医療と薬の日記

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「水素水」は効果がありますか?

2016-06-20 19:09:50 | 日記
最近、話題になっている『水素水』について、国立健康・栄養研究所が見解を示したと産経ニュースが報じています。

「有効性に信頼できる十分なデータが見当たらない」 国立健康・栄養研究所が見解


同研究所の情報センター健康食品情報研究室では、『「健康食品」の安全性・有効性情報』というサイトを運営しており、健康食品をどのように理解すべきかといった総論的な内容の他、個別の成分についても主な研究結果を提示したうえで解説しています。
私自身、患者から「〇〇という健康食品を買おうかと思うが、効果はあるか?」といった相談があった際には、このサイトの情報を最初に確認し、必要に応じて個別の論文情報を検討するといった手順を踏んでいます。

「健康食品」の素材情報データベース 「水素水」


この中で、情報センターは下記のように概説しています。

『俗に、「活性酸素を除去する」「がんを予防する」「ダイエット効果がある」などと言われているが、ヒトでの有効性について信頼できる十分なデータが見当たらない。現時点における水素水のヒトにおける有効性や安全性の検討は、ほとんどが疾病を有する患者を対象に実施された予備的研究であり、それらの研究結果が市販の多様な水素水の製品を摂取した時の有効性を示す根拠になるとはいえない。』


いわゆる健康食品について効果があるかどうか考慮する際、研究成果は大きな役割を果たしますが、たいていの場合、「効果あり」とする結果もあれば、同じ成分に対して「効果なし」あるいは「健康被害の報告あり」といったネガティブな評価も存在します。
健康食品を販売する側は当然、「効果あり」の研究成果を引用したうえで、「科学的根拠がある」として宣伝・広告を行う訳ですが、実際に重要な視点は、


『様々な研究成果を総合的に考慮した結果、「効果がある」と総括することが妥当か』

『「効果あり」の場合、その効果は自分が期待する程度に大きなものか』

『副作用・健康被害について、過小評価していないか』

『自分が求める結果を得ることができる、別の確実な方法はないか』


であるはずです。

本来の職責を考慮すれば、薬剤師はこうした「ニーズ」に対し、購入者(患者)の健康利益を第一に考えて相談に乗る存在であって欲しいものですが、「自由な経済活動」を重視する日本ではこうした薬剤師を探すことも簡単ではありません。

情報を吟味し、「かかりつけ」の医師や薬剤師とも相談しながら、どの健康食品を利用するか(もしくは利用しないか)について、検討して頂ければと思います。


医師に市販薬を販売させようとする国、日本

2016-06-14 13:33:12 | 日記
病院や診療所において医師が市販薬を販売できるよう、規制緩和を求める声が一部業界団体や政府委員から上がっていると医薬専門メディアが報じています。
保険医の「OTC薬」提供、高まる解禁論


製薬企業にとって、医療用医薬品を市販薬に転用することで、利益の増加を見込める品目があります。例えば、ロキソニンがこれに当たります。
医療用医薬品は、2年に一度の薬価改正で定価が切り下げられ利益が圧縮されるうえ、特許が切れ、同成分で他社が安価に販売する「ジェネリック医薬品」が登場すれば、さらに大きく売上は減少します。

医療用医薬品としての発売当初は、医師に対する販売促進活動が重要であり、期間が経過した後は、市販薬への転用(スイッチOTC化)に成功すれば利益が最大化されます。
市販薬のリスク分類では、薬剤師の関与が必要な要指導医薬品・第一類医薬品として販売を続けるよりも、規制が弱く陳列場所などの制約がない、第二類・第三類医薬品として販売する方が望ましいということになります。テレビCMなどで直接消費者にアピールし、売り上げを追求します。

医師の職能団体である日本医師会は、スイッチOTC化には反対するのが常です。
「安全性が担保できない」という主張ですが、経済的な側面がないともいえません。現在、花粉症などのアレルギー疾患に対する薬物治療の主流である、アレグラなど「第3世代抗ヒスタミン薬」のスイッチOTC化は、医療機関を受診する患者数に大きく影響しました。

