「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.51 ★ 香港、国家安全条例を制定へ 社会統制一段と 

2024年01月31日 | 日記

日本経済新聞

2024年1月30日

香港政府トップの李家超行政長官(1月、香港)=ロイター

【香港=伊原健作】香港政府は30日、機密を盗み取るスパイ行為などを幅広く取り締まる「国家安全条例」の制定手続きを開始する。2020年に施行された香港国家安全維持法(国安法)を補完する内容で、香港の社会統制は一段と強まる。

政府トップの李家超(ジョン・リー)行政長官が記者会見し、同日から市民からの意見募集など制定に向けた作業に着手すると表明した。立法会(議会)にも草案を提出する立法手続きを始める。

李氏は「香港の内外に国家安全上のリスクが存在する」と必要性を強調した。政府は24年内の立法を目指してきたが、「できるだけ早く法案可決を目指す」(李氏)方針だ。

国安法は主に国家の分裂や転覆を図る行為が取り締まりの対象になる。今回の条例は国安法の穴をふさいで補完する位置づけで、統制の徹底につながる。国家機密を盗み取る行為や、外国組織の香港での政治活動の取り締まり強化などが盛りこまれる見通しで、メディアや外国人への規制が一段と強まるとみられている。

香港では19年からデモなどの反政府活動が激化した。中国共産党は20年に香港政府の頭越しに国安法を施行し、活動を鎮圧した。一方、香港の憲法に当たる香港基本法23条は、香港政府自身が国家分裂や政権転覆などを禁じる法律を制定しなければならないと定め、政府が制定を目指していた。

政府は03年にも国家安全条例の制定を目指したが、これに反対する50万人規模の抗議デモが発生。法案が無期延期に追いやられた経緯がある。現在は国安法により「国家の安全を害する」抗議活動や言動は厳しく取り締まられており、立法への障害は見当たらない状況だ。

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No.50 ★ 中国の不動産バブル崩壊が「世界経済に混乱をもたらす」は本当か?

2024年01月31日 | 日記

MAG2NEWS (by 『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』)

2024年1月30日

 29日、中国の不動産大手「中国恒大集団」に対し清算命令を出した香港高裁。かねてから不動産バブルの崩壊が囁かれてきた中国ですが、心配されているような「経済全体の崩壊」はありうるのでしょうか。

今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、著者で多くの中国関連書籍を執筆している拓殖大学教授の富坂聰さんが、その可能性を否定。さらに大規模経済対策を打たない習近平国家主席を「裸の王様」と評する向きに対しては、否定的な視線を向けています。

中国に「失われた30年」は来ない。不動産価格下落をどう捉えるべきか

中国「バブル崩壊」で世界経済に深刻な混乱をもたらす──。

一般紙に至るまで中国経済の崩壊を予言する記事があふれるようになったのは2022年の夏ごろからのことだ。

上海ロックダウンが不評で、習近平政権が内外からの批判にさらされ、コロナ禍での「失政」を指摘できる絶好の機会と重なったこともあり「崩壊論」は勢いづいた。

習近平国家主席が、いわゆる日本メディアのいう「異例の3期目」に突入したことへの違和感も攻撃の理由となった。周囲をイエスマンで固めたことで「悪いニュースが習近平の耳には届かない」という表現が多用され、それを失政の原因とする解説も横行した。

だがあれから1年半以上。かつてのリーマンショック後の世界金融危機のような混乱が中国発で起きたのだろうか。

むしろ現在もなお世界の経済発展は中国経済頼りではないだろうか。

中国の景気は確かに湿っている。だが、それは中国人(とくに富裕層)のマインドが冷えて、投資や消費が振るわないこと。またコロナ禍を経て先行き不透明感を感じた人々が財布の紐を堅くしていることが大きく響いているからだ。

総じていえば、やはりコロナの後遺症から立ち直り切っていないという問題であり、そこに不動産不況が重なった結果だ。中国の新築住宅価格は昨年12月、9年ぶりの大幅な下落を記録した。

だが不動産に関しては「価格が上がり過ぎて庶民の手に届かない」という政治的な問題や将来のバブル崩壊リスクへの懸念もあり、習政権は2016年末から不動産価格を下げる政策を採ってきた。つまり、極端な変動でなければ不動産価格の下落はむしろ歓迎であり、長期的には不動産に大きく依存した経済発展からの脱却を目指してきたのだ。

現状を見る限り、中国政府は慌てて不動産業界にかつての賑わいを取り戻させようとはしていない。

ただ週明けから恒大グループの債務に関する香港の裁判所の判断が下されることもあり国内の不動産業界への影響を心配する声が高まっている。26日には住宅都市建設部が「都市部不動産融資調整制度会議」を開催。不動産開発プロジェクトを支え、各企業の融資ニーズを満たし、安定した健全な発展を促すよう指示した。

