Vanteyのアース線(もしくは枯れた資料帳)

怠け者のウィキメディアン・Vanteyの、脳内が帯電してきた時のはけ口。非百科事典的。過度な期待はしないでください。

「痛空母」の誕生まで、というか『けいおん! キティホーク』レビュー

2010-10-26 04:17:18 | Nice boat
"痛船" の歴史を追ってきた前々回前回に引き続き、今回は "痛艦船模型" の誕生までの歩みです。というか "痛空母" のレビューです。
とりあえずとっちらかった参考資料を片付ける意味で、この系統のネタは消化してしまいます。


■初の痛艦船模型キット商品化、『けいおん! キティホーク』
おた☆スケ』で2010年4月14日に紹介されたのをきっかけに情報が拡散し、「まさかの痛空母」として各所で話題のコレ。

フジミ模型のプラモデルキット『きゃらdeCAR~る No.17 1/700 けいおん! キティホーク』(2010年6月発売、8,190円)です。
2010年5月13日~16日にツインメッセ静岡で開催された『第49回静岡ホビーショー』(主催: 静岡模型教材協同組合)で実物完成見本が初展示された後、翌6月に発売されました。発売は当初の5月予定→6月1日予定よりも大分遅れ、6月後半の出荷となりました。


(パッケージサイズは 52 × 25 × 7 cm)

この商品は、フジミ模型(プラモ担当)とコトブキヤ(デカール担当)のコラボレーション企画による痛車プラモ「きゃらdeCAR~る」シリーズの一つ。
きゃらdeCAR~るシリーズは2009年3月より展開を開始、2010年10月現在では No.22 までリリースされています。なお2009年にはコトブキヤ側からも K01 ~ K04 の4アイテムがリリースされていました。
フジミ模型公式製品情報ページにはまだ No.12 までしか載っていませんでしたので、折角ですから、きゃらdeCAR~るのリリース済み全アイテムのラインナップを以下にまとめてみました。

No.1 1/24 ToHeart2 AnotherDays 向坂環 マツダ RX-8 タイプS (2009年3月13日 3,990円)
No.2 1/24 夜明け前より瑠璃色な -Moonlight Cradle- フィーナ・ファム・アーシュライト スバル レガシィ ツーリングワゴン ブライトン (2009年4月10日 3,990円)
No.3 1/24 Magus Tale ~世界樹と恋する魔法使い~ アリシア=インファンス マツダ RX-7 FD3S・5型 '99 (2009年5月2日 3,990円)
No.4 1/24 FORTUNE ARTERIAL 千堂瑛里華 トヨタ アルテッツァ RS200 "Z EDITION" (2009年6月5日 3,990円)
K01 1/24 SHUFFLE! マツダ RX-7 FD3S・6型 (2009年6月23日 3,990円)
No.5 1/32 真・恋姫†無双 ~乙女繚乱☆三国志演義~ 呉 いすゞ ガーラ SHD (2009年7月16日 8,925円)
No.6 1/32 真・恋姫†無双 ~乙女繚乱☆三国志演義~ 魏・蜀 デカール (2009年7月15日 3,675円)
K02 1/24 ToHeart2 AnotherDays 小牧愛佳 トヨタ スプリンタートレノ AE111 (2009年8月10日 3,990円)
No.7 1/24 うたわれるもの 散りゆく者への子守唄 トヨタ ヴィッツU・5ドア (2009年9月2日 4,190円)
No.8 1/24 HoneyComing スバル インプレッサ 20S (2009年9月18日 3,990円)
No.9 1/24 地獄少女 トヨタ MR2 G-Limited (2009年10月3日 3,990円)
K03 1/24 はぴねす! トヨタ MR-S "S EDITION" (2009年10月26日 3,990円)
K04 1/24 シスター・プリンセス 三菱 FTO GPX (2009年12月11日 3,990円)
No.10 1/24 けいおん! アンティークガレージ (2009年12月16日 3,990円)
No.11 1/24 ARIA The ORIGINATION ホンダ インテグラ タイプR 3ドアハッチバッククーペ (2009年12月3日 3,990円)
No.12 1/24 タユタマ -Kiss on my Deity- トヨタ マークII ツアラーV (2010年1月6日 3,990円)
No.13 1/24 EXIT TRANCE PRESENTS 痛車トランス2 デカール (2010年2月17日 2,100円)
No.14 1/24 つよきす2学期 Swift Love トヨタ AE86 カローラレビン GT APEX '83 (2010年2月19日 3,990円)
No.15 1/24 W.L.O. 世界恋愛機構 トヨタ ソアラ 4.0GT (2010年3月16日 3,990円)
No.16 1/24 DREAM C CLUB デカール (2010年4月28日 3,150円)
No.17 1/700 けいおん! アメリカ第7艦隊 航空母艦 CV63 キティホーク '98 (2010年6月 8,190円)
No.18 1/24 D.C.II ~ダ・カーポII~ 朝倉音姫・朝倉由夢 トヨタ アルテッツァ RS200 "Z EDITION" (2010年4月29日 3,990円)
No.19 1/24 DREAM C CLUB デカール2 (2010年6月1日 3,150円)
No.20 1/24 けんぷファー マツダ サバンナRX-7 SA22C (2010年6月27日 3,990円)
No.21 1/24 夜明け前より瑠璃色な Brighter than dawning blue エステル・フリージア 三菱 ランサーエボリューションIII (2010年9月22日 3,990円)
No.22 1/24 とある科学の超電磁砲 スバル インプレッサ WRX STi (2010年10月9日 3,990円)

