「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.414 ★ あの「ポルシェ」が中国市場で人気凋落の大誤算 1〜3月は2割超の   販売減、反旗翻すディーラーも

2024年06月22日 | 日記

東洋経済オンライン (財新 Biz&Tech)

2024年6月21日

ポルシェはドル箱だった中国市場でブランドの神通力が低下している。写真は同社のスポーツEV「タイカン」(ポルシェ中国法人のウェブサイトより)

ドイツの高級スポーツカーブランドのポルシェが、同社にとって世界最大の市場である中国で人気の凋落に直面している。

「顧客のEV(電気自動車)シフトなど、市場の変化に適応するための対策をディーラーと協力して検討する」――。

ポルシェの中国法人は5月27日、そんな内容の声明を発表した。実はこの声明の裏には、ポルシェ車を販売するディーラーの一部が起こした中国法人に対する“抗議”があった。

本社役員を中国に派遣

事情に詳しい関係者によれば、これらのディーラーはポルシェ中国法人が提示した2024年の販売目標に同意せず、車両の仕入れを拒否する行動に出た。さらに、ドイツのポルシェ本社に対して書簡を送り、(ディーラー負担の値引きによる)これまでの損失の補填を求めたという。

そのほかのディーラーでも、ポルシェ車の売れ行き不振で販売現場の営業意欲が低下している。この状況に危機感を抱いたポルシェ本社は、グローバル販売担当の役員を中国に派遣して関係者と協議したが、対応の具体策は明らかになっていない。

この関係者によれば、ポルシェ中国法人は2024年の販売目標を7万台に設定していた。だが、中国の自動車市場ではメーカー希望価格が100万元(約2165万円)を超える超高級車の販売が全体的に低迷している。目標達成は極めて困難と言わざるを得ない。

「ポルシェの(年次改良による)ニューモデルには十分な競争力がない。にもかかわらず(ポルシェ中国法人が)ディーラーの数を増やし続けたため、販売現場に(仕入れた車両を売り切るための)利益度外視の値引きが蔓延した」。前出の関係者は、ディーラーの苦しい実態をそう話す。

中国市場はポルシェにとって最大のドル箱であり、同社のグローバル販売台数に占める比率が2021年は32%、2022年は30%に達していた。

中国のBYDは超高級車専用ブランド「仰望」を立ち上げ、ポルシェに真っ向勝負を挑んでいる。写真は仰望のスポーツEV「U9」(同ブランドのウェブサイトより)

だが、2023年からポルシェ車の人気の陰りがはっきりしてきた。同年の中国市場での販売台数は7万9283台と前年比15%減少。グローバル販売台数に占める比率も25%に低下した。

そして2024年に入ると、人気凋落に拍車がかかった。同年1~3月期の中国市場での販売台数は1万6340台と、前年同期比23.5%減少。なかでもEVの不人気が際立ち、1~3月期の総販売台数に占めるEVの比率は5.6%と前年同期(11.4%)の半分に縮小した。

BYDなど新たなライバル台頭

中国市場でのポルシェ車のメーカー希望価格は、最も安い車種でも50万元(約1082万円)を下らない。同社はスポーツカーの世界的なプレミアムブランドとして、超高価格帯のカテゴリーで圧倒的強さを誇っていた。

その神通力がここに来て弱まったのは、ポルシェのEVに中国の富裕層を惹きつける魅力が足りないことに加えて、新たなライバルの台頭がある。

中国のEV最大手の比亜迪(BYD)は2023年11月、超高級車専用のサブブランド「仰望(ヤンワン)」を立ち上げた。第1号モデルの大型SUV「U8」のメーカー希望価格は110万元(約2381万円)からだが、BYDによれば、発売後の累計販売台数はすでに6000台を超えたという。

BYDはさらに、仰望の第2号モデルのスポーツカー「U9」を2024年2月に発表。ポルシェの牙城に真っ向勝負を挑んでいる。

(財新記者:安麗敏)
※原文の配信は5月28日

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No.413 ★ 中国で相次ぐ巨額追徴課税で企業家パニック、日本企業も駐在員も  危ない!30年前の過少申告も摘発、その狙いとは…

2024年06月22日 | 日記

JBpress (福島 香織:ジャーナリスト)

2024年6月21日

中国の習近平国家主席の思惑も?(写真:Muhammad Aamir Sumsum/Shutterstock)