一方で中国は安易な景気刺激策に走ることに慎重である。このことは世界経済フォーラム(WEF)年次総会に出席した李強首相の発言からもうかがえる。李は

経済の軌跡を成功と表現する中で、当局が「長期的なリスクを蓄積しながら短期的な成長を追求することをしなかった」と強調した。
(『ブルームバーグ』1月18日)。

習政権が大型の刺激策を打たないことに対しては、「(当局が)非常に憂慮しているという印象を与えたくないためだ」とか「景気の下押し圧力を過小評価している」といった批判も聞かれる。しかし「長期的なリスクの蓄積」を嫌うのは2008年の世界金融危機以降、中国の一貫した姿勢だ。典型的なのはコロナ禍での対応だが、李克強総理(当時)は徹底して減税を支援策の中心に据え続けた。 Pocket

「華やかなりし」時代への回帰は目指さない中国

その中国はいま、不動産業界が盛り上った「華やかなりし」時代への回帰を目指すのではなく、不動産業界のマイナス分をハイテク製造業へのテコ入れで補おうとしている。

具体的には電気自動車(EV)、太陽光電池、リチウム電池という中国で「新三様」と呼ばれる業種の重視であり、それに加えてエレクトロニクス、航空、通信などの製造業への投資を促進することだ。

世界の報道を紹介する中国メディア・『参考消息』は24日、国連のデータを引用し「22年に中国が世界の製造業の31%を占めたのに対し、米国は16%だった」と報じ、製造業不在の経済強国化をけん制した。

これは中国が未来の自画像を描くとき、単純に西側先進国のたどった道を追いかけるのではなく、それとは異なる発展を目指す一つの動機となっている。

雇用を多く生み出すという点では第三次産業の優位は明らかだ。また分配という意味では不動産業の果たす役割は軽視できない。しかし、それでも中国はあくまで製造業の大国としての地位を維持したまま、第三次産業への依存を深めてゆくことを目標としている。

そのために昨年から力を入れているのが民営経済のテコ入れだ。中国の民営経済は、税収の50%強、国内総生産(GDP)の60%強、技術イノベーション成果の70%以上、都市部の雇用者数の80%以上、企業数の90%以上を担っている。

この民営経済支援のため昨年7月以来、中国は省や委員会レベルだけでも「10以上の文献と200件以上の措置を出した」(CCTV『新聞聯播』1月18日)という。

2023年の全国の民間製造業の投資は対前年比9.4%増。直近では6カ月連続で伸びてきている。

また習政権は起業支援にも熱心だ。投資や起業のマインドが落ちているとされる現状でも、天津市だけで4時間におよそ一社のペースで新たに会社が設立され続けている。

昨年末、上海で開催された「未来のユニコーントップ100カンファレンス」年次総会で示されたデータによれば、中国のユニコーン企業(非上場で時価総額10億ドル以上の企業)は世界の約3割を占めたという。

大規模経済対策を打たないことだけをもって「習近平は裸の王様」と評することは簡単だが、それは果たして実態に即した批判なのだろうか

――(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2024年1月28日号より一部抜粋。

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No.49 ★ 国産と中国産の「ニンニク」は何が違う? “疑問”を管理栄養士に聞いてみた

2024年01月29日 | 日記

オトナンサー編集部

2024年1月28日

 ギョーザやペペロンチーノなど、さまざまな料理に使われることが多いのが「ニンニク」です。スーパーに行くと、国産のニンニクのほかに中国産のニンニクも売られており、具体的に何が違うのか気になった人は多いのではないでしょうか。

国産のニンニクと中国産のニンニクの違いについて、管理栄養士の桜井このさんに教えていただきました。

産地だけでなく品種にも違いが

Q.国産のニンニクと中国産のニンニクの違いについて、教えてください

 桜井さん 「産地による違いもありますが、国産と中国産のニンニクはそもそも品種が異なります。国産のニンニクは青森県が主要な産地であることも分かるように、寒冷地で栽培される品種が主流です。

