「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.298 ★ 中国に「EV墓場」 スマホのように気軽に車を買い替えたその先に…

2024年04月30日 | 日記

テレ朝news)

2024年4月29日

 中国では電気自動車が急速に普及する一方で、「負の遺産」ともいえる「EV墓場」が問題となっています。背景には、若者の消費動向の変化もありました。

■北京モーターショー 注目は中国のスマホ大手「小米」

4年ぶりの北京モーターショー

 25日から4年ぶりに開催されている北京モーターショー。およそ1500社が出展し、最新のモデルを公開しています。

スマホ大手が電気自動車に参入

 なかでも注目されているのが、先月、電気自動車に参入したばかりの中国のスマートフォン大手「小米(シャオミー)」です。アメリカのテスラより安い価格を打ち出し、激しい価格競争を巻き起こしています。

小米 雷軍CEO
「謙虚な姿勢をもって、テスラに学ぶ必要がある」

 

■“数百台の電気自動車”空き地を埋め尽くす

空き地に数百台の車

 次々と企業が参入し成長を続ける中国の電気自動車業界。その一方で問題となっているのが、空き地を埋め尽くす無数の車。その数、数百台にも上ります。今年1月、中国のSNSに投稿されました。

中国のSNSから
「まるで電気自動車の墓場みたいだ!」

 

 この白い車は、カーシェア事業に利用されていた電気自動車とみられます。思ったほど利用者が伸びず、廃棄されるケースが相次いでいます。

窓がはずれている車

 別の映像では、窓がはずれていたり、タイヤに雑草が絡まっていたりする車、クモの巣がはっている車まであります。

タイヤに雑草が絡まっている車

クモの巣がはる車も…

 中国政府は電気自動車産業の成長を国家プロジェクトに掲げ、電気自動車の製造や購入に対し、多額の補助金を投入。しかし、それが過剰な生産につながり、経営破綻する新興企業も相次いでいるといいます。さらに…。

■過剰生産問題 影響は中国国内にとどまらず

スマホのように車を買い替え

中国のSNSから
「1年で3台目です」

 今、中国では補助金で割安となった電気自動車をまるでスマートフォンのように頻繁に買い替える若者が増えているといいます。

 深刻化する電気自動車の過剰生産問題。影響は、中国国内にとどまらないといいます。

 

過剰生産の影響は?

拓殖大学 海外事情研究所 富坂聰教授
「中国はEV世界最大の市場ですが、期待されたような右肩上がりの勢いを保っていくという意味では少し失速気味。もうけようというよりも会社が潰れるので、少しでも金に換えたいっていうことですよね。海外でたたき売りになるんですよ。受け手になった国は、たたき売り商品と競争しなきゃいけないということで負けていくわけですよね。それが過剰生産の問題ってことですね」

(「グッド!モーニング」2024年4月29日放送分より)

 


No297 ★ 中国 車買い替えの補助金策発表、最高1万元

2024年04月30日 | 日記

NNA ASIA

2024年4月28日

中国商務省は26日、自動車の買い替えを促すための補助金政策を発表した。今年末までに買い替えた人に対して最高1万元(約22万3,000円)を支給する。3月に発表した買い替え促進計画を具体化した格好だ。

商務省は、2024年4月24日から同年12月31日までに条件に合う乗用車の廃棄を終え、かつ条件に合う乗用車を購入した個人に補助金を支給すると発表した。

廃棄車の条件については、(1)中国の排ガス基準「国3」以下の内燃機関車(ICE車)の乗用車(2)18年4月30日以前に登記した「新エネルギー車(NEV)」の乗用車――と設定。購入車の条件は、(1)工業情報省のNEVリスト「減免車両購置税的新能源汽車車型目録」にある乗用車(2)排気量2リッター以下のICE車――と規定した。

ただし、廃棄車条件(2)と購入車条件(2)を満たしても、補助金は受けられないと定めた。

補助金額については、廃棄車条件(1)もしくは(2)を満たし、購入者条件(1)を満たした人は1万元と規定。廃棄車条件(1)と購入車条件(2)を満たした人は7,000元と定めた。

申請期限は25年1月10日。

政府は今年3月、自動車など耐久消費財の買い替えを促進することで景気回復を図る計画を発表。ただ、買い替え者にどの程度の補助金を出すかについては発表を先送りにしていた。

■今年の新車販売、最大350万台上振れ

華泰証券は、今年の新車販売台数が補助金政策によって170万~350万台上振れすると予測した。

中国自動車業界団体の全国乗用車市場信息聯席会(CPCA)の崔東樹秘書長は補助金政策について、「自動車市場に大きな恩恵をもたらす」と評価。5月の自動車市況に早速効果が表れるとみており、同月の新車販売台数は4月から目立って増えると見通した。今年の廃棄車は1,000万台に迫るとの予測も示した。

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No.296 ★ 中国、戻らぬ海外客 日本人はビザが足かせに