一方、厚生労働省は、医療費の逼迫に対応すべく、市販薬と同一あるいは類似成分の医療用医薬品について、保険償還の見直しを検討しています。市販薬を自費で購入するよりも、病院を受診して保険適用されるほうが安価な状況では、医療費の適正化は困難です。
現在、日本における外来診療の受診数はOECD平均の約2倍です。市販薬類似成分の医薬品が保険償還から外され、負担金の逆転現象が解消されることになれば、患者の流れも大きく変わるだろうと指摘されています。

これを商機と捉え、今回の規制緩和を求める声が上がりました。

今後、市販薬類似成分の医薬品が保険から外されるタイミングで、医師が市販薬を販売できるよう規制緩和を実施する。そうすれば、外来患者の減少を懸念する医師側にもメリットがあり、医師会の反対によって滞っていたスイッチOTC化も推進することができる。さらに、医師が患者に勧めることで「販路の拡大」にも繋がる。

こういった考え方です。
果たして、日本医師会・厚労省はこうした業界団体の提案を受け入れるでしょうか。


■ 規制は何のために存在するのか?

こうした規制緩和案を検討する際、私たちはまず、その規制には本来どういった目的があり、また実際にどのような効果を発揮しているかについて、考えなければいけません。
幸い、日本の医療・薬事に関する規制や制度は、欧州の諸制度を参考に制定された経緯があり、『多少のアレンジ』はあるにせよ、欧米やオーストラリア、ニュージーランドといった先進諸国の状況が参考になります。


市販薬の分野では、薬剤師や販売アシスタント(日本では登録販売者)が患者の状況を聴取した上で、服用に関する助言を行い、適正な使用を担保しています。症状や医薬品の使用状況により、必要であれば医療機関の受診を勧めます。医療機関と違い、検査を行うことができないというデメリットがある他、「医師ではないため、適切な助言・判断ができないのではないか」という意見もあります。
医療保険を利用しないため、公的医療費への負担はありません。

クリニック(診療所)では医師が診療を行います。一般に高額な検査機械は設置しておらず、診察の上、必要であれば大規模な病院に紹介します。高度な検査を実施しない分、医療費も比較的安価です。患者の病状・生活状況について把握しやすく、患者ごとに適切な療養指導(食事・運動・生活上の注意)が実施できます。

大規模な病院では、専門的な検査や治療を担当しますが、その分医療費も高額になりがちです。個々の患者の生活状況などについては把握しづらく、時間をかけた療養指導などにも不向きです。


どの医薬品を市販薬に転用するかは、医薬品そのものの安全性(副作用発現頻度)の他、使用に際して医療者からどの程度介入が必要か、医師・薬剤師など医療職種の人的資源、そして公的医療費のコントロールについて考慮する必要があります。

確かに、「軽い症状でも医師の診察を受けたい」という患者側のニーズは捨て置くべきものではありません。
ただし、OECD平均の2倍の受診数を許容するならば、外来部門において、単純には2倍の医師数、そして2倍の医療費を許容する必要があります。実際、日本はそれを許容しておらず、医師は諸外国よりも安い診療単価で、長時間の勤務を強いられています。患者側も、ゆっくりと医師と相談する時間がない、過労・徹夜明けの医師の診察や手術を受けるといったデメリットを受け入れる必要があります。(当直翌日を休日とすることができる医師は4.4%、予定手術前の当直・オンコールを免除される医師は3.5%)

もし今後、さらに進む高齢化と医療費の逼迫に際して、なお医師の過重労働を前提とした施策を進めるのであれば、今回の規制緩和案はよい選択です。
公的医療費の抑制にも幾らか役立つでしょうし、製薬企業には経済的なメリットがあります。

ただし、今後どこかの時点でこうした方針を転換するのであれば、今回の規制緩和案は完全な悪手です。一度スタートした制度を、なかったことにはできません。


■ 規制緩和はいつか来た道

OTC医薬品という言葉は、近年日本でも目にするようになりましたが、「Over The Counter Drug」の略称であり、「カウンター越しに薬剤師と相談して選ぶ」という、市販薬の購入方法を示しています。
諸外国と比較した日本の医薬品販売制度の特徴は、規制緩和を敢行し、99%以上の市販薬を薬剤師の介入を必要としない分類としている点、そしてこの分類の販売を担当する「登録販売者」がいれば、店舗に薬剤師の配置すら必要ないという点です。OTC医薬品を「カウンター越しの相談・選択」と聞いてもピンとこない方が多いのは、この日本独自の『多少のアレンジ』のためです。

