Vanteyのアース線(もしくは枯れた資料帳)

怠け者のウィキメディアン・Vanteyの、脳内が帯電してきた時のはけ口。非百科事典的。過度な期待はしないでください。

コンテナ船「Carina Star」の詳細と同型船について

2009-10-29 20:04:37 | Nice boat
さて、今般の早鞆瀬戸における水上衝突事故の当事船のうち、自衛艦「くらま」の方は要目や艦歴がよく知られていますので、特別な言及は不要でしょう。
そこで今回は、もう一方の当事船であるコンテナ船「カリーナ・スター Carina Star」についてまとめてみます。


まず、本船のオペレータ(運航者)は韓国ソウルに本社を置く南星海運株式会社(なんせいかいうん、ナムソン海運、남성해운、Namsung Shipping Co., Ltd.)となっています。
船主も南星海運であるかそれとも傭船であるかはわかりませんが、どうやら自社船っぽいです。

公式の History によると、南星海運は1953年の創業。
1955年より韓国―阪神間の不定期航路を運航し、1964年には定期化。1970年代に入ると木材運搬船による東南アジア航路を開設。
1994年よりコンテナ船に進出して大連、青島、京浜に就航。
1998年には日本総代理店として日本法人のナビックス南星株式会社(2007年4月南星海運ジャパン株式会社に商号変更)を設立。
そして2007年に廈門、香港、ハイフォン(ベトナム)にコンテナ船就航。
2009年内にはホーチミン、バンコク、レムチャバン(タイ)に就航予定(未就航)としています。

こうして見ると、それまでの弱小船社からほんのここ15年で船隊を急拡大したことがわかります。

船隊については南星海運ジャパンの本船Particularに紹介があります。
それによると、

■342 TEU 級 4隻(1994年竣工2隻、1996年竣工2隻)
■706 TEU 級 6隻(1998年竣工2隻、2000年竣工2隻、2003~2004年竣工 710 TEU 積2隻)
■962 TEU 級 4隻(2005~2007年竣工)

となっており、ここ6年内だけで6隻も増備しています。

船体塗粧は灰色で、舷側に白色で「NAMSUNG」のネームを記し、上部構造物は白色、煙突はクリーム色で、
便宜置籍船を用いず旗国は大韓民国とし、コンテナ船の船名には社名に因んでか Star を入れるのが通例になっているようです。


本船「Carina Star」はこの船隊のうち、 706 TEU 級の2番船にあたります。
TEU というのはコンテナ船への積載容量の単位で、 twenty-foot equivalent unit の略であり、20フィートコンテナ換算で何個積めるかというのを表す数値です。
この 706 TEU 級は南星海運では前述のように6隻保有しており、うち後期建造の2隻は少改良され 710 TEU となっています。
船名は1番船「Victory Star」、2番船「Carina Star」、3番船「Liberty Star」、4番船「Bohai Star」、5番船「Korea Star」、6番船「China Star」。

1~4番船の要目は以下の通り。
 全長: 127.937 m
 垂線間長: 119.9 m
 型幅: 20.00 m
 型深: 10.70 m
 満載吃水: 7.41 m
 国際総トン数: 7,401.00 GT (3,4番船 7,409 GT)
 国内(登録)総トン数: 7,401.00 GRT (3,4番船 7,409 GRT)
 純トン数: 3,371 NT (3,4番船 3,334 NT)
 載貨重量: 9,157.035 DWT (3番船 9,164.231 DWT / 4番船 9,143.135 DWT)
 排水量: 12,609.4 t
 コンテナ積載容量: 706 TEU
 主機形式: MAN B&W 8S35MC-MK6
 主機定格出力: 7,600 PS = 5,600 kW
 航海速力: 21.50 kt
 建造所: 株式会社新
 建造地: 大韓民国 慶尚南道 統營市 道南洞

2番船「Carina Star」のアイデンティフィケーションは以下の通り。
 旗国: 大韓民国
 建造番号: SAS-396
 起工: 1998年4月10日
 進水: 1998年7月27日
 竣工: 1998年10月10日
 船舶番号: JJR-049869
 IMO番号: 9172612
 信号符字: DSNS2


次に、本船の造船所の株式会社新(シナ、신아、ShinA)についてみていきます。

ko:SLS조선 によると、創業は1946年6月、新造船工業(신아조선공업)として設立されました。
1978年6月、大宇財閥(だいう、デーウ、대우)の傘下に入りますが、同年設立の大宇造船重工業機械株式会社(慶尚南道巨済市に造船所を持つ。現・大宇造船海洋株式会社)に吸収はされなかったようです。
その後大宇造船の合理化方針のために大宇グループからスピンオフされ、従業員買収(エンプロイー・バイアウト)による新会社として1991年12月に新造船株式会社(신아조선、ShinA Shipbuilding Co., Ltd.)を設立、1998年2月には株式会社新に商号変更しています。
上記の 706 TEU 級各船は、1番船「Victory Star」が1998年3月31日進水、同年6月26日竣工ですから、この社名の時期の建造船ということになります。
同社はその後2006年8月、SLS造船株式会社(SLS조선、SLS Shipbuilding Co., Ltd.)に再度商号変更して現在に至っています。
公式の会社紹介によると、社名の SLS とは “SKY”, “LAND” and “SEA”を表すのだそうです。
現在の設備としては大型の乾ドック3基を備えています。

造船所の所在地は、設立時は慶尚南道統營郡統營邑、1955年9月1日統營邑が忠武市に昇格して統營郡と分離したことにより忠武市道南2洞、1995年1月1日忠武市と統營郡の合併で統營市(トンヨンシ、통영시)道南2洞、1995年5月1日行政洞の統合で統營市道南洞(トナムドン、도남동)と変遷しています。

706 TEU 級コンテナ船はSLS造船の公式でも紹介されており、南星海運向けの1番船「Victory Star」の写真が使われています。
ここでの記載内容は主機形式が B&W 6S42MC となっている以外、上記とほぼ同じとなっています。
同社の標準商品の一つとして他の船主にも同型・準同型船を売り込んでいるのかもしれません。