2024年04月29日 | 日記

時事通信

2024年4月28日

北京首都国際空港の到着ロビー=2月23日

 【北京時事】海外から中国への旅行客数が伸び悩んでいる。  中国メディアによると、2023年の外国人入国者は、コロナ禍前の19年の半分以下にとどまった。日本への外国人旅行客はほぼ戻っており、中国の不振ぶりが際立っている。特にビザの取得が20年以降必要になった日本人は「ほぼ行かなくなった」(日系大手旅行会社の関係者)という。

中国国家移民管理局によると、渡航前のPCR検査などの入国規制が撤廃された23年以降、訪中旅行客数は徐々に回復してきた。政府はビザ免除の対象国を増やし、同年12月にはフランスやドイツを追加。政府系研究機関は、24年の訪中客がコロナ禍前の半数近くに戻ると見込む。  

ただ、業界では需要の回復を「楽観できない」といった見方が根強い。日本人はかつて訪中外国人の1割近くを占めていたが、ビザがネックとなり、JTB日本旅行は中国のパッケージツアー販売を中止したままだ。

改正反スパイ法が施行され、外国人の拘束が相次いだことを受け、中国への渡航を控える動きも広がった。野村ホールディングスは、23年10~12月期に日米欧から中国を訪れた旅行客が4年前の5%以下にとどまったと分析。その背景には「地政学的な緊張がある」と指摘した。  

中国の観光ビザの取得には、渡航者本人が同国の在外公館などに足を運ぶ必要がある。中国を発着する国際線の便数も減ったまま。先の日系企業関係者は「中国は近くて遠い国に戻った」と嘆き、「魅力的な観光地も多く、本当はすぐにでもツアーを再開させたい」と肩をすくめた。 

【解説】

浦上早苗 (経済ジャーナリスト/法政大学MBA実務家講師)

昨年、数年ぶりに中国に行きましたが、コロナ禍の間に観光地の入場や高速鉄道の予約などあらゆることがアプリを通じた実名かつキャッシュレス決済になっており、中国の口座を持っていないと使えませんでした。

外国人旅行者にとってはかなり高いハードルで、その後、アプリが国際クレジットカードと連携できるようになったりはしていますが、現地の決済手段が浸透しすぎて、国際クレジットカードを直接使える店が少ないなど、外国人旅行者には相変わらず不便です。

ビザの相互免除は記事にある通り進んでおり、隣国である日本は相変わらずビザ必須。ビザ取得にお金と時間がかかるので、なかなか行きづらい状況です。

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No.295 ★ TikTokは中国政府のプロパガンダツール?米国で禁止法が成立した中で日本人が見落としている「本当の問題点」とは

2024年04月28日 | 日記

TikTokは中国政府のプロパガンダツール?米国で禁止法が成立した中で日本人が見落としている「本当の問題点」とは

MONEY VOICE (牧野武文:ITジャーナリスト)

2024年4月26日

 

Pocket

2024年4月25日に動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」を運営する字節跳動(バイトダンス)が、アメリカで「TikTok禁止法」が可決されたことに対し、違憲だとして法廷で争う姿勢を表明しました。これまでTikTokは全世界の若者を中心に人気を博してきたアプリで、アメリカでは「中国のプロパガンダツールなのではないか」という意見もありましたが、実際の公聴会を聞いてみると本来の問題点が見えてきました。(『 知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード 』牧野武文)

なぜ、アメリカはTikTokを禁止しようとしているのか?

3月13日に「180日以内にTikTokを米国企業に売却をし、それができない場合はTikTokの配信を禁止する」法案が下院で可決されたニュースはご存知のことと思います(編集補足:4月23日に米上院でバイデン大統領が24日に署名し、同法が成立)。

なぜ、アメリカはTikTokを禁止しようとしているのか。日本のメディアは、「TikTokが米国市民の個人情報を収集して中国政府に渡す可能性があるから」という理由をあげていることが多いようです。

しかし、公聴会の議事録を読み、ビデオを見ると、議員たちが問題にしているのは、そこよりも「TikTokは中国政府の影響下にあるプロパガンダツールなのではないか」という疑念が強いことがわかります。アルゴリズムを操作し、中国政府に有利なコンテンツは意図的に拡散をし、中国政府に不都合なコンテンツは削除をしているのではないか。そういう疑問が相次ぎました。

また、これはTikTokに限りませんが、SNSが子どもに有害情報を伝えてしまい、命を落としたり、犯罪に巻き込まれることが増えているため、ここも問題にされています。

つまり、米国が問題にしているのは次の3点です。

  • TikTokは、中国政府の影響下にあり、中国に都合のいい操作を行なっているのではないか。
  • TikTokは、米国市民の個人情報を収集し、中国政府に渡しているのではないか。
  • TikTokなどのSNSは、子どもの命や犯罪に関わる有害コンテンツをなぜ適正化しないのか。

というものです。

公聴会は2回行われ、1回目は5時間以上、2回目は4時間以上にわたるもので、いずれも議事録とビデオが公開をされていて、誰でも見ることができます。しかし、実際に見ることはあまりお勧めできません。なぜなら、非常に長く、しかも退屈な質問が繰り返されるからです。

