Vanteyのアース線(もしくは枯れた資料帳)

怠け者のウィキメディアン・Vanteyの、脳内が帯電してきた時のはけ口。非百科事典的。過度な期待はしないでください。

「二次元版権モノ」記念切符の先例(4)西武鉄道〈中〉

2010-12-12 08:04:22 | 陸上交通
ここ数回、「二次元版権モノ」鉄道記念切符の事例を幾つか振り返って考察しています。
今回はその4回目。西武鉄道の続きです。

(1)近江鉄道 (2)信濃大町駅 (3)西武鉄道〈上〉


■case 3-b. 西武鉄道×『銀河鉄道999』(第2回発売・2009年3月)
練馬区のアニメ産業振興イベント『ねりたんアニメプロジェクト in 大泉』が2008年3月に初開催され、西武鉄道から記念切符が発行されたことは、前回記した通りです。
翌年の2009年3月8日には、第2回目となる『ねりたんアニメプロジェクト in 大泉2009』(主催: 練馬区観光協会・ねりたんアニメプロジェクト in 大泉推進連絡会)を大泉地区の複数会場にて開催(*21, 22, 23, 24)。
今回から西武鉄道は、主催者の推進連絡会の一員に加わっています。

大泉学園駅では同日初電から発車メロディをゴダイゴの楽曲「銀河鉄道999」に変更。また同曲の作曲者で、今般の発車メロディ向け編曲も行ったタケカワユキヒデさんが、当日の一日駅長を務めました。
記念切符はこれを記念した『「銀河鉄道999」発車メロディー記念』という発売事由で、当日より同駅のみで発売されました。

 ▼体裁: カラー印刷のD型硬券×3種
 ▼券種: 片道乗車券(金額式)
 ▼発売額: 各330円×3種ばら売り
 ▼発売数: 各333枚(計999枚)
 ▼発売期間: 6ヶ月と2日間
 ▼有効期間: 発売開始日から6ヶ月と2日内(「2009年9月9日」まで)の1回限り有効
 ▼通信販売: なし



発売開始時刻は初電から。
購入数制限の有無は不明ですが、1人各1枚までに制限したとしても333人にしか行き渡らないという少なさです。実質発売数は前年比 9 % !
でも発売駅数も前年比 8 % (12駅 → 1駅)に減っているので、単純計算による1駅あたりの割当て枚数は一応減ってはいないようなのですが。

今度は切符の売れ行きに関する報道記録がありました。やはりというか、午前7時に完売したそうです(*24)。
きっと前夜には徹夜組が出現したり、オクでは高値がついたりしたことでしょう。

(そう、このように常識レベルの商品供給をせずに入手困難性をいたずらに上げることは、泣く人を増やして転売厨を喜ばすだけなのです!! 有償無償を問わず限定頒布物の市場供給をお考えのすべての方には考慮しておいてほしいところです)

10:30 からのイベントを観にふつうに朝食後に家を出てきた一般市民には、この記念切符は全く手に届かない(労力的に)ものだったのです。
そしてそのことは、発売数が各333枚に設定された時点から、最初からわかっていたことなのです。


いったい、誰のための記念切符なんでしょうか?

鉄道事業者が町興し事業に協力することで地域に貢献するための、その一環としての記念切符発行ではなかったのでしょうか?
それが、地域の人は誰も買えない、イベントに魅力を覚えて足を運んでくれた外来のファンも買えない。買えたのは徹夜する体力のあるごく少数の切符マニアと転売厨だけ。……これが、地域貢献のあるべき姿といえましょうか?
その地域貢献とやらを企業の社会的責任云々と称して社の方針として行い、それを行ったことを外部に喧伝してみせている(*25)のならば尚更で、実態との乖離があるとすればそのPR活動は見せかけだけだったということにならないでしょうか。

買えることを期待してわざわざ尋ねてくれたお客様を悲しませるだけではありません。
窓口で、電話で、残部の有無を尋ねられる度に完売の事実をお客様に詫びねばならない現場社員の身にもなってあげなさいな。


このような記念切符(およびそれに類する企画商品)の企画における一般的風潮として、売れ残りの発生を防止するために商品の用意数を少なめにとる傾向が一部にあります。
自社のみの権利関係下において企画される商品ならいざ知らず、本件のような版権使用料が発生するものの場合は特に、売れ残りは極度に恐れられます。売れ残ると版権料の精算が発生することのほか、売れていない印象を持たれるのを嫌う版権元の意向がある場合もあります。

しかし西武鉄道の場合は1年前にも同じ題材『銀河鉄道999』を用いた記念切符を3,000セット発売し、売れ行きペースの市場調査は済んでいるはずです。
(もしかするとその結果としてのこの発売数だったのかもしれませんが、)それにしても傍目にも明らかに過少な「各333枚」なる発売数を見て、担当者は事前に異常だと思わなかったのでしょうか?
いいえ、本件の担当者は事前にも事後にも、異常性など全く感じなかったようです。午前7時に完売してしまったことに関しても、何らの問題意識を持つこともなかったようなのです。
それが証拠に、西武鉄道はこの半年後に三たび『銀河鉄道999』の記念切符を少部数で発行してまたも早朝に売り切り、多くのお客様が買えなかったことに対して新聞紙上で社会的非難を浴びることになるのです。それについては次回
(担当者は「社会貢献の皮を被った自己満足」もしくは「企画実現の件数稼ぎ(個人の手柄)」のような気分でやっていたのでは――と外部から邪推されても仕方のないレベルです。この一連の999案件群ではそれくらい、経験から何も学習していないのです)