   *  *  *  *

「Carina Star」の写真を捜してみましたが、私は撮っていませんでした。
船名でウェブ検索すると、以前釜山―京浜航路に配船されていた頃などに撮られた写真を載せたブログエントリが幾つかヒットします。
現在京浜航路(釜山→東京→横浜→川崎→名古屋→馬山→釜山)には姉妹船の「Victory Star」が配船されています。
因みに「Carina Star」は現在は釜山―阪神航路に就航中で、釜山→大阪→神戸→光陽(全羅南道)→釜山の往航時に今度の事故に遭っています。

写真は東京港品川埠頭SCバースにおける「Victory Star」です。





「Victory Star」は明日2009年10月30日0700に品川SDバースに入港し1700出港、横浜港本牧C9バースに1855入港し31日0400出港の予定です。

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남성해운 (韓国語)
http://www.namsung.co.kr/kor/
Namsung Shipping (英語)
http://www.namsung.co.kr/eng/
南星海運ジャパン (日本語)
http://www.namsung.co.jp/

本船 "Carina Star V-945E/W" 接触事故のご連絡 (PDF) (平成21年10月28日)
http://www.namsung.co.jp/info/CST945.pdf

SLS Shipbuilding (韓国語 / 英語)
http://www.slsship.co.kr/

統営(トンヨン)市 (日本語)
http://jpn.tongyeong.go.kr/main/

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Summary of images:
Description = 南星海運社船 「Victory Star」 (DSNR9 / Off.No. JJR-049678 / IMO 9172595)
Date = 2008-12-12
Source/Author = Vantey
License = CC-BY-SA-2.1-JP
Creative Commons License

デスブログを軍事利用した結果がこれだよ!!!

2009-10-29 02:12:20 | ネット全般
柔道家と結婚したことでも知られるタレントの東原さんは、重度のさげまんであるどころか、関わった人や物事の多くが不幸な目に遭う "死神" として恐れられ、彼女のブログはデスノートないしデスブログと呼ばれて有名となっています。
詳細はリンク先参照。因みにこれは伝説のごく一部です。

東原亜希伝説 (バカ集合
http://2chart.fc2web.com/higashiharaaki.html
東原亜希のさげまん伝説 (ほいみんのページ4
http://episode4.net/archives/2008/02/12/205507.html

で、そのブログの2009年8月29日付のエントリで、当日に横須賀市内の自衛隊駐屯地で開催された横須賀市西地区納涼花火大会について言及があったのですが、
はい、|東原亜希オフィシャルブログ 『ひがしはらですが?』
http://ameblo.jp/higashihara-aki/entry-10331287563.html

父父さんのお友達さん宅から
自衛隊の花火を見てきたよ~

(´―`)

今年初花火ー。
そしておそらく最後の花火ー。

今般、横須賀を出港した自衛艦が [ Nice boat ] してしまったのも、このデスブログの呪力のせいだったんだよ!!

 Ω ΩΩ < な、なんだってー!?


こんなに恐ろしい存在なら、当然、軍事利用したらどうかという検討も既出なわけで……

東原亜希ってなんで軍事利用されないの?
http://blog.livedoor.jp/himasoku123/archives/51325472.html
 (暇人\(^o^)/速報 2009年9月9日)

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/09(水) 12:37:22.40 ID:DqEVqYtmO
採用した軍がことごとく壊滅したから

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/09(水) 12:38:22.37 ID:S2fCw2yiO
よーく名前を見てみろ
東亜

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/09(水) 12:39:38.11 ID:tyxZjbo20
「関わり合いになったら不幸が起きる」
の原則事項から危険過ぎて利用しようにも出来ない。
正に災厄人間なのだ。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/09(水) 12:39:45.13 ID:DA/38BBlO
諸刃の剣すぐる

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/09(水) 12:39:55.85 ID:q7sfdUl50
味方にもダメージ与えちゃうからな

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/09(水) 12:42:24.75 ID:t642jaIhO
自衛隊で兵器として採用↓
デスブログで自衛隊に採用されました~★

自衛隊及び防衛省壊滅

\(^O^)/

うわああああああああああああああああああwwww
自衛隊\(^o^)/オワタが既に予言されてるwwwwww

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今度の件がまだ加筆されてないよ! アンサイ民、なにやってるの!!
東原亜希 - アンサイクロペディア
http://ansaikuropedia.org/wiki/東原亜希

平成21年度自衛隊観艦式直前の「くらま」の艦首

2009-10-28 23:56:50 | Nice boat
ニュースになっている最中の時事ネタは本ブログでは基本的にはあまり扱わないのですが、今回のことはさすがにちょっと腹に据えかねます。

だってショックです。先週にはこの通り綺麗だった舳先が………



ニュース映像をよく見ると、あれだけ艦首が潰れていても主錨は2個とも脱落を免れているようなのは、凄いといえば凄いかもしれません(まあ錨なんて仮に亡くしてもそんなに高価でもないものですし、廃艦からスペアも取ってこれますし)。
むしろ水線下にあるバウ・ソナーの損傷状況が心配です。


つうかさぁ、ここんとこ「観艦式」でブログ検索しては他の方々の体験談を楽しみに読んでたのに、もうこれから新規の体験談が出てこなくなるじゃないか。出てきてもノイズ的情報やら安置や便乗の叩きやらに埋もれて見つけられないだろうし、自ブログがイデオロギーネタや煽りで荒れるのを嫌がってみんな書きたがらなくなる。
私の最近のささやかな楽しみを奪わないでくれと。

   *  *  *  *

ネタその1:
asahi.com は2009年10月27日21時47分付の記事から韓国船の船社のコメントを22時36分付で一時隠蔽しました。
しかし YOMIURI ONLINE にて28日1時22分付で同様のコメントを載せた記事が出てしまい、朝日が隠蔽しようとした事実に裏が取れてしまったため、朝日も3時02分付で当該部分を復帰、という無様なことをやっています。
ν速民大勝利なのですが、最近は変態クオリティにお株を奪われがちだった朝日が久々にアサヒるところをリアルタイムで目撃できました。


