Vanteyのアース線(もしくは枯れた資料帳)

怠け者のウィキメディアン・Vanteyの、脳内が帯電してきた時のはけ口。非百科事典的。過度な期待はしないでください。

「二次元版権モノ」記念切符の先例(5)西武鉄道〈下〉

2010-12-15 07:41:53 | 陸上交通
ここ数回、「二次元版権モノ」鉄道記念切符の事例を幾つか振り返って考察しています。
今回はその5回目。西武鉄道編の最後です。

(1)近江鉄道 (2)信濃大町駅 (3)西武鉄道〈上〉 (4)西武鉄道〈中〉


■case 3-c. 西武鉄道×『銀河鉄道999』(第3回発売・2009年9月)
西武鉄道は2009年3月8日に「各333枚」という鬼畜のような限定枚数の記念切符を発売し、案の定午前7時には売り切れてしまって、堅気の人はほとんど手に入れることができませんでした。――というのが前回のあらすじ

この半年後、懲りない西武は三たび、『銀河鉄道999』を題材とする記念切符を発売しました。
今度は練馬区のアニメイベントとのタイアップではなく、「2009年9月9日」という日付に因んだ『999』とのタイアップです。

発売事由は『2009.9.9記念乗車券』。9月3日付のニュースリリースで発表され(*28)、この情報は翌4日の『毎日新聞』のほか、8日の『朝日新聞』東京35面の囲み記事「青鉛筆」でも図版1葉付きで紹介されました。
以下のウェブ記事は、紙面の「青鉛筆」に載ったものと同文です。
「999切符」09・9・9発売で990円
http://www.asahi.com/travel/rail/news/TKY200909070390.html
 (asahi.com 2009年9月8日)

 西武鉄道は、松本零士さん描き下ろしのイラスト付き記念乗車券を9日に発売する。1セット6枚組みで、東京都練馬区内の12駅での限定発売だ。
 松本さん原作の人気アニメ「銀河鉄道999」にちなみ、9が三つ並ぶ日を選んだ。同鉄道の乗車券の券面に、松本さん描き下ろしのイラストが載るのは初めてという。
 1セット990円、2999セット限定発売と、徹底的に「9」にこだわった。「でも、発売開始は9時9分からではなく、各駅の始発電車からです」と担当者。

「発売開始は9時9分からではなく…」なんてコメントを引き出してるのがニクいね。

 ▼体裁: イラストと手書き筆跡入りA型硬券(無地紋)×6枚 + 2つ折台紙
 ▼券種: 片道乗車券(相互式、6枚中2枚は小児券)
 ▼発売額: 990円
 ▼発売数: 2,999セット
 ▼発売期間: 6ヶ月と23日間
 ▼有効期間: 発売開始日から6ヶ月と23日内(発売開始月の6ヵ月後の月末まで)の1回限り有効
 ▼購入数制限: なし
 ▼通信販売: なし




A型硬券の券面の過半を占めて絵を配しており、相互式表示の駅名文字や日付文字には松本零士先生の筆跡を用いています。
また用紙面では、乗車券なのに無地紋の用紙を用いています(*p)。絵を映えさせるためでしょう。
かなり思い切ったデザインであり、券面の美術的魅力は西武歴代のみならず国内運輸業各社歴代の硬券記念券と比較しても抜群に素晴らしくなっています。
(なぜこの素晴らしいレイアウトを、西武グループの近江鉄道が翌2010年に発売した記念切符でも真似しなかったのか……)

中面には「アニメのまち 練馬区」ではなく、「アニメのふるさと西武沿線」と題されました。杉並区井草のサンライズやボンズ、西東京市のシンエイ動画・マジックバス・ AIC ASTA ・ AIC PLUS+ (*q)などをはじめ、練馬区外の西武沿線に立地するアニメ制作スタジオも多いですからね。
でも、発売駅は2008年3月の第1回発売時と同様の練馬区内12駅(江古田・桜台・練馬・中村橋・富士見台・練馬高野台・石神井公園・大泉学園・新桜台・豊島園・上石神井・武蔵関)のみ。
練馬区POV。微妙に看板に偽りありのような気がします。折角「西武沿線」と題したんだから、区外の同業者ももっとリスペクトしてあげようぜ?
今回は日付に因んだ切符であって地域縛りは無いのですから、池袋・西武新宿・高田馬場・所沢のターミナルをはじめ練馬区外の主要な駅でも売れば結構売れたと思うのですが……


そして今回も問題になったのが発売数。
12駅で2,999セットというのは2008年の第1回発売時(12駅で3,000セット)とほぼ同じ数であり(*r)、またそれは1駅あたりに割ると2009年3月の「各333枚」と同程度の割当でしかありません。
その3月の発売では午前7時には売り切れてしまったというのに、全く何の反省も無いまま同じ事を繰り返したのです。

