抹茶味の珈琲店

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小説第5話「出来損ないの後始末」

2009-02-05 01:26:27 | Cynical Knight

正月絵を描かなかったということで、

3日連続更新開始~

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 僕が次に目を覚ましたのは夜のことだった。いや、より正鵠を期すならば“夜”ではなく“早朝”なのだが、いずれにせよ真っ暗なのでその時の僕には判別できなかった。
 体を起こすとめまいがし、身体の節々が痛んだ。はて何かあったかなと自分の腕を見ると、腕には包帯が巻いてあり、その包帯の下には点滴の管が通っていた。
「……そういや、僕は爆弾で吹っ飛んだんだっけ?」
 誰に言うともなく、他人事のように呟いた。
 実感がわかなかった。

 他人事かもしれなかった。
 よくあるSF物語よろしく、気絶している間に誰かと体が入れ替わったのかもしれない。だとしたら、僕は誰か分からない一個人として、新しく人間関係を築かなければならない。面倒な話だった。
 しかし、それにしてはこの体は体格から姿勢まで、僕の体に非常に似ていた。低い身長、細い腕。「あ~」と声を出してみると、僕とそっくりな声がした。
 オーケイ。妄想はこの程度にしておこう。
 この体は僕の体だ。

 僕は『救護用』とのタグのついたベッドから降り、眠い目をこすりつつふらふらとロビーに向かった。

 ロビーでは小さなランプが薄明るく部屋を照らしていた。そして、受付にはリヒターさんが、ブラックコーヒーをマグカップに盛って(この表現は間違いではない。彼は表面張力ギリギリにまでコーヒーを『盛って』いたのだから)、いつも通りのうすら笑いで座っていた。
「やあ、少年」リヒターさんはマグカップを器用に振りながら言った。「オハヨウゴザイマス」
「おはようございますって……今は夜でしょう?」
「早朝だよ」
「さいですか」
 どうでもいいことだった。
 本当にどうでもいいことだった。

「あー…ところでリヒターさん、ひとつ伺ってもいいでしょうか」
「だめだ」
「…………」
「……冗談。いいさ。何でも聞きたまへ」
 相変わらず冗談に聞こえない冗談を言うリヒターさんだった。
「………あの後、どうなったのですか?僕が倒れた後、です。」
「おまえは気絶してた」
「………いや、それ以外で」
「冗談」
「…………」
 いや、だから冗談に聞こえねえって。

「はっはっは、やっぱお前の困った顔って最っ高に面白れーわ。いじり甲斐があるゥ~。大好きだよ、少年。」
 リヒターさんは楽しそうに両手を広げて言った。
 そんなに僕の困り顔は楽しいか……?
 しかし、僕には別に特殊な趣味はないので、男に「大好き♪」などと言われてもうざったいだけだった。
 あー、やっぱこの人面倒くせえ。

「ま、冗談はさておき。アホな顔して瀕死の重傷を負った情けねえ顔の少年を慈悲深き俺様が拾い上げて背負って帰ったってことだ」
 リヒターさんの話にはものすごい誇張があるように感じた。
 敢えてつっこむようなところではないのでスルーするが。
「しかしお前、何も爆弾を使うことはなかったろ。あんな狭い路地でニトロを爆発させようなんて、よほどのバカか死にたがりじゃないとやらねえぜ。それが成功しようと失敗しようと、手前に当たるのは小学生が考えてもわかることじゃねーか」
「まるで見てたかのように言いますね」
「『見えて』いたんだ」

 そうだった。この人は≪不可視の可視(アンチイビジブル)≫と名をつけられるような男だった。
 かつて世界中を敵に、暴れまわったチーム「砂塵の一群」に雇われていた傭兵。個性の強い「チーム」の中でも抜群の強さを持った実力者。半径30キロメートルまでの範囲を常に把握し、近づく者を近づく前に始末する天下無双の始末屋。当時のことを本人は話したがらないが、リヒター=L=マルクルの噂は僕だって知っている。≪不可視の可視(アンチイビジブル)≫、≪抹殺の使徒(キラ・ザ・キラ)≫、≪闇夜(スクープ)≫、≪虚無の悪魔(ヴァニティーデヴィル)≫など、この人につけられた二つ名は枚挙に暇がない。「その姿を見たものは失明する」「地球を爆発させることができる」等と、言われのない噂も流れているが、さすがにそれほどの力をもつ人間はいないだろう。とはいえ、火のない所に煙は立たぬ。それ相応の実力はあるということだ。

 そんなすごい人がなぜこんなところにいるのかというと、簡単なことである。「砂塵の一群」のリーダーが捕まり、チームが解散してフリーになったところを、僕らのギルドのマスターが拾ったのだそうだ。ちなみに余談だが、「砂塵の一群」のリーダーを捕まえたのはマスターである。

 ・・・・・・リヒターさんとマスターの話を進めると、自分が本当に小さい人間に見えてしまうからもうやめよう。
 あ、朝焼けだ。空をあさぎ色に染める太陽。きれいだなあ。

