Vanteyのアース線(もしくは枯れた資料帳)

怠け者のウィキメディアン・Vanteyの、脳内が帯電してきた時のはけ口。非百科事典的。過度な期待はしないでください。

「二次元版権モノ」記念切符の先例(3)西武鉄道〈上〉

2010-12-11 08:11:15 | 陸上交通
ここ数回、「二次元版権モノ」鉄道記念切符の事例を幾つか振り返って考察しています。
今回はその3回目。

(1)近江鉄道 (2)信濃大町駅


■case 3-a. 西武鉄道×『銀河鉄道999』(第1回発売・2008年3月)
日本のアニメ制作産業の多くは東京西部の中央線および西武線の沿線地域に集積しており(*9)、近年ではこの事実に着目した地元自治体がアニメ産業を町興しのシンボルに祭り上げる動きがほうぼうでみられます。

中でも練馬区の大泉には、映画会社・東映のアニメ製作子会社として1957年より同社東京撮影所の一角に拠点を据えた、業界老舗の東映アニメーション株式会社(1998年東映動画株式会社から商号変更)が所在することで知られています。
また漫画家の松本零士先生は1963年(当時25歳)以来大泉在住で(*10)、先生の著作のいくつかは東映動画にてアニメ化されて国民的な有名作品となっています。

練馬区はアニメ産業とは縁の深い土地で、古くは東映動画と並び日本の本格的アニメ黎明期を代表する制作会社の一つであった(*h)株式会社虫プロダクション(旧虫プロ)も区内富士見台所在でした(*11, i)。
2006年9月現在のアニメ企画・製作・制作事業会社全国626社のうち94社が練馬区に所在し、自治体単位では国内最大の集積地となっています(*9)。
2006年テレビ放映作品『おろしたてミュージカル 練馬大根ブラザーズ』(監督: ワタナベシンイチ、アニメーション制作: スタジオ雲雀)(*j)のような、区内企業の制作によるご当地アニメもあります。

こうしたことから区は、2007年の独立60周年(*k)を機に「アニメのまち 練馬区」として町興しを行っており、同年8月には最初の区内アニメ産業振興イベント『ねりたんアニメカーニバル』(主催: 練馬区観光協会)(*12, 13)が独立60周年記念事業の一環として(*14)練馬文化センターで開催されました。

そして2008年3月16日には2つ目の振興イベントとして、大泉地区の複数会場にて『ねりたんアニメプロジェクト in 大泉』(主催: ねりたんアニメプロジェクト in 大泉推進連絡会)が行われました(*10, 15, 16, 17)。
(ともに大泉にゆかりの)松本零士先生の原作が東映動画でアニメ化された中には『銀河鉄道999』という鉄道をテーマとした有名作品があることから、このイベントには西武鉄道株式会社が協力という形で一枚噛むこととなり(*l)、大泉学園駅において松本先生の一日駅長就任、また999号の車掌(架空の人物、役名設定なし)の「名誉駅長」(*m)就任式およびそのFRP製立像(名誉駅長就任の記念オブジェクトという名目。同日より構内に恒久設置)の除幕などが行われました。


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余談ながら松本先生は、このような長年の区内産業や地域振興への貢献が評価されて、この後の2008年秋には練馬区名誉区民に選出されています(*18, 19, 20)。


さて漸く本題の記念切符の話。
西武鉄道は本イベントを記念し、これに先立つ2008年3月12日(水)から『銀河鉄道999』を主題とした記念切符を発売しました(*16, 17)。

 ▼体裁: 無装飾のA型硬券×4枚 + 3つ折台紙
 ▼券種: 片道乗車券(金額式)
 ▼発売額: 990円
 ▼発売数: 3,000セット
 ▼発売期間: 20日間
 ▼有効期間: 発売開始日から20日内(発売月の月末まで)の1回限り有効
 ▼通信販売: なし




発売駅は、江古田・桜台・練馬・中村橋・富士見台・練馬高野台・石神井公園・大泉学園・新桜台・豊島園・上石神井・武蔵関の練馬区内12駅。
また、券番「0999」の切符は初めから発行されませんでした。争奪防止のためでしょうね。

券面には記念事由の記載は特になく、普通な感じのA型硬券です。
西武は切符の券面に関しては、この頃までは保守的だったんでしょうかね。西武が変わり物の記念硬券を次々と出し始めるのは翌2009年以降となります。


この時の発売方法で一つ注目すべきは、発売開始時刻を「12:00 から」としていた点です。
平日に徹夜の購入列ができることへの警戒かもしれませんし、あるいは主婦などの真人間が購入列に並べるようにとの配慮かもしれませんが、実際の理由は不明です。
しかしその後の西武の記念切符発売案件において正午発売開始の続例が無い(*n)ことから、この発売方法は成功ではなかった(と社内では判断された)と思われます。