そこで、みなさんに代わって、私が視聴をし、問題点を拾い出してみました。今回は、米国でTikTokの何が問題にされているのかについてご紹介します。

PAFACA法案」でTikTokは米国で配信停止になる可能性が高い

3月13日に、米国下院で「The Protecting Americans from Foreign Adversary Controlled Applications Act」(通称:PAFACA、敵対勢力に制御されたアプリケーションからアメリカ市民を守る法律)が可決されました。180日以内に、米国企業に売却をし、運営を完全に手放すか、それができない場合は、TikTokの米国での配信・運営そのものが禁止をされます。

TikTokの何が問題なのか。多くの日本のメディアは、中国政府への個人情報流出の問題を挙げています。昨年から、バイデン政権がTikTokが収集した米国市民の個人情報が中国政府に渡っているのではないかという懸念から、連邦政府の機関での公用端末にTikTokをインストールすることを禁止しているからです。

もちろん、個人情報が中国政府に渡っているのではないかという疑念も問題のひとつです。しかし、PAFACAの立法趣旨は、TikTokは中国政府に有利な情報を拡散し、不利な情報を検閲することで、中国政府のプロパガンダツールになっている可能性があるのではないか。あるいはフェイク情報を拡散して米国社会を混乱させるツールになる可能性があるのではないか。だから米国企業が運営をするか、さもなくば配信停止にすべきだというものです。

議員の中で、中国政府がTikTokを通じて米国市民に対してプロパガンダ活動を今現在行なっていると考える人は少数派でしょう。しかし、中国政府がそれをやろうと思えばできてしまう構造になっていることを問題にしています。報道によると、若い世代から「Keep TikTok(TikTokをキープしよう)」という運動が起こり始め、多くの議員が若者票を失うことを恐れて反対に回り、成立しないのではないかとも言われています。

みなさんは、このPAFACAという法律をどうお感じになるでしょうか。「たかが面白映像の共有アプリにおおげさすぎ」と感じる方もいるでしょう。しかし、いざという時にプロパガンダツールになりかねないものを放置していくことはよろしくないと考える方もいらっしゃるかと思います。この論点は日本も考えなければならない問題です。日本は、すでに後者の「海外勢力のプロパガンダ活動は認めない」決断をしています。というのは新聞、テレビ、ラジオには外資の参入規制があるからです。テレビ、ラジオの場合、放送法により、外国人の持ち株比率は20%以下に制限されています。これは外国人がメディアの大株主となった場合、その国のプロパガンダを放送し、日本人の選択を歪ませることが可能になるからです。

つまり、保守的な米国人の視点からは、マスメディアと同じように、ネットサービスに関しても敵対勢力が関与できない体制をつくる必要があるというもので、そのような考え方が出てくるのはある意味自然なことなのです。このPAFACAについて、TikTokはあらゆる手段を使って、この法案の取り下げ訴訟を起こすことになるでしょう。TikTokの周受資(ショー・チュー)CEOも「あらゆる法的手段を使ってTikTokを守る」とコメントしています。しかし、それが成功しなかった場合、TikTokは米国では配信停止になる可能性が非常に高いと思います。

TikTokが配信停止になることで新たな問題点が浮き彫りに

と言うのは、「米国企業に売却」というのは簡単な話ではないからです。TikTokがすでに株式公開をしているのであれば、受け入れ企業に株式を売却することで米国企業に移管をすることができます。しかし、残念ながらTikTokは未上場なのです。そうなると、親会社のバイトダンスが保有するTikTok非公開株を売却することになりますが、中国企業であるバイトダンスが、大量の株式を外国人に売却する場合、中国政府の承認を取り付ける必要があります。中国政府が素直に売却に同意するとは思えません。結局、時間切れとなり、配信停止が実行されることになるでしょう。

すでに、VPN(Virtual Private Network)関連の企業が動き出しています。TikTokが配信停止になると、大量の人がスマートフォン用のVPNアプリを利用することになるからです。VPNは、企業などで、遠隔地にいる従業員も企業内ネットワークを利用できるようにする仕組みです。インターネット回線上に暗号化されたネットワークを仮想的に確立し、あたかも企業内ネットワークのように利用できるようにする技術で、利用することで海外にいてもインターネット経由で、社内ネットワークに安全にアクセスすることができるようになります。

米国のVPNサービスに加入をし、VPNからインターネットサービスにアクセスをすると、あたかも米国からアクセスしているかのように装うことができます。そのため、地域制限があるようなサービスを利用するために悪用される可能性があるのです。

例えば、映像配信「Netflix(ネットフリックス)」は、米国ではジブリ映画を配信していますが、日本では配信していません。そのため日本からVPNを使って、米国のNetflixに加入をしてジブリ映画を見るという裏技が知られている様子。ただし、法的にも問題のある行為ですし、サービスとの契約違反にあたります。TikTokが米国で配信停止になると、米国のティーンエージャーたちは、VPNを使って配信が停止されていないカナダやメキシコからTikTokにアクセスすることになるでしょう。