この規制緩和は、商業的な観点からは成功したといえますが、薬剤師による助言・介入の面では大失敗です。日本では多くの購入者が、自分の経験やCMの印象、価格で薬を選択しており、「(医師の診察を受ける必要のない)市販薬は安全なもの」といった誤った認識も珍しくありません。

諸外国では日本に比べ、スイッチOTC化が進んでいます。これは薬剤師や、薬剤師と共に活動する販売アシスタントによる助言・介入を前提としているからです。
市販薬を「利便性の高い商品」として扱う方針を決めた日本では、安全性に目をつぶってスイッチ化を進めるか、それとも再び「独自のアレンジ」を弄して医師をさらなる激務に置くか、それとも誤りを認めるかを問われている訳です。(もっとも、誤りを自発的に認めないのはいずれの国でも同じですから、問題はそれを批判しない、日本のジャーナリズムなのかもしれません)


■ 日本のビジョンは誰が決めるのか

結局のところ、こうした方針について議論するのは政府であり、実際にその役割を担うのが政府主催の会議です。冒頭で記述したように、今回の規制緩和案のきっかけの一つが、政府会議に有識者として出席する医師の意見であるというのは、いささか寂しい気がします。
有識者とは、規制緩和によってどのような社会が導かれ、またそれが望ましい変化であるかどうかを議論するに相応しいという前提ですから。

よく検討し、議論を深めて頂きたいものです。



「かかりつけ薬剤師」の理念を歪めてはいけません

2016-06-03 17:18:41 | 日記
今年度から始まった「かかりつけ薬剤師制度」について、薬局業界では大きな混乱が生じ、制度設計を担当する厚労省・日本薬剤師会に対する反発が広がりました。


これまでも厚労省や薬剤師会は、普段の健康相談から市販薬の購入、処方箋調剤に至るまで、複数の薬局をバラバラに利用するのではなく、信頼できる「かかりつけ薬剤師」を決め、一か所の薬局を利用するよう勧めてきました。
利便性のみを考慮すれば、これは利用者側にとって面倒な話です。市販薬が必要な時には、近くて安いドラッグストアを利用する、病院から処方箋が発行されれば、その都度一番近い調剤薬局へ行く。それが便利に決まっています。

ただし、市販薬販売制度に関しては世界トップクラスの規制緩和を敢行し、処方箋の調剤においても薬局の独立性を担保する規制・制度をことごとく採用しなかった日本において、「薬の利便性と安全性が両立する」といった説明が空虚に聞こえることも事実です。

医療や制度に関心の高い一部の人たちが、制度が信用に足るとは限らないという「自衛」の観点から積極的に「信頼できる薬剤師」を探す一方、「国が作った制度なのだから、きっと大丈夫だ」「製薬企業や医師は信用できる。間違いはない。」と高を括る人たちも少なくありません。
「薬剤師には何でも相談する。非常に助かっている。」
「薬局では薬を受け取るだけ。薬剤師が何の役に立つのか分からない。」
こうした相反する意見は、現在の状況をよく反映しているように感じます。


こうした中、「かかりつけ薬剤師制度」が始まりました。

『患者側は複数の薬局を利用しつつ、一人の薬剤師を「かかりつけ」として指名することで、服薬中の全ての薬について相談したり、管理指導を受けることができる。薬剤師はこのフィーを算定するにあたり、実務経験や研修認定、医療に係る地域活動といった要件をクリアする必要がある。』

簡単にいえば、このような制度です。

患者側の行動を誘導する意味では、一か所の薬局を利用すれば負担金を減額するといった、「お薬手帳と同様の負担金設定」を採用すべきです。ただ現状では、薬剤師をどういった指標で選ぶべきか分からないという患者も少なくありません(実際に簡単なことではありません)。
手始めに「複数の薬剤師を見比べましょう」というメッセージを送り、徐々に制度を整えようとする厚労省の意図は理解できます。