ネタその2:
それとも関連するのですが、かの国に "配慮" して原因が何も分からない頃から自衛隊を悪者に仕立てようとするマスゴミの工作活動がひどいです。
昨晩は日テレの『ニュースZERO』をリアルタイムで見ていましたが、大分昔の軽微な事故例があるとしてまず視聴者に自衛艦側の悪印象を植えつけた上で、レポートの最後を唐突に「観艦式の後で気の緩みがあったとすれば許されない」云々という中二臭いコメントで締めていました。
相手の状況、言い分を取材せずに(してあっても伝えないのでしょうが)片方の当事者のみを一方的に叩くのは、卑怯というものです。

その上TV各局、たかが水線上の船首が損傷しただけで主機械は無傷なのに「航行不能」だとか、船首の錨装置が使えないだけで「係留不能」だとか、全く知識も無いくせにいい加減ふざけた事を垂れ流すのはやめていただきたい。
因みに中継当時は消火活動のために意図的に行き脚を止めていたと思いますが、潮流が急な場所ですので、漂流→乗揚げの防止のために、船位保持のための最低限の運転をしていた可能性はあります。


ネタその3:
マスゴミにとどまらず、政府首脳も敵ばかりです。
亡A相 - 「国民のみなさまにご心配とご迷惑をおかけしたことは極めて遺憾だ」と陳謝
ポッポ - 「責任を明らかにしないといけない。国民の皆さんにご迷惑をかけたと思います」と陳謝
副亡A相 - 「県民の皆様に大変なご心配をおかけしました」と陳謝
感冒朝刊 - 「国民にご心配とご迷惑をおかけしましたことは極めて遺憾である」と陳謝

ご迷惑? おかけした?
ここまでで明らかになった報道からはむしろ、自衛艦はご迷惑をおかけされたほうなんですが。
上のうちでまともなのは副亡A相だけですね。
特にポッポはひどい。「ご心配」の一言も言えんのかこのタコ。「責任を…」に続けて「ご迷惑を」のみを口にしたこの文脈からは一方的全面謝罪にしか聞こえないのですが。どこの国の指導者だてめえは。(韓)国民の皆様か。

   *  *  *  *

今晩になって、海上保安庁の関門海峡海上交通センターの管制が衝突の原因になったという疑いが浮上していますね。
11月1日の141周年灯台記念日を前にして、海保にも火の粉が降りかかってきた訳です。
これに因んで11月3日には東京湾海上交通センター施設を一般公開する予定なのですが、実施されるかどうか怪しくなってきたかもしれません。

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Summary of image:
Description = 自衛艦「くらま」JS Kurama (DDH 144 / JSRS) 艦首右舷
Date = 2009-10-23
Source/Author = Vantey
Full resolution = http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Bow_of_JS_Kurama_20091023.jpg
License = CC-BY-SA-3.0, CC-BY-SA-2.1-JP, GFDL
Creative Commons LicenseGNU Free Documentation License

【写真特集】一方その頃、新造砕氷艦「しらせ」は東京港に入港

2009-10-18 07:35:56 | Nice boat
日本の砕氷艦(南極観測船)にとって10月下旬は、南極派遣行動の準備にかかる時期にあたります。
そのため艦も乗員も何かと忙しいため、この時期に開催される自衛隊観艦式には不参加というのがほぼ通例となっています。

かと言って参加実績が皆無かというとそんなこともなく、直近では1997年10月26日の平成9年度自衛隊観艦式に参加したことがあります(泊地は横浜大桟橋)。
しかしそれきり砕氷艦の参加は後を絶ったということは、実情として参加にはやはり無理があったという判断なのでしょう。

今年、27年ぶりの砕氷艦新造と自衛隊観艦式実施年が重なったため、もしかすると新艦のお披露目として12年ぶりの砕氷艦参加か……と期待する向きもあったかもしれませんが、既報の通り、今回も砕氷艦は不参加となっています。
5002号艦時代は例年11月14日東京晴海出港でしたが、今年は「11月10日出港」という以前より早い出港日程が国立極地研究所から既に発表されていますので(*1)、観艦式に参加する余裕はますます無かったといえます。


では観艦式参加艦艇の集結のため早々に横須賀を追い出されるであろう砕氷艦の行き場はというと、もちろん東京港です。

昨10月17日、海上自衛隊横須賀基地吉倉桟橋から5003号艦「しらせ」(2代)が出港しました。横須賀とは来年4月までのお別れです。

まずは東京灯標南方海面を北航中の「しらせ」。



そして晴海埠頭HKバースに入ります。
6月の東京初入港時は隣のHJバースでしたので、HKは初接岸です。




着岸した艦からは私服の一般人がちらほら下艦してきて、中には子供連れのご家族もいます。
個艦乗員の家族(観測隊員の家族も?)向けの体験航海を兼ねているのです。ちなみに毎年4月上旬の練習艦隊の横須賀→東京移動も、同様に実習幹部の家族向けの体験航海となっています。




側面に回ると、新艦より採用された貨物コンテナが既に両舷各1個ずつ搭載されていました。
これまで横須賀吉倉や横浜大桟橋で数回行われた一般公開ではみられなかった姿ですね。



JARE とは Japanese Antarctic Research Expedition の略です。
コンテナには 荷重 10.0 t 、自重 1.87 t 、容積 18.3 m³ と表記されていました。



航空機格納庫には新ヘリコプター CH-101 のテールが。左が 8191 号機、右が 8192 号機です。
テールローター・ブレードを外されているのがわかります。



船舶(軍船に限らない)における国際的な礼式で、停泊中は日没時に船旗 (ensign) を降納することとなっています。
1703(この日の現地の日没時刻)、艦旗降下式。前後して露天部の作業灯を点灯。




それが終わると格納庫のシャッターを降ろして、本日は店じまいです。



お疲れ様でした。




「しらせ」の今後の予定ですが、10月19日1000に大井埠頭南端の大井食品埠頭へ移動。
大井で各種物資の積載作業等を行い、11月6日1000に晴海客船ターミナルに面した晴海HLバースへ移動。
11月10日1200に次港フリーマントルへ向けて出港の予定となっています。

