医療と薬の日記

医療ニュース、薬など

ロキソニンの副作用報道、ロキソニンのついての考察

2016-03-29 15:47:06 | 日記
医療用医薬品として汎用され、一般用医薬品としても多くの方が服用する「ロキソニン」(成分名 ロキソプロフェンナトリウム)について、新たな副作用が発覚したとの報道があり、ネット上でも話題になりました。
今回はこの報道について、どのように理解すべきか、またロキソニンという医薬品を服用するにあたって、どのような点に注意すべきかについてご説明します。記述内容には私見を含みます。実際の判断にあたっては、かかりつけの薬剤師・医師とご相談下さい。


■どのような副作用か?
医薬品医療機器総合機構(PMDA)の発表によれば、過去3年間でロキソニン(医療用)服用中に「小腸、大腸の潰瘍を伴う狭窄・閉塞」を発症した症例が6例報告され、そのうち因果関係が否定できない症例が5例あったとのことから、添付文書(説明書)に追記することが適切だと判断されたとのことです。死亡例はありませんでした。

軽微な症状ではありませんので、「重大な副作用」の項目に追記され、「観察を十分に行い、悪心・嘔吐、腹痛、腹部膨満感等の症状が認められた場合には直ちに投与を中止し、適切な処置を行う」といった注意書きが追加されることになります。

実際のところ、医師や薬剤師など多くの医療関係者にとって、今回の通知が大きなニュースではなかったことを付け加えておきます。カプセル内視鏡などの技術革新もあり、医薬品による下部消化管への傷害作用は、近年注目される分野です。ロキソニンによって、腸管の狭窄や閉塞が起こる可能性があることを念頭に置きつつ、今後の情報について注視するといったところだと思います。

私の担当する患者さんから質問された、あるいはネット上で見かけた疑問について、Q&A形式でご説明します。

■よくある疑問について
Q:ロキソニン以外の解熱鎮痛薬であれば、この副作用の心配はない?
A:ロキソニンは解熱鎮痛薬の中で、NSAIDs(非ステロイド抗炎症薬)に分類され、同じ作用メカニズムを持つ医薬品が多数あります。今回発覚した副作用が、消化管粘膜を障害するNSAIDs共通の作用機序によるものだとすれば、他の薬によって同様の副作用が起こるとしても不思議ではありません。

Q:今回の副作用は医療用のロキソニンで発生しており、市販薬のロキソニンSは安心?
A:ロキソニンは、医療用と一般用で成分・含量が全く同じですので、この副作用が医療用に限って起こるとはいえません。ただし、一般用医薬品のロキソニンSは、「3~5日間服用しても痛み等の症状が繰り返される場合には、服用を中止し、医師の診察を受けて下さい」と説明書にも記載されているように、継続服用を前提としていません。今回発覚した副作用が、長期の服用によって発生するものであれば、一般用医薬品のロキソニンSでは起きないといえるかもしれません。

Q:副作用報告はたった6例であり、極めて発生率が低い?
A:副作用報告は、医師や薬剤師等からの報告があってこそ、集計されるものです(現在は試行的に患者・患者家族からも情報を収集)。腸閉塞による入院患者がロキソニンを服用していたとしても、そもそも医療関係者が副作用の可能性を疑い、報告をしなければカウントされません。ネット検索しただけでも「腸閉塞で入院したとき、ロキソニンを服用していた」という書き込みを複数発見することができます(真偽は不明)が、その症例が報告されているとは限りません。「副作用被害は、暗数としてのみ存在する」という言葉もあります。
今後、かなり稀な副作用と結論づけられるかもしれませんし、思ったより確率が高い副作用だということになるかもしれません。いずれにせよ、現時点での報告数を根拠に発生率を考慮することはナンセンスです。

Q:ロキソニンは第一類医薬品だから危険なの?
A:日本における一般用医薬品は、他の先進国と異なり、そもそも危険性で分類されている訳ではありません。ロキソニン(第一類医薬品)は危険、その他の解熱鎮痛薬(第二類医薬品)は安全、ではないことを、まず理解しておく必要があります。一般用医薬品の副作用被害のうち、多くが総合感冒薬と解熱鎮痛薬によって発生しています。
「購入者の利便性・経済の活性化」と「安全性」にはトレードオフの側面があり、前者を重視するならば日本は世界トップクラスです。もし後者を重視するのであれば、医薬品の購入・使用にあたって十分な注意と、かかりつけの薬剤師との良好なリスクコミュニケーションをお勧めします。

