位(調査対象153か国、 2019年)と低迷しています。
フェミニズム理論では、「女性の抑圧」を当然視する思考を『家父長制(パターナリズム)に由来する考え方』として説明しますが、 この「上位者は下位者を保護するために干渉し、自由や権利に制限を加えるのも仕方がない」とする思考様式は、「権威主義」あるいは「ヒエラルキー(ピラミッド型 の組織構造)」といった価値観と親和性が高く、この国の「医療制度」あるいは「医師と薬剤師の関係性」に関しても、同様の文脈を読み取ることができます。

女性が男性から抑圧される社会では、多くの関係性が 同様に「抑圧」と「被抑圧」、「支配」と「被支配」をベースとして構築されます。
薬の専門家であるはずの私たち薬剤師が、残薬の調整すら医師にお伺いを立て、報告しなければ実施できないのは、日本の社会・医療業界が、強固なパターナリズムを手放すことができないからです。

こうした日本の医療・薬事制度、医療文化の形成には、医療や医薬品に関わる各職能団体・市場関係者の政治力も多分に影響していますが、結果として国民や患者の健康・権利をないがしろにしている面があります。
政治力を背景とした制度設計に粛々と従うことは、私たち薬剤師が不自由な思いをするのにとどまらず、患者や利用者といった立場の方々を間接的に抑圧することになります。


この数十年で、世界中の国々において患者の権利が尊重されるようになり、患者と医療従事者、あるいは各医療専門職の関係性も、上下関係ではなく、対等なものとして理解されるようになりました。
制度設計担当者や団体トップのみならず、地域医療に従事する私たち現場薬剤師も、緊急避妊薬を取り巻く現状を重く受け止め、行動に表すべきと考えています。

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