  • 中国で民間企業が次々と追徴課税されている。20〜30年前の過少申告を摘発されるケースもあり、各社戦々恐々としている。
  • 財政難の地方政府が税収を補うために摘発を強化しているという見方もあるが、習近平政権が計画する税制改革の前触れとの噂もある。
  • 中国に進出している日本企業や駐在員もターゲットになる懸念もあり、注意が必要だ。(JBpress)

 20~30年前に中国に駐在していた人にお聞きしたい。当時みなさんは、中国できちんと税金を納めていただろうか。

 私は産経新聞記者として北京特派員を務めていたとき、本社から税金はごまかすことなく支払うようにと厳しく言われていた。当時産経新聞は一番中国当局に手厳しい記事を書くと言われており、そういった記事を書き続けるためにも、一切の不正、ズルをして、弱みを当局から握られるスキを与えてはならない、ということだ。

 わざわざそういう指示があったのは、当時、税金は過少申告するのが当たり前だったからだ。当時の中国の平均給与と日本の特派員や駐在員の給与は10倍、数十倍、あるいは百倍以上の格差があり、普通の日本人給与だと、半分以上が税金で持っていかれたりする。

 だからメディアを含め大抵の企業は駐在員給与を日本の口座と中国の現地口座に7:3から9:1ぐらいの割合で分けて振り込み、給与を少なく見せて税金額をごまかしていた。

 それが当たり前で、中国人商務弁護士がむしろそうしろ、とそそのかす。普通に税金を納めるのはよほどのバカや無能のすること、といわれる。

 個人商店や小商いも粉飾決算は当たり前だった。そうして民営経済は急速に発展し、中国のGDP成長を支えてきたのだ。そういう風潮が変わったのは、比較的最近のこと。

 だから30年前の脱税分、過少申告分をいまさら罰金を上乗せして取り立てられたら、パニックだ。今、まさにそういう事態が起き始めている。

200年の歴史を誇る白酒の老舗企業も狙われた

 最近、中国で民営企業に対し、20~30年前にさかのぼって未納の税金を追徴されるケースが次々と明らかになった。それが理由で生産停止命令を受けたり、倒産したりする企業も出てきている。これが、何を意味するのか。

 まず湖北枝江酒業の元親会社の維維食品飲料株式有限公司が枝江酒業の過去30年分の未納消費税8500万元の追徴通知を受けたことを6月13日夜に発表したことが、中国でも衝撃的なニュースとして報じられた。維維は湖北省老舗白酒ブランド、枝江酒業のかつての親会社である。

中国で民間企業をターゲットに追徴課税が吹き荒れている=イメージ(写真:eamesBot/Shutterstock)

 追徴通知の内容は、枝江酒業の1994年1月1日から2009年10月31日までの消費税、都市維持建設税、教育費付加の未納分、合計8500.29万元を規定の期限内に納めよ、というものだった。

 枝江酒業は清朝時代から続く200年の歴史を誇る白酒の老舗企業だが、2009年に維維食品飲料が、枝江酒業の株51%を取得し筆頭株主となった。2013年に、枝江酒業の株式70%が維維グループ、20%が枝江市政府、10%が枝江酒業会長の蒋紅星が保有する形になった。

 ただ、軍人官僚の贅沢を禁止する習近平政権下で高級白酒の売り上げは激減し、2020年には維維は枝江酒業をグループから切り離すと発表。2023年に維維は持ち株を枝江酒業に譲渡し、株式分離を行っていた。

 維維は1994年に設立された民営食品飲料企業で、2000年に上海市場に上場、2012年には中国500企業の1つに数えられる優良企業。特に豆乳飲料が有名だ。枝江税務当局の通知によれば、維維は枝江酒業を買収する前の枝江酒業の未納分税金を枝江酒業が支払えないなら、維維に納税の義務があるとした。

 維維はこれに「不確実性がある」として抵抗。維維はもともと江蘇省徐州市に本社を置く全国展開企業だが、今回の追徴税調査は湖北省枝江市税務局開発区税務支局が担当、この額を決定した。

 世論はこの件の背景に政治的理由があるのではないかと、いろいろ疑った。

追徴課税で利益の4割が吹っ飛ぶ可能性

 湖北省宜昌市の税務当局はわざわざ「今回の追徴税は正しいプロセスに従って税務調査を行っており、特殊な原因や背景はないので誤読しないように」とコメントを出したので、なおさら世論は不安に陥った。

