「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.47 ★ 中国と日本の経済は「逆転」した? 3年ぶりに上海を訪れた私が見た“驚きの光景”

2024年01月29日 | 日記

DIAMOND online (王 青:日中福祉プランニング代表)

2024年1月26日

写真はイメージです Photo:PIXTA

先日、3年ぶりに中国を訪れて驚いた。以前とはまったく異なる光景が広がっていたのだ。街に人がいない。景気が悪い。社会に活気がない……そんな中国から見ると、現在の日本は「中国よりもはるかに活気がある」と感じるようで、多くの中国人が「中国と日本は何もかも逆転した」と口を揃える。

そう言われても、日本に住んでいる筆者はこのような実感がなかったが、実際に上海を訪れ、現地で話を聞いているうちに、その意味が分かった気がした。中国経済はバブルが弾けてしまったのではないだろうか。そう、かつての日本のように……。(日中福祉プランニング代表 王 青)

 日本では、「好景気な中国」や「(経済)成長著しい中国」というイメージがすっかり定着している。「爆買い」と言われたように、大勢の中国人観光客が日本をはじめ、世界各地を訪問し、お金を湯水のごとく使う光景はその象徴ともいえる。

 ところが先日、3年ぶりに中国・上海に行ってみると、まるでバブル崩壊当時の日本のような、寂しい光景が広がっていた。状況が一変していたのだ。

空港はガラガラ、デパートに人はおらず、レストランは閑古鳥

 まず、上海に着いた時からして、数年前とは様子が全く違っていた。上海浦東国際空港には静寂が広がっていた。以前は出国するにも入国するにも長蛇の列で、入国審査を通過するのに長い時間を要していた。しかし、今は空いていてスイスイ進む。数年前までのあの空港の喧騒はどこへ行ったのか、こんなに空いている空港を今まで一度も見たことがなかった。一方、日本に戻ってくると、成田国際空港は出発ロビーも到着ロビーも、大勢の人々でにぎわっていた。免税店では買い物客が長い列を作り、入国時の税関荷物検査も混雑していた。上海の空港とはまったく違う。

 そして、上海の街の様子もすっかり変わっていた。閉まったままの店舗が多く、いわゆる日本の地方都市の「シャッター通り」商店街のような光景が広がっていた。

 旧フランス租界界隈では、以前は深夜まで西洋人や中国人でにぎわっていたバーの光が消え、廃業した店が目立つ。百貨店やショッピングモールの化粧品フロアやファッションフロアは、混んでいるはずの週末や平日夕方の時間帯でも、店員の人数のほうがお客より多い状況。以前は1時間以上並ばないと入れなかった人気レストランも、ガラガラで閑古鳥が鳴いている。上海の友人に聞くと、「安い火鍋や麺類、ファストフード店に人が流れているんだ」と説明してくれた。

上海の中心部にある駅直結のデパートの化粧品売り場。日本で言うなら銀座の中心にあるデパートの1階を思い浮かべてほしい。平日の18時半頃なのに客よりも店員のほうが多い状況だ(筆者撮影)


 上海に着いて、公私問わず、久しぶりにいろいろな友人知人に会ったが、皆一様に「景気が悪い」と嘆く。「たくさんのお店が閉まった」「外国人が少なくなった」「活気がなくなった」「不動産が売れなくなった」「若者が仕事を見つけられなくなった」「失業者が増えた」「皆、お金を使わなくなった」……等々。誰の口からも、こんな言葉ばかりが出てくるのだ。

日本も「好景気だ」というほどではないけれど……

 一方、日本の経済状況はといえば、シンクタンクのレポートなどを見ると「緩やかな回復基調」などのコメントが目立つ。決して不況ではないし、緩やかに経済は回復しているとはいうものの、インフレが進むほどには賃金が上がっているという実感がないので、「好景気だ」「日本経済はとても好調」と思う日本人は少ないだろう。

 ところが、現在の中国人の目から見ると、全く異なる印象になるのだ。前述の通り、筆者が久しぶりに会った大勢の友人知人たちは、口を揃えて中国の不景気を嘆いた後、口々に「日本は活気があるね」と指摘するのだ。特に、最近、日本を訪問した人たちは、一様に驚いているようだった。

 筆者の友人で、金融機関に勤務する女性の李玲さん(仮名、30代)は、昨年秋に日本へ個人旅行をした。これまで数回日本に来たことがあるが、コロナ禍以降は初めてだという。

「とにかく、どこに行っても混んでいた。グルメを堪能したが、どのお店も早めに予約しないと絶対入れない。買い物にも満足した。今の中国は、買い物はほとんどネットショップで済ませているから、実店舗には行かなくなったでしょう? だから、日本で実際のお店に入って、洋服や靴を試着したり、商品を手に取ったりして、たくさんの実物を自分の目で見て、買いたいものを選んでいくのは、すごく楽しかった。とってもわくわくした!こんなに興奮した旅は久しぶり」と李さんは目を輝かせて話し、「今は、日本のほうが刺激的だね」と付け加えた。