切符のモノ自体に話を戻しましょう。
D型硬券を用いた記念券の中には、本券のように塗工紙を用いて多色刷りを施されたものが時々存在します。初出時期は1980年代後半頃? でしょうか。
また塗工硬券用紙自体は一部私鉄において常時発売のB型券にも用いられており、ボール紙の地色ではなく白色度のいやに高い硬券入場券などがこれにあたります。裏面塗工はあるものとないものとがあります。
先日第1回でご紹介した近江鉄道2010年発売の『TVアニメけいおん!!第2期放送開始記念乗車券・入場券』も、表面塗工紙でした(裏面塗工はなし)。

券面表面は白色コート、裏面は用紙の地色。

(乗車券には裏面にも券面内容の表記が。表面は両矢印式、裏面は一見相互式風だが一般式表示。券番から、3,000部超が出ていることがわかります)


因みに練馬区のアニメイベント名に「ねりたんアニメ」(「ねりまで誕生したアニメ」の意)の冠称が用いられたのは本イベントが最後となり、2009年度以降に実施されるイベントは前回名称から改題されました(*o)。
2008年の第2回目からはとしまえんでの11月の開催となった『ねりたんアニメカーニバル』は、2009年11月の第3回目より『練馬アニメカーニバル』の名称となっています。
また大泉での第3回目となる『練馬アニメカーニバル2010 アニメプロジェクト in 大泉』(2010年3月7日、主催: アニメプロジェクト in 大泉推進連絡会)(*26, 27)では、大泉学園駅は会場から外れ、記念切符の発売等もありませんでした(主催者の推進連絡会には引き続き、西武鉄道も名を連ねてはいます)。


(続く)
(1)近江鉄道 (2)信濃大町駅 (3)西武鉄道〈上〉 (5)西武鉄道〈下〉

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(*o) = 「ねりたん」の使用をやめた理由は不明。わざわざ説明を要してわかりにくいからか、「練馬」が表面から隠れてしまうからか。

(*21) = 練馬区 報道連絡メモ ねりたんアニメプロジェクトin大泉の2本柱! (1) 松本零士さん制作の『銀河鉄道999』大壁画の除幕式! (2) 駅の発車メロディが『銀河鉄道999』に!作曲者タケカワユキヒデさん一日駅長就任! (PDF) - 練馬区区長室広聴広報課報道係、2009年3月3日
(*22) = 「ねりたんアニメプロジェクト in 大泉2009」を開催します (PDF) - 練馬区・練馬区観光協会・西武鉄道株式会社、2009年3月3日
(*23) = 『ねりたんアニメプロジェクトin 大泉2009』開催 大泉学園駅に「銀河鉄道 999」の大壁画登場! - 練馬区観光協会、2009年3月
(*24) = 銀河鉄道999:西武線・大泉学園駅の発車メロディーに 松本零士さんが壁画に直筆サイン - MANTANWEB、2009年3月8日
(*25) = 永田一周 「鉄道とまちづくりの連携 第2回 アニメを通じてまちづくりを盛り上げる「ねりたんアニメプロジェクトin大泉」」 『みんてつNo.29 2009冬号、pp.24-25、社団法人日本民営鉄道協会、2009年
(*26) = 練馬区 報道連絡メモ アニメの聖地 練馬区大泉で、「アニメプロジェクトin大泉」が開催されました! (PDF) - 練馬区区長室広聴広報課報道係、2010年3月7日
(*27) = アニメプロジェクト in 大泉が開催されました 大人気のプリキュアとふれあった - 練馬区観光協会、2010年3月

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西武鉄道Webサイト
http://www.seibu-group.co.jp/railways/
西武鉄道
アニメのまち練馬区-練馬区観光協会
http://www.nerima-kanko.jp/anime/
アニメのまち練馬区
ジャパンアニメーション発祥の地 練馬区:練馬区公式ホームページ
http://www.city.nerima.tokyo.jp/annai/animesangyo/index.html
ジャパンアニメーション発祥の地 練馬区
練馬アニメーションサイト
http://www.animation-nerima.jp/
練馬アニメーションサイト
大泉ゆめーてる商店街 (東大泉商栄会)
http://www.oizumi.gr.jp/

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Summary of images:
Description = 「銀河鉄道999」発車メロディー記念乗車券
Source of image = http://journal.mycom.co.jp/news/2009/03/04/047/index.html
Date = 2009-03-04
Author = (c) Leiji Matsumoto / (c) 西武鉄道株式会社
Permission = 日本国著作権法32条1項に基づく引用

Description = TVアニメけいおん!!第2期放送開始記念乗車券・入場券(第2次発売分)
Source/Author of photograph = Vantey
Author/Permission of pictures = (c) かきふらい・芳文社/桜高軽音部 / (c) 近江鉄道株式会社 / 日本国著作権法32条1項に基づく引用
License of photograph = (c) 2010 Vantey


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