デカール単体という商品が幾つかあり、それもそこそこのお値段が付いています。版権料って高いんですねやっぱり。
こうして通覧してみると、 No.17 だけ車じゃないし、ミリモノだし、縮尺も変だし、いろいろと異質すぐる。。。

○けいおん! キティホーク に関するFAQ1. 「空母とか、もはやけいおん関係ないじゃん?」
 A1. この種の痛車プラモのシリーズは、そもそもどれも作品内容と関係ないです。そういうものなのです。フジミのきゃらdeCAR~るシリーズ然り、ライバルメーカー青島文化教材社(アオシマ)の痛車シリーズ然り。


■痛車プラモキットの嚆矢と、その大ヒット
因みにこの分野で先行する青島文化教材社は痛車シリーズのリリースに先立ち、玩具・遊具分野において「痛車」(読み: イタシャ、ツーシャ)を商標登録しており(2007年12月17日出願、同日先願権発生)、フジミなどの痛車玩具の後発者は商品名に「痛車」の名称を用いることができません。
アオシマが「痛車シリーズ」を名乗り、一方でフジミのきゃらdeCAR~るの商品説明に(本来は一般名詞であるはずの)「痛車」の語があまり出てこないのには、こうした事情があります。

なおアオシマは、変わり種の自動車プラモではデコトラのプラモでも古くから知られています。
その「デコトラ」も青島文化教材社の登録商標ですが、そもそも「デコトラ」という名詞自体が同社による造語であり、模型化に際して1976年に名付けられたものですので、「痛車」とは経緯が異なります。


アオシマが痛車のプラモシリーズを発売するという最初の発表がされたのは、老舗の模型問屋・宮沢模型主催の流通関係者向け商談会『第21回秋の商売繁盛応援セール』(2007年11月20日都内で開催、一般非公開)のアオシマブースの展示によってでした。
ネットでの第一報は、同商談会にて取材したこちらのニュース記事。

アオシマ“痛車”プラモシリーズ発売! 第1弾は「涼宮ハルヒの憂鬱」
http://ga.sbcr.jp/mreport/008497/
 (GA Graphic 2007年11月20日)

それがこの世界初の痛車プラモキット、『1/24 痛車 No.01 涼宮ハルヒの憂鬱 FD3S RX-7』(2008年2月3日発売、3,360円)です。


不況なんの『痛車プラモデル』好調 青島文化教材社
デザインやキャラクターなど顧客重視こだわる

 アニメやゲームが好きな「オタク」系の若者が、お気に入りのキャラクターをマイカーに描いて楽しむ「痛車(いたしゃ)」。模型メーカーの青島文化教材社(静岡市葵区、青嶋典生社長)がプラモデルにして発売したところ、アニメファンに人気の「涼宮ハルヒの憂鬱」の萌え系女性キャラクターをあしらった「RX-7」(マツダ)が累計で1万個売れるなど、「5000個売れればヒット」とされる業界で異例の売れ行きとなっている。

 昨年2月に発売し、既に12種類を数える。「スプリンタートレノ」(トヨタ自動車)や「ロードスター」(マツダ)などスポーツタイプの名車が主体。家族向けのミニバンもある。価格は3000円台が中心で、平均的なプラモデルより3割ほど高い。キャラクターをデザインしたステッカー代や版権費用がかかるからだ。

 それでも痛車関連は急成長し、売り上げは普通の車のプラモデルの5倍以上に到達。2009年10月期には前期比で倍増となる見通しで、作れば売れる状態という。

 社員のAさん(36)が2年前、オタク文化が集まる東京・秋葉原で実物の痛車を目にして商品化を思い付いた。「プラモデルの顧客層は40~50代が主流。痛車なら10代後半から30代の若者を取り込めると思った」

