「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.132 ★ 「SF界のノーベル賞」に中国政府が介入?中国主催で起きた“史上最悪のスキャンダル”とは

2024年02月29日 | 日記

DIAMOND online (ふるまいよしこ:フリーライター)

2024年2月28日

中国発のSF『三体』は、アジア圏作品として初めてヒューゴー賞の長編部門を受賞。全30話でテレビドラマ化された。日本でもWOWOWなどで視聴できる。(C)TENCENT TECHNOLOGY BEIJING CO.,LTD

大ヒットした『三体』をきっかけに、この10年で急激に世界的に存在感を増した中国SF202310月には、「SF界のノーベル賞」と言われるヒューゴー賞の授章式を含む世界SF大会が四川省で開かれた。しかしそこで同賞史上最悪なスキャンダルが起きたのだ。SFファンたちが「中国政府の介入だ」と激怒した事態とは?(フリーランスライター ふるまいよしこ)

SF界のノーベル賞」ヒューゴー賞の最優秀長編小説賞をアジアで初めて獲得した『三体』

中国語版『三体』(全3巻)

 あなたはもう『三体』を読んだだろうか? 中国のSF作家、劉慈欣(りゅう・じきん)による作品で、2015年に「SF界のノーベル賞」とも形容されるヒューゴー賞の最優秀長編小説賞を受賞した。アジア人初の快挙である。

 日本でも2019年に邦訳版が刊行され、中国小説のファンのみならずSFファン、さらにはSFファンですらない人たちにまで絶賛され、シリーズ売り上げ90万部を超えるベストセラーとなっている。そのヒットは日本における中国作家に対するイメージを完全に塗り替えたといえるだろう。中国では昨年、アニメとテレビドラマがそれぞれ制作されて話題を呼び、さらに米Netflixも数年かけて制作したドラマを配信した(日本では3月配信予定)。間違いなく、中国の現代小説として世界的な影響力を持つ作品である。

『三体』が受賞した翌年の2016年には、中国人作家、郝景芳(ハオ・ジンファン)の『折りたたみ北京』がヒューゴー賞の最優秀中編小説作品賞に輝いている。

 中国人作家から次々と素晴らしいSF作品が生まれ、それが世界的に読まれ始めたことが、中国の文学界にも自信をもたらしており、次なる劉慈欣や郝景芳を目指して、多くの若手作家が育ちつつある。

 もちろん、そこで自信をつけたのは文学界や作家だけではなかった。中国政府も、である。

四川省成都市が第81回世界SF大会を主催することに

 まず、『三体』を連載していたSF雑誌「科幻世界」が本拠地としていた四川省成都市を「科幻之都」(SFの街)と命名。続いて「科幻世界」の出版社と成都市共産党機関紙発行元などが「成都市科幻(SF)協会」を設立し、2023年度のヒューゴー賞発表授賞式を含む第81回世界SF大会(以下、ワールドコン)イベント主催権を獲得した。同市ではそれをきっかけとして、2025年までに1500億元(約3兆2000億円)規模の「メタバース産業チェーン」を作る開発計画を発表した。

 そして昨年10月、その第一歩として落成した成都科幻館でワールドコンが行われ、第81回ヒューゴー賞の各受賞作品と受賞者が発表された。そこでは中国人作家、海漄(ハイヤー)作の『時空画師』(時空の絵師)が最優秀中編小説作品に選ばれ、明るい話題を振りまいた。

 ところが、いつもなら受賞式後数時間以内に公開されるはずの投票経過報告が遅れに遅れたのだ。ヒューゴー賞の規約が定めた期限「90日以内」のギリギリ、2024年1月20日にやっと投票経過報告が公開された。

 待ちわびたファンたちはそこで、昨年度の有力候補と見なされていた幾つかの作品が、なんと途中でノミネート資格を剥奪されていたことを知らされた。その結果、SFファンの間から「ヒューゴー賞に、中国政府の政治介入が行われた」と激しい怒りの声が上がり、同賞史上最悪のスキャンダルに発展している。