一方、中国産のニンニクの場合は暖地でもよく育ち、粒が小さい品種が一般的によく流通しています」

Q.他にはどのような違いがありますか。

桜井さん 「まず形から見ると、中国産の品種は全体的にとがっていて、中を割ると12個ほどの小さな房が出てきます。

日本の品種はごろっと丸みがあり、房の数は4~6個ほどと少ないものの、身がぎゅっと詰まった肉質をしています。

味に関しても、中国産は辛みがあるものの、香りはそれほと高くありません。国産は糖度が高く、刺激感は強くありませんが、濃厚な味わいが感じられます。

また、免疫力向上などが期待できる『アリシン』と呼ばれる成分が、中国産よりも1.3倍ほど多く含まれているというデータもあります」

 Q.保存方法や調理方法に違いはあるのでしょうか。

桜井さん 「保存方法が大きく変わることはありませんが、味の特徴の違いによって、調理方法に向き、不向きがあります。中国産のニンニクは辛みや刺激を感じやすいため、アクセントとして調味料に使うのが適しています。

一方、日本のニンニクは糖度とまろやかな味わいが特徴であることから、そのまま蒸し焼きにしてもおいしく食べられますよ」

国産と中国産とでは、味に大きな違いがあることが分かったと思います。料理によって使い分けてみると、よりおいしく食べられるかもしれません。

左から、スペイン産、国産(青森県)、中国産

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No.48 ★ 中国の緩和シグナルに一抹の警戒心、経済再構築は待ったなし

2024年01月29日 | 日記

ロイター (Chan Ka Sing)

2024年1月27日

 1月25日、中国は希望にしがみつこうとする投資家に何とか寄り添っている。写真は北京の紫禁城で2023年10月撮影(2024年 ロイター/Edgar Su)

[香港 25日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 中国は希望にしがみつこうとする投資家に何とか寄り添っている。当局は24日に国内経済・株式市場に対する信頼を回復させようと矢継ぎ早にシグナルを送った。しかし、厄介な事実がある。習近平国家主席が進めているような経済の再構築では短期的な痛みはある程度までしか顧みられないだろう。

中国人民銀行(中央銀行)は利下げ期待に応えず、株式・通貨が圧力に見舞われたのを受けて預金準備率の引き下げに追い込まれた。

他の規制当局も市場の長期的な繁栄に前向きな姿勢を示している。例えば、証券監督管理委員会(証監会)は投資家にとっての具体的な「獲得感」を生み出すと約束。また、国有資産監督管理委員会も国有企業首脳の評価手続きの一環として時価総額を考慮するとした。

投資家は当局が協調して行動している様子を好感。人民元は今月12日以来の高値水準となり、香港株も3%高で24日の取引を終え、25日午前も続伸した。

習主席は再構築を推し進めた結果生じるでこぼこを滑らかにしようとしており、短期的な利益を求めて軌道修正しているわけではない。巨大な不動産セクターのデレバレッジ(債務削減)によって蓄積された金融リスクを管理し、輸出から消費主導型への成長にかじを切ろうとしている。

その結果、3000億ドルの負債を抱えるデベロッパー、中国恒大集団(3333.HK), opens new tabが打撃を受け、29日に即時清算命令が下される可能性が高まっている。これは市場にさらなる衝撃を与える可能性があり、救済の兆しも見られない。中国の緩和シグナルは一抹の警戒に値する。

<背景となるニュース>

*中国人民銀行の潘功勝総裁は24日、預金準備率を0.5%ポイント引き下げると発表した。2月5日から適用する。

*証監会の王建軍副主席も24日、「投資家中心の資本市場」を構築するため一層努力すると述べた。投資家が十分に保護されてこそ、繁栄する市場の強固な基盤ができると付け加えた。

*また、国有資産監督管理委員会は国有企業首脳の仕事ぶり評価に市場価値管理を盛り込むと表明した。

*中国恒大集団のオフショア債保有者のグループが、29日に香港の裁判所で開かれる審理で、同社の清算を支持する方針であると関係者2人が明らかにした。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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No.47 ★ 中国と日本の経済は「逆転」した? 3年ぶりに上海を訪れた私が見た“驚きの光景”

2024年01月29日 | 日記

DIAMOND online (王 青:日中福祉プランニング代表)

2024年1月26日

写真はイメージです Photo:PIXTA

先日、3年ぶりに中国を訪れて驚いた。以前とはまったく異なる光景が広がっていたのだ。街に人がいない。景気が悪い。社会に活気がない……そんな中国から見ると、現在の日本は「中国よりもはるかに活気がある」と感じるようで、多くの中国人が「中国と日本は何もかも逆転した」と口を揃える。

そう言われても、日本に住んでいる筆者はこのような実感がなかったが、実際に上海を訪れ、現地で話を聞いているうちに、その意味が分かった気がした。中国経済はバブルが弾けてしまったのではないだろうか。そう、かつての日本のように……。(日中福祉プランニング代表 王 青)