このPAFACAに至るまで、ショー・チューCEOは、米国の公聴会に2回出席しています。1回目は昨年2023年3月23日、下院エネルギー・商業委員会が主催した「TikTok: How Congress Can Safeguard American Data Privacy and Protect Children from Online Harms」(TikTok:アメリカ人のデータプライバシーと子どもたちのオンライン被害を、議会はどのように守ることができるか)で、5時間以上に及ぶ長時間のものです。

米国の行政が素晴らしいのは、その全記録をビデオとテキストで公開していること。あまりに長時間で、内容は同じ質問が延々繰り返され退屈であるため、ビデオ視聴することはあまりお勧めできませんが、それでも気になる人は細かく検証ができるようになっています。

もうひとつは2024年1月31日に開催された「Big Tech and the Online Child Sexual Exploitation Crisis」(ビッグテックとオンラインでの子どもの性的搾取危機)で、こちらはX(旧Twitter)、TikTok、Snapchat、Meta、Discordの5人のCEOが出席をしました。こちらもビデオが公開されていますが、やはり4時間あり、内容は同じ質問の繰り返しで退屈です。

そこで、読者のみなさんの時間を節約するために、代わりに私が視聴をして、重要な部分を抜き出し、まとめました。公聴会では様々な論点の議論が行われていますので、それを整理します。

トランプ政権時代から始まったTikTok禁止への動き

米国のTikTok禁止への動きは4年前のトランプ政権から始まっていました。公聴会で、TikTokに対して投げかけられた問題は3つにまとめることができます。

  • (1)米国人の個人情報データが中国政府に流れているのではないか。
  • (2)TikTokは中国政府の影響下にあり、米国に対するプロパガンダ活動が行われる可能性があるのではないか。
  • (3)TikTokで配信される有害情報により、子どもたちの安全が脅かされている。なぜTikTokは有害情報をモデレート(適正化)しないのか。

まず、(1)の個人情報が中国政府に流れているのではないか、という疑惑については、公聴会の中でも質問が集中をしましたが、問題としては解決済みと言ってもかまいません。TikTok側はプロジェクトテキサスと呼ばれる対策をすでに始め、これが2023年内にも完了する予定です。これがTikTok側の主張どおりに行われば問題は完全に解決をします。

これまでTikTokは、米国の利用者から収集したさまざまなデータを米国とシンガポールのサーバーに蓄積してきました。これをテキサス州にあるオラクル社のサーバーに統合をします。データの移管が完了した後、シンガポールに蓄積されたデータは削除をされます。データの管理は米国企業であるオラクル社も関わることになるのです。

それだけはありません。データだけでなく、アルゴリズム部分についても、オラクル社のエンジニアのレビューを受けます。つまり、データ、アルゴリズムに両方にオラクル社の監査を受けることになります。これにより、TikTokは、米国のデータを米国内にとどめ、なおかつアルゴリズムの透明性も確保しようとしています。

公聴会でこの問題に関する質問が多かったのは、プロジェクトテキサスが適正に進められているかどうかを確認することと、手柄を立てたい議員が、プロジェクトテキサス以前の状況と(おそらく意図的に)混同をして、追求をしたからです。

例えば、「米国のデータを中国バイトダンスの社員が閲覧可能だった」と報道がいくつもありますが、それが米国市民の個人情報であったかどうかははっきりしません。TikTokが保有する匿名化されたマーケティングデータや運用に関する実績データであれば、親会社であるバイトダンスの従業員が閲覧することに何の問題もありません。公聴会では、このような混同をした厳しい質問が多数ありましたが、チューCEOは明確に否定をしています(というのは私の感じ方ですので、気になる方は議事録を確認してみてください)。

中国共産党に支配されているSNSTikTokだけ?

次に(2)と(3)のプロパガンダと有害情報の問題は不可分なところがあります。それは、中国政府が意図的に有害情報を削除せず、米国社会を混乱させようと企てているという見方があるからです。

しかし、公聴会でもたびたび問題になったように、米国側の体制にも問題があります。それは通信品位法第230条の問題です。これは、UGC(User Generated Contents)を配信するSNSのようなサービスに対して、プラットフォームは、1.第三者が発信する情報について責任を負わない、2.有害な情報に対する削除などの対応について責任を負わないという2つの免責事項を定めたものです。

この通信品違法が成立をしたのは1996年で、当時はXやFacebookのようなSNSはまだありませんでした。UGCの仲介プラットフォームは掲示板が中心だったのです。ちょうどITバブルの時代であり、掲示板の社会的影響も小さかったため、新しいIT産業を成長させるために制定されました。

これは過剰な保護でした。例えば、新聞テレビなどのマスメディアが、UGCである読者投稿、視聴者制作のビデオを配信し、その内容が誰かを傷つけたとしたら、プラットフォーマーである新聞社やテレビ局も責任を問われます。内容を制作したのは新聞社やテレビ局ではなくても、それを配信するかどうかを判断したのは新聞社やテレビ局だからです。