 枝江酒業の消費税金滞納は実はこれが初めてではない。2015年か2018 年の間に未納だった消費税、不課税費、罰金あわせて1.96億元を維維は自主的に支払い、それらは2019年の損益に計上されていた。その上で枝江酒業と袂を分かつことを決定した。だから維維が追徴金を支払う義理はなかろう、というわけだ。

 ここで注意すべきは、枝江酒業は維維に対して1.23億元の債務をかかえていることだ。維維は2023年に枝江酒業に枝江酒業の株式を譲渡するときの協議で、もし税金の遡及的支払いが今後発生したとき、債務から差し引くという条項を付けていた。税務当局からの通知を発表したのち、維維は投資家たちに対して、枝江酒業に貸し付けた1.23億元は不良債権となった、と回答している。

 ちなみに2023年の維維の売り上げは40.36億元、純利益は2.09億元で、維維がこの追徴金を支払うことになれば、利益の4割以上が持っていかれる。

幅広いターゲット、パニックに陥る企業家

 さらに6月14日、税務当局は寧波市の博滙化工科技株式有限公司に対し、5億元の追徴税があることを通知し、支払うまでの生産停止を命じた。年産40万トンのアロマティック炭素抽出装置など関連の装置を停止させられ、この日、博滙の株価は大暴落、一瞬にして13.3億元が蒸発した。

 博滙は2005年に設立し、主な業務は芳香剤などの研究開発、生産、販売。2020年6月に上場、新規株式公開(IPO)を通じて4.23億元を調達、2022年8月には転換社債でさらに3億9700万元調達し、合わせて8億2000万元を集めた。

 税務当局の話では、この企業は消費税の未納があり昨年11月ごろから何度も納税指導を行った上で、3月に法に基づく納税を納めるように要求したが未だ納税されていない、ということだった。企業側は「比較的大きな異議がある」と未だ支払いに抵抗しているようだ。

 他にも広東省仏山の新世界酒店(ホテル)が25年前から遡って追徴税90万元。青島省の藏格鉱業は20年前から遡って増値税、資源税、法人税の未払い合計4.8億元を請求された。

 広東省恵州の泰基集団は2000年から2008年の申告漏れ税金5300万元の追徴通知を受けた。湖南省岳陽の匿名デベロッパー企業は2003年から2020年までに過少申告行為があったとして追徴税1.78億元の支払いと同時に罰金4.16億元が科された。

 杭州のアパレル企業・伊裳服装は2014年から2021年までに2.1億元分の税金の過少申告があり、追徴されるともに罰金3.6億元が科された。

 華林証券は2018年から2021年の間の法人税2900万元の追徴を求められ、さらに1800万元の税金を支払えと通知を受けた。北大医薬も1944万元の追徴税通知を受けたという。

 こうした追徴税ラッシュによって、わかっているだけで深圳建泰ゴム工場、深圳鵬映プラスチック工場、深圳偉群精密設備、深圳万里印刷工場、東莞威雅線纜工場、東莞環達運動機器、東莞永聯織造工場など広東省の企業が倒産した。

 企業家たちがパニックに陥っていることに対し、6月18日、国税当局は「(追徴税ラッシュは)全国的に組織的に、特定の産業を狙ってやっているわけでも、集中的に税務調査を展開しているわけでもないし、20年、30年さかのぼって税務調査をしろという指示を出しているわけでもない」となだめるコメントを発表した。つまり、すべて地方政府が勝手に税務調査したもので、中央が政策としてキャンペーンとして推進しているわけではないから、安心せよ、という。まったく安心材料にならない。

地方政府の財政難が理由か、それとも…

 多くの専門家がこの状況の背後に何が起きているかを分析している。代表的な意見は、不動産市場が破壊され、土地再開発による錬金術が使えなくなったことで財政収入が激減、財政破綻に直面した地方政府が、儲けている企業から利益を「追徴税」の名目で奪取しようとしている、というものだ。

 少なからぬ地方政府官僚が高度経済成長期に、民営企業に対して税制を優遇したり、なにがしかのキックバックを受けて「脱税」を見逃してきたりした経緯がある。税金を取り立てなくても、その企業の生産性が上がってGDPが成長すれば、当時の地方政府官僚は出世できた。

 だが習近平政権になって経済が低迷しGDP成長率より習近平に忠実かどうかが出世の基準になった。そのため地方財政がひっ迫したとき、昔見逃してきた税金を今さら取り立てよう、という気になったわけだ。