「日本には刺激がある」――言われてみれば、最近、筆者もそう思うようになった。長年日本に住んで仕事をしているが、コロナ前は、日本に長くいると、「日本は安定しているけど、変化がなくてちょっと退屈」と思う時があった。たまに出張で中国に行くと、いつも活気があふれており、エネルギーをチャージできる感覚があった。新しいビジネスの話がどんどん持ち込まれて、良い刺激を受けることも多かった。ところが、今回上海に滞在している間、「これから新しいことをやろう!」と提案してくる人は誰もいなかった。逆に「今は冬眠中。新しいことはしないのが一番」と言うのだ。

中国よりも日本に住みたい

 先日、東京で打ち合わせをした時に、日本の人材派遣会社に勤務する中国人の余さん(40代男性)が、興味深い話をしてくれた。

 彼は約20年前に留学生として来日し、そのまま日本に残って就職した。仕事で中国へ出張することが多かった。2010年代、中国で会うビジネスパートナーたちは皆、いつも上から目線で「なんで日本にいるの?今は中国に勢いがあるし、成功のチャンスに満ちあふれている。あなたのような有能な人なら、こっちに帰ったほうがいいに決まっているよ」とよく言われたそうだ。当時、こうした指摘をされるたびに「“頭が上がらない”思いであった」と余さんは言う。

 しかし、昨年以降、状況は一変した。これまで余さんを「説教」した人たちは一様に口を閉ざした。逆に、訪問先では「どうやったら日本のワーキングビザを取れる?」「日本の不動産を購入するのには、どんな条件が必要?」などと聞かれることが多くなってきたという。「『なんだ、結局日本に来たいのか』と思った」と余さんは話す。

 こうした変化は中国人だけではない。中国在住の日本人も“日中の経済状況の逆転“を実感しているようだ。

 10年以上上海に住み、建築デザイン関係の仕事をしている日本人女性の田中さん(仮名)は、「自分の周りだけで、少なくとも10人以上の日本人が日本に帰った」と話す。「昨年秋、コロナ禍以来初めて日本に一時帰国したが、思ったより活気があって、びっくりした。以前とは経済状況が逆になったよね。今、上海は元気がない。これまで関わった大型開発プロジェクトもみんな中止になり、仕事が一気に減った」と話した。

「僕は洗脳されていたのかもしれない」

 上海在住で、40代男性の伊藤さん(仮名)は、中国在住歴15年。中国語が堪能で、専門用語の多い法律文献も見事に翻訳をこなす中国通である。これまで伊藤さんは「中国が大好き。母国の日本は嫌い」と言い続けており、大の「中国びいき」だった。「中国には活気があり、ビジネスチャンスが多い」というのが持論だ。ところが、今回、久しぶりに上海で伊藤さんに会って驚いた。考え方が正反対になっていたのだ。

 彼は中国人女性と結婚していて、現在3人の子どもと5人家族で上海に暮らしている。その伊藤さんが「実は、もう日本に帰ろうと思っている」と話を切り出した。

「昨年、3年ぶりに日本に帰った時の衝撃は忘れられない。日本には活気があってやっぱりいいなぁと思った。滞在中、改めて日本社会をもう一度客観的な目で見て、いろいろなことを考えた。これまでの自分の考えが果たして正しいのかと疑問を持つようになった」

 伊藤さんは真剣な表情で話を続けた。「僕は長年中国にいて、洗脳されていたかもしれないと思うようになった。多分、コロナ禍がなければ、ずっと目が覚めなかっただろう。ゼロコロナの3年間はあまりに理不尽なことが多すぎて、嫌になった。僕のように中国が大好きで、10年、20年もこちらに住んでいる人間が中国を嫌いになるというのは、よほどのことだと思う。僕だけじゃない。周りを見ても、僕と同じく中国を大好きな日本人で、(最近)中国が嫌いになったという人が、かなり増えている」

 返事に困っていると、伊藤さんはさらに続けた。「これまでの持論は、自分にそう言い聞かせて、中国に住む理由を正当化したかったのかもしれない。日本はそんなに面白い国ではないが、安定している国ではある。何よりも、日本は民主国家だ。それに、子どもの教育費や医療費なども安いし、生活しやすいのは間違いないよ」

中国も、日本のようなバブル崩壊を味わうのか

(左)上海の昔の住宅地を再開発した商業施設。日曜の午後なのに閑散としている。(右)上海の夜の街。イルミネーションはきれいだが人がいない(筆者撮影)

 中国の経済成長に自信を持っていた中国人が自国の不景気を嘆き、日本の経済状況を見て、「やはり、日本はすごい。活気がある」などと言う。筆者は彼らの話に納得しつつも、複雑な気分になった。かつて、バブル景気に沸いた日本経済は米国を追い越したものの、バブル崩壊後は再び、米国に追い越され、そこから長い長い不況に沈んだ……今の中国の状況は、あの頃の日本を彷彿とさせるからだ。

 中国の昔のことわざに「三十年河東、三十年河西」というものがある。長い歴史の中で、あらゆる物事は変化するし、世の中の盛衰は移ろいやすいという意味だ。

 今の中国と日本の逆転現象は、果たして本物なのか。そして、いつまで続くのか……両国の未来は、誰にも予測できないのではないかと思う。

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