しかし、SNSでは投稿した内容が自動的に配信され、しかも大量です。すべてをチェックするには膨大な人手が必要になり現実的でないことから、通信品位法第230条という免責条項が生まれました。当時としては必要な法律でしたが、現代では有害な情報が大量に増え、しかもそれを検出する技術も進化をしています。この法律を改正して、プラットフォーマーに一定の責任を負わせるべきではないかという議論が進んでいます。

有害情報が配信されることが問題視されているのはTikTokだけではありません。X、Snapchat、Facebook、Discordなど他のSNSでも同じです。そのため、1月31日の公聴会は、5つのSNSのCEOに対して行われました。しかし、TikTokには他のSNSにはない特徴があります。ダン・クレンショー下院議員が公聴会でこう語っています。

「公平を期すために言うと、すべてのソーシャルメディア企業がそれ(注:有害情報を配信すること)を行うことができます。しかし、ここに違いがあります。中国共産党に支配されているのはTikTokだけなのです」。

米国人にとって共産主義は、異なる考え方というだけではなく、資本主義を破壊する敵に見えています。1950年代にはマッカーシズムと呼ばれる社会主義者、共産主義者の社会的な摘発運動が起こりました。共産主義的な考え方を持っているだけで職を追われる事態となり、喜劇王のチャーリー・チャップリンも審査対象になりました。文化人や知識人の中には、資本主義とは異なる社会主義や共産主義に興味を持ち研究をする人が多かったのです。

この運動は、現在はアメリカの黒歴史のひとつになっていますが、本質的な傾向は大きく変わっていません。米国の保守派にとって、中国共産党というのは反社会集団に見えているのです。ここを理解していないで、公聴会の議事録を読むと、その異常ぶりに驚くことになります。

これにより、公聴会では、TikTokが中国共産党の支配を受けていないかどうかについて、何度もしつこく質問されています。

トランプ氏の個人的な報復だった?米政府を提訴したTikTok

米国とTikTokの軋轢が起きたのは、2020年のドナルド・トランプ政権の時代です。同年8月6日、トランプ大統領は大統領令13942を発行し、TikTokとその親会社であるバイトダンスと米国企業、米国人の間のすべての取引を禁止するように商務長官に指示をしました。

大統領令は、議会を通さずに、大統領の権限で実行することができますが、当然反対する市民から訴訟を起こされることがあります。そのため、大統領令と言っても、トランプ大統領の好き放題にできるわけではなく、後の訴訟に耐えられるようにじゅうぶんな法的根拠が必要です。

トランプ大統領が根拠にしたのは、国際緊急経済権限法(International Emergency Economic Powers Act、IEEPA)です。これは、安全保障、外交、経済に関する異例で重大な脅威に対し、非常事態を宣言し、米国企業と個人がその脅威と経済的な取引をすることを禁じ、経済制裁をすることを目的にしたものです。主にテロリストや反社会集団に適用されます。これをTikTokに対して適用するというかなり無茶なものでした。TikTokは米国での経済活動ができなくなりますから事実上運営ができません。唯一の生き残る道は、米国企業への売却です。米国企業は経済制裁の対象ではないので運営が続けられます。

TikTokは、この大統領令には問題があると、トランプ政権を訴えました。IEEPAで禁止ができるのは金銭を伴う取引であって、金銭が介在しない個人的な交流や情報の交換は制限できません。つまり、TikTokが企業として収益を得ることはできなくても、投稿主が動画を投稿したり、ユーザーが視聴することは問題がなく、TikTokを運営禁止にすることはできないという主張です。この主張は裁判所に認められ、9月には大統領令の執行を猶予する予備禁止令を獲得しました。

また、TIkTokのプロダクトマネージャーであった米国人のパトリック・ライアン氏はユニークな訴訟をトランプ政権に対して起しました。この大統領令が執行されると、TikTokは従業員に給料を支払うことができなくなります。なぜなら、米国の企業や個人との金銭を伴う取引が禁止をされるからです。これは憲法修正第5条(何人も適正な法的手続きなしに財産や生命、自由を奪われてはならない)に反すると主張しました。

また、トランプ大統領の大統領令は、国益を守るためのものではなく、単なる個人的な報復にすぎないとも主張しました。

煽りの天才トランプ氏に対抗したリベラル主義者たち

このトランプ大統領の個人的な報復=タルサの報復は中国でもかなり知られたエピソードです。2020年6月19日、2期目をねらう現職のトランプ大統領候補は、オクラホマ州タルサ市で大規模な支援者集会を計画していました。

トランプ氏は、敵対する人を苛立たせる煽りに関しては天才的な人です。2016年の大統領選では、ローリングストーンズの『ブラウンシュガー(Brown Sugar)』をテーマソングに使っていました。もちろん、権利関係はきちんと処理をしているので使用することには何の問題もありません。

