Vanteyのアース線(もしくは枯れた資料帳)

怠け者のウィキメディアン・Vanteyの、脳内が帯電してきた時のはけ口。非百科事典的。過度な期待はしないでください。

2010年はカナダ海軍建軍100周年

2010-02-15 03:59:35 | Nice boat
カナダで開会した第21回オリンピック冬季競技大会の中継映像を観ながら、ふと思い出したことがありました。
そういえば、「2010年はカナダ海軍が建軍100周年」だってのを目にしたなあ……と。



カナダ軍艦が、舷梯に横断幕を掲げて宣伝していたのです。
去年そんな写真を撮っていたことを思い出しました。



1900年代末、ドイツ帝国海軍 Kaiserliche Marin の急激な拡張に危機感を抱いたイギリス海軍 Royal Navy は当時の最強シーパワーである弩級主力艦の量産を計画しましたが、財政難により十分な建艦予算を得られなかったため、窮余の策として世界各地にある自治領 Dominions (英国殖民地)に頼ることにしました。すなわち、それまでは「戦時に海軍を統括する当局は一つであるべきだ」との原則に固執して一部自治領による海軍独立要求を蹴ってきた政策を転換し、各自治領に対し建艦費の英本国への上納を求め、見返りに一部自治領の海軍独立を認めたのです。
そしてカナダ政府から出された海軍法が1910年5月4日にジョージ5世王の裁可を受けて成立し、海洋水産省 Department of Marine and Fisheries の管轄下に "Naval Service of Canada" の名称でカナダ独自の海軍組織が設立されたのです。

Naval Service of Canada は翌1911年、本国の Royal Navy に倣って "Royal Canadian Navy" を名乗ることを求め、同年8月29日に王の承認を得て改称が実現し、以後しばらくはその名称で活動することとなります。

カナダは1968年2月1日に陸海空3軍種を統合する軍制改革を行い、カナダ海軍 Royal Canadian Navy はカナダ統合軍 Canadian Forces の一部門たるカナダ統合軍海上部隊 Canadian Forces Maritime Command に改編され、現在に至っています。
カナダの実施したこの軍種統合は近代軍制史上の特異な試みの一つでしたが、組織内部(特に海軍)や国際軍事交流上などにさまざまな軋轢を生じ、ほどなくして部隊編制その他を元の軍種分立時に近い形に戻さざるを得なくなり、実質的には成功しませんでした。
現今、 Canadian Navy の通称で国際的にも通っています。海上自衛隊が Japanese Navy と呼ばれるのと同じようなものですね。



カナダ海軍による軍艦運用は、イギリス海軍より防護巡洋艦「レインボー Rainbow」(1893年進水、排水量: 3,600 t、主砲 152.4 mm × 2 門)の供与を受け、1910年8月4日に英国ポーツマス海軍基地で再就役させた(艦名は改称せず)のが創始となります。本艦は同年11月7日にブリティッシュコロンビア州エスカイモルトエスカイモルト海軍基地に回着し、太平洋岸の漁業取締の任に就きました。



二隻目はこれも英海軍お下がりの防護巡洋艦「ニオベ Niobe」(1897年進水、排水量: 11,000 t、主砲 152.4 mm × 16 門)で、1910年9月6日に英国デヴォンポート海軍基地で再就役し、同年10月21日にノバスコシア州ハリファックスのハリファックス海軍基地に回着し、大西洋岸の警備に就いています。



余談ですが、この「レインボー」は1914年に生起した〈駒形丸事件〉で、当事船となった日本船「駒形丸」を威嚇して追い返したことでも記憶されています。
この事件は、香港から上海・横浜経由で1914年5月23日にバンクーバーのバラード入江に到着した貨物船「駒形丸」(1890年進水、総トン数: 3,040 GRT、垂線間長: 100.3 m、神榮汽船合資会社社船)が、英領インドパンジャーブ出身の移民を376名も乗せてきており、彼らがカナダへの入国許可を事前に得ていなかったため、その処遇をどうするか問題になったというものです。
移民たちは停泊する船上で2ヶ月間上陸許可を待ちましたが、7月23日に強制退去命令を受け、「駒形丸」は「レインボー」に追い立てられて出港し、彼らは本船でそのままカルカッタへと送還されました。
非白人移民への差別排斥事件であり、北米のアジア系移民史における初期重大事件の一つと位置づけられています。



カナダ統合軍海上部隊は2010年、建軍100周年を記念した国際観艦式の開催を予定しています。
太平洋海上部隊 Maritime Forces Pacific では6月9日~14日、ブリティッシュコロンビア州ビクトリアの前面、エスカイモルト湾入口のロイヤル・ローズ泊地 Royal Roads anchorage において、太平洋・インド洋地域の25の海軍を招待して行われます。
また大西洋海上部隊 Maritime Forces Atlantic でも6月29日に、ノバスコシア州ハリファックスのベッドフォード湾・ハリファックス湾にて同様の観艦式が行われます。

この「25の外国海軍」に海上自衛隊が含まれているのはまず間違いないでしょう。
参加勢力はおそらく練習艦隊の遠洋航海部隊だと思いますが、4月半ば過ぎに日本を出発する遠航部隊にとってカナダ西岸は近過ぎるため、どのような巡航ルートをとるつもりなのか興味のもたれるところです。
練習艦隊はまさかの東海岸遠征で、西海岸へは別勢力を派出……なんてことはないか。

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Canadian Navy: Canadian Naval Centennial / La Marine canadienne : Centenaire de la Marine canadienne (英語 / 仏語)
http://www.navy.forces.gc.ca/centennial/

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Summary of images:
Description = カナダ海軍建軍100周年の横断幕
Date = 2009-06-03
Source/Author of photographs #1,2 = Vantey
Author of banner = Canadian Forces Maritime Command
License of photographs #1,2 = PD-self, Trademarked

Description = カナダ統合軍海上部隊の艦首旗
Date = 2009-06-03
Source/Author = Vantey
License = PD-self
Public domain

Description = HMCS Rainbow
Date = 1910
Source = Library and Archives of Canada, #PA-029755
Source of image = http://commons.wikimedia.org/wiki/File:HMCS_Rainbow.jpg
Author = Jones, John Wallace
License = PD-Canada

Description = Niobe, Canada
Date = between 1910 and 1915
Source = United States Library of Congress, #ggbain 08665
Author = George Grantham Bain collection
License = PD-Bain

Description = HMCS Rainbow and the Komagata Maru, July 1914 in Vancouver harbour.
Date = 1914-07
Source = Library and Archives of Canada, #C 46574
Author = Unknown
License = PD-Canada


1 コメント

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Unknown (Unknown)
2010-05-10 23:36:41
知人がこの観艦式に向かいました^^
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