医療用医薬品として汎用され、一般用医薬品としても多くの方が服用する「ロキソニン」(成分名 ロキソプロフェンナトリウム)について、新たな副作用が発覚したとの報道があり、ネット上でも話題になりました。
今回はこの報道について、どのように理解すべきか、またロキソニンという医薬品を服用するにあたって、どのような点に注意すべきかについてご説明します。記述内容には私見を含みます。実際の判断にあたっては、かかりつけの薬剤師・医師とご相談下さい。
■どのような副作用か?
医薬品医療機器総合機構(PMDA)の発表によれば、過去3年間でロキソニン(医療用)服用中に「小腸、大腸の潰瘍を伴う狭窄・閉塞」を発症した症例が6例報告され、そのうち因果関係が否定できない症例が5例あったとのことから、添付文書(説明書)に追記することが適切だと判断されたとのことです。死亡例はありませんでした。
軽微な症状ではありませんので、「重大な副作用」の項目に追記され、「観察を十分に行い、悪心・嘔吐、腹痛、腹部膨満感等の症状が認められた場合には直ちに投与を中止し、適切な処置を行う」といった注意書きが追加されることになります。
実際のところ、医師や薬剤師など多くの医療関係者にとって、今回の通知が大きなニュースではなかったことを付け加えておきます。カプセル内視鏡などの技術革新もあり、医薬品による下部消化管への傷害作用は、近年注目される分野です。ロキソニンによって、腸管の狭窄や閉塞が起こる可能性があることを念頭に置きつつ、今後の情報について注視するといったところだと思います。
私の担当する患者さんから質問された、あるいはネット上で見かけた疑問について、Q&A形式でご説明します。
■よくある疑問について
Q:ロキソニン以外の解熱鎮痛薬であれば、この副作用の心配はない?
A:ロキソニンは解熱鎮痛薬の中で、NSAIDs(非ステロイド抗炎症薬)に分類され、同じ作用メカニズムを持つ医薬品が多数あります。今回発覚した副作用が、消化管粘膜を障害するNSAIDs共通の作用機序によるものだとすれば、他の薬によって同様の副作用が起こるとしても不思議ではありません。
Q:今回の副作用は医療用のロキソニンで発生しており、市販薬のロキソニンSは安心?
A:ロキソニンは、医療用と一般用で成分・含量が全く同じですので、この副作用が医療用に限って起こるとはいえません。ただし、一般用医薬品のロキソニンSは、「3~5日間服用しても痛み等の症状が繰り返される場合には、服用を中止し、医師の診察を受けて下さい」と説明書にも記載されているように、継続服用を前提としていません。今回発覚した副作用が、長期の服用によって発生するものであれば、一般用医薬品のロキソニンSでは起きないといえるかもしれません。
Q:副作用報告はたった6例であり、極めて発生率が低い?
A:副作用報告は、医師や薬剤師等からの報告があってこそ、集計されるものです(現在は試行的に患者・患者家族からも情報を収集)。腸閉塞による入院患者がロキソニンを服用していたとしても、そもそも医療関係者が副作用の可能性を疑い、報告をしなければカウントされません。ネット検索しただけでも「腸閉塞で入院したとき、ロキソニンを服用していた」という書き込みを複数発見することができます(真偽は不明)が、その症例が報告されているとは限りません。「副作用被害は、暗数としてのみ存在する」という言葉もあります。
今後、かなり稀な副作用と結論づけられるかもしれませんし、思ったより確率が高い副作用だということになるかもしれません。いずれにせよ、現時点での報告数を根拠に発生率を考慮することはナンセンスです。
Q:ロキソニンは第一類医薬品だから危険なの?