しかし、歌詞の内容が問題でした。ブラウンシュガーとは女性黒人奴隷の比喩で、その女性を凌辱する内容の歌詞なのです。そんなひどい内容の曲をストーンズはなぜ歌えるのか。彼らは無名の頃から米国黒人のリズム&ブルースの世界に憧れ、有名になってからはR&Bのアーティストのレコーディングに手弁当で参加するなど大きな貢献をしてきました。歌詞は確かに耳を塞ぎたくなるようなひどい内容ですが、ストーンズは黒人奴隷の悲惨な歴史を伝えるために歌っています。それは米国の黒人ブルースマンたちも認めています。

しかし、アメリカファーストを唱え、外国人排斥を主張するトランプ大統領がこの曲をテーマにすると、曲の内容がまったく違って聞こえてきます。黒人のつらい歴史を伝えるというよりも、黒人に対する暴力を肯定しているかのように聞こえるのです。

ストーンズは、この曲の使用をやめてもらえるようにトランプ候補陣営に伝えましたが、無視をされました。法的にはきちんと処理をされているため、ストーンズにも自分たちの音楽が歪んだ使われ方をするのを止めることはできなかったのです。

タルサの集会もそのような煽りがたっぷりのものでした。なぜなら6月19日は奴隷解放記念日だからです。しかもタルサでは、1921年に黒人の大量虐殺事件が起きるという悲しい歴史があり、6月19日には大規模な追悼集会が開かれます。その日に、決して大きくない町であるタルサで、トランプは大規模集会を開き、トランプ支持者が100万人集結すると豪語しました。

当時盛り上がっていた「Black Lives Matter運動」に参加するグループと、トランプ支持者がタルサで鉢合わせをします。しかも、当時は新型コロナの感染が拡大をしていた時期ですが、トランプ支持者はマスクもしないことで有名でした。

「我々は新型コロナなんか恐れない。マスクを強制されたり、外出を制限されることは個人の自由の侵害だ」と主張する人々です。タルサ市長は、不測の事態が起こりかねないとして、市民に当日は疎開を呼びかける事態にまでなりました。

さすがにトランプ陣営も問題が大きくなりすぎたと感じたのか、トランプ候補の100万人集会は翌日の6月20日に延期になりました。入場チケットは、スマートフォンから1人1枚、無料で入手することができます。チケットも100万枚がダウンロードされ、会場となっていた「オクラホマ銀行センターアリーナ」は2万人しか収容できないため、急増で屋外に4万人収容の会場を設営したほどです。

しかし、6月20日に集会が始まってみると、来場者はたったの6,200人だったのです。トランプ候補は大恥をかくことになりました。この状況を生み出したのは、メアリー・ジョー・ラウップさんというあるTikTokユーザーでした。ラウップさんはトランプ候補の集会に反対をし、TikTokで「チケットを取得して会場にはいかない」行動を呼びかけました。トランプを観客ゼロのステージに立たせて赤恥をかかせてやりましょうと訴えたのです。

この呼びかけに、米国のK-POPファン=通称K-POPスタンと呼ばれる人たちが反応をしました。K-POPスタンたちは、ユーチューブのK-POPの動画をスクリプトなどで連続再生して、再生回数を水増しすることに慣れています。彼ら・彼女らはそのテクニックを駆使して、トランプ候補のサイトから集会チケットを大量に多重取得したようです。

これは、ネットでも語り草の面白い事件ですが、トランプ候補の視点で見ると、危うげな要素が見えてきます。トランプ候補の発言や行動はともかく、アメリカの国益を優先し、「Great America Again」をスローガンにしている保守主義者で、ご自身の主観では、自分ほどアメリカの国益を考えている人間はいないと思われているのだと思います。それが、中国生まれのSNSで、韓国音楽のファンや移民の権利を守ろうとするリベラル主義者たちが結託をして、偉大なアメリカ復活運動の妨害をしたのです。これは問題だと思ったのではないでしょうか。

しかも、トランプ大統領は、新型コロナウイルスのことを「チャイナ・バイラス」と呼び続け、中国政府に賠償金を支払わせると言い続けてきました。中国政府が裏にいて、選挙運動の妨害工作をしたのだとまで疑ったかもしれません。つまり、トランプ候補の視点では、敵対的外国勢力の政治介入なのです。この件に、中国政府が関わっていたとは思えませんが、関わろうと思えば関わることができる構造は確かに問題があります。

問題は米国内が中国によって歪められる危険性があること

トランプ大統領の大統領令は停止をされ、バイデン政権になって撤回をされましたが、TikTokはこのような懸念を払拭する説明をする必要があります。

バイデン政権は、そこまでTikTokを危険視はしていませんが、防御はしておくべきだと考え、2022年に連邦職員が政府支給のデバイスにTikTokを入れることを禁止する法律を執行しました。さらに39の州もこれに倣い、政府支給のデバイスでのTikTok使用を禁止しました。

最も積極的なモンタナ州では、年内にこの禁止令を連邦職員から市民にまで広げます。つまり、普通の市民もTikTokを使うことができなくなるのです。ただし、裁判所によって憲法が定める修正第1条=言論の自由に反する可能性を指摘され、実行は延期をされています。