 日本では、「好景気な中国」や「(経済)成長著しい中国」というイメージがすっかり定着している。「爆買い」と言われたように、大勢の中国人観光客が日本をはじめ、世界各地を訪問し、お金を湯水のごとく使う光景はその象徴ともいえる。

 ところが先日、3年ぶりに中国・上海に行ってみると、まるでバブル崩壊当時の日本のような、寂しい光景が広がっていた。状況が一変していたのだ。

空港はガラガラ、デパートに人はおらず、レストランは閑古鳥

 まず、上海に着いた時からして、数年前とは様子が全く違っていた。上海浦東国際空港には静寂が広がっていた。以前は出国するにも入国するにも長蛇の列で、入国審査を通過するのに長い時間を要していた。しかし、今は空いていてスイスイ進む。数年前までのあの空港の喧騒はどこへ行ったのか、こんなに空いている空港を今まで一度も見たことがなかった。一方、日本に戻ってくると、成田国際空港は出発ロビーも到着ロビーも、大勢の人々でにぎわっていた。免税店では買い物客が長い列を作り、入国時の税関荷物検査も混雑していた。上海の空港とはまったく違う。

 そして、上海の街の様子もすっかり変わっていた。閉まったままの店舗が多く、いわゆる日本の地方都市の「シャッター通り」商店街のような光景が広がっていた。

 旧フランス租界界隈では、以前は深夜まで西洋人や中国人でにぎわっていたバーの光が消え、廃業した店が目立つ。百貨店やショッピングモールの化粧品フロアやファッションフロアは、混んでいるはずの週末や平日夕方の時間帯でも、店員の人数のほうがお客より多い状況。以前は1時間以上並ばないと入れなかった人気レストランも、ガラガラで閑古鳥が鳴いている。上海の友人に聞くと、「安い火鍋や麺類、ファストフード店に人が流れているんだ」と説明してくれた。

上海の中心部にある駅直結のデパートの化粧品売り場。日本で言うなら銀座の中心にあるデパートの1階を思い浮かべてほしい。平日の18時半頃なのに客よりも店員のほうが多い状況だ(筆者撮影)


 上海に着いて、公私問わず、久しぶりにいろいろな友人知人に会ったが、皆一様に「景気が悪い」と嘆く。「たくさんのお店が閉まった」「外国人が少なくなった」「活気がなくなった」「不動産が売れなくなった」「若者が仕事を見つけられなくなった」「失業者が増えた」「皆、お金を使わなくなった」……等々。誰の口からも、こんな言葉ばかりが出てくるのだ。

日本も「好景気だ」というほどではないけれど……

 一方、日本の経済状況はといえば、シンクタンクのレポートなどを見ると「緩やかな回復基調」などのコメントが目立つ。決して不況ではないし、緩やかに経済は回復しているとはいうものの、インフレが進むほどには賃金が上がっているという実感がないので、「好景気だ」「日本経済はとても好調」と思う日本人は少ないだろう。

 ところが、現在の中国人の目から見ると、全く異なる印象になるのだ。前述の通り、筆者が久しぶりに会った大勢の友人知人たちは、口を揃えて中国の不景気を嘆いた後、口々に「日本は活気があるね」と指摘するのだ。特に、最近、日本を訪問した人たちは、一様に驚いているようだった。

 筆者の友人で、金融機関に勤務する女性の李玲さん(仮名、30代)は、昨年秋に日本へ個人旅行をした。これまで数回日本に来たことがあるが、コロナ禍以降は初めてだという。

「とにかく、どこに行っても混んでいた。グルメを堪能したが、どのお店も早めに予約しないと絶対入れない。買い物にも満足した。今の中国は、買い物はほとんどネットショップで済ませているから、実店舗には行かなくなったでしょう? だから、日本で実際のお店に入って、洋服や靴を試着したり、商品を手に取ったりして、たくさんの実物を自分の目で見て、買いたいものを選んでいくのは、すごく楽しかった。とってもわくわくした!こんなに興奮した旅は久しぶり」と李さんは目を輝かせて話し、「今は、日本のほうが刺激的だね」と付け加えた。

「日本には刺激がある」――言われてみれば、最近、筆者もそう思うようになった。長年日本に住んで仕事をしているが、コロナ前は、日本に長くいると、「日本は安定しているけど、変化がなくてちょっと退屈」と思う時があった。たまに出張で中国に行くと、いつも活気があふれており、エネルギーをチャージできる感覚があった。新しいビジネスの話がどんどん持ち込まれて、良い刺激を受けることも多かった。ところが、今回上海に滞在している間、「これから新しいことをやろう!」と提案してくる人は誰もいなかった。逆に「今は冬眠中。新しいことはしないのが一番」と言うのだ。

