Vanteyのアース線(もしくは枯れた資料帳)

怠け者のウィキメディアン・Vanteyの、脳内が帯電してきた時のはけ口。非百科事典的。過度な期待はしないでください。

「痛船」の歴史(登場編)

2010-10-24 06:20:27 | Nice boat
2010年10月現在における "痛船" の全歴史、いよいよ登場編です。前史編はこちら
今回は痛船の登場から、亜流・未満・追随者の出現などその後に続く事例を追ってゆきます。
なおここでは専ら実船の事例を扱います。 "痛艦船模型" については後日、別稿にて触れたいと考えています。
(※お断り: 本稿の内容は独自研究かつ日本中心です)


■2009年10月、痛船爆誕――みっくみくバスボート
バスボート bass boat というのはバスフィッシング専用に設計された小型艇で、内外の舟艇メーカーから専用モデルが発売されています。船質はグラスファイバーまたはアルミニウム合金で、船外機を装備し、定員は2~4人。
競技バスフィッシングでは定められた時間内に湖沼内のポイントを移動しながら釣果を競うため、汎用ボートと比べて安定性とともに高速性に優れた船型となっています。

2009年10月24日、バスフィッシング・プロフェッショナル(バスプロ)の橋本卓哉プロの公式ブログに、自艇の写真が掲載されました。それがなんと……!!

みっくみく号 (((( *ノノ)
http://taku1.blog.shinobi.jp/Entry/343/
 (Boooon! 2009年10月24日)

初音ミクの痛バスボート。
しかもグッドスマイルカンパニー協力のオフィシャル艇だというではありませんか。

橋本プロは翌週の2009年10月31日~11月1日に茨城県霞ヶ浦で開催された競技会『Basserオールスタークラシック2009』(第23回開催。主催: つり人社)出場時に本艇を初披露。
競技後のウェイイン(検量)時の動画があります。

【初音ミク】Basser All Star Classic 2009 【痛バスボート】
http://www.youtube.com/watch?v=MDmCfcv5hs8
 (YouTube 2009年11月3日公開 4分24秒)


橋本卓哉プロはこの前年の『Basserオールスタークラシック2008』でも「最強パレパレード」を入場曲にコスプレイヤーを伴ってウェイインするなど、かねてからオタクなバスプロとして有名な方です。
本職のバスフィッシングでも、最近ではWorld Bass Society (W.B.S.) プロトーナメント2009年度・2010年度の2年連続年間優勝を果たすなど実力者でもあります。前掲リンク先にある写真もそうですが、2009年11月以降に撮影された橋本プロの乗艇写真は皆、このみくみくバスボートです。

この橋本艇は初の痛バスボートであるのは勿論ですが、それと同時に、知られている限りでは他の船種を含めてもおそらく、実船では史上初の痛船となるのではないかと思われます。


■2009年12月、萌え水上バス――痛船化は叶わず
2009年12月29日~31日の同人誌即売会『コミックマーケット77』(主催: コミックマーケット準備会)開催期間中、会場の東京国際展示場(東京ビッグサイト)への移動手段の一つとなる東京都観光汽船日の出桟橋―有明客船ターミナル航路の就航船の1隻が、船内に萌えイラストを展示する "ギャラリー船" となりました。
コミケ開催中は水上バスが萌え仕様に!
http://ascii.jp/elem/000/000/486/486338/
 (ASCII.jp 2009年12月28日 18:03)

 コミケ開催期間の12月29日~31日の3日間、東京ビッグサイト(有明客船ターミナル)と日の出桟橋間を往復する水上バス「海舟」が萌えるギャラリー船になるという。

 今回のギャラリー船を仕掛けたのは、ASCII.jpの痛車記事でもおなじみの“中央デザイン”と痛車イベント団体“あうとさろーね”。当初は、痛水上バス化を狙っていたのだが、一般的な乗用車の数十倍以上の面積になる船を施工することは難しいため、テストケースとして、内部に萌えイラストを展示するギャラリー船にすることになったという。

 そして、飾られているイラストの数々はというと、「カオスヘッド」や「シュタインズゲート」などで知られる“5pb.”と「スマガ」や先日「装甲悪鬼村正」を発売したばかりの美少女ゲームメーカー“ニトロプラス”の2社のコンテンツにまつわるものとなっている。(後略)