複数の有力作品が、投票対象から外されていた

 問題となったのは、R.F.クアンの長編小説『バベル』、ニール・ゲイマン原作で制作されたNetflixのドラマ作品「サンドマン」および最優秀新人作家部門に名前が挙がっていたシーラン・ジェイ・ジャオ、そして最優秀ファンライター部門で有力視されていたポール・ワイマーが、それぞれ次の段階に進むことができる得票数を集めていたにもかかわらず、途中で「Not eligible」(ノミネート資格なし)と判断され、次のラウンドの投票対象から外されていたことだった。

 ヒューゴー賞は英語で出版された作品を選考対象としており、上記の作品はどれも日本語に翻訳されていない。作品及び作者も日本人にはあまり馴染みがないと思うので、以下、資料を基に簡単にご紹介する。

『バベル』はニューヨーク・タイムズ紙でベストセラー大賞に選ばれた一冊で、イギリスでも2023年度フィクション大賞を受賞した。さらに2023年にはヒューゴー賞と並ぶSF大賞の双璧「ネビュラ賞」の最優秀小説賞にも選ばれている。作者のR.F.クアンは1996年中国広州生まれ、4歳の時に家族で米国に移住した。前作の『ポピー・ウォー』『イエローフェイス』も高く評価されており、『バベル』は彼女の中国名「匡霊秀」で中国国内でも翻訳出版されている。

「最優秀新人賞」部門に名前が挙がっていた、シーラン・ジェイ・ジャオも中国出身。小学生のときにカナダに移住している。注目のデビュー作『アイアン・ウィドウ』(邦題は『鋼鉄紅女』)はすでに日本でも翻訳出版されており、やはりニューヨーク・タイムズ紙上でベストセラー大賞に選ばれ、2021年の英国SF協会賞の若年読者向け作品部門を受賞した。彼女自身はコスプレーヤー兼YouTuberとしても活動中だ。

 ニール・ゲイマンはイギリス人コミック作家、脚本家、劇作家で、これまでにヒューゴー賞、ネビュラ賞など多数の受賞経験がある。今回対象となった「サンドマン」はアメリカで出版されたコミックをゲイマン自身が総指揮をとり、Netflixが映像化した。

 そして最優秀ファンライター(アマチュアライター)部門に名前が挙がっていたポール・ワイマーは、過去何度も同部門の最終候補にノミネートされてきた著名アマチュア作家。彼が編集者として参加しているSFファン雑誌「Nerds of a Feather」も昨年度の最優秀ファン雑誌賞の次点だった。

 この4人は、多くの人たちが最終ノミネートまで歩を進めるだろうと予測していたにもかかわらず、途中で「ノミネート資格なし」として排除されていた。また、その理由も、また誰が判断したのかも、投票統計(PDF)には書かれておらず、SF関係者の間から大会運営者に対して説明を求める疑問の声が巻き起こった。

202310月、四川省成都ワールドコン 決定のドタバタ舞台裏

 ヒューゴー賞は、長編、中長編、中編、短編のそれぞれの小説部門だけでなく、シリーズ部門、関連書籍、編集者など小説出版のほか、ドラマや映像、グラフィック、さらにはセミプロやアマチュア(「ファン」と呼ばれる)など、SF出版に関わる裾野の広い17の賞が設けられている。

 運営統括はワールドコンの運営母体である非営利団体の世界SF協会(WSFS)が行い、毎年の地区主催者と協力して運営が行われている。受賞の選考は、日本の芥川賞や直木賞のような選考委員によるものではなく、全ての賞は授賞式に先立って開催されるワールドコン参加者の投票によって決定する。

 投票の手順は、例年1月から3月にかけて予備投票が行われ、そこでは前年のワールドコン参加者が投票する。そして選出された最終ノミネートが4月に発表され、その年の夏に行われるワールドコン参加者が最終投票を行うことになっている。