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 (*1) = 『極地研NEWS』191号 (PDF) p.6、国立極地研究所、2009年9月

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Summary of images:
Description = 自衛艦「しらせ」JS Shirase(2代) (AGB 5003 / JSNJ)
Date = 2009-10-17
Source/Author = Vantey
License = PD-self
Public domain

洋上給油展示はなし―平成21年度自衛隊観艦式の実施詳細発表

2009-10-15 04:40:54 | Nice boat
陸海空各自衛隊が毎年度持ち回りで行う自衛隊記念日中央観閲行事のうち、海上自衛隊が担当して行われる観艦式を「自衛隊観艦式」と呼称しています。
2009年度は3年ぶりに海自の担当年度で、平成21年度自衛隊観艦式は10月25日に開催される予定となっています。
その参加部隊編成と実施内容の詳細が、昨14日にようやく発表されました。

以前の自衛隊観艦式に比べて、今年のは各種詳細情報の公表が異常に遅いです。
これは、軸足が磐石ではない政治情勢をぎりぎりまで見極める必要があったことと、実施内容をめぐって早くからマスコミどもの餌食にされないためのことでしょうから、一概に海上幕僚監部広報室を責められるものではありません。
なにせ政治家どもがぶれまくりなものですから。

なお今回発表分でも、艦内一般公開の各日の実施艦艇の詳細はまだ明らかにされていません。
見たい艦を狙って見学予定を立てる向きは、まだ焦らされているのです。これは早く発表していただきたいものです。


さて、私的に今回の最大の注目点だったのは、平成15年度と18年度に行われた「洋上給油の訓練展示」を今回も実施するかどうか……という点でした。



昨日の発表で、このかねてからの関心事に答えが出ました。
結果は、やはり「実施せず」でした。


そうですよね。
新政権は前々から、海自が灼熱と砂塵のインド洋で営々と実施してきたテロ対策洋上補給支援活動を、まるで評価していないのですから。

北沢防衛相、インド洋の給油活動「評価低い」
http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20090917AT3S1701O17092009.html
 (NIKKEI NET 2009年9月18日 00:23)
海自インド洋給油:北沢防衛相「評価高くない」
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20090918ddm002010089000c.html
 (毎日jp 2009年9月18日)

そして駄目押しになったのが、発表前日のこれでしょう。

インド洋の海自を撤収へ 首相「アフガン政府強い思いない」
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/091013/plc0910131848020-n1.htm
 (MSN産経ニュース 2009年10月13日 18:48)
アフガンは給油に強い思い持たず 首相が認識示す
http://www.47news.jp/CN/200910/CN2009101301000741.html
 (共同通信 / 47NEWS 2009年10月13日 19:28)

なんのことはない、アフガニスタン政府の口を借りてポッポが自論を述べているだけです。
これには先に「日中関係の充実を "多くの日本の国民は" 心から願っている」という表現を使った(出典: サーチナ)のと同様の、狡さ、嘘臭さが感じられます。
こいつの物言いはいつもこうです。騙されてはいけません。


もちろん海自内部では部隊編成や実施内容の計画はもっと前から決まっていて、その計画に従って粛々と準備してきただけに違いありません。
ですが、早めに実施内容の全容を発表することで「(給油展示をやるのは)政治家に向けた活動継続へのアピールか」とか「(給油展示をやらないのは)活動を評価しない新政権への当て付けか」などという余計な詮索をされるのを避けたかった……というのが、発表をここまで控えてきた事情であると思われます。
補給支援活動打ち切りに政府内の流れが完全に傾いたのを待った結果の、このタイミングの発表なのです。

まあでも、もし給油展示をやると発表した後で補給支援活動打ち切りが最終決定すれば、外野からは「海自は恥をかいた」と捉えられ、また政府からは「海自は政府に反抗的な立場から政治パフォーマンスをした」と捉えられてしまう訳ですから、衆院選開票の時点でもともと今回の給油展示実施の可能性は低かったとも言えます。

補給支援活動関連の最近の政府内の動きで上記以外にざっと目に付いたものだけでも、ごらんの有様だよ!!!
 ○9月24日 亡A相「来年1月以降の継続はない」 (朝雲ニュース
 ○9月25日 ポッポ「単純に延長するということは考えておりません。その発想は今でも変わっておりません」 (MSN産経ニュース
 ○9月30日 ジャスコ「絶対ノーとは言っていない」 (時事ドットコム
 ○10月1日 亡A相「民主党は継続しない立場であり、衆院選でも主張してきた」 (NIKKEI NET
 ○10月5日 亡A政務官「国会の承認をつけて出すべきだ。そういう単純延長でない形を考えたい」 (MSN産経ニュース
 ○10月6日 亡A相「延長という選択肢はあり得ない」 (47NEWS
 ○10月6日 ジャスコ「政府のメッセージとしては『単純延長はない』という言い方で統一している」 (MSN産経ニュース
 ○10月6日 みすぽ「条件付きであれ延長されないよう協議していく」 (47NEWS
 ○10月12日 ジャスコ「はるかに給油のニーズが少なくなっている。月間8件程度だ」 (NIKKEI NET
 ○10月12日 ジャスコ「臨時国会に延長のための関連法案を提出するのは困難」 (毎日jp
 ○10月13日 感冒朝刊「ポッポやジャスコの発言は非常に重い」 (nikkansports.com
 ○10月13日 亡A相「法に基づいて粛々と撤退をする」 (MSN産経ニュース
できるだけ日持ちのするソースを選んだつもりですが、リンク切れでしたらご容赦を。


今度の政権は国防への関心が希薄ですから、受閲側の自衛官の皆様にしてみても仕え甲斐のないリーダーになるでしょうなぁ。

   *  *  *  *

私ですか? 公募の乗艦券は来着の気配がありません ○| ̄|_

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平成21年度自衛隊観艦式
http://www.mod.go.jp/msdf/formal/kankan21/index.html
平成21年度観艦式及び同付帯広報行事について (PDF)
http://www.mod.go.jp/msdf/formal/info/news/200910/091014.pdf
インド洋における補給支援活動
http://www.mod.go.jp/jso/oef/oef_info.htm

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Summary of image:
Description = 平成18年度自衛隊観艦式予行における補給艦「ときわ」JDS Tokiwa (AOE 423 / JSVN) と護衛艦「はるさめ」JDS Harusame(2代) (DD 102 / JSQO) の洋上給油展示
Date = 2006-10-27
Source/Author = Vantey
License = CC-BY-NC-SA-2.1-JP
Creative Commons License

謎の中華料理「牛バラ麺のウィキペディア風味」

2009-10-13 08:20:58 | 
ところでこのメニューを見てくれ。こいつをどう思う?