しかし、すでにモンタナ州では異常なほどVPNが使われるようになっています。いつ禁止になっても、VPNを使って州外にいることに偽装してTikTokを使うためです。つまり、TikTokが問題にされているのは、個人情報が中国に渡る問題よりも、国内の言論が中国によって歪められる危険性に対するものの方が強いのです。

また、TikTokに好意的なリベラル派も、TikTokの有害情報を子どもたちが見て、危険な目に合っていることを問題視しています。有名なのはTikTokで流行したブラックアウトチャレンジで、これは自分の首を絞めて失神するところを撮影してアップするというものです。2021年から2022年にかけて、少なくとも15人以上のローティーンがこのチャレンジで死亡していると報道されています。

このような点が、2回の公聴会では追求をされました。2023年3月23日の公聴会は、5時間以上にも及ぶもので、複数回質問した人を含め述べ54人の議員が、1人5分の持ち時間で、チューCEOに質問をしていくというものです。途中、休憩は1回だけで、チューCEOも相当に疲労したのではないかと思います。

しかし、チューCEOにあぶら汗をかかせるような鋭い質問は見あたりません。議員というのはどこの国でも同じなのかもしれませんが、TikTokに何かを約束させるとか、新たな事実を引き出すという成果よりも、自分がいかにTikTokを攻めたてたかを、地元の有権者に印象付けることの方がはるかに重要なようです。そのため、姑息な攻撃をしている人が多いのです。

典型的なのは、説明をしなければ答えられない問いをして、「答えはイエスかノーか」と迫るものです。公聴会での虚偽の答弁は刑事責任を負うことになりますから、イエスと答えてもノーと答えても、厳密には誤りになるような質問をするというのは、基本的なテクニックになっているようです。

牧野武文

ITジャーナリスト。著書に「Googleの正体」「論語なう」「任天堂ノスタルジー横井軍平とその時代」など。
 
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No.294 ★ 日本は安くて便利だが、本当なら中国の大学がよかった… 月14万円の仕送りを受ける中国人留学生のホンネ  ちなみに日本人の平均仕送り額は月7万円

2024年04月28日 | 日記

PRESIDENT Online (西谷 格:フリーライター)

2024年4月24日

国別では最も多い「中国人留学生」は、いまどんな生活をしているのか。ノンフィクションライターの西谷格さんは「北京大学や清華大学といった中国国内の名門校に入れなかった人たちが、『安くて便利な国』として日本を留学先に選んでいる。毎月の仕送り額も潤沢で、バイトに明け暮れる苦学生は少数派になっている」という――。

※写真はイメージです

日本を選んだ理由は「特にない」

かつて中国人留学生というと苦学生のイメージがあったが、それも完全に過去のものとなった。GDP世界第2位の超大国から来た今の中国人留学生たちは、どのような人々なのか。

2023年4月に浙江省から来日し、東京・池袋エリアの日本語学校に通う劉徳欣さん(19歳、仮名)に話を聞いた。これから日本の大学への進学を目指しているという。

筆者撮影東京・池袋エリアの日本語学校に通う劉徳欣さん(19歳、仮名)

「これから6月に日本留学試験(EJU)、7月に日本語能力試験(JLPT)を受けて来年4月に入学する予定です」

日本留学試験は2002年に始まった外国人留学生向けの試験で、日本の大学や専修学校に入学する際に必要な基礎学力の評価を行うもの。日本語能力試験はN5~N1まで5段階で日本語力を測り、最上位のN1は900時間ほどの学習時間が必要とされる。

留学先に日本を選んだきっかけは何だったのか。

「もともと両親から海外に出てみてはどうかと勧められていました。海外に出られるならどこでも良かったのですが、日本のマンガやアニメに馴染みがあったのと、距離的な近さから日本留学を選びました。あと姉が日本の大学に留学した経験があるので、その影響も大きいです」

10年ほど前であれば、『NARUTO』や『鋼の錬金術師』といった具体的なマンガ作品に強い影響を受けて日本への留学を目指す中国人も目立っていた。だが、現在は強い思い入れがあって日本に来たというより、欧米に比べてコスパが良く地理的にも近い「お手頃な留学先」として日本が選ばれているようだ。積極的な動機がなくなってきているのかもしれない。

中国の大学受験人口は日本の20倍

「高校の外国語の授業は、英語ではなく日本語を選択しました。日本での大学進学は中国国内で大学受験をするより、ハードルがかなり低い。高考(ガオカオ)のプレッシャーに比べれば、名門大学にも入学しやすいんです」(劉さん)

中国の大学受験制度「高考」の正式名称は「普通高等学校招生全国統一考試」で、日本語訳を当てるなら「大学の新入生募集に係る全国統一試験」といったところ。少々ややこしいが、中国語の「高等学校」は日本の「大学」を意味する。つまり、日本における「大学入学共通テスト」に相当するが、興味深いのは、中国では原則として高考(共通テスト)のみの一発勝負で進学先が決定してしまう点だ。中国の大学は欧米と同様に9月入学のため、試験は毎年6月7日~8日に行われる。

