医療と薬の日記

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緊急避妊薬の規制緩和について(全国の薬剤師の先生方、そして市民の皆さまへ)

2020-10-12 12:21:39 | 日記
私たちは現在、緊急避妊薬(アフターピル)の医薬品分類を現在の「処方箋医薬品」から「処方箋医薬品以外の医薬品」に変更するよう求める署名活動を行っています。

薬剤師以外の方々にとっては多少ややこしい話だと思いますので、簡単にご説明します。
通常、医師・歯科医師から処方される医薬品(医療用医薬品)には二種類あり、「処方箋医薬品」の場合は医師・歯科医師による診察、処方が必須ですが、「処方箋医薬品以外の医薬品」では必須ではなく、必要な場合には、処方箋なしで薬剤師が患者さんに販売・交付することが可能です。
市販用パッケージの箱が付くわけではない、ネット販売ができない、製薬企業が薬品名を紹介するCMを流せない、などの制約はありますが、緊急避妊薬を薬局で販売する際に諸外国の多くが分類するBPC医薬品(behind the pharmacy counter 購入時に薬剤師のコンサルティングを行う医薬品)に、最も近いカテゴリーだと私たちは考えています。現在、海外では76カ国でBPC医薬品、19カ国でOTC医薬品として、薬局で販売されています。
※CMの制約とは、商品名を紹介し「医師にかからず、自分で対応できる」といった内容で制作できないだけで、啓発する形の「緊急避妊が必要となったとき、薬で対応できます。医師または薬局の薬剤師に相談してください」といった内容は可能です。

この度、神奈川県の薬剤師の先生方に向け、緊急避妊薬の規制緩和について情報提供させて頂く機会を得ました。その文章を、この場でもご紹介いたします。快く転載について許可して下さいました関係者の皆さまに、御礼申し上げます。
私自身は、医療従事者の間で行われる議論が、閉じたものであってはならないと思っています。医療や医療制度は、社会の全ての方々に繋がっています。
神奈川県以外の地域で活動されている先生方、また社会の多くの方々にもご覧いただき、緊急避妊薬をどのような形で必要とする方々に届けるべきか、一緒に考えて頂ければと願っております。

緊急避妊薬に関する現在の状況ですが、政府の方針として「緊急避妊薬を医師の処方箋なしに薬局で購入できるよう検討する」と改めて示され、
①緊急避妊薬に関する専門の研修を受けた薬剤師
②対面で服用させる
といった条件の下、厚生労働省で再び議論がスタートすることになりました。
私見ですが、①②のいずれも、大きな問題があると思っています。

(以下、神奈川県薬剤師会会誌「薬壺2020年9.10月号」より転載)

緊急避妊薬の分類を「処方箋医薬品以外の医薬品」へ!  
あおば調剤薬局 高橋秀和

この度、神奈川県の薬剤師の先生方に対し、緊急避妊薬について情報提供する寄稿の機会を頂戴しました。ご厚意に感謝いたします。
私たちは、インターネット署名サイトChange.orgにおいて、緊急避妊薬(ノルレボ錠、レボノルゲストレル錠)の医薬品分類を「処方箋医薬品以外の医薬品」カテゴリーに変更するよう求める署名活動を行っています。

緊急避妊薬はアフターピルとも呼ばれ、避妊の失敗あるいは性被害の事後に服用し、意図せぬ妊娠を防ぐ薬剤です。行為から72時間以内のできるだけ早いタイミングでの服用が推奨され、妊娠阻止率は81.0%です。(国内第Ⅲ相臨床試験 72時間以内服用時)
海外では、すでに多くの国・地域においてOTCあるいはBPC医薬品として提供されています。日本では平成29 年に要指導・一般用医薬品への転用が議論されたものの、「悪用が懸念される」「若い女性は知識がない」「市販薬のネット販売を認める日本の現状では、薬剤師が管理できない」などの理由から転用が見送られました。
その後、インターネット診療での緊急避妊薬処方の要件が緩和され、研修を受けた薬剤師が医師から郵送された処方箋に基づき調剤・交付できるようになっています。

OTC / BPC化で先行する諸外国の状況の検討では、規制緩和後に緊急避妊薬の使用量は大きく増加したものの、残念ながら意図しない妊娠が減少した統計学的な結果は出ておらず、理由として「未だ緊急避妊薬の利用が不足している」「利用者に対し、継続的・効果的な避妊方法を選択するよう勧める介入が不十分」といった可能性が指摘されています。

先進国の趨勢として、緊急避妊薬を含む避妊方法へのアクセス保障(価格的、地理・時間的)は、「女性の権利」あるいは「性と生殖の権利」の観点から重要な問題と認識されています。
一方、日本の医療・医薬品販売制度に目を転じると、「医師以外の医療従事者(コメディカル)」の主体的な業務の不足(→医師の多忙化、医療の高コスト化)、市場主義に傾斜した市販薬販売制度(→購入者と薬剤師との関係性の希薄化、自己責任化)といった特徴があり、緊急避妊薬のような医療介入を伴う薬剤の規制緩和がしづらい状況にあります。


男女の格差を国別で比較した 「ジェンダーギャップ指数」では、 日本は121位(調査対象153か国、 2019年)と低迷しています。
フェミニズム理論では、「女性の抑圧」を当然視する思考を『家父長制(パターナリズム)に由来する考え方』として説明しますが、 この「上位者は下位者を保護するために干渉し、自由や権利に制限を加えるのも仕方がない」とする思考様式は、「権威主義」あるいは「ヒエラルキー(ピラミッド型 の組織構造)」といった価値観と親和性が高く、この国の「医療制度」あるいは「医師と薬剤師の関係性」に関しても、同様の文脈を読み取ることができます。

女性が男性から抑圧される社会では、多くの関係性が 同様に「抑圧」と「被抑圧」、「支配」と「被支配」をベースとして構築されます。
薬の専門家であるはずの私たち薬剤師が、残薬の調整すら医師にお伺いを立て、報告しなければ実施できないのは、日本の社会・医療業界が、強固なパターナリズムを手放すことができないからです。

こうした日本の医療・薬事制度、医療文化の形成には、医療や医薬品に関わる各職能団体・市場関係者の政治力も多分に影響していますが、結果として国民や患者の健康・権利をないがしろにしている面があります。
政治力を背景とした制度設計に粛々と従うことは、私たち薬剤師が不自由な思いをするのにとどまらず、患者や利用者といった立場の方々を間接的に抑圧することになります。


この数十年で、世界中の国々において患者の権利が尊重されるようになり、患者と医療従事者、あるいは各医療専門職の関係性も、上下関係ではなく、対等なものとして理解されるようになりました。
制度設計担当者や団体トップのみならず、地域医療に従事する私たち現場薬剤師も、緊急避妊薬を取り巻く現状を重く受け止め、行動に表すべきと考えています。


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