参考: 「かかりつけ薬剤師制度」の料金設定と登録方法



■混乱を生んだ算定要件「医療に係る地域活動」
薬剤師側が満たすべき要件の一つである『医療に係る地域活動』について、厚労省が発表した内容は次のようなものです。

   医療に係る地域活動の取組に参画していること
   (地域の行政機関や関係団体等が主催する講演会、研修会等への参加、講演等の実績)

文言をそのまま読み取れば、各地域で定期的に開催されている行政や医師会・薬剤師会主催の研修会を聴講するだけで、要件をクリアすることができます。
「講演等の実績」として、自薬局で地域住民向けの講演会を主催し、そこで講師を担当することも可能です。医師・薬剤師ともに、一人ひとりの患者に割くことのできる時間は短いものです。講演を行うことで、ある程度の時間をかけ知識を伝えるようになれば、地域の健康水準の向上にも役立つことでしょう。

ところが、こうした内容を届出書に記載した薬剤師の多くは、要件を満たさないとして地方厚生局から届出を却下されました。
その一方で、ある地方薬剤師会では「日本薬剤師会の要請に応じキャンペーンポスターを薬局内外に掲示、地域住民に周知するとともに、相談・質問に対応した」ことで要件がクリアできるとの案内があったと指摘されています。

これは、厚労省が発表した文言とは明らかに趣旨が変わっています。業界は大きく混乱しました。


■厚労省と大手調剤薬局チェーンの駆け引き
この混乱の裏には、厚労省と大手調剤薬局チェーンの間で、政治的な駆け引きがあったと囁かれています。

今回新設された「かかりつけ薬剤師制度」では、算定の拡大を狙う勢力が国会議員に働きかけ、要件である実務経験を、当初予定していた「5年以上の薬局勤務経験、当該薬局在籍1年以上」から「3年の経験と在籍半年」へと緩和させた。「地域活動」の締め付けは、その意趣返しである。

といった指摘です。

実際、市場化著しい調剤薬局業界では、加算点数を算定するため患者への強引な勧誘が横行していると批判され、業界に対する国民感情を悪化させるとともに、医療財政の圧迫にも繋がっています。

患者側に『信頼できる「かかりつけ薬剤師」を選びましょう』と言うのであれば、制度設計側にも信頼に足る薬剤師の質を担保する責任があります。
議員に働きかけ、実務経験の短縮を求めるという行為は実際にあったのかどうか。あったのだとすれば、実務経験3年で十分とする見解とはどういうものだったのか、尋ねてみたいところです。


■厚労省が示した「医療に係る地域活動」の具体例
4月に始まった「かかりつけ薬剤師制度」ですが、この混乱は5月19日に厚労省が疑義解釈を発表するまで続きました。

厚労省はこの疑義解釈の中で、当面の間、行政機関や学校等の依頼に基づく医療に係る地域活動(薬と健康の週間、薬物乱用防止活動、注射針の回収など)や休日・夜間薬局への参画、学校薬剤師業務を認めるとしつつ、

〇 地域包括ケアシステムの構築に向けた、地域住民を含む、地域における総合的なチーム医療・介護の活動
〇 地域において人のつながりがあり、顔の見える関係が築けるような活動

が制度の趣旨であること、具体的な事例として

1、地域ケア会議など地域で多職種が連携し、定期的に継続して行われている医療・介護に関する会議への主体的・継続的な参加
2、地域の行政機関や医療・介護関係団体等(都道府県や郡市町村の医師会、歯科医師会及び薬剤師会並びに地域住民に対して研修会等サービスを提供しているその他の団体等)が主催する住民への研修会等への主体的・継続的な参加

を挙げました。

公共の福祉に寄与すべき薬剤師という職能の性格上、また保険医療に携わる公的な責務を考慮すれば、「かかりつけ薬剤師」を調剤報酬制度において定義するにあたって、地域医療活動への貢献が重視されることは十分に理解できます。

実際に「小児かかりつけ診療料」では、その要件として初期小児救急への参加、乳幼児健診の実施、定期接種の実施、在宅医療の実績、幼稚園園医・保育園嘱託医への就任のうち、3つ以上の該当を求めています。程度云々は別として、その意義を否定できるものではありません。