 だが、昨年のワールドコンは例年より遅い10月に開催された。それは、会場となる予定だった成都科幻館の竣工(しゅんこう)が間に合わなかったからだとされている。

 ただ面白いことに、2021年の米ワシントンで開かれたワールドコンで成都市SF協会が2023年度の主催申請をしたものの、ライバルのカナダ・ウィニペグが有力視されており、「彼ら自身もまさか獲得できるとは思っていなかったようだ」と多くの人たちが証言している。というのも、本来なら主催権獲得後すぐに発表される大会委員名簿や、参加者のためのホテル情報や会員価格などの発表が行われなかったからだという。

 さらに今回のトラブルの後に噴き出した、ワールドコン関係者たちのブログや記事を読むと、この開催地決定時の投票では、通常の投票とは違い、住所や所属が書かれていない「出どころ不明」の票が大量に出現したらしい。だが世界SF協会がそれを受け入れた結果、成都に決まったということだった。

 その後、開催までの21カ月の間、実際にトラブルも起きた。主催者である成都側が発表した大会ゲストに、劉慈欣とともに、西洋社会ではほぼ無名の、ロシアの体制派SF作家の名前が書かれていた。プーチン大統領の熱狂的な支持者であり、ウクライナ侵攻に関しても扇動的な発言をするこの作家をゲストに招いた成都ワールドコンに抗議し、ノミネートへの辞退を発表した作家も出ている。

 だが周囲の不安をよそに、昨年10月18日にどうにか成都ワールドコンが開幕。それと同時に世界から集まってきたSFファンを狙って、中国当局は「SF産業発展サミット会議」を主催し、「SFの街成都」の紹介や、SF産業関連事業契約の締結式などを開催した。この様子を中国共産党の機関紙「人民日報」では、「成都は『SF産業チャンスリスト』を発表し、40もの重大プロジェクトを明らかにし、総額約380億元(約8000億円)を投資するとした」と報道している。

資格剥奪された4人は、中国政府から見て「危険人物」?

 だが、その裏でヒューゴー賞にも「中国らしい」事態が起きていた。

 実は資格剥奪された4人には、周囲が「中国政府が介入した」と考える理由がそれぞれあった。

 まず、R.F.クアンはアヘン戦争を題材にしたデビュー作『ポピー・ウォー』で、毛沢東を10代の女性に見立てて描いている。また、今作『バベル』も、アジアの孤児院からイギリスに引き取られた子どもが、言語を媒介にした国際的スパイ訓練機関へと送り込まれるというあらすじで、中国にとってあまり気分の良いものではなかったようだと指摘されている。

 シーラン・ジェイ・ジャオも話題のデビュー作『鋼鉄紅女』で武則天を主人公に描いた。つまり、クアンもジャオも、中国的にいえば「歴史的修正」を行ったことになる(もちろん、SFだが)。また父親が中国の少数民族・回族であることを明らかにしているジャオはさらに、英『ガーディアン』の取材に対して「過去わたしが中国に対して行った批判的な言論も問題視されたのだろう」と述べている。

 また、ニール・ゲイマンはペンクラブのメンバーであり、これまでも中国政府の言論統制や報道規制に対する批判をたびたび口にしてきたり、言論罪で逮捕された作家たちの釈放を求める請願書にも署名したりしたことがあった。ポール・ワイマーも成都ワールドコンへの支持を表明しつつも、SNS上で香港問題や天安門事件について述べたことや、中国人LGBTQ作家を称賛したことが引っかかったのではないか、とみられている。

ヒューゴー賞に起きた「中国らしい」事態

「中国政府の介入」疑惑に対して、2023年度ヒューゴー賞運営責任者であるデイヴ・マカーティは、SNS上で「ヒューゴー賞運営委員会と中国政府との間に、公的なやり取りはなかった」と述べ、そのコメント欄では大議論が巻き起こった。また、同賞運営委員会は、「我々が従わなければならない原則とルールを再確認した結果、当該作品や人物はノミネート資格なしと判断された」とコメントしている。

 しかし、その結果に納得しない業界関係者およびファンたちの間では次々に独自調査が行われている。自らもニュースジャーナリストであるクリス・バークレイとジェイソン・サンフォードの二人は舞台裏について詳細な調査を行い、その結果を公開している。