■ロキソニンに代表される、NSAIDs(非ステロイド抗炎症薬)を服用する際の諸注意
NSAIDs服用にあたって、胃障害のリスクを認識されている方は多いと感じます。空腹時の服用を避けることはよい選択です。
胃薬を併用した場合、そのリスクが減少することは確かですが、胃薬の種類によっても発生率は様々です。服用当初に問題はなく、服用を継続する中で症状が発生することもあります。起こり得る初期症状を理解し、発生時には医師や薬剤師に相談してください。

頭痛や生理痛のため、解熱鎮痛薬を継続的に服用されている方は少なくないように思います。
頭痛の場合、鎮痛薬の頻繁な使用自体が頭痛を悪化させていることがあり(薬剤乱用頭痛)、他の治療が必要かもしれません。また生理痛がひどい場合、婦人科系疾患が背景に存在しているかもしれません。そもそも市販薬は継続服用を前提としていないことにご注意下さい。
市販の解熱鎮痛薬を自己判断で継続服用している方で、時々経験するのは、慢性の腎機能障害です。数年を超える自己判断での服用の後、血液検査で判明した時には既に進行しており、回復が見込めないことがあります。腎機能の低下は寿命に影響します。

また、急性の腎機能障害による入院例も少なくありません。体調不良時の発熱、水分・食事摂取量の低下は、脱水の原因になりますが、脱水は解熱鎮痛薬による腎機能障害の大きなリスク因子です。
胃痛・腹痛に対し解熱鎮痛薬は一般的には効果がありませんが、勘違いして服用される方もおられます。胃の状態が良くない上に解熱鎮痛薬を服用して悪化したり、嘔吐を引き起こして脱水に陥り、腎機能障害といったパターンがあります。同様の理由から、二日酔いによる頭痛の解消のため解熱鎮痛薬を使用することはお勧めしません。

解熱鎮痛薬は身近な存在であるがゆえ、マラソンなどのスポーツに先立って服用する方がおられるようです。入院を含む重篤な副作用が発生するとの調査結果は薬剤師の中では有名です。

インフルエンザの際のNSAIDs使用が、脳症の発生リスクであることを、多くの医師・薬剤師が認識しています。一方で、インフルエンザの患者を正確に見分けることが、そもそも困難であることが近年明らかになっています。私自身は、風邪やインフルエンザ流行期のNSAIDsの使用を勧めていません。

■一般用医薬品は「商品」ではなく、医療の入り口
先の段落での記述は、私が一人の薬剤師として、患者(購入者)への注意喚起・指導の際に重視する内容の一部です。
患者(購入者)の状況や志向により注意喚起の内容は異なりますし、各々の医師・薬剤師によって、考え方も一様ではありません。時代によっても、正しいとされる見解は変遷するものです。医師・薬剤師など各々の医療者は、自らが学んだ医学的知見や情報などを元に、持論を形成しています。

重要なことは、こうした情報に定型的な「答え」はなく、説明書への記載や、製薬企業のコールセンターによって解決する問題ではないということです。購入時の薬剤師とのリスクコミュニケーション、またそれを繰り返すことで、安全性や治療の精度は向上し、治療への理解も深まるはずです。
先進国では、日本のみが市販薬を商品として扱い、またそれが国民の購買行動にも浸透していることを強調しておきたいと思います。薬剤師を店員と認識してしまえば、困ったときにネット上のジャンク情報を頼ることになってしまいます。

生活圏でよい薬剤師を見つけられ、互いに顔の見えるパートナーとして関係性を構築されるよう、お願い致します。

「かかりつけ薬剤師」の選び方、付き合い方

2016-03-23 14:25:32 | 日記
今年の4月は、2年に一度の診療報酬改定の時期にあたり、医療の仕組みが変わります。

薬局に関する制度変更で押さえておきたいのは、「お薬手帳の価格改定」と今回新設された「かかりつけ薬剤師」制度です。今回は「かかりつけ薬剤師」制度の概容と、その選び方・付き合い方についてご説明したいと思います。

今期改定では、医師・歯科医師・薬剤師のいずれにおいても、「かかりつけ」という文言が登場しています。今後、医療を利用するうえで重要なキーワードになります。


■新設された「かかりつけ薬剤師加算」は、どんな内容?
「かかりつけ薬剤師」を推進するため、今回の改定では「かかりつけ薬剤師加算」として調剤報酬が新設されました。薬局は多くの場合、株式会社によって運営されていますので、加算を設定すれば、運営会社は利益を確保すべく、患者に対し「かかりつけ薬剤師」を持つよう勧誘することになります。

厚労省が「かかりつけ」を推進する主な目的は医療費のコントロールですが、「かかりつけ薬剤師」制度には患者満足度向上の狙いもあると指摘されます。制度を議論する会議においても、「かかりつけ薬局」を持つ患者の満足度が高いとのアンケート調査結果が紹介されていました。