今回の売れ方については、『朝日新聞』が9月20日付東京31面で克明に報じています。
「999切符」また販売して! 瞬時に完売、要望続々
http://www.asahi.com/travel/rail/news/TKY200909190267.html
 (asahi.com 2009年9月21日)

 松本零士さんのイラスト入り切符を西武鉄道が販売したところ、瞬く間に売り切れ、「また販売しないのか」という声が多数寄せられている。同社は「記念品のため、再販の具体的な計画はないが、引き続き、松本さんの協力をいただきながら、喜ばれる企画を考えたい」としている。

 記念乗車券は、松本さん原作の人気アニメ「銀河鉄道999」にちなみ、9が三つ並んだ今月9日に、東京都練馬区内の12駅限定で、1セット6枚組み(990円)を始発列車の時刻から発売した。同社によると、2000年代記念の意味を込め、販売枚数を2999セットにしたが、午前5時半までには完売してしまったという。

 担当者によると、松本さんが近くに住み、発車メロディーに「銀河鉄道999」のテーマ曲を採用している大泉学園駅では、発売開始の午前4時21分には行列は100人以上に及んだ。前日の午後11時ごろから並びはじめ、徹夜組も10人出た。1人で10セットを購入する人もおり、約1時間で売り切れた。現在もネットオークションに出品されているが、同社は「『友人の分も』と言われれば見分けがつかない」と大量購入でも事情は聴かなかったという。

 その後、同社には「買いに行ったのに売り切れていた」「また売る計画はないのか」という客からの苦情や問い合わせが数十件寄せられている。(後略)

大泉学園駅だけでも徹夜組が10人、初電時刻で列が100人以上で、1時間で完売。
これが他の11駅も同様で、全駅で午前5時半までに完売したと。
まあそうでしょうね。3月の実績から当然予想がついたはずの展開です。3月よりもさらに早い売れ行きペースではありましたが。

2000年代記念云々という話は初めて聞きました。
過去2回の販売実績のデータは全く生かされず、それとは無関係に単なる語呂合わせのフィーリングで発売数を決めていた、という驚愕の事実が明らかに。
つまり、需要予想なんてそもそも行っていなかったのです!!

「大量購入でも事情は聴かなかった」だなんて、仮に訊かれたとしても、買う側にしてみればなんでわざわざ事情を訊かれなきゃならんのかと。個人の事情なんてどうでもいいじゃないですか。大きなお世話です。所詮は非実用品のコレクターズアイテムですから、突き詰めれば(単数買いの人も含めて) "まっとうな事情" のある買い手なんて初めから一人もいませんよ?
また、事情次第では売るのを断るつもりもあったとでもいうのでしょうか? "正当な" 事情と "不当な" 事情をどう公平に判断して、お客様に納得していただくつもりなのでしょう。
たくさん購入してくれるお客様は上得意ですよ。その上得意様に対して後から恨み節を垂れるとか、どんだけ武家の商売気分なんですか。オクに流す気の無い方がたくさん買ったっていいじゃないですか(*s)。

大量購入者がいたせいで買えなかったお客様が多数出たとしても、それは最初に1人あたりの購入数制限をかけなかった売り手側の不手際が招いた必然の結果ではないですか。
入荷数が少ないんだから、早期に品切れになることくらい容易に予想がつくでしょ。それに発売開始前から100人以上が並んでいるんですよ。
これは販売現場の無能無策の為せる業ですね。

また転売厨がのさばるのは、そもそも売り手側が十分な量の商品を市場に供給しないから、こういう不純な購入動機の輩を招き寄せているのですよ? わかってますか?


何度も経験を積んでいながらそれを全く生かさずに、多数のお客様に却って不信を与えるだけの生煮え企画を改良もせずに三たび繰り返すとか、企画担当者の愚かさ・無能もここに極まります。
きっと記念切符を出すという企画行為それ自体のみ、つまりは担当者の自己の(企画採用件数という)点数稼ぎにしか関心を抱かなかったのでしょう。それの販売行為における実際的部分には担当者はおそらく全く関心が無かったため、販売現場の実態を無視し、(最も大切なはずの)お客様をも無視する結果となったのです。

こうして西武鉄道のお粗末さが白日の下に晒されるとともに、一部にあった再販要望はマスコミ圧力という強力な味方を得ることとなったのです。
朝日さんはいい取材をしてますよほんと。


■case 3-c'. 西武鉄道×『銀河鉄道999』(第3回発売分の再販・2009年11月)
そして西武鉄道はお客様からの再販の要望を容れ、2009年10月22日、当該記念切符を増刷して再販することを発表しました(*29)。
朝日の上掲記事から丸1ヶ月後のことで、版権元との再交渉があったとはいえ、対応速度の鈍いことではあります。