 だが、本当に党中央の方針や指示がまったく関係ないか、というとこれも考えにくい。

 チャイナウォッチャーの間で流れている興味深い噂がある。この追徴税ラッシュは、7月に予定される三中全会で発表されるであろう大規模な税制改革と関連がある、というものだ。

 この税制改革の大きな方向性は中央が地方により大きい徴税権限をあたえるということらしい。具体的には消費税の徴収が地方政府になる。今回の追徴税ラッシュは、この税制改革を前にした地方政府がテストケースとして税務調査を行っているからだ、という。

 中国の目下の消費税は、増値税を基礎として、その上に消費品目に合わせた消費税が課され、中央が消費の方向性や生産品構造の調整を行い、国家財政収入を確保する形になっている。現行ではタバコ、酒、爆竹花火、高級化粧品、石油製品、宝飾・ジュエリー、ゴルフ用具やスポーツ用品、高級腕時計、割りばし、バイク、車、電池、塗料などが主に贅沢品に課されている。

 だが中国ではこうした高級品の消費が急激に減少している。習近平の贅沢を戒める政治スローガンに対する富裕層の消費萎縮、経済低迷による中産階級の減少、庶民の生活困窮などが背景にある。

習近平政権の税制改革の前触れか

 2023年の消費税収入は前年比3.5%減少している。とはいえ2023年の消費税が税収総額に占める割合は8.9%と小さくない。個人所得税よりも消費税収の方が大きい。

 この消費税は国税として徴収されたが、税制改革後に地方が徴収し、中央に一定の割合で納める、という形に改正される、という噂がある。そして、各地方政府が、その準備としてこれまでの消費税納税状況を調査し始め、申告漏れを見つけたのであろう、というわけだ。

 さらに言えば、党中央の地方に対する暗黙の圧力もあろう、という。たとえば浙江省寧波の博滙の例を考えると、この企業は寧波当局からかなりの税制優遇を受けてきた。2023年の博滙の売り上げは27.77億元だが純損益2.6億元の赤字なのだ。

 2020年の上場以来4年間で博滙が収めた税金は1.84億元だが、税金還付が14.67億元にのぼる。税制の仕組みはややこしいのだが、原材料費に含まれている消費税分を申請すれば還付できるし、また寧波市独自の税制優遇や補填制度も利用したようだ。

 つまり寧波市政府の庇護によってこの企業は存続できていた。

 寧波に優良とされる民営上場企業が100以上集中するのはそうした優遇措置があるからで、将来性のある企業を誘致すれば、最終的には地元の雇用や産業発展に寄与して、優遇分を取りもどせる、という考えがあった(もちろん汚職や利権関係もあろう)。だが、こういう民営企業重視の発想が習近平のお気に召さないのは言うまでもない。

 習近平政権は国進民退(国有企業推進、民営企業圧縮の方向性)政策を次々と打ち出し、改革開放逆走の方向性に中国経済を誘導中なのだ。そのため、寧波市として習近平政権に政治的忠誠をアピールするなら、今までの民営企業税制優遇方針を改める必要がある。

 博滙に5億元の破格の追徴を言い出したのは、習近平への忠誠アピールというわけだ。博滙にしてみれば、見事な手のひら返しであり、「比較的異議がある」といったコメントが出てくるのは当然だろう。

 7月に本当にこうした大規模な税制改革があり、20年、30年前の未納税がことごとく追徴されたらどうなるだろう? ほとんどの企業の資産が国や地方政府に没収され、公有経済を基礎とした社会主義市場への回帰が一気に進む、かもしれない。

日本からの駐在員も危ない

 ところで私が最近、中国の当局関係筋の企業家から耳打ちされたのは、日本企業も気を付けろ、ということだった。

 日本企業の輸出入に伴う関税申告漏れなどの調査も始まっているらしい。今、きちんとしている企業でも20年、30年前はどうだったろうか?