『時代の行動者たち 香港デモ2019』(白水社)李立峯 編、ふるまいよしこ 訳、大久保健 訳

 それによると、運営委員会のメンバーの一人が今回の出来事に関わったことを「恥ずべきこと」とファンに謝罪し、中国側主催者ではなく世界SF協会側の委員会内部でやり取りされたメールを公開した。その中には、マッカーティ自身が運営委員に向けて「中国、台湾、チベット、そしてその他中国に関わる問題について触れた内容をピックアップすべし……我々運営側がそれに対して法に照らして判断する必要がある」などと書いた内容も含まれていた。

 この報告書では、中国政府が作品選定に具体的に影響を与えたという証拠は現時点ではまだないとし、「経済利益を鑑みた運営者側の自己規制だった可能性もないとはいえない」と論じている。が、SFファンたちにとって、暴露された委員会内のやりとりとともにかなり衝撃的な事実が詰め込まれている。

 この事件はすでに、「ヒューゴー賞の歴史と権威を貶めるもの」として業界関係者およびファンたちの激しい怒りを引き起こしており、世界SF協会トップらの退任を求める声も巻き起こっている。「SF界のノーベル賞」が今後いったいどうなっていくのか。多少でもSF小説に関心のある身としては、やきもきさせられる事態である。

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No.131 ★ 中国西安市、新婚夫婦に宝くじ贈呈へ 出生増狙いキャンペーン

2024年02月29日 | 日記

ロイター編集

2024年2月28日

 中国の西安市は出生数増加につながる結婚を奨励するため、婚姻証明書を提示した新婚夫婦に宝くじを贈呈することを決め、70万元の予算を投じる。北京で2010年6月撮影(2024年 ロイター/Christina Hu)

 

[香港 28日 ロイター] - 中国の西安市は出生数増加につながる結婚を奨励するため、婚姻証明書を提示した新婚夫婦に宝くじを贈呈することを決め、70万元(約1465万円)の予算を投じる。

 

中国の人口は2023年に2年連続で減少。出生数は16年の約半分にまで落ち込み、婚姻数は22年に過去最低を記録した。

 

西安市はこのキャンペーンを3月1日から11月30日まで実施。市民政局は今週、対話アプリ「微信(ウィーチャット)」で「婚姻証明書を受け取った後に幸せな生活が始まるだけでなく、ささやかなギフトが手に入るかも」と呼びかけた。

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No.130 ★ 中国の若者たちの「習近平への怒り」が爆発寸前…!海外投資家の「中国離れ」も加速する「深刻な実態」

2024年02月29日 | 日記

現代ビジネス (藤 和彦:経済産業研究所コンサルティングフェロー)

2024年2月28日

photo by gettyimages

習近平がぶち壊した「チャイナドリーム」

 習近平への怨嗟の声が、中国のZ世代で高まっているようだ。  1995年~2005年の生まれで、高度経済成長を謳歌し、ITに慣れ親しんだこの世代はいま、中国版「大就職氷河期」のただなかで自信を喪失しようとしているという。

  2028年にはアメリカのGDPを抜くとさえ言われた、中国の「チャイナドリーム」。Z世代は、自分たちが社会人になっても続いていくと信じて疑わなかった。  しかし、彼らはいつ終わるとも知れない長期停滞期に社会人生活を送りかねない厳しい環境に置かれている。

ない袖は振れない…

反スパイ法によって中国への海外からの投資は激減した Photo/gettyimages

 春節(旧正月)明けの中国経済は相変わらず芳しくない。  大型連休(2月10~17日)の国内観光収入は前年比47.3%増の6327億元(約1.3兆円)とコロナ前の水準を上回ったようだが、中身が悪い。  