A:日本における一般用医薬品は、他の先進国と異なり、そもそも危険性で分類されている訳ではありません。ロキソニン(第一類医薬品)は危険、その他の解熱鎮痛薬(第二類医薬品)は安全、ではないことを、まず理解しておく必要があります。一般用医薬品の副作用被害のうち、多くが総合感冒薬と解熱鎮痛薬によって発生しています。
「購入者の利便性・経済の活性化」と「安全性」にはトレードオフの側面があり、前者を重視するならば日本は世界トップクラスです。もし後者を重視するのであれば、医薬品の購入・使用にあたって十分な注意と、かかりつけの薬剤師との良好なリスクコミュニケーションをお勧めします。
■ロキソニンに代表される、NSAIDs(非ステロイド抗炎症薬)を服用する際の諸注意
NSAIDs服用にあたって、胃障害のリスクを認識されている方は多いと感じます。空腹時の服用を避けることはよい選択です。
胃薬を併用した場合、そのリスクが減少することは確かですが、胃薬の種類によっても発生率は様々です。服用当初に問題はなく、服用を継続する中で症状が発生することもあります。起こり得る初期症状を理解し、発生時には医師や薬剤師に相談してください。
頭痛や生理痛のため、解熱鎮痛薬を継続的に服用されている方は少なくないように思います。
頭痛の場合、鎮痛薬の頻繁な使用自体が頭痛を悪化させていることがあり(薬剤乱用頭痛)、他の治療が必要かもしれません。また生理痛がひどい場合、婦人科系疾患が背景に存在しているかもしれません。そもそも市販薬は継続服用を前提としていないことにご注意下さい。
市販の解熱鎮痛薬を自己判断で継続服用している方で、時々経験するのは、慢性の腎機能障害です。数年を超える自己判断での服用の後、血液検査で判明した時には既に進行しており、回復が見込めないことがあります。腎機能の低下は寿命に影響します。
また、急性の腎機能障害による入院例も少なくありません。体調不良時の発熱、水分・食事摂取量の低下は、脱水の原因になりますが、脱水は解熱鎮痛薬による腎機能障害の大きなリスク因子です。
胃痛・腹痛に対し解熱鎮痛薬は一般的には効果がありませんが、勘違いして服用される方もおられます。胃の状態が良くない上に解熱鎮痛薬を服用して悪化したり、嘔吐を引き起こして脱水に陥り、腎機能障害といったパターンがあります。同様の理由から、二日酔いによる頭痛の解消のため解熱鎮痛薬を使用することはお勧めしません。
解熱鎮痛薬は身近な存在であるがゆえ、マラソンなどのスポーツに先立って服用する方がおられるようです。入院を含む重篤な副作用が発生するとの調査結果は薬剤師の中では有名です。
インフルエンザの際のNSAIDs使用が、脳症の発生リスクであることを、多くの医師・薬剤師が認識しています。一方で、インフルエンザの患者を正確に見分けることが、そもそも困難であることが近年明らかになっています。私自身は、風邪やインフルエンザ流行期のNSAIDsの使用を勧めていません。
■一般用医薬品は「商品」ではなく、医療の入り口
先の段落での記述は、私が一人の薬剤師として、患者(購入者)への注意喚起・指導の際に重視する内容の一部です。
患者(購入者)の状況や志向により注意喚起の内容は異なりますし、各々の医師・薬剤師によって、考え方も一様ではありません。時代によっても、正しいとされる見解は変遷するものです。医師・薬剤師など各々の医療者は、自らが学んだ医学的知見や情報などを元に、持論を形成しています。
重要なことは、こうした情報に定型的な「答え」はなく、説明書への記載や、製薬企業のコールセンターによって解決する問題ではないということです。購入時の薬剤師とのリスクコミュニケーション、またそれを繰り返すことで、安全性や治療の精度は向上し、治療への理解も深まるはずです。
先進国では、日本のみが市販薬を商品として扱い、またそれが国民の購買行動にも浸透していることを強調しておきたいと思います。薬剤師を店員と認識してしまえば、困ったときにネット上のジャンク情報を頼ることになってしまいます。
生活圏でよい薬剤師を見つけられ、互いに顔の見えるパートナーとして関係性を構築されるよう、お願い致します。
今回はこの報道について、どのように理解すべきか、またロキソニンという医薬品を服用するにあたって、どのような点に注意すべきかについてご説明します。記述内容には私見を含みます。実際の判断にあたっては、かかりつけの薬剤師・医師とご相談下さい。
■どのような副作用か?