Public domain

このギャラリー船となったのは「海舟」(1997年2月進水、総トン数: 146 GRT、全長: 33.80 m、登録長: 33.18 m、垂線間長: 33.00 m、型幅: 8.00 m、型深: 1.90 m、夏季満載吃水: 1.46 m)。

外観的な変化はなく、内装も額を設置しただけ。「痛水上バス化を狙って」叶わなかった企画でした。
なお東京都観光汽船とあうとさろーねは2010年5月3日~5日にも第2回のコラボレーションイベントとして『メイド水上バス』という企画を実施しましたが、この時は外観・内装ともに無装飾での運航(使用船は「アワータウン」)でした。


痛水上バスは、一般的な乗用車の数十倍の施工面積だろうと、やる気さえあれば不可能ではないです。
ただ水上バスの舷側の大半は開口部であり、側窓を避けて側面を痛化できる広い部分は本船の場合、船首ナックルライン上部、乗船口周りの腰板、屋上遊歩甲板手摺りの飾り板くらいしかありません(これでも他船よりはとても多いほう)。
これは一つアイデアですが、都市水上バスは沿岸や橋上から見下ろされるかたちで人の目に留まる機会が少なからずありますので、(屋上の立入り可能面積の小さい船を用いて)屋上面をキャンバスとして利用することも検討してもよいと思います。
いずれにしても、3日間にとどまるような超短期の企画では "船体の痛化" は費用対効果が悪過ぎ、あまり現実的ではないでしょう。施工と剥離にも長時間を要しますし。

ぜひいつか本当の痛水上バスを実現してくれる、スポンサーさんの出現を待ちたいと思います。


Public domain


■2010年3月、痛水上バイク複数台見参
2010年3月21日、幕張メッセ国際展示場1~3ホールで屋内痛車展示会『萌え博2010 in 幕張メッセ』(主催: 萌え博実行委員会)が初開催され、痛車220台、およびその派生である痛バイク(痛単車)50台、痛チャリ30台の合計300台が展示されました。
そしてその中には、水上バイクも含まれていました(バイク扱い?)。

陸上だけではなく水上も制覇、キャラクターの描かれた痛水上バイクいろいろ
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20100323_moehaku2010_ita_waterbike/
 (GIGAZINE 2010年3月23日 20:00)

この記事には、ヤマハが出品した初音ミクの "公式モノ" (写真の背景を見るに2台ともか)を含めて4台が紹介されています。すると残りの『けいおん!』と『薄桜鬼』(ともに原作絵)のは一般エントリーだったのでしょうか。水上バイクの全出品数は言及がなく、不明です。

> 今後は痛クルーザーや痛フェリーなどへと広がっていくのでしょうか……。

という記事の締めに、今後の広がりへの執筆者の期待が感じられます。
痛クルーザーはそろそろやる人が出てきているかも。


■2010年10月、初の二次元系ラッピング客船――たまゆらっぴんぐフェリー
長い前振りの末に漸く、今回一番書きたかった対象に辿り着きました(w

広島県竹原市の沖合約 5 km にある大崎上島は、広島県内の未架橋の離島では最大の島で、竹原港と島北部の垂水(たるみ)・白水(しろみず)の間には山陽商船大崎汽船の2社が合計1日32往復(4船使用、2船予備)ものフェリーを運航しています。

この竹原―垂水・白水航路の就航船の1隻、山陽商船の両頭型フェリー「第五さんよう」(2代。1994年1月17日進水、総トン数: 291 GRT、載貨重量: 137 DWT、全長: 49.90 m、登録長: 38.51 m、垂線間長: 37.25 m、型幅: 10.40 m、型深: 3.60 m、夏季満載吃水: 2.65 m)が今月、竹原が舞台になった新作OVA『たまゆら』とタイアップし、船体に同作のキャラクターのラッピングが施されました。

たまゆらっぴんぐフェリー
http://www.youtube.com/watch?v=auZrHr77U8U
 (YouTube 2010年10月10日公開 32秒)


【たまゆら】痛フェリー、なので【10月10日イベント】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm12396686
 (ニコニコ動画 2010年10月11日 15:36 投稿 2分55秒)


ラッピングフェリーとしての運航開始は2010年10月8日で、翌10月9日には『たまゆら』に桜田麻音(さくらだ まおん)役で出演する声優の儀武ゆう子さんが一日船長を務めました
また同日に収録された儀武さんによる船内アナウンスが、翌10月10日より土・日・祝日に本船のみで流されています(一晩で音源の編集をされた山陽商船の中の方、乙です)。運航予定は公式PDFの時刻表が置いてあります。
今のところ、終了時期は未定とのこと。BD/DVD 第2巻(最終巻)が発売されるのが12月23日ですから、少なくとも年明けくらいまでは大丈夫でしょう。