ロイターの試算によれば、1人当たりの観光支出額の平均は1335元にとどまり、2019年の1475元を9.5%下回っており、中国人の節約志向が続いている。

 不動産市場も絶不調のままだ。不動産関連指標を扱う中国指数研究院は18日、「春節期間中の新築住宅販売(成約面積ベース)が昨年に比べて約27%減少した」と発表した。  中国政府は不動産市場の立て直しに躍起になっている。  

中国人民銀行(中央銀行)は20日、住宅ローン金利の目安となる期間5年超の金利を年3.95%と過去最低水準にまで引き下げた。5日に1兆元(約21兆円)の長期資金を市場に放出したことに続く緩和策となる。  

人民銀行が支援の先頭に立っている背景には、これまで景気対策を牽引してきた地方政府の苦境がある。地方政府全体が発行した債券の残高は2023年末時点で40兆元(約820兆円)を突破し、年間の支払い利息が1兆2000億元(約25兆円)を超えている。  「ない袖は振れない」状態なのだ。

とどめを刺した「反スパイ法」

 にもかかわらず、中央政府は大規模な財政出動をためらっていることから、中央銀行による支援頼みの構図は強まるばかりだ。

 海外金融機関の間では、「中国で進行中の景気の落ち込みは春から夏にかけて悪化する」との見方が広まっていることが災いして、春節明けの株式市場も依然として低調だ。

 悪い話題はまだ続く。昨年の中国への直接投資額が前年比82%減の330億ドル(約5兆円)にとどまり、30年ぶりの低水準になったことが明らかになっている。その要因として、昨年7月に施行された改正反スパイ法など中国での事業環境の悪化が指摘されている。  

中国では、さらにスパイ摘発などを担当する国家安全部がネット上に流れる中国経済に関するネガテイブな言動を厳しく取り締まるようになっており、これを嫌気した海外投資家の「中国離れ」が加速することは間違いないだろう。

絶頂から「どん底」へと落ちる若者たち

安徽省安慶市の就職フェアで職を探す求職者たち Photo/gettyimages

 思い起こせば、英国のシンクタンクは2020年末に「中国は2028年に米国経済を追い抜く」との予測を発表した。中国の2012年の経済規模は米国の約半分だったが、2021年には米国の76%に急接近した。今から振り返れば、このときが中国経済のピークだった。  

その後は2年連続で米中の格差は再び広がり、昨年の中国経済の規模は米国の64%にまで縮小した。  足元では「不動産バブルが崩壊した中国では日本のようにデフレが数十年続く可能性が高く、中国が米国を追い抜くことは永遠にない」との声がコンセンサスになりつつある。  

習近平国家主席は2013年、中国民族の復興という「中国の夢」というビジョンを掲げたが、米国を抜いて中華帝国の過去の名声を取り戻す前に、中国の夢が悪夢と化してしまうという危機に直面している。

 このことに最もショックを受けているのが、Z世代なのだ。  

後編記事『「習近平は田舎者」と「罵詈雑言」も…! 大型連休中に飛び交った「習近平への怒りのメッセージ」、そのヤバすぎる中身』では、中国経済の絶頂期に生まれたZ世代の怨嗟の声と中国人がいかに習近平への不満を募らせているのかを見ていこう。

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No.129 ★ NVIDIA、中国向け新AI半導体のサンプル出荷を開始 米国の新たな対中規制に対応、ようやく出荷へ

2024年02月29日 | 日記

JBpress (小久保 重信)

2024年2月28日

(写真:ロイター/アフロ)

 米エヌビディア(NVIDIA)が、中国市場向けの、2つの新しいAI(人工知能)向け半導体のサンプル出荷を開始したと、英ロイター通信が報じた。米国の輸出規制によって中国市場における支配的地位が脅かされる中、早期に輸出を再開し懸念を払拭したい考えだ。

ファンCEO「顧客の反応を楽しみにしている」

 2月21日の四半期決算後、同社のジェンスン・ファンCEO(最高経営責任者)がロイター通信とのインタビューで「現在、顧客にサンプルを提供している」と明かした。「いずれの半導体も、(米国の)規制を順守している。顧客からのフィードバックを楽しみにしている」と述べたという。