Beef Brisket in Wikipedia Flavor ……??

「ビーフ・ブリスケットのウィキペディア風味」。何だこりゃ?


隣に書かれている漢字の料理名は「花椒牛腩」(かしょうぎゅうなん、ホアジャオガウナム)とあります。
エンコードが日本語だと4字目が表示されないかもしれませんが、10進コードで &#33129; 、16進コードで &#x8169; の字で、月へんに南と書きます。

「牛腩」というのは、広東料理の「牛バラ麺」のことです。
本場香港の牛バラ麺はこんなの↓



zh:牛腩 は、ブリスケット(肩ばら肉)一般について解説した ja:ブリスケットen:Brisket に言語間リンクしていますが、 zh は特定の料理を指しており、違う概念だと思われ。
また、このメニューでは "Beef Brisket" と訳していますが、英訳は "beef brisket noodle soup" とするのが定訳であるようです。

一方、「花椒」というのは漢字からも想像がつく通り、山椒(厳密には同属別種の華北山椒)のことです。
日本語版のサンショウ#中国での「花椒」の利用に簡潔な解説があります。

つまり漢字に従ってこの料理を読み解けば「牛バラ麺の山椒風味」となります。


それがどうして「ウィキペディア風味」になってしまったのでしょう?

てか、それってどんな味よ。


このメニューは、米国マサチューセッツ州はボストン郊外のフラミングハム Framingham という町にある中華・日本料理店「緑華軒 GREEN TEA II」のものでして、同店の公式サイトにてPDFのメニュー(全4ページ、 1,854,557 bytes)が "全世界に向けて" 公開されているものです。
件の料理 (C14) は4ページ目の左側、「港式小菜 HONG KONG STYLE」のセクションに載っています。

The Consumerist というスラッシュドットの消費者問題版みたいなサイトにフラミングハム在住者からタレコミがあり、2009年10月7日に記事化されて世界に知られるようになりました。
英テレグラフ紙のサイトも翌8日に採り上げています

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Awesome: Chinese Restaurant Invites You To Try The "Beef Brisket In Wikipedia Flavor"
http://consumerist.com/5376659/chinese-restaurant-invites-you-to-try-the-beef-brisket-in-wikipedia-flavor
Wikipedia-flavoured beef on Chinese restaurant menu - Telegraph
http://www.telegraph.co.uk/foodanddrink/6271674/Wikipedia-flavoured-beef-on-Chinese-restaurant-menu.html
Green Tea II Chinese & Japanese Food, Framingham, MA
http://www.greenteaframingham.com/

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Summary of images:
Description = the menu of Green Tea II
Source of menu = http://www.greenteaframingham.com/greenteaFmenu.pdf
Source of image = http://consumerist.com/5376659/chinese-restaurant-invites-you-to-try-the-beef-brisket-in-wikipedia-flavor
Author = Green Tea Restaurants
Permission = Copyright (c) 2007 Green Tea Restaurants. / 日本国著作権法32条1項に基づく引用

Description = 牛バラ麺
Source = http://commons.wikimedia.org/wiki/File:HK_Food_Brisket_Noodle_1.JPG
Date = 2007-06-04
Author = SHOLYWOD
Permission = GFDL, CC-BY-SA-3.0,2.5,2.0,1.0
GNU Free Documentation LicenseCreative Commons License

ウィキメディアの文書のフッタに CC のライセンス・マークを表示してはいかが?

2009-10-12 22:04:56 | ライセンス
日本時間2009年10月3日未明(2日深夜)に放映された『ザ☆ネットスター!』の特集が「ネットと著作権」で、その直後に Winny 事件の控訴審判決、先月(2009年9月)には日本版フェアユースに関する動きがあったりと、ここのところ日本ではネットの著作権問題が熱いですね。

その『ザ☆ネットスター!』ではダウンロード違法化の話や日本版フェアユースの話に加えて、 CCJP の中の人が出演してのクリエイティブ・コモンズの紹介もされていました。
そこで CC の各ライセンス・マーク、 BY (表示)、 SA (継承)、 NC (非営利)、 ND (改変禁止)の紹介と、誰でも自分の創作物にこれを付けられる旨が述べられたのですが、ネットの寵児ともいえる桃井はるこをして「マークが萌えキャラだったらいいんじゃない?」なんてツッコミのネタにされてしまうほど、現状でまだまだ普及していません。
拙ブログでは掲載画像のライセンス表示に使用していますが、余所様のネットコンテンツで同様の CC のライセンス・マークを見かけることは、私 Vantey が見ている範囲では2009年10月現在ほとんどありません。


ところでウィキペディアを含むウィキメディアの各プロジェクトは、2009年6月15日から CC-BY-SA-3.0 のライセンスが適用されるようになりました。
大抵のウェブ検索結果の上位に必ず出てくるウィキペディアは、今や世界最大の CC コンテンツ集積サイトとなったわけです。

現在、ウィキメディアの文書のフッタには「テキストはクリエイティブ・コモンズ 表示-継承ライセンスの下で利用可能です。」という文章が表示されています。
しかし、ウィキペディアが CC を採用しているというアピールはこの文章のみで、上記した CC のアイコンは表示されていません。
つまり、視覚に訴えた CC のアピールがないのです。

このフッタには現在、 「A WIKIMEDIA project」 と 「Powered by MediaWiki」 のバナーが表示されています。
もしこれに加えて 「CC-BY-SA」 のライセンス・マークも表示されれば、通りすがりの一般の方たちが CC に興味を持つきっかけが増えるのではないか……と愚考するのですが、いかがでしょうか。
もしかしたらメタ・ウィキメディアで同様の提案が既にあるかもしれませんが。

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Text of this article is available under the Creative Commons Attribution 3.0 License.
Creative Commons License

では福井静夫作、 NHHC 蔵の軍艦絵画はPDか?