この切符がどのくらいの時間で完売したかはわかりませんでした。
大都市部における発売で、しかも一般層にも訴求する有名題材を用いていて、3,000セットというのはやや少ない気がしますし(でも発売単価も高いのでこんなものか?)、16日のイベント当日でも買えたのかどうかは極めて怪しいです。
発売数3,000セットを発売駅数12駅で割ると、単純計算で1駅あたり250セットの割当てとなったはずです。←これは会場となる大泉学園駅への傾斜配分がない場合ですが。
まあでも新桜台や豊島園よりも乗降客の多い練馬や石神井公園や大泉学園や上石神井のほうが売れるでしょうから、傾斜配分はされていたのではないかと想像します。


(続く)
(1)近江鉄道 (2)信濃大町駅 (4)西武鉄道〈中〉 (5)西武鉄道〈下〉

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(*h) = 東映動画は日本におけるカラー長編劇場アニメの創始者(1958年『白蛇伝』)、虫プロは30分連続テレビアニメシリーズの創始者(1963年『鉄腕アトム』)。
(*i) = 手塚治虫は虫プロ創業前、東映動画の嘱託であった時期がある。因みに新虫プロも練馬区富士見台に所在。
(*j) = 株式会社スタジオ雲雀は練馬区豊玉北に所在。合同会社練馬アニメーション協議会の代表社員でもある。
(*k) = 練馬区は1947年8月1日に板橋区から分離独立して成立。これにより現在の東京都の23特別区体制が確立した。
(*l) = 西武鉄道はこれより前、2007年8月の『ねりたんアニメカーニバル』の際にもこれに協力し、ヘッドマーク装着列車を運行していた。
(*m) = 一日駅長自体、名誉駅長の一形態である。
(*n) = 2010年10月10日発売の『10.10.10記念乗車券』で、 9:00 発売開始とした例はある。ただしこれは日曜の発売で、発売駅も池袋・西武新宿・所沢・国分寺・武蔵境の主要ターミナル5駅に限られていた点に注意。

(*9) = 平成18年度ナレッジリサーチ事業コンテンツ産業の方向性に関する調査研究(アニメ制作会社の現状と課題)』 (PDF) p.12、独立行政法人中小企業基盤整備機構経営支援情報センター、2007年3月
(*10) = 「ねりたんアニメプロジェクトin大泉」が開催されました - 練馬区観光協会、2008年3月
(*11) = 練馬区のアニメの歴史 - 練馬アニメーションサイト、2010年
(*12) = 練馬区 報道連絡メモ アニメで祝う独立60周年「ねりたんアニメカーニバル」開催 ~練馬区独立60周年記念事業・ねりまでたんじょうしたアニメを祝う~ (PDF) - 練馬区区長室広聴広報課報道係、2007年7月10日
(*13) = ねりたんアニメカーニバルが開催されました - 練馬区観光協会、2007年8月
(*14) = 練馬区独立60周年記念事業 - 事業の一覧 - 練馬区公式ホームページ、2007年
(*15) = 練馬区 報道連絡メモ アニメ「銀河鉄道999」の車掌さんが西武池袋線大泉学園駅の名誉駅長に ~原作者の松本零士さんも一日駅長に就任。ねりたんアニメプロジェクトin 大泉始動!~ (PDF) - 練馬区区長室広聴広報課報道係、2008年2月28日
(*16) = 西武鉄道 「ねりたんアニメプロジェクト in 大泉」に協力 - 鉄道ホビダス、2008年2月28日
(*17) = 西武鉄道協力の「ねりたんアニメプロジェクトin 大泉」開催 - railf.jp、2008年2月29日
(*18) = 漫画家・松本零士氏が練馬区の名誉区民に - MSN産経ニュース、2008年9月18日
(*19) = 「銀河鉄道999」の松本零士氏 練馬区名誉区民に選ばれる - アニメ!アニメ!、2008年9月24日
(*20) = 練馬区名誉区民の顕彰(平成20年11月5日) - 練馬区公式ホームページ、2008年11月5日

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西武鉄道Webサイト
http://www.seibu-group.co.jp/railways/
西武鉄道
アニメのまち練馬区-練馬区観光協会
http://www.nerima-kanko.jp/anime/
アニメのまち練馬区
ジャパンアニメーション発祥の地 練馬区:練馬区公式ホームページ
http://www.city.nerima.tokyo.jp/annai/animesangyo/index.html
ジャパンアニメーション発祥の地 練馬区
練馬アニメーションサイト
http://www.animation-nerima.jp/
練馬アニメーションサイト
大泉ゆめーてる商店街 (東大泉商栄会)
http://www.oizumi.gr.jp/

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Summary of images:
Description = 大泉学園駅一日駅長就任式における、西武鉄道株式会社の管区長用制服を着用した松本零士
Source = http://www.flickr.com/photos/yuki80/2336825804/
Date = 2008-03-16
Author = Yuki / Masayuki Kawagishi
License = CC-BY-2.0, Personality rights

Description = ねりたんアニメプロジェクト in 大泉 記念乗車券
Date = 2008-03
Author = (c) Leiji Matsumoto / (c) 西武鉄道株式会社
Permission = 日本国著作権法32条1項に基づく引用


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