「・・・・・・どうした?少年」
 リヒターさんの声で僕は現実に引き戻された。
「いや、なんでも」僕はチャンネルを回想モードから対話モードへと切り替える。「ところで、僕はどうやって助かったんですか?とても無事では済まない傷を負ったような・・・」
「ああ、お前、ニトロですっ飛ばされたんだったな。・・・・・・たしか夕べ、俺がお前を連れ帰ったとき、マリアの奴が治療してたんだっけな。よく覚えてないけど」
「夕べ・・・・・・?」

 つまり僕は一晩だけ気絶したのか。
 たいした回復力だった。

「・・・・・・いや、治療って言うとちょっとずれるな。・・・・・・あれだよ、えっと、ピッキング?」
 ・・・・・・傷口をこじ開ける?
「治癒術(ヒーリング)ですね
「そうそれ」
 そうだ、マリアさんってたしかヒーラーだ。
 ていうか、ヒーリングとピッキングって間違えないと思うんだけど。

「それで、そのヒーリングってやつはすごいもんでな、お前の体の傷をたちどころに塞いじまうんだ。あれは見ていて興味深かったね。神秘的、とでも言おうか」
「そうですか・・・・・・・・・・・・そのわりには体の節々が痛いんですけど」
「おいおい、おいおいおいおい。ビーピングは万能治療法じゃないんだぜ」・・・・・・ビーピングって何よ?「ビーピングで治せるのは外傷だけだ。打ち身や筋肉痛は治らないし、流した血液だって戻ることはない。お前は今、極度の貧血状態のはずだ」
「・・・・・・ああ道理で。さっきから頭が重いんですよ」
「そういうことだ」

 リヒターさんはそう話を切って立ち上がり、食料庫を開けて何やらいろいろと持ってきた。
 卵、茄子、豚肉、鶏肉、牛肉、羊肉、馬肉、肉、肉、肉、肉。
「・・・・・・なにやってんすか?」
 スルーしたかったができなかった。僕は思わずつっこんでしまった。

 リヒターさんは構わず話し始める。
「さて、ここにある食品の共通点は?そう、タンパク質だ。さっきも言ったとおり、お前は相当量の血を失っている。このままじゃ最悪、死んでしまう。ではどうするか?そこで、お前にこれら全てを食べてもらうことにした。血の素になるタンパク質が豊富な―――」

「ちょっと待ってください」僕は話を遮った「血が足りないからってタンパク質ばかり摂ればいいってわけじゃないし、それに―――それになすびが入ってるじゃないですか!」
「んあ?別にいいんじゃね?茄子は英語でエッグプラントと言うんだぞ」
「だからってエッグというわけではないでしょうが!」

 ああもうこの人は。本当にあの悪名高いリヒター=L=マルクルなんだろうか。
 このやりとりを楽しんでいるという意味ではたしかに悪だが。

「・・・・・・ところで少年、お前が助かったのはマリアのイーティングが適切だったというのもあるが、もうひとつ理由があるんだぜ」・・・・・・イーティング?何を食べる気だ。「お前の体、爆弾で飛ばされたのに全くやけどの跡がないんだ」
「ああ、それについては言ってませんでしたっけ?僕は生まれつきやけどを負わない体質なんですよ」
「ふーん」
 うげ。
 まるきり信じてない目で見られた。
 その道ばたで行き倒れたハ虫類を見るような目で見るのはやめてくれ。

「まぁいいや。それより少年」
「・・・・・・・・・・・・何でしょう?」
「20万ヘペル、全部俺様がいただいたからな」
 そう言ってリヒターさんはコーヒーを飲み干した。

 逃げ回っていた人に報酬を持ってかれるのはなんだか理不尽だが、20万の使い道はこれからのギルドの運営資金として、(今現在マスターも副マスターも不在なので一応)最高責任者のリヒターさんが預かるという形で受け取っていたので、まあ今回は信じるとしよう。リヒターさんを信じて報われたことは、ないこともなかった気もしないでもないわけではない。

 ちなみに、後日、ダランテ公爵家から郵便が届いた。
 それにはこう書かれていた。
『請求書:リヒター殿  爆弾で壊した塀の修理代 20万ヘペル』
 ―――そんなオチ。


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2 コメント

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3連続更新は嬉しいけど絵、見たかったな・・ (守護)
2009-01-25 16:24:35
1人称はこれからも俺で行きます。
ごっちゃになるような出来事があったもので間違えてました。

リヒターさんが個人的にすっごく理解できるキャラです。
でも「あー、こんな人いるわ」じゃなくて
「あー、こんな人(ウィルk)がいるといじり倒したくなるよね」っていう方向に。
リヒターさんと話したい。

まぁ更新頑張ってください。
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Unknown (キシケイ)
2009-01-28 19:53:22
三日坊主リーチになりかけてなくね?
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