「かかりつけ薬剤師加算」の内容について、ご紹介します。

まず担当する薬剤師側に、幾つかの条件があります。定められた研修を修めた認定薬剤師であること、実務経験3年以上であり、当該薬局の在籍6か月以上、一週間の勤務時間が32時間以上であること等が条件です。
かかりつけ薬剤師として機能するためには、一定以上の実務経験と能力を持ち、その薬局に一定時間以上勤務していることが必要だ、という訳です。

「かかりつけ薬剤師加算」で実施される業務は以下の通りです。

患者への投薬・服薬指導は、基本的にかかりつけ薬剤師が担当することになり、毎回違う薬剤師が対応するといったことがなくなります。薬剤師は自らの勤務表を患者に交付し、薬局が閉まっている時間帯でも、24時間担当患者からの電話に対応します。他の薬局で調剤された医薬品や市販薬についても一元的に記録するとともに、患者の服用する医薬品について重要な情報を知った際には、患者に必要な注意喚起を行う、等とされています。
この業務内容について、多くの薬剤師からストーカー被害を憂慮する声、過酷でブラックな働き方との指摘もあります。

「かかりつけ薬剤師加算」を算定する際には、患者が同意書にサインすることが必要です。
「かかりつけ薬剤師加算」は70点(700円)に設定されており、基本的な指導や薬剤服用歴の記録等を行う「薬剤服用歴管理指導料」(50点、手帳持参なら38点)の代わりに算定されます。

やや複雑ですが、要するに、一定のキャリアを持つ常勤の薬剤師と「かかりつけ薬剤師」の契約を結ぶことで、担当する薬剤師が決まり、自分が使用する薬の全てについて相談に乗ってもらえる、薬局が開いている時間帯だけでなく、夜間や休日でも電話できる、という訳です。
発生する差額は20点(200円)、手帳を毎回忘れないとすれば32点(320円)です。1割負担の方では自己負担金の差額は20円もしくは30円、3割の方であれば60円もしくは100円になります。

■「かかりつけ薬剤師」のメリットは?
前回記事「医師が処方を誤ったらどうする?潔く諦めますか?」で言及したように、薬剤師の職責は、単に処方箋通りの薬を揃えて簡単な説明を加え、患者に交付することではありません。

他薬局などで記録された「お薬手帳」を持参して調剤を依頼した場合、薬剤師が責任を負うのは、基本的にその状況に対し調剤を実施してよいかです。その患者さんの薬物治療全体に責任を負う薬剤師がいない、助言や指導に関し網羅性に欠けるといった問題は、やはりあるように思います。

また医師にかかっていない段階(健康維持のための生活改善、健康食品、市販薬)では、様々な情報が氾濫していますので、購入者自身の判断で及第点の選択(現代の医療水準に見合う)を重ねることは簡単ではないようです。
これは規制緩和の宿命であり、仕方ありません。安易な選択は健康利益を手放す要因になり得ますが、この「安易な選択」こそが売り上げにとってプラスです。日本で暮らす以上、「便利で自由な選択」といった美辞麗句の陰に存在する、こうした危険性を認識しておく必要があります。
多くの先進国では購入の際、薬剤師による助言が伴うのが一般的ですが、日本では薬剤師を探して質問しなければ、助言を受ける機会はほとんどありません(最近では、そもそも薬剤師が勤務していないドラッグストアも少なくないようです)。

ただ、「かかりつけ薬剤師」を持つことで、こうした問題が解決するかといえば、そう単純なものではないだろうと私は思います。
実際問題、処方箋調剤において、処方した医師の意向より患者利益を常に優先する薬剤師は、今のところ、そう多くはないようです。健康相談やサプリメント・市販薬の相談を持ち掛けたとしても、薬剤師がそれを売り上げに結び付けようとするのであれば、正しい選択は困難です。

こうした日本の薬剤師の言動を誘導する要因は、とても単純なものです。
日本では諸外国と比較して医師偏重の医療制度となっており、薬剤師が医師の意に沿わない発言をすることを許容していません。また健康食品や市販薬の販売に関しても、日本では市場主義を重視するあまり、適正な使用よりも経済的利益を優先する傾向にあります。薬剤師は医療専門職能ではあるものの、ほとんどの場合、従業員として勤務しています。こうした制度設計に沿って薬局を経営する上司の意向に背くことは簡単ではありません。

多くの購入者(または患者)は、「薬剤師は信用に足る存在か?」という疑問を抱いています。
そして実際に、生活圏において誠実で優秀な薬剤師を探すことは簡単ではない、ということだと思います。