医薬品医療機器総合機構(PMDA)の発表によれば、過去3年間でロキソニン(医療用)服用中に「小腸、大腸の潰瘍を伴う狭窄・閉塞」を発症した症例が6例報告され、そのうち因果関係が否定できない症例が5例あったとのことから、添付文書(説明書)に追記することが適切だと判断されたとのことです。死亡例はありませんでした。
軽微な症状ではありませんので、「重大な副作用」の項目に追記され、「観察を十分に行い、悪心・嘔吐、腹痛、腹部膨満感等の症状が認められた場合には直ちに投与を中止し、適切な処置を行う」といった注意書きが追加されることになります。
実際のところ、医師や薬剤師など多くの医療関係者にとって、今回の通知が大きなニュースではなかったことを付け加えておきます。カプセル内視鏡などの技術革新もあり、医薬品による下部消化管への傷害作用は、近年注目される分野です。ロキソニンによって、腸管の狭窄や閉塞が起こる可能性があることを念頭に置きつつ、今後の情報について注視するといったところだと思います。
私の担当する患者さんから質問された、あるいはネット上で見かけた疑問について、Q&A形式でご説明します。
■よくある疑問について
Q:ロキソニン以外の解熱鎮痛薬であれば、この副作用の心配はない?
A:ロキソニンは解熱鎮痛薬の中で、NSAIDs(非ステロイド抗炎症薬)に分類され、同じ作用メカニズムを持つ医薬品が多数あります。今回発覚した副作用が、消化管粘膜を障害するNSAIDs共通の作用機序によるものだとすれば、他の薬によって同様の副作用が起こるとしても不思議ではありません。
Q:今回の副作用は医療用のロキソニンで発生しており、市販薬のロキソニンSは安心?
A:ロキソニンは、医療用と一般用で成分・含量が全く同じですので、この副作用が医療用に限って起こるとはいえません。ただし、一般用医薬品のロキソニンSは、「3~5日間服用しても痛み等の症状が繰り返される場合には、服用を中止し、医師の診察を受けて下さい」と説明書にも記載されているように、継続服用を前提としていません。今回発覚した副作用が、長期の服用によって発生するものであれば、一般用医薬品のロキソニンSでは起きないといえるかもしれません。
Q:副作用報告はたった6例であり、極めて発生率が低い?
A:副作用報告は、医師や薬剤師等からの報告があってこそ、集計されるものです(現在は試行的に患者・患者家族からも情報を収集)。腸閉塞による入院患者がロキソニンを服用していたとしても、そもそも医療関係者が副作用の可能性を疑い、報告をしなければカウントされません。ネット検索しただけでも「腸閉塞で入院したとき、ロキソニンを服用していた」という書き込みを複数発見することができます(真偽は不明)が、その症例が報告されているとは限りません。「副作用被害は、暗数としてのみ存在する」という言葉もあります。
今後、かなり稀な副作用と結論づけられるかもしれませんし、思ったより確率が高い副作用だということになるかもしれません。いずれにせよ、現時点での報告数を根拠に発生率を考慮することはナンセンスです。
Q:ロキソニンは第一類医薬品だから危険なの?