 企業だけでなく、駐在員や特派員の皆さんも10年ぶり、20年ぶりに現地勤務になったとき、突然、昔の所得税未納の通知がきたりするかもしれない。

福島 香織(ふくしま・かおり):ジャーナリスト
大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。おもに中国の政治経済社会をテーマに取材。主な著書に『なぜ中国は台湾を併合できないのか』(PHP研究所、2023)、『習近平「独裁新時代」崩壊のカウントダウン』(かや書房、2023)など。

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No.412 ★ Tシャツ1枚321円の中国系“激安”通販「Temu」、アメリカ人1億人が「疑わしい」のにどっぷりハマる理由

2024年06月22日 | 日記

DIAMOND online (小倉健一:イトモス研究所所長)

2024年6月21日

中国発の激安通販ショッピングサイト「Temu」が世界中でたくさんの顧客を獲得している。アマゾンや楽天と比べても商品は激安だが、問題はないのか。安さの正体と、利用者がどっぷりハマる理由に迫った。(イトモス研究所所長 小倉健一)

毎月15200万人弱のアメリカ人が利用

「Temu」(ティームー)という名の中国発の激安通販ショッピングサイトが、世界中でたくさんの顧客を獲得していることをご存じだろうか。

 6月12日に米ブルームバーグが報じたところによれば、「消費者1000人を対象に4月に行われた調査によると、少なくとも月1回はTemuから購入するとの回答は34%に上り、イーベイの29%を上回った。ロンドンを拠点とするオンラインマーケティング会社オムニセンドが調査を実施した」という。

 Temuは、米国デビューからわずか2年足らずで、30年近い歴史を持つeコマースの草分け的存在であるイーベイを追い抜いてしまったのだ。

「アナリストのSimilarWebが収集したデータによると、Temuは毎月1億5200万人弱の米国人が利用しており、世界のアプリダウンロードチャートで常にトップとなっている」「中国の消費者市場を追い風に、PDDホールディングス(Temuの運営会社)は以前の成功を確かなものにしたのと同じモデルを使って、Temuで海外進出を果たした。同社は大きな誇りと愛国心の源となっている」(英BBC、3月19日)という。

 日本には、昨年(2023年)7月に上陸している。扱っている商品は、ほとんどが中国製で、ファッションアイテム、家電、日用雑貨と幅広い。サイトへアクセスして気付くのが、「-70%」「-59%」「-66%」など極めて高い値引き率の「数量限定」「タイムセール」だ。

 Tシャツが1枚321円、腕時計が223円で販売されているなど、アマゾンや楽天で売っている同じノンブランドの商品と比べると、値段が総じて安い。どうして、こんな「激安セール」を常時開催できるのか。なぜ、世界中で広がっているのか。今回はその秘密に迫りたい。

中国の工場や倉庫から直接空輸して運ぶ

1.安さの秘密

 アマゾンや楽天と、Temuは何が違うのだろうか。アマゾンは注文をすると、アマゾンの日本にある倉庫から運ばれてくることが一般的だ。楽天は日本の各商店からの発送となる。ただし、アマゾンの商品の中には各商店から発送されたりすることもあるし、楽天も楽天の倉庫から発送されることもある。

 Temuでは中国の工場・倉庫から直接、日本の消費者の元へ、空輸して運ぶという形をとっている。

 この「直接」というところが安さを実現するポイントの一つだ。一般に、海外からモノを輸入する際には、「関税」がかけられる。関税を知らない人はいないと思うが、念のためにかんたんに説明をすると、関税とは、国境を越えて輸入される商品に対して課される税金のことだ。国内産業を保護するなどの目的で課税されている。

 そして、日本や米国を含む多くの国で、少額のものについては関税はかからなかったり、非常に低い税率が適用されたりしている。

 例えば、クロネコヤマトのホームページを見ると、「通販で購入された個人使用目的の関税額については、16,666円以上で課税対象となります。(為替レートで指定額未満でも課税対象となる場合があります。)/一部例外品もございます」などと書いてある。

 つまり、日用品など比較的安価な商品を、中国から直接日本の消費者に届けることによって、関税を免れることができる。さらには、日本に物流倉庫を造る必要がなくなるというメリットが生まれる。これが物流におけるTemuの安さの秘密である。

 さらにいえば、最近になって、この輸送にかかるコストを、Temuは加盟店に押し付けたようだ。「Temuは物流費用を販売者が負担する『半委託モデル』を導入したため、予想よりも早く収益性が改善すると見込んでいます」(24年5月23日、モーニングスターレポート)という。

 ただ、中国から直接、送られてくるということで、包装がボロボロになっていたというような報告がSNS上でも散見される。中国には日本ほど商品を丁寧に扱うという感覚がないのかもしれない。