 「キャラクターのシールを張っただけで売れるのか」と、最初は社内で総スカンを食った。Aさんらは「主役は車でなく、キャラクター」とデザインを重視。キャラクターの配置やポーズの選択、ロゴの組み合わせにも気を使った。顧客重視のこだわりを積み重ね、大ヒットにつなげた。

 売れる背景には、不況下の若者の懐事情も関係しているようだ。

 07年の調査で、20代前半の男性の平均年収は271万円。若者が本物の車を買うことさえ困難な時代。車に絵を描くため、塗装やデザインを業者に頼めば数十万円も余分にかかる。

 「実物の痛車を持つことは、今の若者にはハードルが高いんです」とAさん。だから「プラモデルで我慢する」という一面が垣間見える。最近ではアニメ好きの中高生にも購買層が広がっている。

 ――『中日新聞』静岡版、2009年8月25日

痛車シリーズはこの新聞記事のように大ヒットとなり、2009年3月には上述のようにフジミ模型も追随して現在に至ります。
売り上げもそうですが、顧客層の高齢化に悩むプラモデルに若年層を呼び戻した点で「痛車プラモ」は、まさに模型業界の救世主となったのです。


■再び『けいおん! キティホーク』詳細
『けいおん! キティホーク』の元になったキットは『シーウェイモデルシリーズ No.38 1/700 航空母艦 CV63 キティホーク '98』(4,830円)。
水線上のみを再現した、いわゆるウォーターラインモデルです。
艦上機は F-14A × 8 機、 F/A-18A/B × 12 機、 HH-60F × 4 機がいずれもクリアパーツで付属。



このキットにはかつて、レーダーマストやブラスト・デフレクター等のエッチングパーツと真鍮製の救命艇 × 130 個を付属した限定版『デラックスバージョン』(6,300円)という派生アイテムもありましたが、現在は入手不可。

値段を比べると、『けいおん! キティホーク』の版権デカールはエッチングパーツの倍以上の値段なんですね……
デカールにはアニメ第1期版の版権絵やロゴが用いられています。



こちらのブログに本キットの内容物の写真付き紹介があります。

「けいおん!」の痛空母 フジミのUSSキティホーク 発売!
http://blog.goo.ne.jp/yk_figure_review/e/69f22df2cebd51cbcdccf7064f690bc8
 (YKの気ままに レビュー 2010年6月24日)

しかし、そのデカールの豪華さときたら!
『けいおん! キティホーク』には 400 ×230 mm ( ! )という大判のデカールが4種類( !! )も付属しています。これならノーマルより3千数百円高くてもある意味納得です。

きゃらdeCAR~るシリーズはデカール点数が他社のシリーズよりも多いことで、痛模型ファンの間ではそこそこ好評なのだそうです。おまけデカールとして多めのデカールが入っているので、指示書と異なる貼り方でオリジナリティを出せたり、他の模型や小物への流用が利くのです。
つまり、「寧ろデカール目当てで買うのだ」という購入動機もアリなのです。


○けいおん! キティホーク に関するFAQ2. 「なんで車じゃなくて空母にしたの? アニメの大ヒットに乗じて、価格帯の高い商品でも売れると踏んで一儲けを考えたの?」
 A. 一説に、アオシマから『1/32 痛車 No.SP けいおん! 痛トラック(ツアートラック)』(2009年8月、6,090円)と『1/24 痛車 No.11 けいおん! ランサーエボリューションX』(2009年9月、3,780円)が既出なため、ネタが被るのを避けたから。
  別の説に、フジミの既存アイテムの中でデカールを貼れるスペースがめっぽう多いから。
○FAQ3. 「なんでキティホークなの? 現役のニミッツ級とか、痛モノ的にはアイランドに "ビルボード"(*1)を持つエンタープライズとかの方がよくね?」
 A. シーウェイモデルシリーズのラインナップを見てください。フジミにはニミッツ級のラインナップがなく、他には時代がかった大戦型空母や軽空母ばかりで、現代っぽいのは「キティホーク」と同級2番艦の「コンステレーション」だけ。つまり二択。消去法で、日本での知名度の高い「キティホーク」になったのです。


こちらのブログには『けいおん! キティホーク』の製作記があります。

1/700 けいおん!キティホーク 製作記 その1
http://ameblo.jp/aguri/entry-10591744205.html
 (ぷらぷら漫遊記 2010年7月15日 23:22)

全8回、順を追ってできあがってゆきます。途中で別の模型の記事もはさまっていますが、次記事のリンクを順に辿ってゆけばその8まで読み終われます。
ブログ主さんは模型製作ブログをやっているくらいですからかなりのモデラーですが、そんな主さんも本キットには苦闘されたご様子。艦船模型は専門外のようで製作経験はあまりないみたいです。ですので艦船模型を作り慣れていない方にも参考になりそうです。


