JBpress (小久保 重信)
2024年3月28日
上海新店舗のオープニングセレモニーで自らドアを開けるクックCEO(写真:ロイター/アフロ)
米アップルがAI(人工知能)の自社端末への導入に関して、中国のIT大手、百度(バイドゥ)と協議していることが分かった。バイドゥは「文心(Ernie)」と呼ぶ、大規模言語モデル(LLM)を手がけており、中国の主要なAI企業の1社である。
iPhoneの生成AIにはパートナー企業が必要
AI分野で後れを取ると指摘されるアップルは、スマートフォン「iPhone」などの端末のAI機能を強化する取り組みを進めている。自社でも生成AIモデルを構築しているが、パートナーとの協業も検討している。
先ごろは、米グーグルの生成AIモデル「Gemini(ジェミニ)」をiPhoneに組み込む交渉を進めていると、米ブルームバーグ通信が報じた。アップルは対話型AI「Chat(チャット)GPT」を手がける米オープンAI(OpenAI)とも協議中だと報じられている。
ところが、中国は「グレート・ファイアウオール(金盾)」と呼ばれるインターネット検閲システムがあるなど情報統制に厳格で、国外の生成AIを認めていないとみられる。米国製などは、当局の意に反するコンテンツを生成する恐れがあると考えているようだ。
中国では外国製生成AI利用できず
米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によれば、中国政府は自国のサイバー空間規制当局による審査を経ない生成AIモデルの公開を認めていない。この規則は2023年8月に導入された。当局はこれまでにバイドゥのErnieなど40以上のAIモデルを承認しているものの、オープンAIのChatGPTやグーグルのGeminiなど、日本でも人気のあるAIモデルは中国で利用できない。
アップルの競合である韓国サムスン電子の最新スマートフォンは、中国国外でGeminiを、中国国内ではバイドゥのErnieを利用し、AI機能を強化している。そこでアップルもバイドゥと提携し、中国向けiPhoneにErnieを採用したいと考えているようだ。
アップルは、中国のユーザーが作成する写真やドキュメント、メッセージなどのデータを国営のパートナー企業が運営するクラウド上に保存している。これは、収集した顧客データを国内に保存することを義務付ける同国法を順守するための措置だ。
生成AI分野でも中国企業と組めば規制順守の作業や手続きを軽減できる。アップルは、中国での事業展開には地場企業との提携が必要と考えたようだ。中国語AI機能において競争力が高まるといったメリットもある。ただ、情報筋によると、アップルとバイドゥの協議はまだ初期段階にあるという。
アップル、中国スマホ市場で苦戦
アップルにとって中国は最大の海外市場だが、最近は地場スマホメーカーの台頭により苦戦している。香港の調査会社カウンターポイントによると、24年年初からの6週間における、iPhoneの中国販売台数は1年前に比べ24%減少した。アップルのシェアは15.7%に低下し、順位は4位に転落した。
一方、中国ファーウェイ(華為技術)の販売台数は64%増と大きく伸びた。英ロイター通信によると、ファーウェイの中国シェアは9.4%から16.5%に拡大し、順位は2位に浮上した。アップルが中国で直面している課題には、景気低迷に伴う消費の低迷や、中央政府機関職員に対するiPhoneの使用制限などもある。
クックCEO「中国ほど重要なサプライチェーンはない」
こうした中、アップルのティム・クックCEO(最高経営責任者)は最近、あらためて中国市場を重視する考えを示した。同氏は24年3月20日に中国を訪問。同日、アップル上海オフィスで開かれた交流会で、記者団に対し「アップルにとって中国ほど重要なサプライチェーン(供給網)はない」と述べた(英フィナンシャル・タイムズの記事)。
翌日の3月21日には、上海に同社の海外最大規模となる新店舗を開設。オープニングセレモニーでは、クック氏が自ら店のドアを開け、詰めかけた顧客を出迎えた(米アップルの発表資料)。
24年3月12日には、中国で研究開発施設を拡張・新設し、同国への投資を拡大すると発表した。上海にある研究センターを拡大するほか、24年後半に深圳に新たな応用研究所を開設する。アップルはこれまで、中国の応用研究施設に10億元(約210億円)以上を投じてきた。これらの施設では、世界中の同社技術者や設計チームに材料・構造分析情報などを提供している(アップル中国の発表資料)。
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