中国の受験人口は極めて多く、日本の約60万人に対して約1300万人。総人口は10倍だが、受験人口は20倍もある。競争は非常に厳しく、北京大学や清華大学といった超名門校の合格を目指すより、日本の大学に留学生として入ったほうが「コスパが良い」ということらしい。

「志望は東京大学です。難関かもしれないですが、挑戦してみます。お金に関することを勉強したいので、経営学を学ぶつもりです。中国は『内巻(ネイチュアン)』がひどいので」

「内巻」は2020年頃から使われるようになった中国の流行語で、不毛な内部間の競争やそれに伴う社会的ストレスを指す。

毎月の仕送り額は日本人大学生の2倍

劉さんの自宅は高田馬場駅から徒歩圏内という。

「今は家賃6万5000円のワンルームを借りて、毎月7000元(約14万円)ほど仕送りを受け取っています」

24年3月に全国大学生活協同組合連合会が発表した「第59回学生生活実態調査」によると、実家を離れて生活する下宿生が毎月受け取っている仕送り額は7万120円。アルバイト収入は3万6110円、奨学金は1万9660円を受け取っている。ざっくり言えば、仕送り7万円、バイト3万円、奨学金2万円という合計およそ12万~13万円の収入のなかで日本の大学生はやり繰りしている。

仕送りを10万円以上受け取っている下宿生は、1995年~2000年は6割を超えていたが、近年は25%前後にとどまっている。

円安の影響も大きいとはいえ、劉さんは平均的な日本人大学生に比べて経済的にかなり恵まれている。

「日本に着いたばかりの頃は、語学学校の寮に住んでいました。5~6人が相部屋で暮らしていて、家賃は水道電熱費込みで5万5000円でしたが、個人の空間が欲しくて今の家に引っ越しました。家賃は6万5000円で、毎月の水道光熱費は1万円ぐらいです」

「物価は日本のほうが安い」

普段のスケジュールについても聞いた。

「平日は毎日12時半~16時まで語学学校に通うほか、月曜と木曜は午前中も日本留学試験の塾に通っています。空いた時間は自分で復習したり、スマホゲームをしたりしています。語学学校の学費は年間80万円ほどですが、親に負担してもらっています」

両国の生活水準も、ほぼ同等だという。

「日本の生活は中国にいた頃と大きく変わらず、とても便利です。生活の違いはあまり感じません。物価について言えば、食料品はまだまだ中国のほうが安いけど、ドラッグストアに売っているような商品や車やバイクは日本のほうが安い。自分は買わないけど、ブランド品なども安いです」

筆者撮影劉さんが使う日本語のテキスト。熱心なメモが書き込まれている

中国経済の景気の後退が報じられているが、卒業後はどうする予定なのか。

「将来については、あまり悲観していません。卒業後の就活が大変なのはいつの時代も同じだし、自分はまだ数年ある。将来どうするかは、卒業が近づいたらまた考えます。大学院に進むかもしれません」

実感としては、景気後退はまだ感じていないのかもしれない。周囲には同じような立場の者も多く、今は留学生活を楽しんでいる。アルバイトはしていないので、比較的余裕のある生活をしているようだ。

「週末には学校のクラスメイトと池袋や高田馬場の中華料理店で一緒に食事をしたり、江ノ島まで小旅行に出かけたりしています。江ノ島に行ったときは、スラムダンクの踏切にも行きました」

ハングリー精神は薄く、政治には無関心

2月の春節には故郷に戻り、両親に顔を見せた。父親は建設関係の会社に勤務し、母親は野菜や果物の販売店の経営をしているという。

「春節中は、現地のネット通販で購入した『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』のフィギュアを作っていました。価格は日本円で6000~7000円ぐらい。ほかに遊びと言えばスマホゲームの『王者栄耀(おうじゃえいよう)(Honor of kings)』にハマっています」

筆者撮影春節中は『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』のフィギュアを作っていた

王者栄耀は中国を代表する巨大IT企業テンセントが開発したバトルゲームで、仲間同士で5人のチームを組み、敵陣を攻略する。2015年にリリースされて以降、全世界で爆発的な人気を博し、米調査会社センサータワーによると、24年2月のモバイルゲーム売上高で、同作は約370億円を売り上げ世界トップとなった。

福島第一原発の処理水の海洋放出問題など、相変わらず日中関係は緊張状態が続いている。

「政治的な問題については、あまり関心がないし注目もしていません」

面倒なことには関わりたくないという意識もあるのだろう。ともあれ、日本での留学生活はなかなか快適で充実している様子。ハングリー精神は薄く、余暇時間が多めの学生生活を仲間とともに精一杯楽しみ、政治には無関心で将来を楽観視できている――。何やら一昔前のわが国の大学生のような人々が、日本にやってきているのだった。

西谷 格(にしたに・ただす)

フリーライター。1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学社会科学部卒。地方新聞の記者を経て、フリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。主な著書に『この手紙、とどけ! 106歳の日本人教師が88歳の台湾人生徒と再会するまで』『中国人は雑巾と布巾の区別ができない』『上海裏の歩き方』、訳書に『台湾レトロ建築案内』など。

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