■大手調剤薬局チェーンに対する過剰な敵対心
しかし、この疑義解釈の内容に潜む、厚労省と日本薬剤師会が抱える「大手調剤薬局チェーンに対する過剰な敵意」には注意が必要です。

要件として設定された地域ケア会議や住民向け研修会について、協力する薬剤師が足りず運営に困難を抱える地域も少なくないと聞きます。今回の件で、薬剤師会に入会するチェーン薬局の薬剤師は増加し、地域医療活動の維持、職能としての薬剤師のガバナンス強化に役立つのかもしれません。

しかし、小児科医のケースと異なり、多くの地域では地域ケア会議・住民向け研修会の実施機会は、参加を希望する薬剤師数より少ないはずです。そして、そういった会議・研修会を差配するのは地域薬剤師会です。
今後、この要件を厳密に運用するならば、「かかりつけ薬剤師」の資格を持つのは、地域薬剤師会の幹部、そして彼らが経営する薬局に勤務する薬剤師ばかりになってしまいます。
大手調剤チェーンに対す過剰な敵意は、そこに勤務する薬剤師に対する否定的な感情にも繋がりかねません。もし日本薬剤師会側に「かかりつけ薬剤師」は自分たちこそがふさわしい、という思いがあるのだとすれば、それは明らかに間違いです。

「かかりつけ薬剤師」とは本来、信頼に足る薬剤師を選び、密接な関係性を保つことで健康上の利益を得るという、患者側の主体的な行為です。過剰な勧誘を危惧するのであれば、制度の趣旨や適切な選び方を、繰り返し患者や国民に向けアナウンスするしかありません。

そして日本薬剤師会が薬剤師を代表する職能団体なのであれば、本質的に重視すべきは薬剤師の自律性を妨げる、市場主義といった影響から薬剤師を守る方策や制度設計であって、チェーン薬局に勤務する薬剤師を制度から排斥することではありません。
もし薬局の多店舗化自体が、薬剤師の職業的善意より経済利益を優先させる圧力の主要因であり、構造的な問題だと考えるのであれば、実力のある若手薬剤師が大きな資本やコネなしに開業できるよう、業界の仕組みやルールを整備することが日本薬剤師会の役割です。

分業バブル時には医師会‐薬剤師会のコネクションを駆使して経営する薬局数を増やし、自身が退職する際には経営権を大手チェーンに売却した薬剤師会幹部も少なくないと聞きます。自分たちがどのような社会・業界を作ろうとしているのか、よく考える必要があります。


■日本薬剤師会の求心力低下
近年、日本薬剤師会の組織率低下が危惧されていますが、それは大手チェーンに勤務する薬剤師が増えたという理由ばかりではありません。職能団体として薬剤師会が本来保持すべきビジョンが明確でない上、中小チェーン薬局の利益維持・大手チェーン薬局への対抗に矮小化された政治的な行動は、多くの薬剤師の失望を買い、帰属意識の妨げとなっています。
日本薬剤師会が中小薬局チェーンの利益団体として行動するのであれば、大手チェーンに所属する薬剤師が日本薬剤師会に加入する理由はありません。

中医協などの厚労省会議において、業界のパワーバランスにより毎回のように差別的な業務内容を強いられる状況も、薬剤師会離れの要因となっています。
例えば、今回の「かかりつけ薬剤師」の要件を見れば、「かかりつけ」として機能するためには、地域の多職種連携が必須であると読み取ることができます。そうであれば、そもそも処方箋を発行せず医薬分業を否定する、あるいは在宅医療に関し薬剤師・栄養士等の医療職種の訪問管理指導を指示しない医師は「かかりつけ」に相応しくありません。ところがこうした「お題目」は、薬剤師が強要されることはあっても、医師に適用されることはありません。これが医療業界に横たわる「暗黙のルール」です。

数十年変わることのない、こういった状況を見た薬剤師が
  「状況を打開するのは日本薬剤師会ではなく、大手資本による政治力だ」
と考えたとしても、それを責めることはできません。

現在、薬局はその存在意義を問われる段階にあります。
薬局に関する様々な問題は、そこに至る理由もなく、ただ真空に存在するのではありません。業界の歪みを放置したまま、それに対峙することなく矛先を別の箇所に向けたとしても、問題の本質は変わらず別の歪みが生じるだけです。