中国よりも日本に住みたい

 先日、東京で打ち合わせをした時に、日本の人材派遣会社に勤務する中国人の余さん(40代男性)が、興味深い話をしてくれた。

 彼は約20年前に留学生として来日し、そのまま日本に残って就職した。仕事で中国へ出張することが多かった。2010年代、中国で会うビジネスパートナーたちは皆、いつも上から目線で「なんで日本にいるの?今は中国に勢いがあるし、成功のチャンスに満ちあふれている。あなたのような有能な人なら、こっちに帰ったほうがいいに決まっているよ」とよく言われたそうだ。当時、こうした指摘をされるたびに「“頭が上がらない”思いであった」と余さんは言う。

 しかし、昨年以降、状況は一変した。これまで余さんを「説教」した人たちは一様に口を閉ざした。逆に、訪問先では「どうやったら日本のワーキングビザを取れる?」「日本の不動産を購入するのには、どんな条件が必要?」などと聞かれることが多くなってきたという。「『なんだ、結局日本に来たいのか』と思った」と余さんは話す。

 こうした変化は中国人だけではない。中国在住の日本人も“日中の経済状況の逆転“を実感しているようだ。

 10年以上上海に住み、建築デザイン関係の仕事をしている日本人女性の田中さん(仮名)は、「自分の周りだけで、少なくとも10人以上の日本人が日本に帰った」と話す。「昨年秋、コロナ禍以来初めて日本に一時帰国したが、思ったより活気があって、びっくりした。以前とは経済状況が逆になったよね。今、上海は元気がない。これまで関わった大型開発プロジェクトもみんな中止になり、仕事が一気に減った」と話した。

「僕は洗脳されていたのかもしれない」

 上海在住で、40代男性の伊藤さん(仮名)は、中国在住歴15年。中国語が堪能で、専門用語の多い法律文献も見事に翻訳をこなす中国通である。これまで伊藤さんは「中国が大好き。母国の日本は嫌い」と言い続けており、大の「中国びいき」だった。「中国には活気があり、ビジネスチャンスが多い」というのが持論だ。ところが、今回、久しぶりに上海で伊藤さんに会って驚いた。考え方が正反対になっていたのだ。

 彼は中国人女性と結婚していて、現在3人の子どもと5人家族で上海に暮らしている。その伊藤さんが「実は、もう日本に帰ろうと思っている」と話を切り出した。

「昨年、3年ぶりに日本に帰った時の衝撃は忘れられない。日本には活気があってやっぱりいいなぁと思った。滞在中、改めて日本社会をもう一度客観的な目で見て、いろいろなことを考えた。これまでの自分の考えが果たして正しいのかと疑問を持つようになった」

 伊藤さんは真剣な表情で話を続けた。「僕は長年中国にいて、洗脳されていたかもしれないと思うようになった。多分、コロナ禍がなければ、ずっと目が覚めなかっただろう。ゼロコロナの3年間はあまりに理不尽なことが多すぎて、嫌になった。僕のように中国が大好きで、10年、20年もこちらに住んでいる人間が中国を嫌いになるというのは、よほどのことだと思う。僕だけじゃない。周りを見ても、僕と同じく中国を大好きな日本人で、(最近)中国が嫌いになったという人が、かなり増えている」

 返事に困っていると、伊藤さんはさらに続けた。「これまでの持論は、自分にそう言い聞かせて、中国に住む理由を正当化したかったのかもしれない。日本はそんなに面白い国ではないが、安定している国ではある。何よりも、日本は民主国家だ。それに、子どもの教育費や医療費なども安いし、生活しやすいのは間違いないよ」

中国も、日本のようなバブル崩壊を味わうのか

(左)上海の昔の住宅地を再開発した商業施設。日曜の午後なのに閑散としている。(右)上海の夜の街。イルミネーションはきれいだが人がいない(筆者撮影)

 中国の経済成長に自信を持っていた中国人が自国の不景気を嘆き、日本の経済状況を見て、「やはり、日本はすごい。活気がある」などと言う。筆者は彼らの話に納得しつつも、複雑な気分になった。かつて、バブル景気に沸いた日本経済は米国を追い越したものの、バブル崩壊後は再び、米国に追い越され、そこから長い長い不況に沈んだ……今の中国の状況は、あの頃の日本を彷彿とさせるからだ。

 中国の昔のことわざに「三十年河東、三十年河西」というものがある。長い歴史の中で、あらゆる物事は変化するし、世の中の盛衰は移ろいやすいという意味だ。

 今の中国と日本の逆転現象は、果たして本物なのか。そして、いつまで続くのか……両国の未来は、誰にも予測できないのではないかと思う。

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