 ▼体裁: 初回発売分と全く同じ(一切の変更なし)
 ▼券種: 片道乗車券(相互式、6枚中2枚は小児券)
 ▼発売額: 990円
 ▼発売数: 無制限(申込による受注生産)
 ▼受注期間: 通販は23日間、駅での申込は14日間
 ▼有効期間: 初回発売分と同じ
 ▼購入数制限: 1申込あたり2セットまで ※申込口数に制限はない
 ▼通信販売: あり

売れ残りリスクへの恐怖は相変わらずのようで、とうとう見込生産を諦めて申込制の受注生産・後日引渡しとなりました。
旬を外した商品ですのでまあ仕方のないことかもしれません。

発売数限定をなくし、受注があっただけ発売することにしたのはいいのですが、「1申込あたり2セットまで」とする購入数制限が設けられた意味がわかりません。
どうせ総発売数は無制限なのですから、お客様が欲しいと言う数だけ何セットでも売ってあげればいいじゃありませんか。そのことで誰にも迷惑はかからないのですし。
そのくせ、よく見れば「1人につき1申込まで」という制限は特にないのですから、客はそれ以上の数を欲しければ複数口の申込をすればいいだけという。
これはマジで意味不明です。今更の無意味な購入数制限なんて、担当者はどこまでアホなのでしょう。


そしてまたまた『朝日新聞』の報道。
完売の「999」切符を再販売 西武鉄道、苦情に配慮
http://www.asahi.com/travel/rail/news/TKY200910220406.html
 (asahi.com 2009年10月22日)

 西武鉄道は、9月に限定販売した松本零士さんのイラスト付き記念乗車券を23日から再販売する。限定販売分は早朝に完売して苦情が相次いだため、記念乗車券としては異例の再販売。今回は期日内に申し込めば必ず手に入る。

 記念乗車券は、松本さん原作の人気アニメ「銀河鉄道999」にちなみ、9月9日に東京都練馬区内の12駅限定で2999セット(1セット990円)販売したが、午前5時半に完売してしまった。

 再販売する乗車券は限定販売分と図柄や価格などは同じ。申し込みは今月23日から通信販売で、11月1日からは前回と同じ12駅で同14日まで受け付ける。通し番号は3000番台からにすることで、限定販売時の購入者の「希少性」にも配慮したという。(後略)

商品仕様に何ら変更のない同一品を増刷するのですから、券番が3000番台からになるのは当然です。
当然のことに対してわざわざ希少性云々だなんて勿体をつけなくていいですから。
その "希少" な切符を買えたのは、午前4時台に駅に並ぶことのできた "まともじゃない" 人だけじゃないですか。
「希少性への配慮」をわざわざ言及するということは、この期に至ってその "まともじゃない" 購入者、つまりは(特にそういう美術的以外の価値を気にする輩 = )転売厨の味方をしてんのかよ。まったくどこまでも性根の腐った担当者ですこと。


まあでも、早朝完売事案をもう過ぎたこととして無視して片付けずに、遅れ馳せとなっても数量無制限での再販に踏み切ったことは、客商売の企業としてトラブル後にでき得る最高のフォローをしたものとしてこれは評価に値します。


(西武鉄道編おわり)
(シリーズは続く)

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(*p) = 入場券では無地紋紙が用いられるのが常で、乗車券では地紋入り用紙が用いられるのが常。
(*q) = AICの本社は練馬区に所在。また AIC ASTA のスタジオ名は、田無駅前の商業ビル「田無アスタ」に因んだ "やっつけ命名" であるエピソードは有名(以前公式で言及)。
(*r) = 大抵の記念切符の発売数は 1,000 ~ 3,000 部というのが相場であるため、表向きの数字だけを見れば一見そう不自然ではない。しかしこれまでの999切符の販売実績に照らせば、こんな数では過少であることは火を見るよりも明らかである。
(*s) = 大量購入される方にも後ろに並んでいる方々への配慮はあってほしかったですが、客のモラルの話であって売り手側の問題ではないので、それはまた別の話。

(*28) = 西武鉄道初、松本零士さん描き下ろし記念きっぷ及び、「西武鉄道×銀河鉄道999 オリジナルピンバッジ」を発売します。 (PDF) - 西武鉄道株式会社、2009年9月3日
(*29) = 2009.9.9記念乗車券(硬券/台紙付き)を再販売します。 (PDF) - 西武鉄道株式会社、2009年10月22日

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西武鉄道Webサイト
http://www.seibu-group.co.jp/railways/
西武鉄道

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Summary of images:
Description = 2009.9.9記念乗車券
Source of image #1 = http://www.seibu-group.co.jp/railways/news/news-release/2009/__icsFiles/afieldfile/2009/11/18/090903.pdf
Source of image #2 = http://journal.mycom.co.jp/news/2009/09/04/017/index.html
Date = 2009-09-03 / 2009-09-04
Author = (c) Leiji Matsumoto, SEIBU Railway Co.,LTD.
Permission = 日本国著作権法32条1項に基づく引用


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