 ただし、ファン氏は製品の詳細や顧客名には言及しなかった。エヌビディアの広報担当者も情報提供の要請に応じなかったという。

2回目の規制回避製品

 エヌビディアは米政府の対中輸出規制を受け、技術基準を下回る半導体を開発してきた。米商務省は22年10月、AI向け先端半導体を中国などの「懸念国」に輸出することを原則禁じた。これにより、生成AIなどのAIシステムで業界標準となっている同社製GPU(画像処理半導体)「A100」と「H100」の中国への輸出ができなくなった。そこで同社は、規制基準を下回る性能のGPU「A800」と「H800」を開発し、中国などで販売を再開した。

 しかし、バイデン米政権は1年後の23年10月に規制強化を発表。中国などに対する米国製先端半導体・装置の輸出規制対象を拡大した。これによって、A800とH800も輸出できなくなった。

エヌビディアはこの状況を受け、米政府が新たに定めた性能基準を下回る3種のGPUを開発した。半導体市場調査会社の米セミアナリシス(SemiAnalysis)によると、3種とは「HGX H20」「L20 PCIe」「L2 PCIe」である。これらのGPUは、AI向け最新機能の多くを搭載しているが、新規制に準拠するため、一部のコンピューティング能力に制限がある。

 ロイター通信は24年2月1日、エヌビディアが3種のGPUの中で最も性能の高いHGX H20の事前注文を受け付け始めたと報じた。販売代理店はその価格を、中国・華為技術(ファーウェイ)の競合製品と同等に設定したという。

 HGX H20は当初、23年11月に提供する予定だったが、サーバーメーカーが半導体の統合に問題を抱えていたため、発売が延期されたとロイター通信は報じていた。

 ただ、こうしたエヌビディアの動きを米政府は批判している。米フォーチュンなどは23年12月、ジーナ・レモンド米商務長官が、エヌビディアを名指しして批判したと報じた。米政府が先端半導体の輸出規制措置を取っているにもかかわらず、エヌビディアは相次ぎ中国市場向けの特別な半導体を開発し、規制を回避している。イタチごっこのような駆け引きに、レモンド氏はうんざりしているという。

対中規制の影響、業績結果に

 前述した通り、エヌビディアはこのほど、24会計年度第4四半期(23年11月~24年1月期)決算を発表したが、対中規制が同四半期の業績に影響を及ぼした。コレット・クレスCFO(最高財務責任者)は決算説明会で、中国向けAI半導体の販売が著しく減少したと述べた。

 同氏によると、AI向け半導体を含むデータセンター部門売上高における中国の比率は「1桁台半ば」にとどまった。この比率は前四半期までおおむね20~25%で推移していた。このときフアンCEOは、米政府の新規制を受け、中国での事業活動を一時停止していたと明かした。

 米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によると、エヌビディアは25会計年度第1四半期(24年2月~4月期)における中国の比率も同水準で推移すると予想している。だが、その次の四半期以降は競争環境が整うとみている。フアン氏は「(中国での)競争に参加できるようになると期待している。最善を尽くして結果がどうなるか見ていきたい」と意気込みを示した。

小久保 重信

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、JBpress『IT最前線』や日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」で解説記事を執筆中。連載にはダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19~20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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No.128 ★ 「脱ファーウェイ」に日本勢商機 経済安保で同盟国協調

2024年02月28日 | 日記

日本経済新聞

2024年2月27日

NTTドコモは「オープンラン」の海外展開を急ぐ(26日、スペイン・バルセロナ)

複数のメーカーの機器を組み合わせた通信網「オープンRAN(ラン)」の構築が活発になってきた。華為技術(ファーウェイ)など中国勢を排除して高速通信規格「5G」の通信網を拡大できるためで、NTTドコモはフィリピンなどに試験導入する。経済安全保障の観点から米国や同盟国の企業が連携して「脱中国」を急ぐ。

オープンランは携帯電話の通信網を設計する際、機器をクラウド上のソフトウエアに置き換える「仮想化」と呼ぶ技術を使う。これにより顧客の要望に合わせて複数メーカーの機器を組み合わせられるようになる。

