外から帰ってきて家のドアを開けたときに、ふと
「ただいま。」
と呟いてみる。
誰にともなく―
いや、違う。ちゃんと"目標"に対して言ったのだ。
そう、あの
蜘蛛に向かって。
誤解しないでほしい。
決して一人暮らしの寂しさから思わず
口をついて出たとか、そんなんじゃない。
ただ、思いついただけだ。
しかし、靴を脱いでダイニングを奥へと進み、
いつもの場所を見上げてみると・・・
そこに、蜘蛛の姿は無かった。
蜘蛛は時々違う場所に移動していることがある。
以前は玄関の照明灯付近に留まっていたし、
その前は洗面所の壁あたりでじっとしていたこともあった。
しかし、それらの場所を探してみるも、
そこに蜘蛛はいなかった。
ダイニングの隅々の壁を見渡してみたが、
やはりその姿を捉えることはなかった。
向いのホーム 路地裏の窓
こんなところにいるはずもないのに
結局見つけることはできず、諦めて自分の部屋に入った。
蜘蛛は一体何処へ行ってしまったのか。
もしかしたら、もう・・・・・・
いや、きっとまた家の隅っこのどこかで別の居場所を見つけたのか、
あるいは隙を見つけて外に飛び出したに違いにない。
そしてそこで巣をはり、同じようにひっそりと獲物を待ちながら
生きているのだろう。