2009-10-11 21:23:47 | ライセンス
前エントリのあらすじ:

オスカー・パークス Oscar Parkes なる人物が描いたとされる軍艦絵画が、米国の海軍歴史・遺産コマンド Naval History and Heritage Command (略称: NHHC 、旧略称: NHC)のサイトからウィキメディア・コモンズに移入されていた。
パークスについて調べたところ、1958年没であることが判明。
コモンズでは当該移入画像のライセンスを(誤ったライセンスタグの使用により)PDとしていたが、著作権の保護期間が切れていない可能性が出てきた。

ところで NHHC ではサイトポリシーとして「我々の知り得る限り、公開中の全画像がPDだ」としている。
そこでとりあえずこれに従い、「画像の配布元たる NHHC が言うにはPDだ」というふうにライセンスを訂正することにした。
しかし当該画像が NHC に収蔵された際に、著作権もパークスから NHC に譲渡されたかについては、確証がない。

   *  *  *  *

ライセンスの訂正処理を終えてひと眠りした後、ふと、他にも類例が存在していたことを思い出しました。
20世紀の第一四半を過ぎて描かれた軍艦絵画が NHC に収蔵されて同所のサイトで公開され、そこからコモンズに移入された……という意味での類例です。

それは日本空母「信濃」を描いた # NH 63437 の絵画です。
同艦は第二次大戦中に秘密裡に建造されて処女航海で沈没したため、写真がほとんど存在しないことで知られています。



このスケッチ画は同艦の設計者の福井静夫(1993年11月4日没)が戦後に描いたもので、画面内には製作日が 2612-9-20 (皇紀。 = 西暦1952年9月20日)と記されています。


確かあったはず……とコモンズ内を捜しましたが、見当たりません。
当該移入画像は、2009年6月に削除依頼にかけられ、同月コモンズから削除されていたのです。

依頼の大意はおおむねこんな感じでした。
 ■NHHC ではPDとして扱っているが、これはあくまでも「NHHC が知り得た限り」であって、確実にPDであることを保障したものではない。
 ■本画像は写真ではなく絵画であり、また著作権の本国 (country of origin) が米国とは違うので、権利処理が必ずしも他画像と同じではないはずである。
 ■NHHC の画像説明には "Courtesy of Shizuo Fukui." とあるが、これには「好意により提供された」 という以上の意味はなく、 NHC への著作権移転は伴っていないと解すべきである。
 ■実際福井は同じスケッチ画を、他の書籍にも by courtesy により提供している。
 ■福井の没年からして、「保護期間満了によるPD」にはならないことは明白である。
中でも "courtesy of ..." の解釈がキモで、これが削除判断の基ともなっています。

   *  *  *  *

こんな例を目にしてしまうと、翻ってオスカー・パークスの絵画群もコモンズで存続できるか怪しくなってきます。
あれらも削除審議にかけた方がいいのかなぁ。
「モニター」のは代替画像があるとはいえ、 # NH 59543 は15ほどのプロジェクトで使われているので影響が大きいし、
まず私が英文作文は得手ではないので……

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Naval History and Heritage Command
http://www.history.navy.mil/

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Summary of image:
Description = Shinano (Japanese Aircraft Carrier, 1944)
Source of drawing = Sketch by Shizuo Fukui, 20 September 1952.
Date of drawing = 1952-09-20
Author = 福井静夫
Full resolution = http://www.history.navy.mil/photos/images/h63000/h63437c.htm
License = United States Naval History and Heritage Command say that "it is in the public domain to the best of their knowledge".

オスカー・パークス作、 NHHC 蔵の軍艦絵画はPDか?

2009-10-11 01:18:01 | ライセンス
米国ワシントンD.C.に ワシントン海軍工廠 Washington Navy Yard と呼称される合衆国海軍の施設があります。ここには以前はその名の通り造船廠と造兵廠がありましたが、それらはとうに廃され、今は事務地区兼史跡地区となっています。
ここに配置されている事務組織の一つに、合衆国海軍の修史・文化財管理部門である 海軍歴史・遺産コマンド Naval History and Heritage Command (略称: NHHC)という部隊があります。
最近まで 海軍歴史センター Naval Historical Center (略称: NHC)という名称でしたが、2008年12月1日に組織改編で現名称になっています。

ここの公式サイトでは、オンラインライブラリで多数の古い軍艦画像を公開しており、そこからは多くの画像がフリーコンテンツとしてウィキメディア(コモンズや enwp 。 ja では受け入れていない)に移入されています。
それら画像の多くは写真で、題材は合衆国軍艦が中心ですが、他国の艦船も含まれています。

写真以外では絵画と図面があり、これらは19世紀以前の古い題材の場合が多いです。満足なディテールやアングルの写真がないもの、海戦や海難などの動的な場面を描写したもの等がこれに当たります。

例えば絵画の代表的なものに、南北戦争当時に「ハーパーズ・ウィークリー Harper's Weekly」誌に連載された時事挿絵などがあります。



# NH 58758 『甲鉄艦「モニター」の海難 The wreck of the Iron-clad "Monitor."』 (「Harper's Weekly」1863年掲載)

   *  *  *  *

ここからが本題。

同じく合衆国軍艦「モニター USS Monitor」を描いた # NH 59543 の絵画もコモンズに移入されていたのですが、



そのコモンズ画像のライセンスに {{PD-USGov-Military-Navy}} のタグが貼られていたので、このライセンシングははたして正しいのか? と思い、査読をした次第。