本質的な業務によって、患者(購入者)に利益を実感させることができていない。
薬剤師にブラックな働き方を強要してでも「かかりつけ薬剤師」のメリットを強調する裏には、こうした厚労省の本音と焦りがあるように感じます。

■厚労省、日本薬剤師会による失策
今回の「かかりつけ薬剤師制度」では、患者側は複数の薬局を利用するという行動を変えずに、一人の薬剤師を「かかりつけ」として依頼することができます。患者は服用中の全ての薬について「かかりつけ薬剤師」に相談することができ、薬剤師はその相談に応じるとともに、重要な情報を知った際には情報提供・指導を行うこととされています。

この制度設計については、残念ながら失策と指摘せざるを得ません。
薬剤師は市販薬の販売または調剤の実施にあたって、適正な医療を提供すべき責任を負い、その対価を得ます。その責務を、安易に複数の薬剤師に負わせるべきではありません。
欧州においては、日本の「かかりつけ薬剤師」に近い言葉として、患者・薬剤師は互いを「私の薬剤師」「私の患者」と表現しています。時折、自身の薬局に立ち寄るだけで、複数の薬局を利用し続ける患者を「私の患者」とは呼びません。
また今後、制度が運用される中で、不適切な薬物治療や注意喚起により被害を蒙った際の裁判が提起された際には、調剤または販売を担当した薬剤師、またそれとは別に存在する「かかりつけ薬剤師」、双方の責任をどのように判断すべきと考えているのでしょうか。裁判官も制度設計のいい加減さに辟易するでしょう。

会議の議事録を読む限り、患者へのアピールを重視するあまり、このように安易な案を提示した厚労省に対して、日本薬剤師会の担当者や会議に出席した他の委員が異論を唱えた様子はありません。

こうした制度設計の曖昧さは、薬剤師が負うべき責務とその射程に関する、トップ層の認識の弱さに起因しているのでしょう。責務を伴わない業務の独占など、そもそもあり得ないことです。
そして、こうした認識の弱さこそが、諸制度を通じた薬剤師の存在の曖昧さに繋がっています。
悪循環とは、このような状況を指すのでしょう。

■良い薬剤師探しは難しい
とはいえ、今回の「かかりつけ薬剤師制度」は、これから良い薬剤師を探そうとする患者さんにとって、使い勝手のよい制度です。これまで通り複数の薬局を使い分けながら、良さそうな薬剤師に「かかりつけ」を依頼することができ、健康相談から、使用中の全ての薬に至るまで、相談することができます。

「かかりつけ薬剤師」として依頼できる薬剤師は一人ですが、月が替われば別の薬剤師に依頼することが可能です。毎月別の薬剤師に依頼し品定めするといった行為は、互いの信頼を損ねるでしょうが、何人かの助言を聞くことで、薬剤師の能力の違いを推し量ることができ、互いの相性(相談のしやすさ)も判断しやすいでしょう。

もし皆さんが誠実で優秀な薬剤師を「かかりつけ」とし、良い関係性を構築することができたなら、複数の薬局の利用を継続した上で「かかりつけ薬剤師」を利用し続けるのではなく、できれば、その薬剤師に直接、市販薬の購入や処方箋調剤を依頼して頂きたいと願います。今回の制度では、問題の発見や介入は事後的になりやすく、また薬剤師にとっても、誠実であろうとすればするほど業務は繁忙となり、質を保つことが困難です。
治療や健康維持に熱心な患者さんの多くは、すでに「かかりつけの薬局・薬剤師」を持っています。

4月以降、多くの薬局において、「かかりつけ薬剤師」を売り込む姿が目立つことになるでしょう。
一部の薬局では、「かかりつけ薬剤師」の強引な勧誘、ポイント付与(厚労省は処方箋調剤のポイント付与は禁止するとの見解だそうですが)やファストパス(待ち時間を短く)をテコに勧誘を行う、とも噂されています。

「良い医師」「良い歯科医師」を探すにはどうすればよいか、という問いが普遍的である一方、良い薬剤師を探すという価値観は日本ではまだ一般的ではありません。
上述したように、薬剤師が担う分野はいずれも健康の維持や寿命に直結し、その失敗も日常的に目にします。「良い薬剤師を見つけることは簡単ではない」という事実を念頭に、また薬局側の売り込みに安易に乗ってしまわぬよう、注意深く『優秀で誠実な「かかりつけ薬剤師」』を探してみて下さい。

薬局の業務では、良くも悪くも「お薬手帳」の値段ばかりが話題になりますが、そもそも薬局・薬剤師は国民の健康に寄与するために存在しています。
今後は「良い薬剤師の探し方、付き合い方」といった話題が焦点になって欲しいものです。