ネットワーク全体を1社の機器でそろえる従来の場合と比べメーカー間の価格競争を促し、通信網の整備コストを減らせるとされる。スペイン・バルセロナで開催中のモバイル関連見本市「MWC」でもオープンランは注目テーマの一つだ。

ドコモ、カタールやフィリピンで実証

「5Gの整備コストを抑えたいという需要があり、関心も高まっている」。MWCで日本経済新聞の取材に応じたドコモの井伊基之社長もこう話す。自社の通信網で運用した場合、標準的なネットワークと比べて初期費用や維持管理を含めた全体のコストは最大3割削減できた。基地局の消費電力は最大5割減らせるという。

26日にはドコモはオープンランをカタール、フィリピン、シンガポールで2024年に試験導入すると発表した。各地での通信網の構築から運用支援、保守までをまとめて担い、実地でのノウハウを養う。海外展開の加速に向けてNECとも共同出資会社を立ち上げ、4月に事業を始める。

機器を提供するパートナーには米アマゾン・ウェブ・サービスやソフトバンクグループ子会社で半導体設計大手のアームなどが新たに加わったことも同日明らかにした。国内外27社と組んで東南アジアや中東を中心に市場を開拓し、25年度に100億円の売上高を目指す。

オープンランには楽天グループも力を入れる。23年12月にはドイツの新興通信会社「1&1」が楽天のソフトウエア技術を使って5Gのサービスを一部で始めた。ウクライナの通信事業者「キーウスター」に24年内に導入し、5Gインフラの基盤整備を進める。

オープンラン市場、30年に4.8兆円規模

調査会社グローバルインフォメーションによると、オープンランの市場規模は30年までに320億ドル(約4兆8000億円)を超える。メーカー同士の競争が激しくなればコスト削減に加え、5Gの普及も早まるとして期待は高まっている。

オープンランを含む通信網の基幹となる基地局で存在感が高いのがファーウェイだ。英調査会社オムディアによると、22年の基地局の世界シェアはファーウェイが31%と首位で、スウェーデンのエリクソン(25%)、フィンランドのノキア(18%)の3社で7割以上を占める。

普及を後押しするのは情報流出などを念頭に置いた経済安全保障だ。ファーウェイには米国を中心に懸念が高まっており、同社抜きで通信網を築きやすいオープンランへの需要が高まっている。

米商務省は12日、米通信大手のAT&Tベライゾン・コミュニケーションズのオープンラン事業に約4200万ドルを拠出すると発表した。ドコモやインドのリライアンス・ジオ・インフォコムも加わり、セキュリティー面の実証などを進めながら米国でのオープンラン事業の拡大を図る。

英国、ファーウェイ排除通達

同様の動きは西側諸国でも広がっている。

英国では1月に大手通信会社などの基幹通信網からファーウェイ製品を全面排除する政府通達が発効した。5Gについても27年末までに取り除くよう求めている。欧州連合(EU)はファーウェイと中興通訊(ZTE)の中国2社を名指しして5G通信網から締め出すよう各国に要請している。

基地局設備の交換負担で反発も

普及への動きが活発になる中、課題も浮かび上がっている。

23年にはドイツ政府が26年までに5G通信網から中国製の機器の排除を計画していることが明らかになった。ただドイツでは5G通信網のうち約6割を中国製に頼る。事業者側には26年という期限や多額のコスト負担への反発も広がる。

ファーウェイの通信網はアフリカ、東南アジアでも多くの国や事業者に使われており、切り替えに伴うコスト負担の懸念はつきまとう。

複数メーカーが関わることで通信障害が発生した際に復旧や原因の特定に時間がかかる可能性も高い。運用面を考慮すれば全体のコストは上がるとの見方もある。セキュリティー面の検証も欠かせない。産業や社会を大きく変えるとされる5G展開を加速するうえでも技術確立を急ぐ必要がある。

(宮嶋梓帆、バルセロナ=佐藤諒)

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