■自作痛空母の先行作例
模型誌上などでは、以前から自作痛空母を発表されている方がおられたようです。
それら個人製作の作例はフォローしきれませんし、正確な始期も特定できません。

そこでここでは、法人化以前のグッドスマイルレーシングのスタッフが2008年11月に製作し、モデルカーの祭典『ホビーフォーラム2008』(2008年11月23日、横浜・大さん橋ホール。主催: ホビーフォーラム実行委員会)で展示された公式作例、みっくみくな「痛空母ニミッツ」をご紹介しておきます。

「痛空母ニミッツ」竣工
http://ameblo.jp/goodsmileracing/entry-10169700922.html
 (GSRレポート 2008年11月25日 23:23)

今日は、先日の「ホビーフォーラム2008」 に展示した作例「痛空母ニミッツ」のご紹介をいたします。何故空母を作例に選んだかと言えば、意外性もさることながら、だだっ広い甲板は、ミクデカールを貼るには最適のキャンバスに思えたからです。

キットはイタレリの1/720空母ニミッツ。
(中略)
塗装が終われば、いよいよお楽しみのデカール貼り。
空母はなんといっても広大な甲板が特徴。思う存分みっくみくにしてやりましょう。せっかくE2ホークアイ早期警戒機もキットに入っているので、レドームに「はちゅね顔」デカールを貼っちゃいました。
(中略)
あ、そうそう、ホビーフォーラムの会場で、「なんで定番の1/700ではなく、わざわざイタレリの1/720で作ったんですか?」というご質問を本当に多くの方から頂戴しました。
実は、イタレリの「イタ」と「痛」をかけたかったから、ただそれだけの理由なんですけどね・・・。

この「初音ミク痛空母」はその後2008年12月29日から2009年1月末頃まで、秋葉原のアソビットキャラシティ(*2)4階の萌えフィギュアコーナーのショーケース内にて再展示されています(*3, 4)。

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(*1) = 原子力空母「エンタープライズ」 (CVN 65) のアイランドには、かつてフェーズドアレイレーダーを装備していた(1982年撤去)巨大な壁が四面にあり、 "ビルボード" と通称される。

(*2) = アソビットキャラシティ(ラオックス株式会社が運営。2007年3月31日以降の所在地は東京都千代田区外神田1-8-8)は2009年8月30日限り閉店。
(*3) = 初音ミクデカール作例、秋葉原近辺のホビーショップにて展示中!!! - GSRレポート、2008年12月29日
(*4) = 初音ミクの痛車と痛空母 - アキバBlog、2009年1月5日

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FUJIMI フジミ模型株式会社
http://www.fujimimokei.com/

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『けいおん!』関連の主な過去記事
Oh My ウィキ太!! (2010年10月6日)
とある駐屯地祭の焼きそば屋台にて (2010年9月19日)
『けいおん!!』キャラ・キャスト・スタッフ誕生日まとめ (2010年9月16日)
桜花の4つ並びを見ると、つい… (2010年9月1日)
gooの「つい見てしまった深夜アニメランキング」の修正前・修正後 (2010年8月24日)
gooの「つい見てしまった深夜アニメランキング」に聞き捨てならない記述が (2010年8月23日)
今Wikipediaで一番調べられている声優は… (2010年7月20日)
あなたの 筆加減で おいしくなるの! (2010年5月25日)
Some rights reserved な自著作物の無断転載発覚時、著作者はどうすべきか? (2010年1月25日)
「だめねー、唯ちゃんは恥じらいが足りないわ」 (2009年8月17日)

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Summary of images:
Description = 『けいおん! キティホーク』『キティホーク '98』パッケージ / デカール
Author of pictures = (c) かきふらい・芳文社/桜高軽音部
Author of package = フジミ模型株式会社
Permission = 日本国著作権法32条1項に基づく引用

Description = 『涼宮ハルヒの憂鬱 FD3S RX-7』広告
Author of picture = (c) 2006 谷川流・いとうのいぢ/SOS団
Author of flyer = 株式会社青島文化教材社
Permission = 日本国著作権法32条1項に基づく引用

Description = Sailors line the decks of the nuclear powered aircraft carrier USS Enterprise (CVN 65) as they "man the rails" while the ship pulls into port at Naval Station Norfolk following its participation in Summer Pulse '04.
Source = http://www.navy.mil/view_image.asp?id=16497
Date = 2004-07-23
Author = U.S. Navy photo by Photographer's Mate Airman Joshua Kinter
License = PD-USGov-Military-Navy


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