「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.46 ★ 香港「難民の中継地」の知られざる過酷な現実 映画『白日青春ー生きてこそー』

2024年01月29日 | 日記

東洋経済オンライン (壬生 智裕 : 映画ライター )

2024年1月26日

映画『白日青春─生きてこそ─』監督・脚本:ラウ・コックルイ/出演:アンソニー・ウォン、サハル・ザマン、エンディ・チョウ、インダージート・シン、キランジート・ギル/配給:武蔵野エンタテインメント株式会社/1月26日(金)からシネマカリテほか全国順次公開(PETRA Films Pte Ltd © 2022)

『インファナル・アフェア』シリーズなど、いぶし銀の魅力で香港映画界を牽引してきた俳優・アンソニー・ウォン。2014年に民主化を求めた若者たちによる「雨傘運動」(警察の催涙弾などを雨傘で避けたことに由来)を支持し、中国政府を批判したことで、香港および中国映画界から締め出されることとなった反骨の映画人である。

しかしそんな逆境の中、半身不随の男とフィリピン人家政婦との交流を描いた『淪落(りんらく)の人』(18年)で、香港電影金像奨最優秀主演男優賞に輝くなど、その存在感はいまだ衰えることはない。

そんな彼の最新作が、偏屈なタクシー運転手と、パキスタン難民の少年との心の交流を描いた本作である。

難民中継地での過酷な現状

本作でウォンが演じるのは、1970年代に中国本土から香港に密入国してきたチャン・バクヤッ。彼はタクシー運転手として生計を立てていたが、警察官を務める息子との関係はギクシャクしたままだ。一方、パキスタンからの難民の子である少年ハッサンは、カナダに移住することを夢見ていたが、バクヤッとのトラブルがきっかけで引き起こされた交通事故で父親が死去し、その夢も無残に打ち砕かれてしまった。

そこで彼は難民によるギャング団の仕事を手伝わされることとなるが、その事実を知ったバクヤッは、ハッサンの出国を手伝うことを決意。その心の奥底には彼が抱く過去への贖罪(しょくざい)の思いがあった──。

舞台は、人口の90%以上が中国人で、残り数%はフィリピン人など他国籍の人たちで構成されている香港。亡命を希望する難民の国際中継地として、毎年数千人もの難民がこの地にたどり着き、安全な国に移住するために政府からの承認を待ち続けている。だがその間は働くことができず、ほんのわずかな支援金で暮らすことを余儀なくされる。

しかし近年は「この制度を悪用した偽装難民が多額の予算を浪費させ、治安や医療にも悪影響がある」という見解から政府の態度が厳格化。なかなか難民申請が受理されない状況が続いている。

それゆえ地元民が難民に向ける目にも厳しいものがある。バクヤッ自身も最初は難民に対して高圧的な態度を取っていたが、彼らの過酷な現状を知り、その気持ちが変わっていく。そんな男の心の変遷をウォンが実に繊細に演じ分けてみせた。

注目の監督 ラウ・コックルイ

近年、中国当局の厳しい締め付けが顕著になり、表現の自由が奪われつつある香港だが、そんな中で才能豊かな若手映画人が次々と登場。「第2の香港ニューウェーブの到来」といわれる昨今だが、ラウ監督もそんな一人。中華系マレーシア人4世である彼は、高校卒業後、広東語がわからないままに、香港に来て映画を勉強。多くの困難と向き合った。それゆえに本作の登場人物に、監督自身の移民生活を投影させたという。

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