期待との落差が大きくなりがちな商品とは

2.安さの秘密2

 もう一つの安さの秘密は、ノンブランドであることだ。Temuのサイトへアクセスし、販売されている商品のリストを見ると、スピーカーからTシャツ、靴下まであらゆる生活用品が並んでいる。ほとんどが中国製で、買い物客はほとんどの商品にブランドがないことに気付くだろう。あったとしても、有名なロゴは付いていない。厳しいインフレ時代の申し子とも呼ぶべきなのだろうか、とにかく安い商品を求める消費者にとっては最適なサイトといえる。

 PDDホールディングスの創業者であるコリン・フアン氏は18年のインタビューで、「都市部の富裕層だけでなく、『北京五環路』の外に住む人々、つまり郊外に住む中低所得層にもアピールしたい」と述べた。「とにかく安い」を突き詰めていくということであろう。

 インターネット犯罪、節約術やお金の最新情報などに精通するコラムニスト・山野祐介氏は、日本におけるTemuの実態をこう解説する。

「ゲーム機やゲームソフトなどを検索してみると分かりやすいですが、日本で買えるゲーム機やソフトは全く売っておらず、日本の小売店で売っていない周辺機器しか出てきません。つまりこれは『中国の工場から出荷されるような商品しか取り扱っていない』ということ。日本の通販ではメーカーや仕様を見ることである程度の品質を推測できるが、temuの場合はメーカーや仕様などがほとんどわからないので『出たとこ勝負』になりがち。目論見通りにいかないパターンがあることを織り込んで買わないと、期待との落差が大きくなってしまうでしょう」

絶え間なく届く広告はスパムに近い

3.プロモーション

 このプロモーションには多くの疑念が上がっているようだ。SNSでTemuと検索すると、無数の「無料商品を8点もらえるように、招待を受け入れてくれませんか? 超最新ショッピングアプリのTemuは現在、皆さまに無料ギフトをプレゼント中!」という個人によるキャンペーン投稿で溢れかえっている。

「中国のeコマース親会社であるPDDホールディングスの支援を受け、Temuは超低価格、大規模な広告費、そしてクーポンやゲーミフィケーション戦術(ゲーム要素を取り入れてユーザーの関与を高める手法)の多用によって米国の消費者の財布をつかんできた。この戦略により、長い配送時間、疑わしい製品品質、そしてスパム(無差別な迷惑メール)に近いような絶え間ない宣伝活動にもかかわらず、アプリは米国で成長を続けている」(FORTUNE、6月12日)というような厳しい指摘も受けている。

 逆にどっぷり漬かっている人もいるようだ。「週刊FLASH」(5月21日号)には、編集部の記者が実際にTemuを利用した模様を報告している。

「本誌記者が初めてTemuを利用したのは、2024年2月26日。ちゃんと届くのか不安を感じながら、日用品を2個、748円で購入した」

「3月2日に無事到着。/梱包に緩衝材などは入っていなかったが、商品自体に問題はなかった。その後、毎日のようにメールで「お客様専用のクーポン」が届き、再び商品を購入。「大幅値引き」「今だけ大特価」的なメールが届くたびに、何か必要なものはないかと探しまわるように。/結果、バッグや電化製品などにも手を広げ、現在まで計7回購入している」

 広告がうっとうしいというデメリットはあるものの、7回購入したというのだから、どっぷりハマっているということだろう。

10分間限定」のカウントダウンが表示されても、焦ってはいけない

 Temuがメールで配布するクーポンについて、山野氏はこう注意を喚起している。

「私が実際に受け取ったクーポンを例にとります。もらったクーポンをよく見てみると、配布されるのは割引額の合計が1万5000円のクーポン5枚。そして、これは無条件で使えるクーポンではなく、最低注文金額が設けられている。

 クーポンはそれぞれ『7500円以上の注文で3750円引き×1枚』『1万5000円以上の注文で4500円引き×1枚』『1万1250円以上の注文で2250円引き×3枚』となっており、1回の注文で1枚しか使えないため、それなりの額を買わないと使えない上、最大でも半額しか得にならないことが分かる。

 このクーポンが単なる演出に過ぎないことを知らないと、慌てて要らないものをたくさん買ってしまうことになりかねません。また、このクーポンは『10分間限定』と画面上にカウントダウンが出てきて消費者を焦らせてきますが、10分がたってタイムアウトになっても、トップページに戻れば再度クーポンは使えるので、焦らないようにしてください」

 安いが、プロモーションは煩わしそう。私が利用するのはもう少し待っていようと思う。

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