PD-USGov-Military 系のタグにまつわるよくある勘違いなのですが、そもそも PD-USGov 系のライセンスタグは「合衆国政府に雇用された者によって職務上製作されたマテリアル」を対象としたタグであって、「合衆国政府機関が配布しているマテリアル」を対象としたものではありません。
「合衆国政府に雇用された者によって職務上製作されたマテリアル」は合衆国法によりパブリックドメインであり、故にこのタグがあるのですが、このタグが使われるためにはマテリアルの製作者が合衆国政府に雇用された者(軍隊の場合は軍人・軍属、それと関係文官)でなければなりません。

そこで、この絵画の作者の身分、および海軍の職務著作であるかどうかを確かめる必要が出てくるのです。
もし製作者が合衆国政府に雇用された者でない場合、「そんなライセンシング、修正してやる!」と他の適切なライセンスタグに貼り替える必要があるというわけです。

ここで NHHC のコレクションについて補足しますと、コレクションを構成する各資料の出所は、合衆国海軍の軍人・軍属によって撮影された写真ばかりではありません。個人などから寄贈を受けたり市中より収集したものも相当数含まれており、特に20世紀前半以前の資料では時代を遡るにつれてその割合が高くなります。特に絵画・図面ではそのほぼ全部が外部由来であり、現に上掲の『「モニター」の海難』も雑誌の挿絵ですね。


件のコモンズのファイルページから張られたリンクを辿って NHHC の # NH 59543 の画像ページを見ると、

Watercolor by Oscar Parkes.
Courtesy of Dr. Oscar Parkes, 1936.

とあります。

ん、1936年ですと?
提供者と作者が同名ということは、南北戦争から70年余も後世の自作絵画ってことになります。
それと、多くの国は現在、「絵画の著作物」の著作権の保護期間を著作者の没後70年としていますので、没年と国籍によってはまだPDでない可能性も出てきます。
古い絵画をコモンズに載せる時にしばしば使われる {{PD-Art}} のライセンスタグは {{PD-old}} のタグをインクルードしており、そこにもそう書かれています。
1936年は、2009年から見ると73年前です。
作者はこの絵画を NHC に提供後すぐに(1938年までに)死んでいてくれないと、今PDにはならないような……
NHHC の画像ページに作者に関する特段の情報(合衆国海軍の軍人または軍属であるなど)が書かれていないことは、合衆国海軍の職務著作ではない(つまり個人著作である)ことの暗黙の証左にもなっています。


さてそうなると、絵画の作者兼提供者として記された Oscar Parkes なる人物の正体を確かめるしかありません。

調査結果。
オスカー・パークス Oscar Parkes は合衆国海軍に属した人物ではなく、それどころか米国人でもなく、ロンドンに在住した英国人の軍艦研究者でした。
英国海軍 Royal Navy に軍医として勤務する傍ら、友軍のものを中心に多くの軍艦写真を撮影し、ロンドンの王立戦争博物館 Imperial War Museum に収蔵されたそれらコレクションは近年公式サイトのオンラインライブラリで公開されて、ウィキメディア・コモンズにも既に100点超のパークス撮影の軍艦写真がそこから移入されています。
20世紀前半において第一級の軍艦研究者として知られた存在で、1920年代より数冊の研究書を著しており、『ジェーン軍艦年鑑 Jane's Fighting Ships』の編集にも携わりました。
特に、最晩年の1957年に出版された英国戦艦全史『British Battleships: Warrior 1860 to Vanguard 1950』は、(後世判明した多くのデータの誤りがあるにしても)現代でも英国戦艦の重要な研究資料の一つとして扱われています。
1885年10月18日生、1958年6月24日没(*1)。

1958年没……
欧州連合域内における著作権保護期間の調和に関する指令に照らしても、個人著作の絵画の著作物の著作権の保護期間は著作者の没後70年となります。
すごく……アウトっぽいです……。


オスカー・パークスの描画による他の絵画はなかったのかと調べると、やはり1936年に本人から NHC へと提供された自作水彩画、南北戦争時代の合衆国( = 北軍)軍艦「ガリーナ USS Galena」(初代)の # NH 59541 、「ネオショー USS Neosho」(初代)の # NH 60617 、「ケオクック USS Keokuk」(初代)の # NH 59546 の各絵画が NHHC からコモンズに移入されていました。

中でも「ケオクック」のコモンズページでは注目すべき処理がされていました。
{{PD-because}} という、PDである理由を任意の文章で記述するタイプのライセンスタグがあるのですが、それが使われていたのです。
自由記述の文章に曰く「NHC 由来の画像だから」とし、その文章からハイパーリンクが張られた先は NHHC のサイトポリシーのページで、そこでは「我々 (NHHC) の知り得る限り、当オンラインライブラリの全画像はPDなので、自由に使ってくれい」と宣言されていました。

「これだ!」とばかり、当面の抗弁として、「モニター」「ガリーナ」「ネオショー」のライセンスタグも同様の記述をしたものに貼り替えておきました。
でも、これらの水彩画が1936年にパークスから NHC に提供(現物を寄贈?)された際、絵画の著作権の譲渡も行われたのかどうかについては、実は確証がありません。

   *  *  *  *

とりあえずの措置を済ませたところでこの件は一応の決着、と言いたいところですが、この話はもう少し続きます。
それについては稿を改めます

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(*1) = New General Catalog of Old Books & Authors

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Naval History and Heritage Command
http://www.history.navy.mil/

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Summary of images:
Description = "The Wreck of the Iron-clad 'Monitor'", off Cape Hatteras, 30-31 December 1862
Source of drawing = published in "Harper's Weekly", 1863
Date = 1863
Author = Harper & Brothers
Full resolution = http://www.history.navy.mil/photos/images/h58000/h58758c.htm
License = PD-1923

Description = USS Monitor. Watercolor by Oscar Parkes
Source of drawing = Courtesy of Dr. Oscar Parkes, 1936.
Date of drawing = before 1936
Author = Oscar Parkes
Full resolution = http://www.history.navy.mil/photos/images/h59000/h59543c.htm
License = United States Naval History and Heritage Command say that "it is in the public domain to the best of their knowledge".