【たまゆら】たまゆらっぴんぐフェリー 船内アナウンス
http://www.nicovideo.jp/watch/sm12398218
http://www.youtube.com/watch?v=bkycpa-KRbk
 (ニコニコ動画 2010年10月11日 17:51 投稿 6分48秒)


掲出形態ですが、両舷の前後(計4ヶ所)にある階段室の外壁が広い空所を形作っているのに着目し、ここに大判の縦長方形ラッピングフィルムをポスター状に貼り込むという比較的簡便な方法が採られました。
簡便な方法とはいえ、あれだけの大判ですから高い足場での作業となり、加えて水上に浮いている船は停泊中でも常に小さく揺れており(*5)、また水準狂いや皺寄りにも気を付けながらの不慣れな貼付作業ですから、案外骨が折れたのではないかと想像します。

各キャラの近影へのリンク。
 ▽ぽって: hogeponq's fotolife - 20101008133823
 ▽かおる: hogeponq's fotolife - 20101008133822
 ▽のりえ: 00235 | Flickr - Photo Sharing!
 ▽麻音: 00236 | Flickr - Photo Sharing!

こうして近影を見ると、下地の状態は良くないですね。一般的な鋼船の場合、自動車や航空機やステンレス製鉄道車輛やグラスファイバー艇のようには貼付面が比較的平滑ではなく、熔接盛りや鋼板の痩せ馬、塗装ムラなどがあるため、完全に綺麗に貼るのは不可能なようです。まあでも遠景として観るための絵としては及第点かな。


二次元コンテンツ系のラッピング全面広告を施された路線バスは約10年前から存在し、最古と目される『あずまんが大王』(2000年11月出現)のもの以来、多数の事例が知られています。
路面電車のラッピング全面広告では2001年10月出現の『ときめきメモリアル3』が最初とされ、普通鉄道では2005年12月出現の『映画 ふたりはプリキュア Max Heart 2 雪空のともだち』辺りが初期例であるとみられます。
2009年3月には二次元系外板広告車輛として初の鉄道模型が商品化、『Bトレインショーティー E231系 総武線 CLANNADラッピング電車』(発売: バンダイ、2,625円。実車は2007年10月運行)が発売されています。

タイアップ(広告ではないが宣伝ではある)(*6)での二次元コンテンツ系ラッピング/外板塗装を施された鉄道車輛はもっと以前から存在し、「ゲゲゲ号」(富士急行、1997年)、「ドラえもん海底列車」(北海道旅客鉄道、1998年~2006年)、「トーマスランド号」(富士急行、1998年10月~現行)などが比較的古い例となります。
旅客機における二次元系タイアップラッピングは、日本航空の「JALドリームエクスプレス」(1994年・2001年、ディズニーキャラクター)、全日本空輸の「スヌーピージェット」(1996年・1997年)およびそれに続く「ポケモンジェット」(1998年6月~現行)などが初期の例で、現在同社では「ANA×GUNDAMジェット」(2010年7月16日~2011年3月末まで運航予定)も運航しています。

日本の商船界はこうした外板の各種宣伝への活用はもとより、広告化(文字広告も含む)さえほぼ未開拓でした。あるいは、日本では今まで発展性のある分野と看做されず放置されてきたのかもしれません。上述の痛水上バス化断念の例もありますし。
ですから今回のこのラッピングフェリーは、痛モノ史的には他の交通機関に大きく遅れた登場ですが、日本の広告/宣伝史および海事史的には未踏の荒野への初入殖であり、船舶外板の情報空間としての活用に道を拓く劃期的事件であると評価できます。……買い被り過ぎですかね?

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(*5) = アニメ『ARIA』の劇中船は揺れなさすぎなんです! 航行中でも!!
(*6) = 広告料金の授受の有無にかかわらず掲出実態としては変わらないので、都道府県・政令市によっては屋外広告物条例による規制対象となる場合がある。もちろん商業性・営利性が無い場合でも同様。

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Summary of images:
Description = 東京都観光汽船社船「海舟」Kaishu (JG5503 / Off.No. 135876 / IMO 9180671)
Date = 2009-10-17 / 2009-01-08
Source/Author = Vantey
License = PD-self


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