A:日本における一般用医薬品は、他の先進国と異なり、そもそも危険性で分類されている訳ではありません。ロキソニン(第一類医薬品)は危険、その他の解熱鎮痛薬(第二類医薬品)は安全、ではないことを、まず理解しておく必要があります。一般用医薬品の副作用被害のうち、多くが総合感冒薬と解熱鎮痛薬によって発生しています。
「購入者の利便性・経済の活性化」と「安全性」にはトレードオフの側面があり、前者を重視するならば日本は世界トップクラスです。もし後者を重視するのであれば、医薬品の購入・使用にあたって十分な注意と、かかりつけの薬剤師との良好なリスクコミュニケーションをお勧めします。
■ロキソニンに代表される、NSAIDs(非ステロイド抗炎症薬)を服用する際の諸注意
NSAIDs服用にあたって、胃障害のリスクを認識されている方は多いと感じます。空腹時の服用を避けることはよい選択です。
胃薬を併用した場合、そのリスクが減少することは確かですが、胃薬の種類によっても発生率は様々です。服用当初に問題はなく、服用を継続する中で症状が発生することもあります。起こり得る初期症状を理解し、発生時には医師や薬剤師に相談してください。
頭痛や生理痛のため、解熱鎮痛薬を継続的に服用されている方は少なくないように思います。
頭痛の場合、鎮痛薬の頻繁な使用自体が頭痛を悪化させていることがあり(薬剤乱用頭痛)、他の治療が必要かもしれません。また生理痛がひどい場合、婦人科系疾患が背景に存在しているかもしれません。そもそも市販薬は継続服用を前提としていないことにご注意下さい。
市販の解熱鎮痛薬を自己判断で継続服用している方で、時々経験するのは、慢性の腎機能障害です。数年を超える自己判断での服用の後、血液検査で判明した時には既に進行しており、回復が見込めないことがあります。腎機能の低下は寿命に影響します。
また、急性の腎機能障害による入院例も少なくありません。体調不良時の発熱、水分・食事摂取量の低下は、脱水の原因になりますが、脱水は解熱鎮痛薬による腎機能障害の大きなリスク因子です。
胃痛・腹痛に対し解熱鎮痛薬は一般的には効果がありませんが、勘違いして服用される方もおられます。胃の状態が良くない上に解熱鎮痛薬を服用して悪化したり、嘔吐を引き起こして脱水に陥り、腎機能障害といったパターンがあります。同様の理由から、二日酔いによる頭痛の解消のため解熱鎮痛薬を使用することはお勧めしません。
解熱鎮痛薬は身近な存在であるがゆえ、マラソンなどのスポーツに先立って服用する方がおられるようです。入院を含む重篤な副作用が発生するとの調査結果は薬剤師の中では有名です。
インフルエンザの際のNSAIDs使用が、脳症の発生リスクであることを、多くの医師・薬剤師が認識しています。一方で、インフルエンザの患者を正確に見分けることが、そもそも困難であることが近年明らかになっています。私自身は、風邪やインフルエンザ流行期のNSAIDsの使用を勧めていません。
■一般用医薬品は「商品」ではなく、医療の入り口
先の段落での記述は、私が一人の薬剤師として、患者(購入者)への注意喚起・指導の際に重視する内容の一部です。
患者(購入者)の状況や志向により注意喚起の内容は異なりますし、各々の医師・薬剤師によって、考え方も一様ではありません。時代によっても、正しいとされる見解は変遷するものです。医師・薬剤師など各々の医療者は、自らが学んだ医学的知見や情報などを元に、持論を形成しています。
重要なことは、こうした情報に定型的な「答え」はなく、説明書への記載や、製薬企業のコールセンターによって解決する問題ではないということです。購入時の薬剤師とのリスクコミュニケーション、またそれを繰り返すことで、安全性や治療の精度は向上し、治療への理解も深まるはずです。
先進国では、日本のみが市販薬を商品として扱い、またそれが国民の購買行動にも浸透していることを強調しておきたいと思います。薬剤師を店員と認識してしまえば、困ったときにネット上のジャンク情報を頼ることになってしまいます。
生活圏でよい薬剤師を見つけられ、互いに顔の見えるパートナーとして関係性を構築されるよう、お願い致します。