「(TBSのIPからのウィキペディア荒らし・個人中傷書き込みに)注目しないでください」

2009-10-10 17:53:38 | ウィキペディア記事
TBSの悪行の数々のまとめ 1966~2009
http://blog.livedoor.jp/yumemigachi_salon/archives/51278829.html
 (ゆめみがちサロン 2009年10月5日 1:00)


10月4日に投稿された2chの書き込みのコピペですが、なかなか凄い一覧です。

……と思っていたら、今日(10日)になってこのコピペブログのコメントに、当該一覧の出典サイトが貼られました。
全部の項目にさらに出典リンク付きです ( ! )。


TBSの不祥事年表 (国民が知らない反日の実態
http://www35.atwiki.jp/kolia/pages/18.html


一読の価値あり(当社比)。


さて、ウィキペディアン的に気になったのはこの2行です。

2006.02 TBSアナウンサー川田亜子さんのwikipediaに、TBSのホストから中傷書き込み

2006.07 TBSのホストからwikipediaに甲府FW・茂原岳人の項目で「レイプ癖は健在」等と編集

TBSはウィキペディア荒らしでは前科2犯ですか。

前者の編集は川田亜子2006年2月24日 (金) 23:08 (JST) の版、


そして後者は茂原岳人2006年7月14日 (金) 22:10 (JST) の版です。

どちらも IP 202.33.68.223 による編集です。

このIPの投稿記録を見ましたが、げんなりです。
自社関連の編集しまくりじゃありませんか。


それにしても自社社員の中傷をネットに書き込んで自殺にまで追い込むとか、鬼畜道。

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WikiScanner - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/WikiScanner
Wikipedia:自分自身の記事をつくらない - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/Wikipedia:自分自身の記事をつくらない

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Summary of image:
Description = TBSアナウンサー川田亜子さんのwikipediaに、TBSのホストから中傷書き込み
Source of image = http://millionpub.jp/001hobbonikkan/tbs_5.php
Source of Wikipedia document = http://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=川田亜子&action=historysubmit&diff=4660013&oldid=4333553
License = CC-BY-SA-3.0, GFDL
Creative Commons LicenseGNU Free Documentation License

ウィキペディアのポランスキー記事、編集合戦で保護

2009-10-01 03:50:14 | ウィキペディア記事
英語版ネタですが、一応拾っておきます。
ウィキペディアのポランスキー記事、編集合戦で保護
http://www.afpbb.com/article/entertainment/news-entertainment/2646770/4678519
 (AFPBB News 2009年9月29日 12:10)

【9月29日 AFP】映画監督のロマン・ポランスキー(Roman Polanski)氏のウィキペディア(Wikipedia)のページが、28日から編集できない状態になっている。1977年の淫行事件の容疑者として同氏がスイスで身柄を拘束されたことを受け、映画監督としての功績を重視する編集者と淫行事件を強調する編集者の間で激しい書き込み競争が起こったため、編集がロックされたのだ。
 ポランスキー氏のページには、「編集合戦が収まるまで、一時的に保護されます」というメッセージが出された。

 ある編集者は、意見を書き込むノート部分に、「ポランスキー氏が暴行犯であるという事実は、記事の最初に書くべきだ。彼の作品がオスカーを取ろうと関係ない」と書いている。
 ポランスキー氏は、『ローズマリーの赤ちゃん(Rosemary's Baby)』、『チャイナタウン(Chinatown)』、複数のオスカーを獲得した『戦場のピアニスト(The Pianist)』などで国際的に高い評価を得ている。
「ポランスキー氏は第一に、映画監督として知られている」と書き込んだ別の編集者は、映画監督としての功績がなければポランスキー氏がニュースになることもないだろうと主張。
 また別の編集者は、両者の主張を盛り込んだ「和解案」となる次のような編集を提示している。
「ポランスキー氏は、ポーランド・フランス両国の市民権を持つ映画監督、プロデューサー、脚本家、俳優、そして子どもに対する性的虐待の犯罪者だ」

ニュースイナゴが大量発生するのはどこの言語圏でもどこのサイトでもありふれたことで、そういった意味では今回の件自体に特別なニュースバリューはありません。
しかし日本語版とはちょっと違う英語版の事情が垣間見えるのが興味深いなぁと。

en:Roman Polanskiログを見たところ、まず、ページ名が "Roman Polanski" と "Roman Polański" (後者はポーランド語で、 n がアキュート付きの ń)の間で何度か移動合戦になったことがあり、無期限の移動保護がかかっています。
そして編集保護のほうは2009年9月27日から28日にかけて、 保護なし→半保護→全保護→半保護→保護解除→全保護→半保護 と慌しく変更されています。
AFP の記者が見た時はたまたま全保護だったんでしょう。


それにしても「冒頭文の表現」で編集合戦になるなんて大人気ないなあとは思いますが、英語圏の人口規模を考えるとそういう書き方をしたがる厨も一定数出てくるのかな。
こんなことに真剣に取り合って迎撃してる人が多いのもまたなんとも。
なお、9月30日現在の冒頭文は "Roman Raymond Polanski (pl. Roman Rajmund Polański; born August 18, 1933) is a Polish-French film director, producer, writer, and actor." と正常になっています。

日本語話者はスルー力が磨かれているのか、単にアクティビティが(英語圏と比較すると)低いのか、日本語版ではこういう流れはあまり見ませんね。
日本語版の場合、 どっかの馬鹿がニュースサイトをコピペ or プライバシー情報を書き込む → 特定版削除 → 時限保護 → 「少し、頭冷やそうか」 ってのがいつものルートだったりします。って、やっぱり保護になるのかよ。


だけどこの英語版記事、9月27日に編集合戦が始まって以来、もうすぐ500版になるぞ……

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Roman Polanski - Wikipedia
http://en.wikipedia.org/wiki/Roman_Polanski

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Summary of image:
Description = ロマン・ポランスキー
Source of original image = http://www.flickr.com/photos/znani/1118502903/in/set-72157601447267819/
Source of cropped image = http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Roman_Polański.jpg
Date = 2007-08-14
Author = Sławek Skonieczny
License = CC-BY-SA-2.0, Personality rights
Creative Commons License